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国内騒動編
第176話 レザイ領主の真意
しおりを挟む執務室でセバスチャンとレザイ領にどう対応するか話し合う。
とりあえず現状持っている情報を整理して、対策を練っていたのだが……。
「……これってどうすればいいんだ? レザイ領攻めればいいのか? 何か向こうは声明とか要求出してないのか?」
「金貨一万枚を払わなかったため立ち上がったと。速やかに金貨二万枚を支払うようにと」
「元々意味不明な上に何で更に増えてるんだ……」
俺もセバスチャンも、レザイ領主の思考回路は理解の埒外だ。
それにレザイ領の民衆もクズヤバイ奴らで考えがわからない。
……これだと裏工作や調略とかそういった類のものが一切できないぞ。
純粋にレザイ領を攻め滅ぼすしか道がなくなってしまう。
「王家から何か連絡は?」
俺の問いにセバスチャンは無言で手紙を渡してきた。
王家の紋章がついている手紙の中を見ると、一文だけこんなことが書いてあった。
――よしなに。
俺は手紙を床に叩きつけて何度も踏みまくる!
「完全に他人任せじゃねぇかあの野郎! 関わり合いになりたくないから押し付けやがったな!?」
「元々実質治外法権みたいな領地でしたので。おそらくアトラス様がレザイ領を更地にしても、文句を言わないと思いますぞ。ささっ」
「人を地上げ屋みたいに言うな! くそっ、まじでどうすればいいんだ……!」
「お困りのようだね!」
俺とセバスチャンが苦悩していると、いつの間にか壁に背をつけたカーマがいた。
何故かは知らないが少し得意げな顔をしている。だが……。
「脳筋魔法少女はお呼びじゃないです」
「脳筋じゃないよ!? ボクはよく他人の心を読んでいるから、理解できない人への対策を知ってるよ!」
「なんか禅問答みたいだな……てかカーマっていつも変人の心を読んで悲鳴をあげてるような」
「あれはその……例えばなんだけどね。招待されてお茶会に行ったら、人の首が並べて晒されたらどうする? 悲鳴あげるでしょ?」
お化け屋敷でありそうなシチュエーションだなぁ……それって茶菓子と人の頭をかけてるんじゃないだろうか。
これが本当の饅頭、なんちって……趣味悪すぎる。出される茶も真っ赤に染まってそうだ。
ちなみに饅頭は元々、人の頭の代わりに作られた菓子らしい。
「それでどうやってレザイ領主の考えを理解するんだ? 心を読みに行くつもりか?」
「ふっふっふ。この続きは有料になります! アイスちょうだい!」
両手でちょうだいのポーズを作るカーマ。
……まあアイスくらいならいいか。俺はカップアイスを【異世界ショップ】から購入して、彼女に手渡す。
「わーい。じゃあ対策なんだけどね。理解できないなら、魔法で」
「燃やすとか言ったら剥くぞ」
「…………」
カーマが笑みを浮かべたまま停止する。
とりあえず燃やせば何とかなる思考回路、何とかした方がよいと思うぞ。
「ちょ、ちょっと姉さまとも相談してくる!」
とてとてと部屋から逃げていくカーマ。
しばらくするとラークを連れてきて戻って来た。
「ね、姉さま! レザイ領主の考えが理解できないんだけど、どうすればよいと思う!?」
「答えるけどケーキ欲しい」
「……まあいいけど。凍らせるとか言ったら剥くぞ」
「…………」
この姉妹、相変わらず考えが似た者同士過ぎるっ……!
俺は知ってるんだ、この流れだとどうせ次に来るのは。
「酒がもらえると聞いてでござる!」
「ほら見ろ! どうせ来ると思ってたよ飲兵衛侍!」
センダイが酒瓶片手に部屋に侵入してきた。
すでに顔真っ赤で千鳥足なので準備万端だなこの野郎!
「おおセンダイ様。実はかくかくしかじかですぞ」
セバスチャンがレザイ領のあたおか行動などの説明をすると、センダイは「なるほど」とうなずく。
そしてその話を肴に酒を飲み続けた後。
「ふむ。ならばこういった策はどうでござるか? 理解できない行動ならば、理解できる者に翻訳してもらうべきかと」
「はいはい。じゃあ次行って……ん? なんか思ったよりちゃんとしてるな」
……なんか思ったよりマトモな案が来たぞ?
