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ラスペラスとの決戦編

閑話 金貨が足りない!

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 俺は何故か王に呼び出されて、王城の玉座の間で謁見していた。

「アトラス伯爵。実はお主に相談があってな」
「何でしょうか?」

 何で王に呼ばれたのかまったく心当たりがない。

 フォルン領への支援? そんなものを王家がしてくれるわけがない。

 まあ何も悪いことはしてないからどうでもよいが。どうせまた無茶ぶりだろ。

 やれ不作だとか、ドラゴン便をもっと増やせとかもう本当ワガママで困る。

 少しは常に国益をもたらしている俺を見習ってほしい。

 清廉潔白な俺は責められる汚点など一切ない。

「実はな……レスタンブルク国から貨幣が減っている可能性があってな」
「は、ははは! 気のせいじゃありませんかね! もしくは何者かが貨幣を強奪しているのでは!?」

 …………そう、俺は見逃していたのだ。

 【異世界ショップ】で物を購入するほど、貨幣がこの国から消えてしまうことを……。





~~~~~~~~




「そういうわけで! 貨幣を増やす方法を探ることにする! よい案はないか!」

 俺は急いでフォルン領主要メンバーを執務室に集めて、緊急会議を行うことにした。

 国で流通する貨幣が減る。それは一見、特に困ったことではないと思える。

 異世界ショップにいくら金を払ったところで、向こうから何か購入されるわけではない。

 もしこれが日本などの紙幣なら、減った分だけ追加で金を刷ればよいだけだ。

 だがレスタンブルク国の通貨……金貨や銀貨や銅貨が国から少なくなるのはマズイ。

 ようは国から金や銀や銅という資源が減っているわけで……。

「はい! 他国から金銀財宝を集める!」

 カーマが元気よく手をあげた。

 確かに他国から資源を回収できればレスタンブルク国は問題ないだろう。

「なるほど。じゃあ集める方法は?」
「…………脅して財宝をもらう?」
「完全に賊だろうが! 却下だ却下!」
「やっぱり駄目だよね……でも他に思いつかないし……」

 落ち込むカーマ。いや発想が物騒すぎるんだよ。

 普通に輸出を増やして、更に他国からの貿易を黒字にするでいいだろうに。

 まあそれはそれで、じゃあどうやってこれ以上に黒字にするかって話になるわけだが。

「山賊や盗賊を倒して財宝を奪う」
「ラーク……何でお前たち姉妹の発想はそんなに物騒なんだ……」
「考えるの面倒。魔法で倒したほうが早い」
「思考放棄からの魔法ぶっぱやめろ」

 ラークの意見も論外だ。盗賊や山賊なんぞ、仮にこの国の全員を狩りつくしたところで大した金持ってないだろ。

 少なくとも減った貨幣を補うほどは絶対にない。

「ならばやはり酒でござろう! 名酒を造って他国に売るのでござる!」

 センダイが酒瓶を口付けて、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

 こいつの言ってることは一見するともっともだ。名酒を造ればもうかるし、他国にも売ることは可能だろう。

 フォルン領ではまだ酒を造ってないので、新たな貿易品としてもふさわしい。

 だが……致命的な問題がある。

「なるほど。それで少し聞くんだが。仮に酒を千樽造ったとして、フォルン領から生き延びて外で売られる樽はいくらになると思う?」
「はっはっは。千樽程度、拙者らにかかれば虚無に等しい」

 笑い飛ばすセンダイ。フォルン領で酒を造っても! どうせ売れないのである!

 酒とか貿易品として完璧なのに……うちでは絶対に取り扱えない……。

 酒蔵してもフォルン領内の経済と領民の目を回すだけである。

 これですでに三人の意見が却下された。だがこいつらは数合わせの捨て駒だ。

 ここからの面子が……エフィルンやセサル、セバスチャンが本番であると言えよう!

「アトラス様! ここは金や銀の鉱山を探すのはいかがですぞ?」

 セバスチャンが声をはりあげた。

 なるほど、国に金銀が足りないなら新しい鉱山を見つければいいじゃない。

 ……そもそも鉱山を見つけるのが物凄く難しいのだがな。

