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ラスペラスとの決戦編

第151話 魔法封印陣

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 ラスペラス国が侵攻してきたとの報告を受け、俺達は急いでノートレス領へと向かった。

 いつものようにラークの転移でやって来ると、敵軍を迎撃するためにノートレス領の軍はすでに陣地を張っていた。

 俺達も急いで陣地へと向かったが、ノートレス軍は完全に戦う準備を完了している。

 おいおいおい、いったいどうしたんだ?

 レスタンブルク国の貴族がまともな動きをするなんて……! 俺は白昼夢でも見ているのだろう。

 だって……レスタンブルク国にまともな人材がいるわけがっ……! 

 つい先日もノートレス領主を、国王の命令に逆らった逆賊として捕縛したところだぞ!

 まさか間者かっ!? 間者が化けているのか!?

「どうなっている!? 誰が陣地を張れと命じたんだ!?」

 俺の叫びに応じるように、一人の兵士が俺の元へ走ってきて敬礼してきた。

「はっ! ノートレス軍の兵士長の私が陣地を張りました! 絶対に必要と思った故の独断専行申し訳ありません! いかなる処罰も覚悟の上です!」

 兵士長は頭を下げて俺に謝罪してくる。

 なんてことだろう、この国にまだまともな奴がいたとは……泣きそう。

「構わない、お前の判断は正しい」

 俺は兵士長にねぎらいの声をかけつつ、今後のことを考える。

 この兵士長に今後は軍の権限を押し付けよう。

 そして敵軍の陣の敷き方などを確認するために、俺はヘリコプターを【異世界ショップ】から購入。

 カーマとラークとセンダイを乗せて、いつものようにヘリを上空へと飛び立たせる。

 操縦席から敵の陣形を確認するが……。

「妙でござるな。敵軍が妙に固まってるでござる」

 センダイが俺の気になった点を言語化してくれた。

 基本的にこの世界の戦争では軍が固まるのは愚策中の愚策だ。

 魔法という広範囲殲滅兵器がある以上、固まってたらボーリングのピンと同じだ。

 一球でストライクを取られてしまう。

 それに何故か投石機とかあって更に謎だ。あんなもの、魔法で速攻壊されて終わりである。

「そうだよな。あれだと魔法でまとめてぶっ飛ばして終わりだぞ」
「それに敵軍に魔法使いがいないよ」
「いない」

 カーマとラークが窓から外を覗きながら、更に不可思議なことを言ってくる。

 敵軍に魔法使いがいないとなれば、俺達の軍が一方的に遠距離から魔法撃って勝てる。

 仮にもラスペラスという大国がそんな愚策を犯すだろうか? 

 レスタンブルクのクズ貴族ならともかく……なんか違和感があるな。

 以前にラスペラス国が襲ってきた時も、敵軍に魔法使いがいなかった。

 その時は完全にそいつらは陽動で、本命は王都に転移で攻める電撃作戦だった。

「まさか今回も王都に転移でとかないだろうな……」
「さ、流石にそれはないと思うよ。転移陣は全部消したはずだよ」
「本当に大丈夫か? レスタンブルク国だぞ? クズの魔窟だぞ? 足を引っ張ることに関しては天下無双だぞ?」
「…………」

 カーマよ、黙り込むのはやめるんだ。

 流石に王都への電撃作戦をリピートはないと考えよう。

 もしされてたらもう知らん。王都陥落して負けでいいんじゃない?

 そんなことを考えていると、急にここら周囲一帯を囲むように紫色の光の壁が発生した。

 その壁はラスペラス軍と俺達の軍を完全に囲み切ってしまっている。

「なんだ!?」
「むう? とうとう拙者酔っぱらったでござるか? 妙な光の壁が」
「お前は常に酔っぱらってるだろうが! カーマ、ラーク! あの光の壁を壊せ! なんか嫌な予感がする!」

 どうせまたラスペラス国――悪の魔導帝国の卑劣な魔法の類だろ!

 さっさと破壊してしまったほうが世界のためだ。

 だがカーマとラークは困惑した表情を浮かべて首を横に振った。

「ま、魔法が出ないの!」
「使えない……」

 声を震わせながら二人はそう告げてきた。

 自分たちも信じられないようで、手を振ったり呪文と唱えだすがやはり何も起こらない。

「な、なんだと!?」
「二人とも酒でも飲んだでござるか? 戦場に来る時に酔っていてはダメでござるよ」
「センダイ、お前が言うな! どう考えてもあの壁のせいだろ!」

 俺は操縦しながらも必死に現状の戦力を再計算していた。

 何と言うことだ! 魔法が使えないカーマとラークなんて、正直ほぼ無能に等しいのでは!?

