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ラスペラスとの決戦編

第160話 石けんを売ろう①

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 俺はラスペラス国との代表戦に向けて、様々な準備を行うことにした。

 その第一弾を行うために、執務室にカーマとラークとセサルにセバスチャンを呼び寄せた。

「石けんをフォルン領で作って、レスタンブルク国やベフォメット国に売る」
「石けん? でも作り方は秘匿されてるよ? セサルさんも作り方知らないんじゃないの?」
「ミーも知らないサッ! まあミーの美しさは、石けん程度では磨き上げられないサッ!」

 ドヤ顔でポーズをキメるセサル。相変わらずキマってんな、悪い意味で。

 この世界でも石けん自体は存在している。だがめちゃくちゃ高い。

 バカみたいに高い、その割に質も悪い。それなのに売れているらしい。

 そんな美味しい……いやあくどい商売を見逃すわけにはいかない。

 ここはフォルン領総出で石けんを売り出して儲け……悪徳業者を駆逐すべきだろう。

 独占禁止法を発令すべきなのだ、カツレツよくない……なんか違うな。

 カルテルだっけ? まあいいや言い方なんてどうでも。

「フォルン領で大々的に石けんを売り出して死ぬほど儲けるんだ!」
「でも石けんは石けんギルドが独占してるよ? 作り方を教えてもらえるとは思えないけど」
「俺が知ってるから大丈夫だ」

 だがカーマはなおも心配そうな顔をしている。

「ギルドが独占してるから、勝手に売ったら訴えられるような……」
「いいかカーマ。俺は石けんギルドから情報を盗んだわけではない。俺が思いついた製造方法で、
石けんを作るだけだ」
「でも情報を盗んだって難癖つけられるんじゃない?」

 確かにカーマの意見は容易に想像できる。

 石けんギルドは質の悪い石けんを、明らかに暴利で売っていたのだ。対抗馬が出てこられたら今までの殿様商売は成り立たなくなる。

 俺達を徹底的に潰すつもりで動いてくるだろう。だが……。

「たかが一ギルドふぜいが何を出来るってんだ! こちとらお貴族様だぞ!」
「完全に悪者のセリフなんだけど!?」
「誰が悪者だ! 俺らが独自で石けん作って売るんだぞ! 石けんギルドしか売れない法律もないし、奴らに正義なんぞない!」

 俺は椅子から勢いよく立ち上がって宣言する。

 そう! 俺達はまったく悪いことをしていないのだ!

 むしろ石けんギルドが暴利を取ってるせいで、国民の衛生環境が悪くなってるまである。

 ……ワンチャン、王家に密告したら石けんギルドの立場悪くできるかもしれん。

 奴らのせいで伝染病が流行する可能性がありますよ! ってな。言うほど嘘でもないし。

「そういうわけでセサル。石けんを作って欲しい。作り方はこの書類にまとめてある」

 俺はセサルに書類の束を渡す。

 セサルはそれを受け取るとペラペラと中身を見始めて……。

「……牛脂に灰? こんなもので石けんが作れるのかい?」
「俺も意味不明だが、その情報で正しいはずだ」

 石けんの作り方の本を【異世界ショップ】で購入したのだが、見た時は驚いた。

 やれ苛性ソーダが水酸化ナトリウムだ、水酸カルシウムだとめちゃくちゃ難しい。

 俺はたく酸クルシミマスだよこの野郎。

 あげくの果てに必死に本を読んでいたらミーレが。

「面倒なことしなくても牛脂と灰で作れるよ」
「先に言えや! 俺の怒りが化学結合だ!」
「待って!? セサルさんの裸写真押し付けないで!?」

 というやり取りがあったくらいだ。

 よく考えたら石けんってかなり古い時代からあるんだ。そんな時代の人間が化学結合とか電気分解とか知るわけないよな。

 なんとなくフィーリングで作れるものじゃないと、古来から存在するわけがない。

「それでお前たちを呼び寄せた理由だが。セサルは石けん製造。カーマとラークは王家とか他貴族に石けん宣伝頼む」
「心得たサッ。七色の石けんを作りだして見せよう!」
「いやそんな気色悪いのいらん……色が身体について汚れそうだし」