 パンがなければケーキを食べればみたいなノリな気はするが、言ってること自体は間違ってない。

「何かアテはあるのか?」
「はい。実は元バフォール領の東隣の場所に、鉱脈があるのではと噂が」
「なるほど……待て。元バフォール領の東って……ベフォメット国では?」

 バフォール領はレスタンブルクで最も東の領地。それより東なら外国じゃないか。

 だがセバスチャンはにっこりと笑みを浮かべると。

「アトラス様……やってしまえばこちらのものですぞ!」
「いや絶対ダメだろ! 戦争不可避だろうが!」
「無論、以前に攻めてこられたのを理由に交渉で譲り受ける予定ですが……それならそれでございます。ベフォメット国はライニール殿が最強の魔法使い。我が国が確実に勝てるので賠償金も手に入りますぞ!」
「……いやダメだろ! なんかこう倫理的に!」

 セバスチャンは「そうですか」と引き下がった。

 ……ここらへんの考え方の差は、たぶん中世くらいの人間と現代人の違いなんだろうなぁ。

 昔はもっと戦争とかやってただろうし……確実に勝てて得するなら、攻める判断を下す国が多かったのだろう。

「エフィルンにセサル。何か意見はないか?」
「ミーとしては、フォルン領の工芸品を作って他国に売るのがいいと思うサッ! 例えばミーの裸夫自画像!」

 腕で自分の身体を抱くポーズをとるセサル。

 後半のノイズを無視すればまともな意見出してくるのが腹立つ。

「後半は論外だが、やはり他国から貨幣を回収するのが無難か。何かフォルン領の武器となる物はないか?」
「やはりここは現状で他国に売り出してないもので、フォルン領で最も利益をあげている商品にしましょうぞ!」

 セバスチャンが自信満々に告げてくる。

 フォルン領でのみ作ってて一番売れている商品……確かに外貨を稼ぐにふさわしい。

 そういえばうちの一番の売れ筋商品しらないな。

「ならそれでいこう! すぐに更なる増産設備を整えろ! ところで一番売れているのは何だ?」
「ははっ! アトラス様伝記一巻でございます!」
「…………嘘だろ?」
「何を仰いますか! フォルン領で最大の利益を出しております! 本は利益率が高いのですぞ!」
「…………まじかよ」

 何とか声を絞り出す。

 誰が好き好んでフォルン領最大の恥部を、他国に露出せねばならんのだ!

 そもそも他国で俺の自伝なんて売れないだろ! いやレスタンブルク国内でも何で売れてるか理解できないけど……。

 とりあえず止めよう! アトラス=サンが他国にまで流出するなんて冗談じゃない!

「やめろ! あれはあくまでレスタンブルク国の人物だからこの国で売れたんだ! 他国で売っても、誰も知らないから買わないだろ!」

 実際そうだろ! ほら地元の人間が活躍したら応援したくなるだろ!

 その補正で買われたに過ぎないわけで! 

「大丈夫だよ。ベフォメットでもあなたの知名度、結構高いよ」
「えっ」

 カーマの言葉に思わず絶句する。いや何で俺が知られてるんだよ。

「だって彼らからすればあなたは、エフィルンさんを倒してベフォメットを敗北させた敵だし……」
「あー……じゃあ余計にダメじゃん。嫌ってる人物の自伝なんて誰も買わないじゃん。特にエフィルン倒すところなんて憤死ものでは?」
「ご安心ください。そこはベフォメット国用に歴史を捻じ曲げますぞ! エフィルン様とアトラス様が戦う内に愛し合って、無事に休戦したことにしますぞ!」
「とうとう仮にも自伝なのに、歴史捻じ曲げると言いやがった!?」

 最終的にマジでエフィルン関係を改変して、ベフォメット国にも俺に自伝が売られることになった……。

 しかもものすごく売れた。ベストセラーになるくらい売れた。

 売れた理由? ベフォメット国は戦争に負けたと言っても、別に国に大した被害はなかった。

 なので特に俺への恨みがなかったらしい。

 むしろ戦勝国なのに大して賠償を求めなかった聖人として、謎に俺の評価上がってて興味示されたらしい。

 それでリズによって書かれたアトラス=サンの謎魅力がうけて、ベフォメット国でも話題が沸騰したと……。

 ちなみにベフォメット版だと俺はカーマたちとは離婚して、エフィルンと結婚したらしい……。

 もはや歴史の歪曲というか二次創作レベルになってない……?
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