 二人とも能力値ほぼ魔法に振ってるというか、魔法が優秀だから許されてるところあるよな!?

「なるほど。魔法が使えない前提ならば敵軍が固まっているのも道理。一掃される心配がないならば、軍を小分けにするのは微妙でござる……うっぷ、ところで先ほどから気持ち悪いのでござるが」
「おい待てセンダイ! こんな状況で吐くなよ!? とりあえず降りるから!」

 ノートレス軍壊滅の前にヘリコプター大惨事になりかねないので、急いで陣地に戻って着陸する。

 だがこれはまずいぞ。兵士の数では敵軍が三倍くらいいる。

 しかも投石機や巨人部隊もいるのが見えた。

 カーマにラーク、エフィルンとかいれば魔法で余裕と思ってたのに!

 計算が全て狂ってしまったぞ!? しかも魔法使えないから転移で逃げるのもできねぇ!

 とりあえずヘリコプターから全員降りるが。

「ど、どうしようあなた!? 魔法使えないと勝てないよ!?」
「……すごくまずい」

 カーマやラークも同意見のようでかなり狼狽している。

 お、お、落ち着け。こぬな時こそオデのようにクーズに、いやクールにならねば。

「はっはっは。アトラス殿、気持ち悪くて吐きそうなので酒を一本」
「なんでその状況で酒を求めるんですかね!? ああもうさっさと飲めよ!」

 やけくそ気味に【異世界ショップ】から、酒瓶を購入してセンダイに放り投げる。
 
「ええい! こうなればノートレス軍を見捨てて俺達だけヘリで逃げるか!? ノートレス軍は敵軍に土下座させれば……どうしたんだお前ら?」

 俺が必死にクズ的発想をしていると、皆が俺の方に驚いた視線を向けてくる。
 
 やめろよ、確かにクズな発想はした。だが俺は決してクズではない!

 とうとう俺もクズに汚染されたかみたいな目はやめて……。

「アトラス殿、魔法使えたでござるな」

 センダイが俺の渡した酒瓶を口つけながら、軽薄な笑みを浮かべた。
 
「えっ」
「いやこの酒瓶、普通に魔法で出したでござるな」

 …………あれ? 試しに【異世界ショップ】からくさやの干物を購入。

 するとくさやの干物が手元に出てくる。めちゃくちゃくさい……即刻クーリングオフして送り返す。

 なるほど……これはつまりアレじゃな? 俺の【異世界ショップ】は魔法判定されてないってことじゃな?

 そして他の奴は全員すべからく魔法が使えないわけで。

 つまりこれは…………俺の天下では!? 

「ふっふっふ……とうとう俺の時代が来た! 今までずっと、魔法のせいでなんか戦力的に微妙だったが! 今日この瞬間! 俺は最強無敵チートと化した!」

 俺は思いっきり叫んだ後に両手でガッツポーズした。

 お待たせしました! 俺のチート無双がこれより始まります!

 俺の叫びに対してカーマたちも、心強さなどを感じただろう。

「す、すごく悪い笑顔してるよ!?」
「人がやったらダメなやつ」
「ここまでのゲス顔、今まで見たことないでござる」
「主様素敵です」
「「「それは流石に趣味が悪い」」」

 ……嫌よ嫌よも好きのうちって言うから、これも心強さの裏返しってやつだな!

 俺は【異世界ショップ】の力を使って、どう気持ちよく勝つかを考えていた。

 勝つのはもう確定だ。剣相手に科学の力が負けるわけがない。
 
 後はどれだけ格好よく! 美しく! 相手に屈辱を与えて勝つかだけだ!

 上空から牛糞投下か!? それともアツアツチョコレートでも投下するか!? 

 いやここはあえて、調理器具とか落として高みの見物もよいかもしれん。

 今日の天気はタライとパイ、ところどころ包丁みたいな感じで。

 そんなことを考えているとカーマが。

「ところで思ったんだけどね。さっきゴーレムで空飛んでから、魔法使えなくなったじゃない?」
「そうだな。急に壁が展開されてビビった」
「あれさ。もし魔法で空を飛んでたら、僕たち落ちて潰れてたんじゃ……」

 急に背中から冷や汗が大洪水だ。気づかない方が幸せだった…………。

 おのれラスペラス国め! やることが陰険すぎるぞ!

 お前たちにもこの冷や汗大洪水を味わせてやる!

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