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イレイザー最終決戦編

第185話 永眠ではなく休眠だった

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「アトラス様。イレイザーの調査報告書でございます」

 執務室で作業をしていると、セバスチャンが一枚の書類を渡してきた。

 一枚しかない時点で大した成果は期待できないと思いながら、その書類に書かれた内容を確認する。

 紙に記載されていたのは要約すると以下の内容だった。

 1.イレイザーを封印した岩を壊せば、その時点で奴は蘇る。ただし蘇る場所に関しては、岩を壊した場所とは限らない。

 2.イレイザーにやはり魔法の効果は薄い。具体的には魔法で発生させた氷なども、イレイザーに触れた時点で消え去る。重さによる衝撃なども無効と思われる。

 上記の結果は岩に対して実際に魔法を当てたりで試して、ほぼ確実に本体も同じ属性を持つだろうと記載されている。

 なお紙の右下にはセサルの直つけ唇のマークが……これは見なかったことにしよう。

 思ったよりも有益な情報は得たものの……やはりイレイザーが封印された岩の調査では限界があるな。

 もしやつの右腕とかが手に入ったら、セサルなら必ずもっと色々な情報が手にいれてくれるだろうに。

「……うーん。イレイザーの身体の一部でも転がってないものか……」
『心当たりがあるよ』

 俺の脳裏に久々にミーレの声が響き渡る。

 マジで? そんな物騒なものが転がってるの? 

 ミーレに心当たりがあるならば話を聞いてみようと、久々に【異世界ショップ】へと入店する。

「いらっしゃい。久しぶりー」

 いつものようにミーレがカウンターに立っている。

 そういえば最近のこいつはイメチェンしないな。以前はわりと姿を変えてた気がするんだが。

「私の姿は君の想像によるからね。そのうち髪がやや緑色になって胸が大きくなるかもね」
「なんで?」
「ご想像にお任せします」

 よく分からんが放置でよいか。それよりもイレイザーの件だ。

「イレイザーの身体の一部について、心当たりがあるのは本当か?」
「うん。正確には私が心当たりがあるんじゃなくて、心当たりのある人を知っているんだけどね」
「なんだ? 先祖伝来でイレイザーの伝承を言い伝えてる一族でもいるのか?」

 イレイザーはかなり昔に封印された存在であり、実物を見て生き残った者はいない……のだろうか?

 よく考えたらこの世界ってエルフとかいるし、物凄く長寿の人種なら生きてたり……。

「以前にスズキさんって名乗ってた筐体あるでしょ?」
「ああ、あの大して役に立たずに永眠したやつか」

 スズキさん――以前にレード山林地帯で発見した人工知能……どちらかというと人エロ知能な気はするが置いていく。

 彼は麻雀牌の筐体に偽装して、イレイザーの情報を少しだけ俺に教えてくれた。

 実際のところは魔法が効かないのと、ジャイランドがイレイザーの対抗策だったこと程度の情報だったが……今となっては微妙な情報だな。

 せめてイレイザーの封印された岩の場所くらいは教えておいて欲しかった。

 それとパイを見せやがれという記憶しかない。

「あの人なんだけど……まだ生きてるよ?」
「え?」
「いや死んだ雰囲気出してるけど。普通に充電……この場合は魔法をチャージして再起動すればまた目覚めるよ。考えてもみてよ、何で壊れてなくて電源もついたのに、一時間程度動いて永眠するのさ。壊されてかろうじて動いてたならともかく」

 ……言われてみればそうだな。

 なんか映画とかでよく、最後の力を振り絞って動き壊れる機械とか見てたから……死んだんだなぁと違和感抱かなかった。

 そういえばスズキさんに会った時にはセサルもいなかった。

 もしあいつがその場にいたら直せるとわかったのかもしれない。

「じゃああれか? セサルに頼めば直せるのか?」
「すぐ直せると思うよ。あの人凄いよね、人間とは思えないほど頭がよいし」

 ミーレからのお墨付きも得たので、スズキさんをセサルに直してもらおう。

 何度でも言うがあいつの腕と頭は信用している。性格以外は文句のつけようがないからなあいつ。

 その性格に関しても変人ってだけで悪人じゃないし。

「わかった。ならスズキさんの筐体を回収して、フォルン領に持ってこさせるか」
「それがいいんじゃないかな。打倒イレイザーで一緒に頑張ろう!」

 ミーレが拳を握って掲げた。

 元々、俺が転生したのはイレイザーを何とかして欲しいからと言ってたな。

 でもそれならもっと俺に協力すべきだと思う。

「なあ。一緒に頑張るならイレイザーのことをもっと教えてくれよ。俺達が知ってる以外のことも、色々とご存じなんだろ?」
「……ごめんね。それはできないんだ」

 申し訳なさそうな顔で笑うミーレ。

 ……うーむ。彼女がそう言ってるならば、何らかの理由で本当にできないのだろう。

 大方あまりこの世界に手だしできない、とかそんな話かな。

 そもそもミーレが何とかできるならば、俺を転生させずに彼女自身で解決できるはずだ。

「それは残念。じゃあその代わりに【異世界ショップ】バーゲンとか開いてくれない?」
「無理! それにそんなことしたら、安売り時以外でもったいなくて買えなくならない?」
「うっ……否定できない」

 確かにミーレの言う通りだ。

 【異世界ショップ】でバーゲンされたら、安売り時以外では買いたくなくなるだろう。

 その結果として何か緊急事態が発生しても、商品を買い渋って動きが遅れる可能性も出てくる。

 わりと俺ってケチだもんな……容易に想像つく。

「わかったら諦めて? じゃあスズキさんを蘇らせてイレイザーの情報を聞くこと! それが終わったらまたここに来てよ」
「ああ、そうするよ。じゃあな」

 俺はミーレに別れを告げて、【異世界ショップ】から退店するのだった。





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 アトラスが去った後、独り残ったミーレはカウンターにひじをついた。

「……イレイザーを倒すこと、それが君の命題だ。必須事項と言ってもいい」

 ミーレはアトラスの姿を幻視しながら、更に呟きを続ける。

「でもアレは埒外の怪物だ。君が今まで相手してきた者とは文字通り次元が違う。手段を選ばなければ案外簡単に倒す方法はいくつかある……でも逆に手段を選ぶなら、今までのようにやろうとするなら……極めて困難な道だよ。君はラスペラスの女王を強敵と見てたけど、あんなのとは比較にならない」

 彼女が独りでボヤく中、【異世界ショップ】に新たな入店者が来訪した。

「ミーレ様、お久しぶりでございます。呼ばれましたのでやってきましたぞ」

 セバスチャンが恭しく頭を下げる。

 彼はアトラス以外で唯一、【異世界ショップ】へ独力での入店を許された人物。

 そんなセバスチャンに対して、ミーレは少し申し訳なさそうに笑いかけた。

「ごめんなさい、アトラス。でも私は……あなたがうまくいかない時のことも考えないとダメだから」
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