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ラスペラスとの決戦編

第141話 BBAきゃは女王

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 屋敷に入ると執事らしき男に豪華な食堂へと通された。

 椅子に座るように促されたので、椅子をしつこく調べるが特に仕掛けはないようだ。

 ブービートラップの類はないようだ。ここは敵地なので油断してはいけない。

 とことん調べて大丈夫そうなので椅子に座って部屋を見回す。

 装飾品の毛色が少しうちの国とは違うな。レスタンブルク国が洋風なら、ここはなんちゃって和風みたいだ。

 なんと割れてる皿まで飾ってある。わびさびってやつだろうか。

「ねえねえ。食事って何が出てくると思う?」
「ラスペラス国の文化が知らないから予想になるが……悪の魔導結社ならスライムとか」
「スライム?」
「美少女が美味しく食べられるものだ」

 嘘は言ってない。美少女が被食者側だが。
 
 そしてカーマが黙り込んでいる…………しまった、彼女が心を読めるのを忘れていた。

 横からジト目で見られているのだが、この難をどうやって逃れようか。

 ……いや待て。むしろ心を読まれるのならば、半端に隠さずに見せつければよいのでは!?

 めっちゃエロい想像して恥ずかしがらせれば勝ちでは!?

「……ここ敵地だよ」
「すみませんでした。なのでそのゴミを見るような目をやめてください」

 カーマの視線に耐え切れず気持ち土下座する。実際は軽く頭を下げる。

 確かにこれは俺のミスだ。次はもう少し時と場合を考えよう。

 そんなくだらないことを考えていると、部屋に二人の男女が入って来た。

 ひとりは操魔のランダバル、もうひとりは誰か知らんが若い少女に見える。

 そして二人が入って来た瞬間に、カーマたちが目を見開いて過呼吸のように息を荒くし始めた。

「お、おい。どうしたんだよ」
「あ、あの……人、魔力が……おかしいっ」
「多すぎるっ……」

 ラークとカーマが息も絶え絶えに何とか答えてくれた。

 そんな化け物少女は俺の前の席に座ると、こちらをじっと観察してくる。

「あ、ごめんなさいねぇ。これでも魔力を限界まで抑えてるんだけど、何とかもっと抑えてみるわね」

 彼女がそう告げると、ラークたちの呼吸が少し落ち着いていく。

 …………なるほど。すでに交渉の勝負は始まっているということか。

 敵はこちらの一挙一動を観察して、どんな隙をもついてくるつもりだ!

「ようこそいらっしゃいましたぁ。アトラス伯爵、カーマ姫にラーク姫。私はラスペラスの女王きゃはっ」
「ぶっふぉぉ!?」
 
 きゃはっ!? きゃはって言ったかこの女王!? 思わず噴いてしまったではないか!

 きゃはっ女王は俺だけを見ながら口を開く。

 いや待て。さっきの言葉は俺を笑わせて隙を作らせる策かっ!

 まるで隙がない、行動が全く読めないぞ!? 次は何を言うつもりだ!?

 俺は女王に次の言葉に警戒する。さあどんな内容でもうまく返信してやる!

「名をチャーハン・ギョウザマシマシと申します。きゃはっ」
「ラーメンもください」

 ……しまった、日本人のDNAのせいで思わず注文してしまった!

 ラスペラスの女王じゃなくて中華の女王かお前。

 ……いや待て。脊髄反射で返事してしまったが、いくらなんでもこんな名前あり得んだろう。 

 チャーハンまでは許そう。だがギョウザマシマシはない。

 つまりこいつは……。

「ニンニク好きのコテコテ中華娘と見たっ!」
「そう私も転生者……って誰が中華娘よ!? ……コホン。信じられませんが、本当に私の他にも転生者がいたなんて驚きぃ」
「チガウアル。ワタシ、転生者じゃナイアルヨ」
「エセ中国人やめなさいよねっ!」

 ごまかそうとしたがダメそうだ。

 いや何で敵国の女王が転生者なんだよ。確かに俺以外にも転生者がいる可能性は考えた。

 だがまさか女王が転生者なんてズルくね? 俺が貧乏貴族で死ぬ思いしてきたのに、かたや女王なんてズルくね!?

