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ラスペラスとの決戦編

第154話 気づいてはいけなかった

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 ドラゴン便正式運用開始後、フォルン領には大量の手紙が届いていた。

「アトラス様。本日に目を通して頂きたい手紙ですぞ」
「……これをどうやって朝食の間に見ろと!?」

 優雅に屋敷の食堂で朝食を食べていると、セバスチャンが手紙の山を食卓に置いた。

 軽く数えても三十以上の手紙があって、どう見ても多すぎるだろ!

「いえ食事後も見て頂きますぞ。そもそも朝食時以外はほぼ見ないのがおかしいですぞ」
 
 セバスチャンが俺の横に立って正論を言ってくる。

 畜生! どうせ大した手紙なんて入ってないんだろ! 

 なら見ても見なくても一緒だろ! 見たフリだけしておけば……。

「ちなみにですぞ。その手紙は全て確認が必須のものです。ゆめゆめ、見たフリなどせぬように」
「な、なにを言ってるんだセバスチャン。俺がそんなことするわけないだろう」

 あやうくパンがのどに詰まりそうだった。

 ……俺の行動パターンが完全に読まれている!?

 しかしこの手紙の量は多すぎるぞ!? 返信考えるだけでも時間かかる!

 今日は【異世界ショップ】で脱衣麻雀ゲーをやろうと思ってたのに! 

 せっかく売ってるのがわかったからプレイできるのに!

 こうなれば臨時のお手伝いを雇うべきだろう。

「カーマ、ラーク。手紙返信するの手伝ってくれ。駄賃にアイスとケーキやるから」
「そんな簡単に釣られると思わないでよ」
「安い女じゃない」
「じゃあ普段の二倍」
「「こころえた」」

 カーマとラークが笑顔で返事してくる。やだこの二人チョロい。

 彼女らは姫なので手紙を返すくらいは任せてよいだろう。

 どうせ大体が挨拶とか、お機嫌うかがいの手紙だろうし。

「ところでセバスチャン。厳選して三十枚だと、本来は何枚来てるんだ?」
「三百枚以上来てますぞ」

 うちはちり紙回収か何か? 

 逆に残りの見る価値のない手紙の内容が気になってくる。

 怖い物見たさというか……クズ原産地のレスタンブルクの手紙だし色々やばそう。

「セバスチャン、ちょっと除外してた手紙も見せてくれ」
「よいですが先に必要なほうの返事を」
「カーマとラークが全部返事するから」
「「えっ!?」」

 華麗に今日の業務を二人に押し付けつつ、俺は地獄のような手紙を見ることにした。

 セバスチャンが超大量の手紙の入った袋を持ってきて、机の上に雑に置いた。

 ……たぶんこのまま袋ごと捨てるつもりだったんだろうな。

「ちょっと待って!? 何でボクたちが全部手紙見ることに!?」
「横暴反対」

 地獄の窯を開こうとすると、詰め寄ってくるカーマとラーク。 

 ならば仕方がない……。

「特別にケーキとアイスを普段の四倍やるから」
「わーい」

 チョロい。これはチョロイン。

 心配もなくなったので、てきとうに一枚取り出して手紙の中身を読んでみると。

〈お前のせいで息子が自殺未遂だ! 責任を取ってドラゴン便の権益を全て渡せ! このエセ貴族が!〉

 ……なんだこの明らか怪しい詐欺? は。子供ですら引っかからんぞ。

 何が救いようがないって、これが貴族から出されている手紙だってことだ。

 仮にも教育を受けているはず……なんだけどなぁ。

 更に数枚ほど開いてみると。

〈よい儲け話があります。私がドラゴン便を運営すれば、今の利益の十倍は叩き出せます。一度私の屋敷でお話を〉

 絶対行ったら拉致とか脅しとかで、ドラゴン便奪おうとするやつだろ。

〈ドラゴン食べたい。バーベキュー用に一体ほど配達しておくれ〉

 馬を配達に使った後、馬肉として利用なんてあらやだエコですわぞー。

 ……こいつはドラゴン便を何だと思っているんだ。うちは精肉店でも肉宅配便じゃねぇぞ!?

