180 / 220
ラスペラスとの決戦編
第174話 事後処理と宝くじ
しおりを挟むラスペラス国との停戦協定終了後、フォルン領の屋敷に戻って来た。
そんな俺達に待っていたのは……地獄のような金欠だった。
「あなた! ドラゴンさんたちが早く戦闘出張代とかもろもろ払えって!」
「金がないから後にしろと言っておけ!」
「それなら利子トイチって言ってるけど!?」
「ふざけんな! ちょっと燃やしてこい!」
執務室はさながら戦場のようだ。次から次へと金が足りない報告をしに、いろんな者がやって来る。
俺はその陳情などを、作業机に備えられた椅子に座って散々聞きまくっている。
借りた金を返す時は全然来ないくせに! 今もカーマがドラゴンの陳情を報告に来て、帰っていった。
そして入れ替わるようにラークが部屋に入ってくる。
「アトラス。王家から支援の余裕ないって」
「はぁ!? 一銭も出さないだと!? 裏切るぞこの野郎って返事しろ! それと早く王家の代表者連れて来てくれ!」
「ん」
王家め……今回の戦争出費の半額どころか全額出さないつもりかよ!
お前ら本当どこに金消えてるの?
ラークがとてとてと歩いて部屋から出ていくと、今度はセンダイが駆け込んできた。
「アトラス殿! 戦勝祝いの酒が足りぬでござる!」
「十分な量を用意したはずだろ! 千二百人に対して酒四百樽だぞ!? お前ら少しは我慢しろ! 欲しがりません、勝った後も!」
「そんなこと言ったら暴動が起きるでござるよ! 拙者らは命をかけて戦ったのでござる!」
「あの戦い、言うほど命かかってたか!?」
そもそもうちの軍、女王の魔法で全滅したじゃん。
普通の戦争ならとっくに死んでるはずなわけで、命かかってないだろ。
「アトラス殿! ここでケチれば兵士の忠誠心がうんぬんかんぬん!」
「ああもう! 二百樽追加してやるから!」
結局センダイの言う通りに酒を増量することになってしまった!
また出費が増える! 戦争って嫌だなぁ!
上機嫌になったセンダイが去っていく。くそぅ……俺も金のかからないゴーレム兵とか作りたい……。
「アトラス様! 金が足りませぬ! このままでは他領から食料を購入できず、深刻な食糧危機に!」
セバスチャンが部屋に飛び込んできた。
先ほどのドラゴンや兵士と違って、今度はガチでヤバイ案件だ。
フォルン領は芋を大量に育ててこそいるが、他領や国に売っているのでそこまで備蓄がない。
それと芋以外の食用作物ほぼ育ててない……。
今までは他領の食料を金で買っていたりしたが、この絶賛金欠状態では……。
「芋だ! 芋をエフィルンの魔法で死ぬほど生産しろ! 今日から一ヵ月、領民は毎日がふかし芋!」
「アトラス様! それは暴動が起きますぞ! うちの領民は貧乏時代に比べて舌が肥えてしまったので、もはや毎日芋では満足できない身体に!」
「ええい! 下賤な美食家どもめ! わかった、芋料理をいくつか考える!」
フォルン領民め! 少し前まで飢え死寸前の状態だったくせに!
いやまあ今のフォルン領って一万人以上いる上、貧乏時代の領民なんて百人くらいだったけど……。
全領民の一パーセントしか初期フォルン領民がいない計算に……食えるだけで十分な考えの人間、ほとんどいないと考えたほうがいいな……。
とりあえず【異世界ショップ】で芋料理を調べよう。マヨネーズとか簡単に作れると聞いたし、何とかそれで……。
焼きポテト、マッシュポテト、フライドポテト、ふかし芋のローテーションでなんとか……。
「アトラス様、この金欠を解消する策はないのですぞ? その場しのぎでごまかすのはよいですが、根本的に解決をしませんと」
「わかってる。それについては王家に働きかけているから」
「あのケチな王家が金を払ってくれるとは思えませんぞ」
「安心しろセバスチャン。砂漠で雨を願うことはしない」
俺とセバスチャンは互いに目がすわっている。
天から財宝が降ってくるなんてあり得ない。それと同じく王家から金が下りるなんてあり得ない。
ならば自分で稼ぐしかあるまいて。
「いやー……王家の扱いも散々ですね……。事実なので否定しきれませんが」
愛想笑いを浮かべながら、ワーカー農官侯が執務室に入って来た。うっわ、また呪いかけられてないだろうな……。
隣にはラークがついている。彼を転移で連れてきたのだろう。
しかし王家の人を呼ぶと、確実に農官侯がやって来るな。
今回の件、経済関係だから農官まったく関係ないのに……この人も王家の被害者かもしれない。
……それとこの人、いちおうは王家の賓客のはずなんだけど。何で普通に執務室に入って来てるんだろうか……?
普通は客間で話し合いとかのはずなんだけど……まあ本人文句言ってないからいいか。
流石に俺だけ座ってるのはどうかと思うので椅子から立ち上がる。
「それで大事なお話があるとのことですが」
「はい。フォルン領が金欠で極めて困窮しています。つきましては金儲けをしたいのですが、それに王家も協力をしていただきたく」
「資金援助ではなくて、儲ける手段への協力ですか。それならば内容次第で可能でしょう」
ワーカー農官侯は俺に対して同情の視線を投げかけてくる。
同情するよりも支援欲しいんだけどなぁ!
「宝くじというものを発行したいのです。詳細はこの紙に記載しています」
ワーカー農官侯に紙を渡すと、彼は食い入るようにそれを見た後。
「これは……なんというか、考えた人間の品位を疑いますね……。どうやっても大本が儲かる商売ではないですか。売上金額の半分ほどを、くじを買った人間に振り分ける……残りの半分は全て大本。これが購入者にバレたら、不満を言われませんか?」
ワーカー農官侯は宝くじに懸念を示している。
確かにこの宝くじ、はっきり言って売る側が極めて得をする制度だ。
売上の半分が大本の手に入るなど、美味しすぎる商売である。
だがその半分の暴利を盗っても許される魔法の言葉がある。
「いいですかワーカー農官侯。売上金額の半分は夢です」
「夢……ですか?」
「はい。愚かな夢を見るための費用です。大金が当たるかもしれないワクワク感を提供するのです」
「な、なるほど……?」
まあ大抵当たらないんだけどな。
ワーカー農官侯は怪訝な顔をしながら不承不承と言った感じだ。
実際のところ、売上金額の半分で売ってるのは夢だけではない。
他には信用も入っている。流石に国が売り出してるのに、金を交換してくれないことはないだろう。
そういった信用も込みだ。それでもバカみたいに利益高いけど。
信用についてワーカー農官侯に話さないのは、王家の威信を使うなら利益も折半でと言われかねないからである。
後は宝くじの一等賞の金額はかなり高くするとか、せこい工夫をしてもらうことにした。
数か月後、無事に利益が入ったのだが……。
「では宝くじの利益は折半ということで」
「……は? 仕組みを考えたの全部俺なんですけど」
「王家の信用を使ったなら、我々ももらう権利があるでしょう」
畜生! バレてた!
やっぱりワーカー農官侯が笑うとろくなことがない!
0
お気に入りに追加
1,350
あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる