【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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ラスペラスとの決戦編

第144話 禁忌の力①

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 俺は屋敷の執務室で今後の策略を練っていた。

 捕虜問題を解決した以上、次に考えるのは対ラスペラス国の戦略だ。

 だが今まで敵として戦っていた奴らとはまるで違う。

 これまでの敵とは違ってラスペラス国はかなり強力と言わざるを得ない。

 少なくとも以前に戦ったベフォメット国よりも遥かに格上だ。

 普通に戦えばレスタンブルク国はラスペラス国に敗北するだろう。

 様々な搦め手を駆使して勝つ必要がある……それこそ禁忌の力を使ってでも。

 俺はため息をついた後、床に座って酒盛り中にセンダイに視線をうつす。

 いつも思うんだけどなんでこいつ真昼間から、俺の執務室で酒飲んでるんだ?

「センダイ。俺は決意したぞ、フォルン領を守るため禁忌に手を染める」
「ほほう。それはまた……まるで昨日、アトラス殿秘蔵の酒を拝借した拙者のようだ」
「はぁ!? ってよく見たらお前が飲んでるの、俺の酒じゃねぇか!? 返せ!?」
「はっはっは、すでに飲み干した故」

 なんて野郎だ! 俺の秘蔵の酒を!? いつものことだけどさ!?

 もはや秘蔵ではなくて完全に露出してるよな……だがそんな状況を少し楽しんでいる俺もいる事実。

 実は最近は隠し場所に凝っていて、センダイが見つけられなかった時の酒が美味いのである。

 酒は熟成されるほど美味いというからな。隠しきれた酒もなんか培養されているはずだ、優越感とか。

 ここしばらくは隠し場所がバレてなかったのだが、とうとう発見されたのでまた隠す場所探そう。

「それで話を戻すが。ラスペラス国の侵攻を防ぐには、レスタンブルク唯一にして最大の武器を使うしかない」
「この国にそんなものないでござるよ」
「いやある。お前も知っているはずだ」

 センダイはしばらく無言で考えた後。

 お手上げだと手を広げて、諦めたようでまた酒を飲み始めた。

 流石のセンダイも俺のこの猟奇的発想は至れなかったようだ。

「なら答えを言ってやる。この国の唯一無二の力……それはクズだ」
「はっはっは。もうこの国終わった方がよいのでは?」

 爆笑しながら酒を飲むセンダイ。その意見に反論できない……。

 だがこれは純然にして悲しい事実だ。武力、技術、経済力の全てに劣ったレスタンブルク。

 そんなこの国が唯一、ラスペラスに勝っているのはクズの在庫である。

 この国はクズの原産地だからな!
 
「いいか、極めればマイナスも武器となるのだ! 例えば半端な貧乏人は何もできない。だが明日飢え死不可避の貧乏人ならばっ! どうせ死ぬから強盗だろうが殺人だろうがやれる!」
「恐ろしくポジティブな考え方でござる」

 就活とかでもさ、全ての単語をポジティブにって言うじゃん?

 せっかちは積極的、保守的なのは慎重とか。

 ならクズもこう言い換えられるはずだ……減っても全く懐が痛まないと!

 むしろプラスになるまであるという恐ろしいメリットだ。

「それで例のアレを開放するからお前は厳戒態勢を敷け。万が一でも制御できなかったら、我が領地は終わりだぞ」
「心得たでござる。ではセバスチャン殿たちにも伝えてしんぜよう」

 センダイは千鳥足で執務室から出て行った。

 そしてしばらくするとセバスチャンが、カーマとラークをお米様抱っこして執務室に突っ込んできた。

 今回は扉が破壊されていない。何故なら……諦めて修繕していないからである。

 セバスチャンに扉を破壊せずに入れというのは無理だ。

 猪突猛進しないイノシシはイノシシじゃない。

「アトラス様! 例のアレを使用するとお聞きしました! このセバスチャン、急いでラーク様とカーマ様を連れてまいりました!」
「ふにゅぅ……」

 カーマとラークは目を回したまま、セバスチャンに持ち上げられて肩にぶら下がっている。

 まるで生け捕りにされた哀れなカモのようである。

「セバスチャン、少しは安全運転で運んでやれ……」
「ご安心を。全力全開で走って来ましたぞ。少しでも早く着くために、安全性を多少犠牲にしましたが」
「全力全壊の間違いじゃね?」