 セサルは石けんの作り方の紙を見ながら叫ぶ。謎にノリノリだがいつものことである。

 こいつの製造力だけは信頼できるので、簡単に石けんも作ってくれるはずだ。

「ボクたちは石けんを宣伝すればいいんだね?」
「そうだ。今の石けんギルドの物の、半額の値段で売り出すと豪語しろ」
「そんなに安くしていいの?」
「むしろそれでも暴利なんだよ……これ以上下げたら、逆に怪しまれるんだよ。そんなに安くできるなんておかしい! ってな」

 元の石けんギルドの石けん料金が高すぎる。一個につき金貨二枚とかだぞ。

 消耗品の値段としては高すぎて、とても民間人が手を出せる額ではない。

 本当なら最初から銀貨五枚とかにして、民間人も手が届く値段にしたいのに! 元の値段が高すぎるせいで安くできないんだよ!

「本当はこの事実を公表して、現在の石けんギルドを犯罪ギルドにしようかとも考えた」
「発想が酷い……なんでやめたの?」
「どうせならこの事実を、石けんギルドへの脅しに使ったほうがいいなって」
「作ってる物は清潔なのに、作ってる人が真っ黒過ぎる!」
「汚れた石けん」
 
 カーマとラークの意見に思わずうなずいてしまう。

 安心しろ。石けんギルドを石けんでこすっても、泡立ちすらしないだろう。

 恐ろしく頑固な汚れで石けんも真っ青だ。

「それでアトラス様。このセバスチャンは何の役割を?」
「セバスチャン、お前は押し売り担当だ! 金持ちの貴族狙いで石けんを売りたたけ! 遠慮などするな! 合言葉は奴らの金は俺らの金!」
「かしこまりました! 得意分野ですぞ!」

 セバスチャンが自分の胸をドンと叩いた。

 押し売りにおいてセバスチャンほどの適任者はいない。

 普通の押し売りなら客が閉じようとした扉に足をかけて、セールス話を続ける程度。

 だがセバスチャンなら閉じた扉を粉砕してでも、売りつくす猛者である。

 フォルン領の石けんの質と金額は間違いないのだ。後は初動の売りだけ何とかなれば、放置しておいてもガッポガッポ間違いなし!

 それに石けんギルドがイチャモンつけてきても、セバスチャンに勝てると思うなよ!

 あいつなら仮に毒を盛られても、たぶん石けんを飲んで回復するぞ!

 ……いや流石にないとは思うのだが、マジでしそうで怖い。

 腸内洗浄とか言ってやりそうな気がするんだけど……。

 そんな恐ろしい想像を首を振って払い、俺はみんなに指示をくだす。

「石けんで金をもうけるぞ! それで俺の【異世界ショップ】の力を増して、ラスペラス国との戦いに勝利する!」

 俺の宣言に対してみんなが頷いたのだが、その後にセサル以外が驚いた顔になる。

「あ、あの……あなた、セサルさんはあなたの力を知らないんじゃ……」
「……あっ」

 しまった!? 【異世界ショップ】の力は、カーマとラークとセバスチャン以外には秘匿してたんだった!?

 だがセサルは笑みを浮かべたままだ。

「安心するサッ。何となくセンダイもミーもエフィルンも予想がついてるサッ」
「……まじでか」
「あれだけやってれば気づくサッ。気づいてない主要メンバーは、メルくらいサッ」

 そっかー。気づかれてたかー。

 まああれだけやってたらそりゃそうかー。 

 メル? あいつは気づいてないことが平常運転だろ。むしろ気づいてたらビビるわ。
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