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王家騒動編

第137話 不可思議

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 ラスペラス王国の宮殿、玉座の間。

 そこには豪華な衣装を着た少女と、二名のローブを着た男が席に座って晩餐をしている。

「じい、レスタンブルク国の占領はどれくらいかかりそう?」
「そうですなぁ。奇襲が成功すればすぐに、失敗したら少々厄介なことになりますのう」

 ラスペラス王国五魔天のひとり、操魔のランダバルはひげを触りながら告げる。

 机に置いたグラスに入ったワインを飲み干すと。

「なるべく早く、双方被害なく戦いを終わらせたいものですじゃ」
「その通りね。我らの目的は侵略ではない。かの地を調査し、世界を救うためなのだから。敵軍だとろうと虐殺は禁じます」
「女王様、御意に」

 明らかに若い娘に対して恭しく礼をするランダバル。

 その後に彼は更に入ったスープを、スプーンで口に含む。

「おお、これは美味ですなぁ。今度は何の料理ですかな?」
「コンソメって言うスープよ。材料が手に入ったから作ってみたの。うまくいったら売り出すのもありかなって」
「ほうほう。それはそれは……女王様の摩訶不思議な料理は、本当にすさまじいですな」
「材料があれば、もっと色々作れるんだけどね」

 褒められて少し照れながら喜ぶ王女。

 そんな二人の様子を見て、何か気に入らないのかもう一人の男――ダイナが机にグラスを叩きつけた。

「女王様、料理も結構ですがね。それよりもレスタンブルク国を攻め滅ぼすのに尽力してくださいよ」
「ダイナ、女王の御前ぞ!」
「黙れよジジイ。さっさと巨兵軍で踏み潰せばよいものを! 何を躊躇している!」

 ダイナは勢いよく立ち上がり更に叫びまくる。彼は必死だ。

 立ち上がった拍子に椅子が壊れたのもあって、かなり必死に叫んでいる。

 完全に女王の命令に不満を持っている動きに、ランダバルはため息をついた。

「力のダイナよ。言いましたよね、あそこの地には危険なモノが眠っています。もしレスタンブルクを追い詰めて、彼らがその力を開放すれば……」
「わかっていますがね! 奴らの国民を人質にして、逆らえば殺すと脅せば!」
「この馬鹿力のダイナが! そんなことを考えていないわけがなかろう!」
「ジジイ! 言ってはいけないことを!」
「喧嘩しないでよっ! ってあっ……」

 ダイナが更に強く叩いたことで、とうとう限界を迎えた机が二つに割れる。

 机に置かれていた料理が床に散乱していく。それを見て顔を青くするランダバルとダイナ。

「や、やべぇよジジイ……」
「う、うむ……」
「…………そこに正座なさい! あなたたちのせいで! 私の料理がっ!」

 女王が一言叫ぶと、周囲に衝撃が響き渡る。

 その衝撃は机ごと全て吹き飛ばした。

「見なさい! この惨状を!」
「「いやあの、これの何割かは女王様のせいでは……」」
「言い訳しない!」

 絨毯の上に正座させられる二人。そこに更に、女王の叫びの衝撃波の追い撃ちが来る。

「いい!? 食べ物にはそのひとつひとつに。それこそ米粒ひとつにも神様が宿っているのに! 綺麗さっぱり吹き飛んでしまいました!」
「ならトドメを刺した女王様は大量の神殺しですね」
「ダイナ、お城の最上階からひもなしバンジーしますか?」
「……バンジーが何か知りませんが、やめときます」

 しばらくの間、激怒した女王の咆哮に追いやられる二人。

 衝撃を浴びすぎて肌がふやけたようになっていき、疲労困憊になっていく。

 だが女王の声は衰えずに叱り続ける。小一時間の説教でようやく気がすんだのか。

「そういうわけだから、食事中に喧嘩したらダメです。次は……食べ物と同じ目に合わせますよ」
「「はい」」

 ようやく嵐が過ぎ去ったと安堵する二人。

「では電撃戦が成功して被害が少なくなるのを祈って、改めて乾杯しましょう」
「その電撃戦ってのは何ですかい? 俺は知らないんですが」
「本当はエセ電撃戦なんだけどね。簡単に言うと……直接、敵の中枢を叩いて終わらせてしまおうってことだよ」

 

 
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「ふざけるな! こんな書類、偽造されたものに決まっている!」
「王家の印があるんだが」
「アトラス伯爵は妙な魔法を使う! ならば偽造も可能なはず!」

