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イレイザー最終決戦編

第192話 船

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「ええい! 何かないか! イレイザーを倒す方法に参考になる良作は!」

 ミーレに対して堂々とイレイザーを被害なく倒す策を出すと豪語した翌日。

 俺は執務室でひたすら……怪獣映画の戦闘シーンをTVに写して見漁っていた。

 だって仕方ないだろ!? 

 地球で怪獣なんて出てこないんだから、そんな巨大な相手に対する戦略なんて出てこない!

 なら創作から見つけ出すしかない! 人間の妄想力を舐めるなよ!

「ええい! せっかく人間を糧にする怪獣作品を見つけたのに! 何が人間と人食い怪獣のラブロマンスだっ! お前は豚と人がロマンスると思ってるのか!? まともに退治しろこのすっとこどっこい!」

 俺はとある怪獣作品のDVDの入ったパッケージを、床にぽいっと放り投げた。

 くそ! マジで参考になる怪獣映画が全然見つからないぞ!?

 某有名怪獣作品のシリーズ物とかも見漁ったが、そもそも怪獣映画って怪獣VS怪獣が多くて根本的に参考にならん!

 大抵の作品で人間やられ役じゃねぇか! やっぱりジャイランドVSイレイザー正しかったわ畜生!

「な、なにやってるの……」

 いつの間にか部屋に入り込んでいたカーマが、TVに顔を近づけている様を怪訝に見ている。

「イレイザーを完璧に倒すために怪獣映画を視聴中だ! 三日以内に完璧な策を出さないと、被害気にせずにやるとミーレに約束した!」
「……そういえばジャイランド相手の時も怪獣映画見てたね」

 結局やることは同じなのである。

 だってイレイザーってジャイランドに厄介な特殊能力ついた感じだからな。

 そんなことを考えていると、カーマが俺の横にちょこんと座った。

「ボクも手伝うよ。TVとかもうひとつ用意できる?」 
「出来るが……いいのか? お前も周囲の人間ごと倒す派では……」

 俺の言葉にカーマは首を横に振った。

「人が死なないで済むならそれに越したことはないよ。成功率が高い策なら……ね」

 カーマが真剣な顔で告げてくる。

 どうやら俺は思い違いをしていたらしい。俺を除く全員がイレイザー相手なら人が死んでもよいと考えている、などと。

 確かにみんな犠牲を考慮にいれていた。だがそれはあくまで最悪の事態。

 出来れば避けたいが避けられないならばという前提か。

 ……よく考えれば俺と今まで仲良くやってきた奴らだ。もし人が死ぬのを構わないと思ってる奴がいたら、そいつとは価値観が合わずに縁が切れていただろう。

「……カーマ。ラークやセンダイ、セサルやエフィルンも呼んできてくれ。こうなれば全員に手伝ってもらう! 今から三日間徹夜フルコースだ!」
「えっ!? …………わ、わかったよ」

 カーマは一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐに立ち上がると執務室から出て行った。

 そして十分後には全員が執務室にやって来てくれた。

「……目覚めようの氷は任せて」
「酒を! もっと酒を飲むでござる! こんなバカげた相手に対する作戦ならば、むしろ酔っていたほうがよい案を思いつく!」
「お前飲みたいだけでは!?」
「違うでござる! いや本当に今回の場合、常識的な発想よりも奇想天外な案が思い浮かばないと無理でござろう!」

 ラークがタライに氷を貯めて、センダイが酒を飲みまくり始めた。

 もういつものことなので気にしない! センダイは酔っぱらってても最低限の頭は働くしな!

 ほらブレインストーミングとかいうじゃん! 何でもいいから意見を言い合うやつ!

「アトラス君、実は私も色々考えていてね! 魔法障壁を中和する方法を研究してみるよ!」
「主様、微力ですが兄のお手伝いします」

 セサルやエフィルンも協力宣言をして、部屋から出て行った。

 ……執務室の人口密度的に、全員いたら動きづらいもんな。

 そんなわけで目の数が四倍になったのでTVなどの映像セットも人数分用意。

 怪獣映画だけでなく、恐竜映画とかロボット物も見始めた。

 だが……。

「アトラス殿! この映画のように人を弾に詰め込んで発射すれば逃がせるでござる!」
「それスペースシャトルな? しかもそんなに人数乗れないからな?」
「あなた! イレイザーを落とし穴にはめよう!」
「そんな巨大な穴、どこにどうやって掘るんだ!?」
「あ、大きな氷の山にぶつかって大きな船が沈んだ」
「それ映画のジャンル違う!」

 ぐっだぐだじゃん! 

 いや俺ひとりでもツッコミ役がいないだけで、わりとグダッてたけども!?

 そんなこんなで二日が経過したがろくによい案が思い浮かばない!

「……すぅ」
「寝るなラーク! 寝たら死ぬぞ!」

 俺は映画を見ながら寝落ちしそうなラークに対して、服のえりを引っ張って背中に氷を落とした。

「ひゃん!?」

 流石に結構ビックリしたようで、ラークは恨めしい視線を俺に送って来る。

 それと顔が少し赤い。さっきの悲鳴をあげたのが恥ずかしかったようだ。

 てか本当にどうしよう! マジでよい案が思いつかないぞ!? 

「いや死なないでしょ……ところでよく映画に出てくる日本って国は小さな島が国なの? 海が多いけど」
「拙者も気になっていたでござる。海に多く面している国とは羨ましい」

 カーマやセンダイが日本の地形の感想を述べている。

 確かに日本は島国だが……そういえばこいつら、地球の世界地図とか知らないんだよな。

 レスタンブルク国にも港はあるが……ほんの少しの地域だけだ。

 この国で海産物はすごく貴重品なのである。

 俺は地球世界地図を【異世界ショップ】から購入すると、日本のところを指さした。

「うわ、本当に島国だ……というか世界地図ってすごいね……」
「こんな島国ならば他国から攻められることはないでござろうな。内乱こそあれど」
「いやそんなことはないぞ? 今までも船とかで押し寄せて攻められたぞ?」

 センダイの言葉に反論しておく。

 日本は確かに陸続きの他国はないが、普通に元寇とかで襲われてるんだよなぁ。

 一万人以上の軍隊が海を渡って……ん? 一万人? 大勢の人間? んん?

「船……一万人……大移動……あれ? これでは?」

 大勢を避難させるのは無理を諦めていた。なのでずっと怪獣映画とか見て敵を足止めする方法を考えていたが……船あるじゃん。

 大勢乗せた船の近くにイレイザーを出現させて、船を離脱させれば……いける!

 うわこんなの早めに気づけよ!? 大勢を乗せて避難なんてノアの方舟じゃん!

 ……緊迫した状況に頭が固くなっていたのだろうか。

 いつもの俺なら一瞬……とは言わずとも、一週間くらいすれば思いついた……か?

 いや言うほど案外思い浮かばない案かもしれない。

 大陸から逃げ出すなら船とすぐ思いつくが、船に乗せた大勢の民を囮になんてシチュエーションは見かけないしな……。

「来た……来たぞ! イレイザーへの対策を思いついたぞ!」
「えっ? 今の話のどこに?」

 カーマたちは困惑している。

 この世界の船に詳しくないが、彼女らは船と親しくない。たぶん船で大勢乗せるイメージがついてないのだろう。

 海に近い場所でも住んでなければ、船なんて発想に出ないだろう。

「よしちょっとミーレにざまぁしてくる!」

 俺は執務室から飛び出して【異世界ショップ】に殴り込むことに決めた。

 
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