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イレイザー最終決戦編
第191話 少しはためらえ
しおりを挟むミーレに呼ばれて【異世界ショップ】に入店したところ、ミーレはいつものカウンター席にはいなかった。
客席として置かれている椅子に座り、テーブルを挟んで誰かと相対していた。
「あ、アトラス来たみたいだね? イレイザーを倒す方法で色々悩んでるようだけど首尾はどう?」
「わかってて聞いてるだろ」
「あ、バレた?」
ミーレはケラケラと笑っている。
そしてそんな彼女と相対していたのはセバスチャンである。
「セバスチャン、最近お前のことを見なかったがここに来てたのか?
「その通りでございます。このセバスチャン、ミーレ様に呼ばれて数日間ずっとここにいます。屋敷も不在にしておりましたが問題は起きてませんでしょうか?」
「あー……かろうじては?」
「どうやら本日は戻った方がよさそうですな」
数日の間、セバスチャンが屋敷にいない。
それは割とシャレにならないことだったりする。
まずはじめに屋敷に来た手紙を処理するのはセバスチャンだ。
他の面子は俺を含めて誰ひとりとして、来た手紙を放置すると断言できる。
何故ならば……百通の手紙が来ていたら、そのうちの九割以上は嫌がらせや意味不明なスパム類のものだからだ。
手紙の内容としては、金を返せとか子供を認知して欲しいとか。
後は未だにエフィルンの親を名乗る者がいたりする。
そんなどうでもよい手紙が大量に来るので、基本的にあまり見たくないのだ。
それにたまに手紙にカミソリとか入ってるらしいし……下手に触れないというのもある。
他にも料理が用意されなくなるので、どこぞの双子姉妹が調理室を爆発させかねない。
メイドのメルがいるだろうって? あいつは食事を用意するどころか、俺に食べ物くれってねだってくるよ。
「そうだな。今日中には戻って来てくれ。たぶん屋敷のいたるところで問題が起きてるから」
「……セバスチャンさんがいないと屋敷が回らないのはどうかと思うよ?」
呆れた顔のミーレが至極真っ当な意見を言ってくる。
そんなこと知ってる! でも後任が用意できないんだよ!
護衛と執事と清掃と庭仕事と事務処理を全て完璧に行えて信用できる人材を、フォルン家では常に募集しております!
そんなスーパーマンがいるわけない。真面目にイレイザー関係が終わったら、仕事の分担を考えなければ。
信用のところが一番厄介だ。うちって没落寸前だったのでまともな親戚がいない。
こういった仕事は親しくて信用できる縁戚などから雇うべきなのだが……うちにはそんなのないんだよ!
「……それよりも俺を呼んだ理由を教えてくれ」
ミーレの言葉に反論できないので、話題を逸らすことにした。
いやそもそもここに来た理由は呼ばれたからだ! うちの屋敷の問題点を話すためではない!
「おっとそうだった。イレイザーを倒すことに関してだけどね。セバスチャンさんに一任することになりましたー。そういうわけでもう悩まなくていいよ?」
「……は?」
俺はミーレの言ってることがよくわからなかった。
セバスチャンに一任する? いや俺がイレイザーを倒すって話だっただろうが。
「君を転生させたのはイレイザーを倒すためだよ。でも君の力を使えるセバスチャンさんのほうが、君よりも確実にイレイザーを葬ってくれそうだから」
「いや待て! それは……いや確かに俺よりセバスチャンのほうが絶対強いけどさぁ!?」
セバスチャンは鉄人と呼ぶにふさわしい肉体を持っている。
ラスペラス国と戦った時も無双していたが、【異世界ショップ】の力を俺よりもうまく使う。
……いや俺というか普通の人間は爆走中のトラックから外に飛び出すとか、飛行機で敵に激突しに行くなんて芸当は無理だ。
だがいくらセバスチャンでもイレイザー相手は厳しいのでは?
そんなことを考えていると、ミーレが口を開いた。
「強さじゃないよ。セバスチャンさんのほうが優れているのは過激さだよ」
「過激さ」
「目的のためなら手段を選ばないよねこの人」
「それは優れていると言えるのだろうか?」
むしろセバスチャンは少しくらい躊躇すべきではあるまいか。
自分から特攻しに行こうとするし、例え相手がどんな者でもどんな状況でも構わず殺りかねない。
確かに過激さでセバスチャンの右に出るものはない。
「いや待て。確かにセバスチャンは過激だが、それでイレイザーをどうやって殺し……いやまさか」
ものすごく嫌な予感がした。
思わず口から話すのを止めてしまう内容。それをミーレは肯定するように頷いた。
「そのまさかだよ。イレイザーの周囲に核とか落として更地にする。人もいなくなるしイレイザーも倒せるんじゃないかな?」
「……いなくなるんじゃなくて消し飛ばすんだろうが。それに放射能とかが」
核ならイレイザーを倒せるのではないか。
その発想は確かにあった。そもそもイレイザーの周囲の人間をどうというよりも、核兵器の爆発で殺せるのではないかと。
だが核を撃てる場所などない。超広範囲な爆発を引き起こす上に、放射能汚染まであるのだから。
以前にも言ったような気はするが、核なんて使うものではないと。
「些事だね」
だがそんな俺の考えをミーレは一言で否定する。
「……は?」
「だから些事だって。世界中の全てと比較すれば、小さな地帯が吹き飛ぶ程度は些細な事だよ。と言ってもアトラスは納得しないよね?」
「するわけないだろ」
ミーレの言うことも間違ってはいない。
例えば核による爆撃で人間の死者が8000人出たとする。
だがこの世界全ての人口合計が20億人くらいとすれば、仮に数字の上でなら些事なのかもしれない。
イレイザーという世界を滅ぼしかねない脅威に対して、8000人の犠牲で済むなら少なく済んだと考える者もいるだろう。
「…………お前の考えはわかる。だが俺は……」
「アトラスの考えは知ってる。ずっと見てきたからね、でも断るならば対案を用意しないとね。イレイザーはいつ復活するかわからないし早めに決めないと」
「しかし……」
俺が言い淀んでいると、セバスチャンが微笑みかけてきた。
その顔はいつもと全く同じで穏やかで。
「ご安心ください、アトラス様。全てこのセバスチャンにお任せください。御身の代わりに汚れる覚悟は常にしてきました。今回がその時なのでしょう」
セバスチャンは普段通りにそんな恐ろしいことを告げてくる。
いつもならば軽くツッコんでいた。だが今回はそんな気軽に返せない。
いやセバスチャンはいつも本気だったのだろうが、俺はする必要はないと返事できた。
だが今回は……。
「アトラス様は何もしないで大丈夫ですぞ。全ての責や負い目はこのセバスチャンが受けますゆえ」
「……三日だ」
セバスチャンが告げてきた瞬間、俺は思わず口を開いていた。
特に何の根拠もなく、策が思いついてるわけでもなく、だが勝手に口が走る。
「三日待て! 被害を出さずにイレイザーを倒す方法を考えてやる!」
「今まで何も思いついてないのに?」
ミーレが目を細めているが知ったことではない。
そもそもセバスチャンが【異世界ショップ】の力を使うということは、寿命を削るということだ。
人殺しをさせる上に寿命まで削らせる、そんなことをさせる上司なんてくそくらえだ!
疑わしい顔をしているミーレに対して、俺は指をつきつけて宣言する。
「やかましい! 人間追い込まれたら大抵のことは何とかやるんだよ! 絶対思いついてやるからな!」
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