 俺はラスペラス王国軍が攻めてきたのを迎撃するため、レスタンブルク国の国境に移動した。

 ちなみにラスペラス王国はレスタンブルクの北で接している。

 地理的には東の国がベフォメット、北がラスペラス王国というわけだ。

 それでレスタンブルク最北の領地――ノートレスの領主屋敷に訪れたのだが……ノートレス領主がめちゃくちゃいちゃもんつけてくる。

 ……王家の証書も見せているのにだ。結局、未だに俺は彼の執務室で喧嘩中だ。

 ノートレス領主は顔を真っ赤にして激怒している。

「ふざけるな! 防衛の全権限をアトラス伯爵に譲渡などあり得ぬ!」
「いや王の命令なんで従ってください」
「ならばこの書類が偽造でないと証明してみせろ!」
「じゃあ偽造でない、でないと証明してみせろ!」
「ふざけるな!」

 ノートレス領主は怒鳴り散らして顔をゆがませた。

 ふざけてんのはお前だよゴミ。

 この間にもラスペラス王国は進軍してんだぞ! 

 悪魔の証明を要求するなら、先にお前が証明するのが筋だろうが!

「もう! こんなことしている間にも攻められてるよ! ボクたちがいるんだから王家の書類に決まってるでしょ!」
「滅茶苦茶すぎる」

 カーマとラークが詰め寄るが、それでもノートレス領主は譲らない。

「姫君! 貴女がたは洗脳されているのです! アトラス伯爵の卑劣な魔法によって!」

 ああいえばこう言う……こいつ、ネットでレスバ無敵の人だろ!

 何言っても意味不明な反論が返ってきて議論にならん!
 
「わかってるんだろうな? 王家に従わないのだから、これは反逆だぞ」
「違う! この書類が本物である確信を得ない以上、私に従う義務はない!」

 この御仁には俺の最終通告もムダなようだ。

 俺は王家の証書を右手で持つと。

「ならお前の顔に分からせてやるよ!」
「ぶふぉっ!?」

 思いっきりノートレス領主の顔面に証書を張りつけ、いや張り手した。

 ついでに「拉致監禁! もとい強制入店!」と叫んで、ゴミ掃除をしておいた。

 またミーレから悲鳴が聞こえるが知ったことではない。

 この領主は国家反逆罪を犯しているので、煮るなり焼くなり好きにしろと伝えると。

『こんなの煮たくもない、焼きたくもない! こんな生ごみ食えないよ!』
「買取もやってくれ!」
『うちは生ごみ回収はやってません!』

 と脳内に返事が返って来た。至極最も過ぎて反論できない。

「悪は滅びた! さっそくノートレス軍を動員するぞ!」
「いいのかなぁ……」
「カーマよ、王に異を唱える反逆者を捕らえて何が悪い!」
「あなたも父様にさっき異を唱えてたよね」
「他の奴の異は反逆罪。俺の異は合法」

 俺のされてきたことを考えれば、国に反逆しても許されると思うんだ。

 いや待て。その理論だと他の貴族でも、国に反逆できる奴いるかも……。

 レスタンブルク国、かなり理不尽な要求してくるし…………俺は次期国王だから許されるってことにしよう!

「行くぞ! ノートレス軍を肉壁に、ラスペラス軍を追い返すぞ! 合言葉はこうだ! フォルン領の被害を1減らすためなら、ノートレス軍の100の犠牲も寛容せよ!」
「それ絶対に戦場で言ったらダメだからね!?」

 俺達はラークの転移でラスペラス国に接する国境付近に飛ぶ。

 そこではすでにラスペラスの進軍が行われていた。

 なんか巨人みたいな奴もチラホラ見える。ベフォメットで見たの残念巨人とは違う。

 人間がそのまま大きくなった感じの正当な巨人だ。

 まあ……。

「もう敵軍は全員降伏したよね?」
「完勝」

 カーマとラークが蹂躙して、小一時間で戦争は終わってしまったのだが。

 図体でかいだけの巨人が多少いようが、魔法使いがいなければね……。

 仮にも悪の魔導結社のくせに、軍の魔法使いが一人もいないとか人材なさ過ぎて笑う。

「ラーク、王都に報告してきてくれ。完勝しましたって」
「わかった」

 ラークは頷くと転移で王都に向かった。

 楽に勝ったし結局ノートレス軍いらなかったな。まさか敵軍に魔法使いいないとか思わなかった。

 敵から遠距離攻撃が飛んでこないので、肉壁なしでカーマとラークが無双していた。

 バカみたいに大砲撃ちまくる戦艦二隻相手に、剣で勝てるわけがないのだ。

 カーマに戦勝祝いのアイスを渡して、二人で食べようとするとラークが戻って来た。

「おお、お帰り。ラークの分のアイスもあるぞ」

 だがラークは顔を真っ青にして、俺に詰め寄ってきた。

「王都が……攻められてる」
「…………は?」
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