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国内騒動編
第178話 レザイ領に進軍
しおりを挟む現在の俺達はレザイ領の端で、フォルン領の軍を率いて進軍中。
そして俺は馬車の中から窓を覗きつつ、周囲の景色を眺めていた。
他にこの馬車にはセバスチャンとセンダイ。それと何故かメルが乗っている。
…………言葉にするとあっさりだが、実際はこの進軍にかなり苦労した。
何故ならばレザイ領はフォルン領と隣り合わせではない。
つまりレザイ領に攻めるには、他の領地を通る必要があったのだ。
これがもうかなり大変だった。他領の大軍の素通りを許す領主などいない。
領主は各領地が実質自分の国みたいに考えている。なのでフォルン領の軍を通すのは、他国の軍を迎え入れるのに等しいわけで。
俺の国での異常な評判――アトラス=サンの英雄名と、多額の袖の下で何とかゴリ押したのだ。
もうこの時点で大損である。本当つらい。
やはり主要メンバーだけでレザイ領主捕縛作戦でも行うべきだったか……もはや後悔しても後の祭りだが。
「レザイ領主め……! 絶対に許さんぞ! あいつの一族郎党、領地から追い出してやるからな!」
「縛り首にしないのですぞ?」
「いやなんか呪われそうで怖いし……」
セバスチャンの疑問に即座に答える。
日本でも呪われた首塚とかあるし……レザイ領主のクズ度からして怨念強そうだし。
そんなことを考えていると、センダイが窓から外の兵士の報告を確認していた。
「アトラス殿、忍び込ませた密偵から報告が来たでござる。少し先にて陣取ったレザイ領軍兵士、彼らのフォルン領に対峙する士気は極めて高いとのこと。曰く、これは正義のための戦いである。なのでフォルン領の物資を奪うのは正義である。そしてフォルン領はもっと様々な物を差し出すべきと」
「ぬ、盗人猛々しい……」
やっぱりレザイ領はどうしようもない……。
王家も投げ出す領地の面目躍如である。プロパガンダで騙されてる可能性もあるが……以前のレザイ領民のことを思い出すと、たぶん素で正しいと思ってやってる。
というか別に正しくなくてもいいんだろう。ようは物資を奪えればそれで。
「アトラス殿。ここは脅して敵軍の瓦解を狙い、その後攻めるのが上策でござる」
「……まあそうだな。予定通りに」
センダイは頷いた後に外の兵士や馬車の御者に指示を出す。
すると作戦のために馬車が止まったので、俺達は扉を開けて外に出る。
前方にはレザイ領軍が陣取っているのがギリギリ目視できた。
「それでどんなことをするんですか? 私、何一つ聞いてないんですけど」
メルが気楽そうに首をかしげている。
……本当にこいつは何のために馬車に? ペット枠?
そんな疑問をぶつけるようにセバスチャンに目を向けると。
「メル殿は護衛役ですぞ。馬車は目立ちますので、暗殺などの危険性がないとも限りませんぞ」
「……役に立つのかこいつ?」
「大丈夫でございます。センダイ殿が護衛しているので」
それはメルは戦力外と言ってるようなものでは……。
そう思いながらメルを見つめていると、彼女は焦ったようにこちらから目を背けた後。
「け、決して暗部の隊長がアトラス様を守らないなんて、自分の信用と立場が危ういのでは? と無理に頼んだわけじゃないですからね!」
特に問い詰めたわけでもないのに、ペラペラと答えを喋ってくれた。
うん、お前は信用出来る奴だよ。隠し事が下手過ぎて全部わかるから。
「ではアトラス殿。これより戦車を進軍させるでござる」
センダイの合図とともに、キャタピラの音を立てながら戦車十台が自軍の先頭に踊り出る。
……レザイ領に対する脅しのために、目立つ脅威として最初はトラックを出そうと思ってたんだ。
この世界の住人にとって、トラックは大型の魔物かゴーレムに見える。一般兵ならば腰を抜かして逃げてくれないかと期待してだ。
でも整地されてない場所じゃまともに走れなかった。
