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ラスペラスとの決戦編

第156話 クズの源②

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「くたばれ! さっさと伝言してこい!」
「ごはっ!? 毎度ありぃ!」

 結局門番に銅貨を投げつけて、レザイ領主に伝言をさせにいった。

 ……本当に意味が分からない。なんでアポ取ってるのに、門番に金を払わねばならんのだ……。

 しばらくすると執事と思しき爺さんが、走ってこちらにやってきていた。

「お待たせいたしました。アトラス伯爵とのことですが……」
「ああ。レザイ領主に会わせて欲しい」
 
 だが執事は俺の言葉に反応せず、笑いながら立っているままである。

「どうした? 領主のところまで案内して欲しいんだが」

 それでも執事は笑いながら、こちらに疑惑の目を向けてきた……。

 あ、すごく嫌な悪寒。

「お客様? お客様は本当にアトラス伯爵なのですか? 伯爵ならば執事に案内料を渡すはずです。そうでないなら偽物と判断し、牢獄に案内を……」
「ああもう! お前ら嫌い!」

 俺は執事に銅貨を投げつけ、奴は華麗にそれをキャッチした。

 ……無駄に清廉された動きが腹立つ。俺相手以外でも常にやってるなこれ。

 すると執事は俺達に背を向けて、屋敷の中へと入……ろうとして、入口の扉の前で立ちふさがった。

「銅貨一枚ならここまでです」
「お前は遊園地の百円入れたら動く動物の乗り物か!?」

 あの乗り物、百円程度じゃ全然動かないから腹立つよな……。

「くそう! もうさっさと案内しやがれぇ!」
「ごふぅ! 毎度ありがとうございますぅ!」

 結局銅貨五枚投げつけて、ようやく案内が開始された。

 なんだよこの領地! 領主屋敷の執事までクズってやがるぅ!?

 そして執事についていくと、屋敷の中に入らないで庭へと案内された……。

 いやさっきの屋敷に入ろうとしたモーションは何だったんだよ!?

 庭ではひとりのおっさんが、植物などを鑑賞していた。そのおっさんに執事が話しかける。

「領主様。アトラス伯爵と思しき方を連れてまいりました」
「ふむ。これはお初にお目にかかります。私はレザイ・ヴィ・クーズ、レザイ十五世とお呼びください」

 深々と俺に礼をしてくるレザイ領主。

 ……流石に領主までチップを要求はしてこないようだ。

 これでこいつまで要求してきたら、危うくキレていたかもしれん。

「初めまして。私はアトラス・フォルン・ハウルクです」
「無論、アトラス伯爵のお名前は存じております。天才魔法使いにして、この国の英雄。そしてフォルン領のみならず、レスタンブルク国すら立て直している天才」
「はっはっは。それほどでもあります」

 どう考えてもお世辞なのだがつい鼻が高くなってしまう。

 いやこの国で素直に褒めてくる奴いないから……一言目には田舎貴族! 二言目には権益よこせ! 三言目は死ね だな。

 もしかしてレザイ領主はクズのラスボスではなくて、まともだったりするのだろうか?

 鳩とかだって、たまにアルピノとかで真っ白な奴生まれたりするらしいし。

 そんな俺の視線に対してレザイ領主はウインクをすると。

「それでですね。実はレザイ領は現在、非常に困っていることがありましてな。アトラス伯爵のお力で、是非解決して欲しいのです。もちろん無料で! それとドラゴン便の駅もお願いします! それが解決しないと我々は余裕がなくて、とてもアトラス伯爵のお力にはなれず……」

 前言撤回。やっぱクズのボスだわ。

「ドラゴン便は無理ですが、困りごとのほうは聞いてみて考えましょう」

 俺の言葉にレザイ領主は張り付いた笑みを浮かべると、指をパチンと鳴らした。

 すると周囲の草しげみや木々から、武装した兵士が続々と現れる。

 ……間者隠してやがった! 想像以上にクズだなこいつ!

「これは困りましたな。アトラス伯爵と言えばこの国の救世主。そんな方が我々の願いを拒否するはずもない。つまりあなたは偽物!」
「お前らのやり方本当にワンパターンだなおい! ラーク!」
「心得た。《氷の風よ、眠りを誘え》」

 ラークが小さく呪文を詠唱すると、急に肌寒い風がふく。

 それと同時に周囲にいた兵士たちは、一瞬にして全て凍り付いた。

 唯一残されたレザイ領主は、その風景を見て目を見開いた後。

「これは確かにアトラス伯爵ですな。これならば本人確認をする必要はございません。ドラゴン便の話で試す必要がなくなりましたな」

 こいつ無理やりさっきのを本人確認方法で通すつもりだ!

 なんてクズ野郎だ……! だがここでこいつの機嫌をそこねると、必要な情報が集まらない恐れが……!

 カーマの読心魔法もこいつ相手なら期待うすだ。クズの思考を読みこむとカーマのほうが発狂するからなぁ……。

「はあ……もういい。それで頼みと言うのは何だ?」
「ええはい。実はあそこの石です」

 レザイ領主が指さした先には、四メートルほどの巨大な石が飾ってあった。

 その石の周囲には鳥居と共に、脱衣麻雀ゲーのパッケージらしきものが備えられてある。

 もうこれだけで、サトウさんだがスズキさん関係って分かるな!?