どうせいつものアイスケーキ酒の三連星の流れと思ったのに。
センダイは酒瓶に口をつけながら、かっかっかと笑い始めると。
「アトラス殿。これでも拙者はフォルン領防衛隊長。こういった領の防衛に関わる話ならばある程度は役に立たねば」
「な、なるほど……脳筋姫たちとは違うということか」
そういえばセンダイがカーマたちと同じことを言うのは、基本的に貿易関係とかの役割外のことだなぁ……。
軍事関係は酒除いて割とまともなこと言ってるな。酒関係も兵の士気という意味では、間違ってないところもあるし。
「悪かった、センダイ。これからは脳筋三連星ではなくて、脳筋双子に改めよう」
「「むっ……」」
カーマとラークが何か言いたげに視線を向けてくるが、スルー安定である。
悔しかったらもう少しマトモな案を出してくれ。
「ところでレザイ領主の思考を理解できるのって誰かいるの?」
「関係者はいないはず」
少し悔しかったのか話を進めようとするカーマたち。
確かにレザイ領の関係者はいない。レスタンブルク国を探しても、レザイ領を研究するなんて時間のムダを行う者もいないだろう。
だが心あたりはある。センダイやセバスチャンも思い当たる節があるようで頷いている。
「あいつだよな」
「あのお方しかおりませんぞ」
「あの御仁ならばたやすいでござる」
フォルン領の最凶兵器にして禁忌。
クズオブクズ。ゴミ箱の中のゴミ箱と名高い奴が……いるっ!
「俺の元弟だ!」
「あっ……! って今も弟さんでしょ?」
「俺の中ではすでに縁を切ったから。あいつもクズの同族なんだから、同じ思考回路してるはずだ」
カーマたちが納得の表情を見せる。あいつなら、レザイ領主の意味不思考も理解できるだろ。
泥棒対策に同じ泥棒を使うようなものだ。目には目を、歯には歯を、クズにはクズを。
「ラーク、すぐに聞いてこい……だが必要以上の接触は絶対に避けろ! いいな!」
「ん」
ちなみに奴はラスペラス国で指名手配されつつ、国内を逃げ回ってるらしい。
俺としては二度と戻ってこさせないので、どうでもよいことである。
ラークは転移でラスペラス国の弟に話を聞きに行って、一時間くらいしたら戻って来た。
「どうだった? なんて言ってた?」
ラークは俺の問いに対して、一枚の紙を懐から取り出して俺に渡してきた。
文字を見るに弟の直筆だ。ちなみにかなり達筆で読みやすい字である。
……あいつ、煽動力とか伝聞力とかは凄まじいからな。
紙に書いて渡してきたのも、ラーク経由だと伝言の内容が変わりかねないと判断したのだろう。
内容に目を通すと以下の内容が書いてあった。これでレザイ領主の考えが……。
――やあ兄者。レザイ領主が逆らったのは物凄く簡単な話だ。ここから先の文は、僕に支援金を渡したら続きを書こう。
そこで文章は終わっている……俺は紙をびりびりに破いた後、床に叩きつけて何度も執拗に踏み潰す。
「なにやってるの!?」
「ああもう! ラーク! これ持ってもう一回弟のところ行ってこい!」
「疲れた」
「ベビーカステラあげるからぁ!」
…………仕方がないのでラークに金貨百枚を渡して、再度お使いにいかせたら続きの手紙を持ってきた。
くそ! やっぱりレザイ領主と同類だあいつは!
――では話の続きだ。レザイ領主は金貨九千枚を領民に無断で使用した。その埋め合わせのために兄者の金を要求した。調べればレザイ領主が直近で散財してるのがわかるはずだ。
「…………」
――領主と言えどもだ。流石にそれだけの大金を無断で使えば、領民から殺されるだろう。ましてやレザイ領民だからね、殺されたほうがマシな目に合わされる。
俺は手紙の内容を見て絶句する。
いや流石に金貨九千枚を、全部使い果たすなんてそんな……。
…………。
「セバスチャン。レザイ領と直近で取引した商会と、その金額を調べ上げて欲しい」
「ははっ!」
いや流石にないだろ……いくらクズでも……後先くらいは考えて……。
「アトラス様! レザイ領主が最近、様々な商会と取引を行っていました! 合計金額はおよそ金貨九千枚ほどに!」
…………頭痛が痛い。なんで俺はこんなバカな相手と争う必要が……。
「カーマ、ラーク。二人ともすまない……あの領主、燃やしたほうが早かったかも……」
「「えっ」」
あまりの意味不明さに脱力して、思わず二人に謝ってしまうのであった。
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