 そこまで急ぎではないからゆっくり来て欲しい……。

 これでまたカーマのセバスチャンの苦手意識が倍増だろうなぁ。

 苦手意識というか、純粋に痛い目に合わされているので当然ではある。

 しばらくカーマとラークが回復するのを待った後、俺は彼女らを連れてフォルン領の最南端の建物に向かうことにした。

 セバスチャンやセンダイは万が一に備えて、超厳戒態勢で待機してもらう。

 ラークは訪れたことがない場所のため、転移が使えないのでヘリで向かう。

 しばらくヘリで飛行していると、目的地のとある建物が見えてきた。

 その建物は幾重もの壁に覆われていて、上空には暗雲が立ち込めている。

「な、なにあれ……留置所?」
「まるで怪物を閉じ込めているよう」

 カーマとラークが口々に感想を述べる。

 彼女らの言っていることは全くもって正しい。

 俺は身体中に嫌な汗をかきつつ、建物の前にヘリを着陸する。

 そして全員でヘリを降りて、幾重の壁の扉の鍵を解除してようやく建物の中に入る。

 その建物の内部は狭く頑丈な造り。端的に言うなら牢獄。

「アトラス様! 今日も異常はありません!」

 建物に入ると警備の兵士が俺達に敬礼をしてくる。

 ここにいる兵士はフォルン領で兵士失格の烙印を押されたものだけだ。

 ようは酒を飲めなくて真面目で勤勉な者である。

 俺はそんな彼に対して肩を叩くと。

「今までの仕事ご苦労だった。もうここから去って、明日からは通常の兵役に戻ってくれ」
「……ま、まさか!? あの怪物を解き放つというのですか!?」
「それは君の預かり知るところではない。命令を復唱せよ」
「……ここから去って、明日より通常の兵役に戻ります」

 兵士は恐怖の表情を浮かべたまま、建物から出ていく。

「い、いったい何を捕らえてるの……?」
「大量殺人鬼?」

 そんな様子を見てカーマとラークが不安そうな声をあげる。

 俺は彼女らに対して引きつった笑みを浮かべると。

「お前たちも知っている奴だよ」

 そう告げて牢獄の廊下を進んでいく。

 いくつもの檻を通り過ぎていくが全て中身は空。

 何故なら……この牢獄は、たった一人のために造られたものだからだ。

 何度か廊下の角を曲がって、もうすぐ最奥の檻が見えるころ。

 俺はカーマたちの顔を真剣に見つめた後。

「いいか、今から会うのは最凶のクズ。意識を強く持て! 強く持たねばすぐに飲まれるぞ!」
「何!? ボクたちは何と会わされようとしてるのっ!?」
「……レード山林地帯で何かを捕まえた?」

 そんな魔物みたいな生易しい者じゃない。

 今から見るのは最凶の存在。全てを滅ぼす力を持った恐るべき存在。

 俺達は最後の曲がり角を曲がって、最奥の檻の前に立つ。
 
 そこには一人の人間が顔を伏せて、逃げられぬように両足を鎖で縛られていた。

 自分で食事をさせるために腕と手だけは自由にしているが、本来ならば鎖でグルグル巻きにしておきたいぐらいだ。

 諸悪の根源、不倶戴天の敵、これまでで最凶にして最クズの敵。

 その人間は顔をあげて、俺達を見つめてきた後に……ゆっくりと口を開く。

「……兄者か。久しぶりだね」

 吐き気を催す言葉が紡がれる。その恐るべき災厄を、俺は射殺すようににらみつけた後。

「久しぶりだな……唾棄すべき弟よ」

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