 更にレザイ領主は言葉を続けていく。

「実はあの石がですね。最近、妙な音を立てて安眠できないのですよ」
「寝ている時の洗濯機かよ!? てか領地の困りごとじゃなくて、お前個人の困りごとだろうが!」
「何を言いますか! 私の困りごとはすなわち、この領地の困りごと! 領民百人の苦しみよりも、領主の安眠のほうが大事!」
「言い切ったぞこいつ!」

 流石はキング・オブ・クズ……もうこいつのことはいいや。

 巨大な石に近づいて観察するが、特に機械っぽいとかそんなことはない。

 ただのでかいだけの石にしか見えない……。

「この石を回収して頂きたい。もちろん無料で。運ぶ費用などもアトラス伯爵もちで」
「…………」

 レザイ領主は気持ち悪い笑みを浮かべてくる。

 ……この領地、イレイザーに滅ぼされたほうが国のためじゃないかな。

 この石を運ぶとなるとそれなりに人手もいるなぁ……それにウルサイ音が鳴るってのがよく分からん。

 どう見ても苔むした普通の石にしか見えないのだが……。

 試しに石を蹴飛ばしてみるが普通に硬い石だ。

 次はトンカチで叩いてみるかなどと考えていると。

「ね、ねぇ……この石、恐ろしい魔力を感じるんだけど……」
「……危険」

 カーマとラークが抱き合いながら怯えている。かわいい。

「主様、お離れになった方がよろしいかと」

 エフィルンが俺を守るように、石の前に立ちふさがった。

 そんな彼女も少し震えているので、やはり怯えているようだ。

 なるほど魔法使いはこの石を恐れているのだろう。……あれ? うちにはもう一人魔法使いがいたような……。

 俺がライナさんのほうに視線を向けると。

「あぁぁぁぁぁ! 壊す! 壊すぅ!」
「いけない! ライナさんが暴走してる!」
「抑えるんだ! 何としても差し押さえろ!」

 結局カーマとラークとエフィルンの三人がかりの魔法で、何とかライナさんを抑えることに成功した。

 実はこの人がレスタンブルク最強の魔法使いだったりしない?

 少なくとも最凶の座は間違いなく彼女だが。

 それにしてもだ…………恐ろしい魔力を感じる石。

 そして鳥居などで飾られていて、脱衣麻雀ゲーのパッケージのお供え……これが意味することは……。

「もしかしてこの石にイレイザーが封印されている?」

 俺の言葉に三人が怯えながら頷いた。

 ……俺、封印された石にキックかましちゃったんだけど!?
 
 いや逆に考えるんだ。苦労すると思った物が簡単に見つかった。

 それに蹴っても目覚めない程度には丈夫! よし!

 後はこの石を、俺達が確保すればここの領地に用事はないな!

 正直あまり欲しいモノではないが、下手にここに置いておいて目覚められても困るし回収はしておこう。

 万全を期すために運ぶのにドラゴンを呼ぶ必要がありそうだが、そこは必要経費と割り振ることにする。

 俺はレザイ領主のほうに顔を向けると。

「レザイ領主。この石は確かに無償で回収しましょう」

 はぁこれでさっさとこの領地から脱出できる……。 

「何を言っているのですか? この石は我がレザイ家の家宝。最低でも金貨五千枚は払って頂かないと」
「…………は?」

 レザイ領主は吐き気を催す笑顔を浮かべている。

 ……今までの会話で、俺達がこの石を欲しがってると把握しやがったな!?

 なんて野郎だ! 無料で回収してくれと言ってたくせに!

「何を言っているのですか? 邪魔なので無料で回収してくれと仰っていたではないですか」
「意味が分かりませぬな! 我が先祖伝来の家宝を無料で!? アトラス伯爵だろうが、たとえ国王だろうがそんな横暴は通りませぬ! 金貨七千枚が最低ライン!」

 もうやだこの領地! イレイザーに滅ぼされちまえ!

 結局金貨九千枚で買わされて、流石にこんなの払うの嫌なので玉座の間の王に徴収へ向かったところ。

「なんだと!? レザイ領に向かっただと!? お主正気か!?」
「あり得ないでしょう! あんなところ、人が向かってよいところではありませんよ!?」

 王とワーカー農官侯が死ぬほど驚いていた。

 周囲にいた貴族のギャラリーたちも、ざわざわと俺達を畏怖の目で見ている。

「信じられん……よく五体満足で帰って来たな……」
「あんなクズ魍魎溢れる場所に行くとは……命知らずにもほどがある」
「あそこで生き残れるということは、アトラス伯爵も相当なクズなのでは」

 仕方ないだろ!? イレイザーの手がかり的に行かざるを得なかったんだから!

 そういった軒並みの事情を知らせた後に王は一言。

「……どうせならレザイ領が滅んでから、イレイザーを討伐してくれてもよかったのだが」

 畜生! 俺も二度と行かねぇ!

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