 いや待て、彼女も女王に成り上がっただけの可能性が。

「ひとつ聞きたいことがアルアル」
「いやもうエセ中国人やめましょうよ」
「お前、転生した時から王の娘だったりする?」
「そうよ。あなたも次期国王なわけだし、転生者は恵まれた生まれを与えられるようねっ」
「地獄に落ちろ」

 俺の呪詛の言葉に、女王は驚いた顔をしている。

 何が恵まれた生まれかっ! こちとら餓死寸前で縛り首直前の、首の皮一枚繋がった貴族だったわ!

 死ぬほど侮辱されながら食った、パーティーの飯は美味かったなぁ!

 ……いやマジで美味かったんだよな。一日一食硬いパンしか食えなかった時に、それなりに豪華な飯だったから。

「ほっほっほ。女王様の予想が当たるとはのう。まさか別世界からの来訪者が二人もいるとは」
「「??」」

 ランダバルが楽しそうに笑いだす。

 それに対してラークやエフィルンは状況についていけてない。

 そりゃそうだ。俺が転生者なのはトップシークレットで彼女たちにも言ってない。

 墓まで持っていくつもりだった情報だ。

 何故なら……地球産の物を、さも俺が自力で思いつきましたってできたからだっ!

 せっかくドヤ顔で名音楽とかパクって生きていくつもりだったのに!

 著作権? 何それ美味しいの? 最初に発表した俺が作者だが?

 そんな俺の老後の野望を葬り去った女郎は、俺を見て嬉しそうな顔をしている。

「やっぱり転生者だったのね! 報告書を見て驚いたもの。フォルン領にはカレーとかシチューとか、いくらなんでもおかしいと思ったわぁ! きゃはっ!」
「ちいっ! 名称くらい変えておくべきだった!」

 俺のバカ! カレーじゃなくてハヤシライスにしておけばっ! いや一緒か!

 真面目に名前変えておくべきだったなぁ……何で地球と同じ名称で売り出したんだ。

 もう戻れない俺の知識無双ライフ……返して、俺のTueeライフを返して……。

 いや待て。まだラークとエフィルンは、何がなんだかわかっていないはずだ。

 カーマは心を読んでいるだろうが、買収すれば……いけるっ!

「カーマ! ケーキをやろう! 帰ったら好きなだけ食わせてあげるから、真実を黙っておいてください」
「別に言うつもりもないけど……。それより女王を前にしてるんだから」

 カーマの言葉に救われたと同時に、俺の今の状況を思い出した。

 そういえば女王の目の前だったな。なら気を取り直して……女王のほうに向きなおり、メンチを切ることにする。

「それで俺に何の用や。わざわざ転生者と知って呼んだんやワレ。くだらないことだったら分かってるんやろなぁ!?」

 今の俺は怒りに塗れている。よくも俺の知識無双の種をばらまきやがって!

「急にヤクザみたいにならないでよね、怖いじゃない。あなたを呼んだ理由はね。レスタンブルク国を説得して欲しいきゃはっ」

 無理筋に語尾にきゃはつけるのやめろ。
 
 お前、養殖物のきゃはっだろ。なんかこう意識的につけてる感があって、天ねんモノではない感が。

「知ってると思うけど、このままだとレスタンブルクは世界を巻き込んで崩壊する」
「ああ、そうだな。レスタンブルクの溜め込んでるアレはヤバイからな」
「うん。本当にヤバイ代物だよね。まーじーむーりーって感じだよね」

 ……アレってなんだろ。

 我が国の溜め込んだヤバイ物と言えば、レスタンブルク名物クズ貴族だ。

 奴らを凝縮した結果、クズが爆発してなんかヤバイことになるのだろうか?

 世界中にクズ因子がまき散らされて、世界がゾンビ汚染ならぬクズ汚染になってしまう?

 崩壊うんぬんはミーレから聞いてたが、詳細全く分からんのである。

「そこまでわかってるなら話は早い。うちの魔法の技術力なら、アレを何とかできるかもしれない」
「そうか、それはよいことだな。アレはこう、硬くて厄介だが、何とかなるのか」
「か、硬いっけ……?」

 なるほど、アレは柔らかくはないんだな。

 この調子でもう少し情報を集めていこう。バレない間にアレを固定化しないと。

「アレは極めて厄介な存在だ。レスタンブルク国ではどうしようもなかったが、ラスペラス国では何とかなるのか」
「うん。この国の魔法でなら封印できるかもしれない。もしくは細かく刻むことも可能かも」

 封印もしくは細かく刻める……つまり物質っぽいな。

 …………いやこれ無理じゃね? アレって何だよ……。

 今の情報じゃ硬くなくて、細かく刻めるモノとしか分からんわ。コンニャクイカだろ。

 素直に聞いた方がよかったかもしれん……だがもうここまで来たら無理だ。

 もう話を変えよう。アレの正体が分からなくても交渉はできる。

「それでラスペラス国の要求はなんだ?」
「要求はたったひとつだけ。レスタンブルク国の無条件降伏だよ」
「叶えて欲しい願いは一個だけ。百個願いを叶えて理論やめろ!」

 そりゃ無条件降伏以上の要求はないだろうな!

 どんなことでも要求し放題なんだから! 

 女王はやれやれとため息をついた後。

「だってレスタンブルク国を救うんだから、それくらい当然だよぉ」
「救われた後が地獄だろうが。もういい、交渉の余地はない」

 俺は席を立ちあがる。無条件降伏なんぞ呑めるわけがない。

 そもそもこいつの言ってることなんぞ信用ならん。転生者だからといって、言ってることが正しいとは限らん。

 芸能人だろうが詐欺を仕掛ける奴はいる。ならどこの生まれとも知らぬ転生者にも、詐欺師はいるに決まっている。

「待って、考えてみてよぉ。レスタンブルク一国と、世界の全て。どちらを守るべきかは明白だよねぇ?」

 女王はさも自分のことが絶対に正しいかのように告げる。

 なので俺は彼女のことを詐欺師とみなすことにした。自分のことを絶対に正しいと思ってる奴にロクなのいないからな!

 知ってるか? レスタンブルクのクズたちは全員、自分こそが潔癖なる正義と思ってるんだぜ。

「いやそもそもお前のこと信用ならないし。それでも世界が滅ぶとかいうなら、頭下げて調査に来い。上から目線で救ってやるとか気に食わん」
「……いいのかなぁ? 君のせいで戦争になるよ? 私がせっかく戦争を回避しようと頑張ってるのにぃ」
「勝手に事実を捻じ曲げるな。お前らが攻めてきたんだろうが」

 やっぱりこいつ、善人ぶってるだけの悪人だ。

 転生者だろうが何だろうが、とてもじゃないが信用できる人間ではない。

 話は終わりとばかりに俺は部屋から出て行き、後ろからカーマたちがついてきた。

 さてと……。

「アトラス伯爵を捕らえよ! きゃはっ!」
「最後まできゃはきゃは言いやがって! ここの屋敷の高そうな物パクりながら逃げるぞ!」
「普通に逃げようよ!?」

 誰がタダで転んでやるものかよ! 

 こちとら伊達に転生していないんだよ! 生き汚さには自信がある!

 ……ところであのきゃは女王、きゃは以外もちょくちょく言葉づかいキツくなかったか?

 ズッ友だよぉみたいな、BBA無理すんなみたいな。
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