186 / 220
国内騒動編
第177話 レザイ領への対応協議
しおりを挟むレザイ領主の腐った性根と、フォルン領に宣戦布告してきた理由はわかった。
わかったが……無駄遣いした金を俺達から奪うためとか、どう対策してよいのか……。
今も執務室で緊急会議を行っているが、はっきりいってどう対応するか目途が立ってない。
「……これはあれか? レザイ領主さえ何とかすれば、レザイ領は落ち着いてくれるのか?」
「実はレザイ領民に我が領の物資を奪われた商人の声が届いておりますぞ。奴らが物凄く嬉々として奪って来た、俺達は正義だ! と」
「……無理そうだな」
レザイ領主を捕らえたとしても、奴の領民が大人しくしてくれそうにない。
こうなるとかなり厄介だ……レザイ領を放置すれば今後も俺達の物資を盗まれる。
かといって進軍したら戦費はかかるし、占領したら統治もしなければならない。
レザイ領民は基本的にクズが多いし、統治しても手間がかかるしうま味も少ない。
……どちらに転んでも大損である。
もちろん要求された金貨を払うのも論外だ。味をしめてまた同じことをやってくる。
「……まさかレザイ領主はここまで計算してるのか!? 俺達がどう転んでも得しないように!?」
「してないと思うよ……」
カーマがボソリと呟いた。
うん、俺も正直そう思う。そんな諸葛孔明みたいに頭がよい奴なら、そもそも金貨九千枚も無駄遣いしてない。
「アトラス様。ちなみにレザイ領主から更に手紙が届きましたぞ!」
セバスチャンが俺に手紙を渡してくる。
……この紙、めちゃくちゃ質が悪いな。明らかに公的な文書で使う類のものではない……。
――フォルン領主よ! レザイ領総員八千の兵士が、フォルン領に牙をむくぞ! 速やかに金貨三万枚を払え!
……また要求金貨が一万枚増えてるんだが。奴の思考回路がまるで理解できない……。
というかレザイ領って八千も兵士いるのか? フォルン領でも二千くらいなんだが……。
「セバスチャン。手紙にレザイ領兵が八千いるって書いてあるんだが」
「レザイ領民全員でおおよそ八千くらいと思いますぞ」
「……女子供いれて?」
「はいですぞ」
悪魔かあいつは……国民皆兵の軍事大国もビックリの戦力計算式だ。
そもそも兵士の数が少しくらい多くてもだ。魔法使いがいなければ大した脅威にもならないのだが……。
ミサイル撃ちまくる相手に対して、反撃手段のない歩兵だけでは何の役にも立ちはしない。
「う、うーん……どうするかなぁ」
「弟さんを使うのはどう? 同じ思考なら領民たちを説得が」
「ダメだ」
カーマの意見を即否定する。
その策はもっとも最悪手だ。絶対に行ってはならない。
「え……あ、もしかして。あれでも一応は兄弟だし、敵対領地の弟を向かわせるのは危ないと心配して」
「いいか? 弟の唯一の利点は捨て駒にしても、心も懐も傷まないことだ」
「ひ、酷い……」
むしろどこかで戦死とかしてくれて構わない。
奴は経済攻撃において切り札となりうる存在だが、油断すればこちらにも被害が出る諸刃の剣だ。
いないならそれで特に問題はないのだ。
「カーマよ。断言するが奴は領民をまとめ上げて、さらに強大な軍団に仕立て上げるぞ。毒の中に猛毒いれたら、融合して余計に強い毒になるだけだ」
カーマの言うことを実行でもすれば、もはや収集不可能な事態になるだろう。
何度でも言うが我が元弟は味方にすると恐ろしいのだ。
奴はレスタンブルク国に戻してはならない。
「みんな、何かよい案はないか……? 俺としてはレザイ領民の物資の盗難を防げればいいんだが」
俺の言葉にみんな悩みこんでしまった。
しばらくの静寂の後、センダイが酒瓶に口付けながら。
「やはりレザイ領主を失脚させて、まともな人間を頭に置くくらいでござろう。それでフォルン領の物資を襲う者は全員打ち首にすれば、ある程度おさまるかと」
「奪うだけで打ち首ってのもかなり重い罪だな」
「奴ら、自分のことが何より大事な類でござる。そこまでの危険を犯すものは少ないと予想する」
……やはりセンダイの提案辺りが無難なところか。
おそらく次のレザイ領主は恐ろしく苦しむことになるだろう。
領民が山賊すれすれのヤバイクズばかりだし……彼らをうまく制御できるか怪しい。
ハッキリ言ってしまうと、一時的な対応にしかならない可能性もある。
またレザイ領民が暴走して新しく立てた領主を追い出すかもしれない。
……でも他に策はないし、フォルン領の物資が盗られ続けるのは大問題だ。
そもそも実質治外法権と化していた領土が、存在していたことが問題だった。
これを機に王家にキチンとレザイ領を統治してもらおう。
つまり全部押し付けてやる! 何がよしなに。だボケ!
「あ、いいこと思いついた。現王が引退したらレザイ領主になってもらおう」
「老骨に鞭どころか鉄塊を撃つ気概でござるな」
まあとうぶんは引退しないだろうけど、レザイ領も十年やそこらで解決する問題でもない。
なんたって領民のクズさは、イレイザーが脳への影響らしいからな。
そう簡単には治らないだろうし、領民が世代交代するまで続くだろう。
とりあえず勝利条件は確定させた。レザイ領主を確保して、このくだらない争いを終わらせよう。
俺は(一応)防衛隊長のセンダイに視線を向けると。
「じゃあレザイ領に進軍するか……? それとも領主を排除するだけだから、少数精鋭で行くか?」
「進軍のほうがよいでござるな。こちらの強さをレザイ領民にも見せつけておいた方が、今後の統治もうまくいきやすいかと」
「なるほど。千人くらいの軍で進めば、領民はたぶん恐れるだろうしな……でもまた戦費が……」
「そこは諦めるでござる。では拙者は酒の用意を」
畜生……また出兵で金が減るのか……前のラスペラス国との戦いに比べれば、ドラゴンがいないだけマシだが。
レザイ領主め……! 覚悟しやがれ! お前絶対許さないからな!
「アトラス様。それと派手に目立つように、以前にレード山林地帯を開拓した魔道具を出してもらえるでござるか?」
「トラックとかのことか? まあいいが役に立つか?」
「無論でござる。あれを見れば逆らう気も失せてくれるでござろう」
3
お気に入りに追加
1,350
あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる