【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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ラスペラスとの決戦編

第145話 禁忌の力②

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 俺は檻越しに鎖に繋がれた不倶戴天の敵――弟をにらみつける。

 ここの牢獄は全て、この弟を逃がさないためだけに造られた。

 この化け物をフォルン領に放ってしまえば、すぐに経済崩壊して領地が滅んでしまう。

「あ、弟さんを閉じ込めてたんだ……処刑するって言ってなかったっけ?」

 カーマが檻の中の弟を見ながら首をかしげる。

 彼女の言うことはもっともである。

 俺ってあまり物捨てられない性質というか、もったいない精神が働いてしまったというか。

「処刑しようとしたんだけど、下手に殺して呪われたら嫌だったから……」
「そうなんだ。まあ弟さんを処刑するのは、あなたには似合わなっ……」

 カーマが途中で言葉をとめる。

 それと同時に膝を床につけて、頭を抱えてうめきだした。

「どうした!?」
「やだっ! 来ないでっ!? 来ないでよっ!?」

 頭を抱えながら必死に叫ぶカーマ。明らかに異常をきたしている。

 しかも彼女の周囲に炎が発生し始めた。このままだと最悪、火事になりかねん!

 くっ……こうなれば仕方がない! 俺は【異世界ショップ】からソフトクリームを購入。

 そして彼女の顔にソフトクリームを叩きつけた。

 髪についたらベタベタしてご愛敬だ、許せ!

「つめたっ!? ……あれ?」
「大丈夫?」
「う、うん……何とか……ところで顔がなんか気持ち悪いんだけど……なにこれ? なんか白い冷たいものが……」
「クリームだ。たぶん美容にいいと思う」

 俺は彼女にタオルを渡しつつ、そっぽを向いて誤魔化すことにした。

 嘘は言ってない。間違いなくクリームだ、美容用じゃなくて食用ってだけで。

 アイスを顔にぶちまけたなんて言ったら俺が燃やされかねん。

 カーマが柔らかいクリームを拭き終えたのを見てから。

「それで何があったんだ」
「ちょっと酒瓶が追いかけてくる幻覚を見て……」
「センダイなら泣いて喜びそうだな」

 どうやらカーマは正気を取り戻したようだ。氷の冷たさの刺激で目覚めたのであろう。

 しかし何で急に精神に異常をきたしたんだ……。

「カーマ、何をしたんだ? 明らかおかしかったぞ」
「じ、実は弟さんの心を読もうとして」
「何やってるんだ!? 脳内ドラッグをキメるのと同じだぞそれ!?」

 精神が汚染しきった人間の心を見るな! 

 クズを覗く時、クズもまたこちらを覗いているどころか手を伸ばして引き寄せてくるのだ!

 とはいえ叱るよりも先に心配すべきだ。
 
「大丈夫そうか?」
「だ、大丈夫……死の恐怖を感じてすぐに読むのやめたから……」
「そ、そうか……」

 頭を片手で押さえながら立ち上がるカーマ。

 どうやら心を読むのをすぐにやめたようだ。三秒ルール的な感じでセーフだ。

 カーマの問題は解決したので、俺は再び弟にメンチを切ると。

「我が弟よ、貴様に取引がある。この取引を呑めば貴様を永久国外追放にしてやる」
「なるほど。国外で好き勝手してよいということか。なら呑むよ、こんな牢獄は飽き飽きだ」
「牢獄とは失敬な。お前専用に造ったお似合いの豪邸だぞ」

 弟はムカつく仕草でうなずいた。いや仕草というか、存在自体がムカつくから息してもムカつくのだが。

「それで僕に何を望む? 自慢じゃないが、仕事とかしたくないから何の役にも立たない自信があるよ。僕は役立たずの無駄飯ぐらい志望だ」
「自分からそんな志望する人初めて見た……」
「世界は広い」
「カーマ、ラーク。あまりこいつと喋るな、クズがうつる」

 俺は【異世界ショップ】からファ〇リーズを購入し、周囲に散布しながら告げる。

 この弟とは必要以上の接触をするべきではない。

 空気感染でも音感染でもクズがうつりかねないからな……。

 ここの牢獄のルールでも、看守が弟と接触するのを禁じていた。

 弟のエサはラジコンで運ばせるくらいの徹底ぶりだったからな。

 俺は弟を死ぬほどにらみつけた後に。

「安心しろ。貴様を働かせるくらいなら、カーマとラークに料理させたほうがいくらかマシだ」
「どういう意味!?」

 言った通りの意味である。

 カーマは調理室を爆発させる程度で済むが、弟に仕事させたらフォルン領が汚染されて滅びかねん。

 俺が今から結ぶのは勤務契約ではなく、悪魔との契約である。

「じゃあ僕に何を求める?」
「お前、ラスペラス国で好きに遊べ。軍資金も用意してやるから」

 弟はニヤリと口角をあげて笑みを浮かべる。

 そう、これはまさに悪魔との契約。この弟に好き放題やらせて、ラスペラス国にクズを蔓延させる。

 そしてかの国に大打撃を与えるのだ。

 我ながら禁忌の力を使っている自覚はあるが、ラスペラス国に勝つならばだ。

「しかし僕に目をつけるとは、兄者もお目が低い」
「お前は味方に回すと恐ろしいが、敵に回すと頼もしいからな」
「色々間違ってる……」

 カーマのツッコミはスルー。

 この弟、マジで味方陣営にいたらどんな敵よりも恐ろしい存在だ。

 すぐに味方の兵士をダメ男にして、酒などを蔓延させたりヤバイ奴だ。

 だが敵側に送り込めれば凄まじく頼もしい。送り込んだ後どうなるかの保証はできないが。

 別にラスペラス国を占領するつもりはないので、送り込んだ領地にクズが蔓延しようと構わない。

 大丈夫だよ、クズ大国のレスタンブルクだって強く生きてるんだ。ごくつぶしが大量発生しても養っていけるさ。
 
 ラスペラスよ、フォルン領が誇りたくもない最低兵器の前に屈するがいい。

「よし、これでラスペラスに大損害を与えられるな。……だが少しだけ気になる点がある」
「なに? どうしたの?」
「不倶戴天の敵が味方になる熱い展開なのに、こみあげてくるものが吐き気しかない」

 おかしくない? 物語の超王道じゃん!

 強敵との和解と共闘! めちゃくちゃ燃える展開じゃん!

 なのにそういった気持ちが欠片もわいてこない。虚しさと吐き気だけが心を占めるのだが。

「クズの極みみたいな人だし……」

 カーマの言うことが最も過ぎてぐうの音も出ない。

 どう考えようが熱い気持ちなど湧いてこないので、諦めて弟を開放することにした。

「カーマ、その檻を開けてくれ」
「いいけど……この檻、カギらしきものが見つからないんだけど」
「そりゃそうだ。だってカギなんてないんだから」

 この檻は俺の考えた最強のセキュリティである。

 それは! 最初からカギをつけなければ! 開かれる心配などないのである!

 ピッキング対策は超万全だ! 開けれるもんなら開けてみやがれっ!

「ボクたちも開けられないよね、それ……」
「今まで盲点だった」
「気づこうよ!?」
「だって逃がすつもりなかったし……」

 結局、カーマが炎の剣みたいなもので檻の一部を溶かした。
 
 そして俺達は牢の中に入って弟のそばに寄る。

「兄者、後はこの鎖を外してくれ」

 弟が足を動かすと、じゃらりと鎖が金属音を鳴らす。

「カーマ、その鎖を何とかしてくれ」

 カーマは鎖をしばらく観察した後、本来あるべき物がないことに気づいたのか。

「…………カギは?」
「盲点だった」
「少しは後先考えて作ろうよ!」

 カーマは再び、炎の剣を出して鎖に斬りかかった。

 だが先ほどの檻とは違って、鎖は炎にあぶられ続けるが全く溶ける気配がない。
  
「なんで!? 鉄でも溶かすのに!?」
「セサル謹製の合金鎖だ。予算を度外視して弟を逃がさないことに全てをかけたんだ。鉄とは硬度が違う」
「……それどうやって弟さんを開放するの?」
「……知らん」

 カーマがジト目で見てくる。いや弟を逃がすつもりがなかったから……。

 ……視線に耐えられないので、カーマに謝ることにした。

「すまん。後悔はしている。だが反省はしていない」
「最悪じゃないかなそれ!?」
「仕方ないだろ! 逃がしたら領地滅ぶんだから!」

 結局のところ。ラークが物凄く冷やした後に、カーマが超高温で熱して鎖を壊すことができた。
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