〈ドラゴンは神の使い! そんなものを使役するなど言語道断! 即座に我が領地の森に放すのです!〉

 その後、君の領地は高確率でドラゴンに滅ぼされるのですがそれは……。

〈ドラゴン弁当ひとつ〉

 だからうちは精肉店じゃない。

 あまりにツッコミがいのあり過ぎる手紙たちに、俺は思わず額を抑える。

「……すごいなこれ。想像の十倍くらい酷い」
「当然ですぞ。レスタンブルクのヤバイ貴族一覧本に入っている者たちですから」
「鈍器になりそうだなその本」

 分厚さが辞書並みになってそうだ。ついでに記載者多すぎてブラックリストとして機能してるのだろうか……。

 レスタンブルク国ならヤバイ貴族一覧よりも、まともな貴族リストアップした本見たほうが早そう……。

 ホワイトリストというか、そこに載ってない奴は全員ブラックリストなのだが。

「……なんでこの国ってここまでクズ多いんだろうな」
「そうですな。よその国に比べても酷すぎますぞ。気候のせいかもですな」
「そんな農作物のノリでクズが生えてこないでくれ……」

 俺とセバスチャンは同時にため息をつく。

 いや本当にクズ多すぎて笑うしかない。

 お隣のベフォメットとかもうちょっとマシなんじゃないのか?

「案外、この国のクズが多い具体的な理由があったりしてな。他の国と比べてみたら」
「そうですな。考えてみるのも一興かもですぞ」

 セバスチャンも冗談交じりにうなずいた。少しばかり頭を働かせてみるが。

「他の国と比べてレスタンブルク国の特色と言えば……クズが多いことだな!」
「真にその通りでございますな!」

 いや堂々巡りだなこれ。でもクズ以外に他の国との違いなんて…………あっ。

「……世界を滅ぼす餅ゴーレム。イレイザーがどこかに封じられてるのもレスタンブルク国の特色では?」
「なるほど。イレイザーの影響で、この国はクズが多いのですな!」
「そっかー。イレイザーのせいなら仕方ないな! はっはっは!」

 俺とセバスチャンは互いに笑い飛ばした後に。
 
「ははは…………いやマジでそうじゃないよな?」
「……可能性がないとは言えませぬぞ」

 ……わりとガチで否定しきれん。

 いくら何でもレスタンブルク国のクズは多すぎる! 

「…………こういう封印場所とか犯行現場って、犯行現場とかの分布図を出すと場所がわかったりするんだよな」
「ではクズ一覧書を元に、その分布図とやらを作ってみましょうぞ」
「ははは。まあクズとイレイザーに関係あるとは思えないけどな!」
「真にその通りですな。いくらなんでも」

 そうしてレスタンブルク国の地図を用意し、ブラックリストの貴族の住処を点にして記載していく。

 そうしてブラックリストの全てが点で記載し終えた時。

「……なんかクズがとある地点に密集してて、そこから徐々に拡散して薄くなってる気がするんだけど。気のせいだよな?」
「アトラス様、お気を確かに! 現実から目を逸らしてはなりませぬ! これは明らかに異常でございます! レスタンブルクの西……レザイ領に何かありますぞこれ!? 調査すべきですぞ!?」
「いやクズがあるだけだって!? いやだ! クズの真の魔窟になんて行きたくないぃぃぃぃ!!!」

 地図は明らかに、レザイ領という場所に何かあると示していた。

 ……イレイザー、本当にこの領地に眠ってたりしないだろうな?

 なんか名前的にもかなり関係ありそうな領地なんだけど。

 いや本当勘弁して欲しいんだけどマジで。
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