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国内騒動編
第175話 レザイ領反乱分子
しおりを挟む俺は屋敷の食堂で紅茶とケーキを食べて、食後の余韻に浸っていた。
とりあえずラスペラス国との戦いによって、ズタボロになったフォルン領の財政は建て直した。
いやむしろ建て直したというよりも、以前よりよくなったと言えるだろう。
ラスペラス国と正式に貿易が始まり、フォルン領の特産品が売れる売れる。
チョコレートとか作れば作るだけ買ってくれる。ドラゴン便のおかげで配送もすごく楽。
今のフォルン領の困りごとはイレイザーと東の鬼魔境レード山林地帯だけだ!
……いや正確に言うと、酒関係の貿易赤字がヤバイことも悩みの種だが……。
この幸せがずっと続く、俺はそう思いながらケーキを食べ……。
「アトラス様! レザイ領主がやって来ました」
「…………唐突に地獄の審判みたいな報告やめろ。俺にも心の準備が必要なんだよ」
「失礼しました。次からは来てから三日後に報告しますぞ」
「それはそれで困る……」
セバスチャンが食堂に入ってきて、聞きたくもない報告をしてくる。
何でレザイ領主が……もうあそことは関わり合いになりたくない。
そもそも面会のアポなどもないのだから無視安定だろ。
「何の用事か聞かずに追い返せ。あんな貧乏クズ神がいたら、フォルン領の好景気が墜落するぞ!」
「それがすでに用事は言われてますぞ。以前に取引した石の値段について、少し値段が悪かったので謝罪したいと」
以前に取引した石……イレイザーが封印された石のことか。
すでにドラゴンたちに運ばせて、今はフォルン領の研究施設《セサルハウス》に置いてあるはずだ。
あの石は大した価値もないのに、足元見られて金貨九千枚というばかげた値段で買わされた。
それがあるのでレザイ領とは交易断絶をしていた。
だが謝罪ということはだ。金貨を返すからどうか許して交易をさせて欲しい、ということだろう。
今のレスタンブルク国で、フォルン領と交易しないということ。
それはすなわち負け組確定だからな。
「…………仕方ない。一度は会ってやるか。奴を応接間に案内しろ、茶菓子などはもったいないから出さなくていい。椅子も廃棄予定の壊れたやつ用意しろ。高級品はすり減ってもったいない」
「承知いたしましたぞ。迎撃用に斧も用意しておきますぞ」
はてさて金貨を何枚返してくることやら。
全額返して頭を下げるというならば、交易を考えてやらんでもないが。
そんなことを考えながら、応接間へ入るとレザイ領主とセバスチャンが言い争っていた。
「なんで菓子が出ないのですか! これが領主に対する扱いか!? 少しは誠意を見せろ!」
「何を仰いますかな? なら斧でよろしければ馳走いたしますぞ」
…………やっぱり会わなかったらよかったかも。
この領主、欠片も信用ならん……。このまま応接間から出て、腹痛で面会謝絶にするか迷った瞬間。
「アトラス伯爵! お待ちしておりました。早くお話をしましょう」
レザイ領主に見つかってしまった。
仕方がないので彼と対面になるように椅子に座り、話し合うことにした。
「それで以前に購入した石について、値段を謝罪したいとのことだが」
「ええはい。実は以前の値段は価値に対して、間違っておりました」
確かにそうだろう。あんな石、持っていても価値なんて欠片もない。
世界を滅ぼすイレイザーを封印してるとなれば、一見すればすごい価値があるように思えるだろう。
だが実際はイレイザーを制御する術がないので、封印を解除するという選択肢を取れる奴はいない。
国ひとつ滅ぼすとかならともかく、世界全て滅ぼされるのだから使った奴も死ぬし。
レザイ領に置いていて、万が一壊されても困るので回収してやっただけだ。
「そうか。それで金貨いくらだ?」
さて何枚返すつもりなのか。ここで少額ならば突っぱねて、今後の交易話もなしだ。
そもそもレザイ領に信用など一切ないし。
「はい。金貨一万枚ですな」
……ん? あの石を購入するのに使った金貨は九千枚のはずだ。
迷惑料として千枚を俺達に譲渡するつもりなのか。殊勝な考えだな。
「ほう。金貨千枚は迷惑料と」
だがレザイ領主は俺の言葉に首をかしげた後。
「何を仰っているのでしょうか? あの石の値段が低すぎましたので、至急追加料金で金貨一万枚を払ってもらいます」
????????????
「セバスチャン、この不届き者を身ぐるみはがしてつまみ出せ! 二度とこの領地を踏ませるな!」
俺は脊髄反射でセバスチャンに指示を出す。
意味不明にもほどがある。金貨九千枚という暴利をむしったあげくに更に追加で一万枚?
しょせんはクズだ。頑固な汚れは落ちないのと同じで、汚れたクズはもうどうしようもないのだ。
なおセバスチャンからは、踏み入れさせないために足をはねさせてくださいとジェスチャーが来ている。
そんなトンチみたいな……少し悩みどころではあるがやめておけと返しておいた。
もはや話にもならないので、椅子から立ち上がって応接間から出ようとすると。
「待て! フォルン領は我らが石を盗むと宣言するのか! 払えないならば石は返すのが道理だ!」
無能生命体と話す趣味はないので、無視して部屋から出ていく。
……レザイ領主を少しでもよく考えた俺が愚かだった。
今後はあそこの領地と一切の交渉を禁じることにしよう。クズがうつる。
そうしてレザイ領主を追い返した次の日。
執務室でレザイ領に対する制裁などを考えていると、セバスチャンが部屋に飛び込んできた。
「アトラス様! レザイ領がフォルン領に宣戦布告を! すでにフォルン領の他領への貿易品の一部が、レザイ領の兵士に押収されております!」
「…………は??????」
セバスチャンの報告が理解できない。
何で宣戦布告なんてされてるんだ。しかもすでに押収されてるって事後報告じゃん。
そもそもレザイ領とは貿易してないわけで、他領に送った品を強奪したということで。
「えーっと……すまん。色々と理解できないことしかないんだが……とりあえずレザイ領ってクズの温床ってことしかわからないんだが、あいつらまともな戦力あるのか?」
「誰も関わり合いになりたくない領地ですので、正確な戦力はわかりませぬぞ。でも魔法使いはほぼいないでしょうし、間違いなく弱いですぞ。民がすべからくクズであることが、防波堤になっていただけですぞ」
だよなぁ。勝ち目もなければ大義名分もない。
そんな状態で仕掛けてくるとは流石に思わなかった……。
だがこの決断、実はかなり厄介なのかもしれない。何故なら……。
「仮にレザイ領を打ち負かしたとして、あの土地って誰も治めたがらないのでは……?」
「民も全てがクズな領地……全員嫌がるでしょうな。王家も間違いなく拒否するでしょう」
「王家の旗を借りて攻めれば、王家が裁きを与えたってことで押し付けを……」
「なりませんぞ」
…………反撃するうま味がなさすぎる。領地を占領しても何の儲けにもならない。
でも放置してたらフォルン領の貿易品などを奪ってくる。
こんなの罰ゲームじゃん…………。
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