以前にセバスチャンが荒れ地で走らせた? あいつはトラックが横転しようが爆散しようが関係なく、突撃させただけだからな……。
そういうわけで戦車を十台ほど購入して、フォルン領の酒好き精鋭共に操縦させている。
操縦方法は異世界ショップから購入して、脳みそに刻み込ませた。
「アトラス様! 砲撃命令を! 俺、撃ちたいんです! ほら威嚇射撃って恰好よいじゃないですか! 字面が! 魔法使いとかもやるじゃないですか!」
戦車のハッチから頭を出した兵士が、俺に顔を向けて叫ぶ。
字面の恰好よさだけで砲撃希望出すのやめろ。
「次は音楽を繰り出すでござるよ!」
センダイの指示と同時に、周囲にカッコいい系の音楽が大音量で流れ出す。
戦車などに備えておいたスマホとかから鳴らしている。
ちなみに軍歌とかではなくてアニソンである。音で敵軍を脅すのと味方の戦意高揚を目的としている。
さてレザイ領軍は魔法使いがいないのだが、戦車に対してどう対抗するのだろうか。
矢や剣で戦車を撃破する想像がつかない。センダイくらいの猛者なら可能かもしれないが……。
そんな奴がレザイ領にいるとは思えない。そこまでの能力があればあんな貧乏領地に残らないだろう。
実際に敵軍がかなり動揺しているのが見て取れる。周囲に音楽が流れているので、叫び声などは聞こえないが。
鉄の乗り物すらない世界で戦車の見た目なんて、得体が知れなくて不気味過ぎるよな。
なんだあの化け物!? みたいに思われているのだろう。
…………どうせならもう一突き、脅かしてやりたくなってきた。
センダイに音楽の停止を命じた後、俺は未だに戦車から頭を出している兵士に視線を向けると。
「……そこのバカな兵士!」
「は、はい!」
「撃っていいぞ。ただし威嚇だから当てるなよ」
「ありがとうございます! よし、撃てぇ! 殺せぇ!」
号令と共に戦車から砲撃が放たれて、敵軍の少し前方の地面に着弾した。
爆発が発生して轟音が鳴り響き、更に敵軍から悲鳴が巻き起こった。
レザイ領からしたら絶望だろうな。魔法使いがいないのに、敵である俺達はトップクラスの魔法使いが大勢いる。
更に得体の知れない鉄の塊までもが、爆発する魔法を放ってきたのだから。
「アトラス殿。敵軍はもはや総崩れの士気でござる。攻撃命令を」
「……総崩れ早すぎるだろ」
「所詮は領民兵でござるからなぁ」
もはや楽勝ムードを隠そうともせず、酒瓶に手をつけようとするセンダイ。
だがかろうじて防衛隊長の矜持はあるらしく、何とか瓶のフタを開けようとして思いとどまった。
さて……今から行われるのは蹂躙だ。
だがこれはもう仕方がない。レザイ領を放っていたら俺達の物資がいつまでも盗まれる。
今回はレザイ領主を捕らえたとしても解決しない。領民たちも自主的に盗んでいるので、彼らの心も徹底的に折らないとダメ。
つまり……いつものような補給物資をなくして勝つ、などは不可能。
むしろレザイ領が経済的に困窮すれば、余計に物資を盗む輩が増えてしまいかねない。
初めて非情な決断を下す時が来たようだ……。
俺は少しばかり逡巡した後、決意をこめて兵士たちに命じる。
「…………総員、戦闘かい」
「アトラス殿! 敵軍指揮官が降伏してきたでござる! 先ほどの戦車の砲撃で心折れたと! 領主も差し出すから許してくれと!」
「…………えっ」
「それによく見れば、敵兵士もみんな武器を捨てているでござる!」
俺の言葉を遮るように、センダイがいきなりそんなことを言い出した。
確かに前方に見える敵軍の兵士たちは、ほぼ全員が武器を地面に捨てて手をあげている。
……敵軍の兵士は全員クズだ。つまり……勝ち目がないと判断したら、何の迷いもなく即座に降伏したということか!?
いやまだ戦いが始まってすらないんだが!? 返して!? 俺の非情なる決意を返して!?
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