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王家騒動編
第132話 思案
しおりを挟むカーマたちと話し合った結果。選択肢がないので、王を継がないのは諦めることにした。
そうなると色々とやることも変わってくる。
少しでもレスタンブルク国をまともにしなければ、王になった後の俺が過労死しかねん。
食堂で引き続き、今度はレスタンブルク国発展のための相談をすることにした。
「まずは芋などの飢饉に強い作物をより多く広めることだな。今まではあくまで極力フォルン領が儲かるように動いていたが……ここからは話が変わってくる」
「今まで以上に技術を国に広めるってこと?」
「そうだな。フォルン領も利益もある程度は確保するが、今までよりも既得権益が減ることになるだろう」
俺はカーマの疑問に答える。
フォルン領の利益は減ることになる。だが大きな問題にはならないだろう。
以前と今では状況が違う。仮に今のフォルン領に芋などの権益が全てなくなったとしても、また貧乏領地に逆戻りとはならない。
以前のフォルン領は周囲をレード山林地帯に囲まれていた。つまり立地が最悪だった。
現在はレード山林地帯を開拓し、王都に直行できる黄金の道が開通した。
つまり交通の便が極めて良くなったのだ。普通に領地を運営していけば特に問題はないはずだ。
「だがてきとうに技術を広めればいいってものでもない。特にクズ貴族の領地に下手に恩恵を与えてみろ」
「敵に利益を与える」
ラークの発言にうなずく。クズ貴族の名は伊達ではない。
他国と結託して技術の横流しとかするからな……。
今後、国を運営していくとなると敵を見極めなければならない。
信用できる者を増やしていかないとダメなのは厄介だな。
「理想はフォルン領が権益を独占しつつ、国がかなりの恩恵にあずかれる事業だな。フォルン領で完結するなら、信用できるお前たちがいるし。何かいい案はあるか?」
そんな都合のよい事業がそうそうあるとは思えないがな。
現に他の皆も首をひねって考えていて誰も発言してこない。メルなど九十度くらい首ひねってるぞ、遊んでやがる。
「ひっく。フォルン領で名酒を造って売るでござる」
「メリットがあるのはフォルン領とお前だけだろ!」
「ばれたでござる」
センダイの戯言だが、この言葉が厄介なのだ。
フォルン領が儲ける手段ならば大量に思いつく。だが国に恩恵をもたらすとなると、物凄く難しくなるのだ。
領地単位の事業で利益をもたらしても、国の受ける恩恵はごくわずかである。
国中でその事業を行おうとすると、クズ貴族が恩恵を受けてしまう。
……クズ貴族が厄介すぎる。奴らを戦争で滅ぼした方がよいまであるのが困り者だ。
しかも並みのクズではない。レスタンブルクの長い歴史で熟成されたクズだ。
濃厚なクズ味が醸し出されていて、秘伝のタレみたいになってるぞ。
「腐った貴族が厄介過ぎるよね。いっそドラゴンさんにお願いしてみる? ひとっ飛びして燃やしてきてって。魔物の襲撃による事故に見せかけられるかも」
俺の心を読んだカーマが冗談交じりに提案してきた。
そんなドラゴンの死神宅急便みたいなの……あいつら図体でかいし死ぬほど目立つだろ。
ドラゴンは本来、そうそうお目にかかれるものではない。
そんな魔物が貴族をピンポイントで殺すなど、フォルン領のドラゴンがやりましたと宣言するのと一緒だ。
「いや無理だろ……間違いなくフォルン領と俺が疑われ……いや待てよ」
ドラゴンの暗殺部隊とか論外だ。だが宅急便ならどうだ?
この世界の運搬は馬車で行われている。当然だが空を飛べるドラゴンのほうが遥かに速く、様々な物を届けられるだろう。
そして運搬が進化すれば、経済が循環してより国が発展する。
ドラゴンによって迅速に大量の物が運べれば、レスタンブルク国自体の発展が進む。
「……それだっ!」
「ドラゴン暗殺部隊やるんだね!」
「違う! ドラゴンの運送便だ! これはヤバいぞ、うまくやれば国が変わる……!」
思わず叫んでしまう。ドラゴンはフォルン領でのみ飼っている。
つまり運用もうちで独占できるというわけだ。他領では絶対に真似できない。
イメージとしてはドラゴンの定期便だろうか。例えば王都とフォルン領を毎日何度か往復する。
その時に人や物を運べば、電車や気球の代わりになるはずだ。
「なるほど。面白い策でござるな。ドラゴンたちならば頭もよいので、簡単に行えるでござろう」
「流石は主様です」
センダイはエフィルンも俺の案をべた褒めしてくる。
そりゃ馬とは文字通り馬力が違う。しかも馬とは違って飛行による移動なので、道中で魔物や盗賊に襲われる心配もない。
むしろ襲えるものならば襲ってこいというレベルだ。なのだが……。
「……まあ極めて重大な問題がひとつあるんだがな」
「「「「問題?」」」」
全員が疑問の声をあげた。確かにこの案は完璧に見える。
一見すれば特に用意も必要なく、問題も何もないと思うだろう。
だが俺はすでに恐ろしい問題に震えていた。これからが地獄だと考えるだけで頭が痛くなる。
「……ドラゴンとの契約で絶対揉める」
「……確かに」
「……ボク、通訳嫌だからね! もうドラゴンさん自分で話せるよね!? あなただけでやってね!」
センダイが同意して、カーマがかなり本気の悲鳴をあげる。
そう。ドラゴンたちとの契約が絶対にややこしいことになるのだ。
ペットとして飼われるだけでも死ぬほど大変だったのに、今度は労務契約だぞ!
しかもこの話をしたら奴らは、ドラゴン便による自分の価値を理解する!
絶対にそれを盾にして酷い条件を突き付けてくる!
「一日の勤務時間に月給、残業時間……行先での待機場所、連続飛行時間で追加料金とか……考えるだけで恐ろしい」
「頑張って」
ラークが俺の肩にポンと手を置いてくる。彼女も俺に同情の目を向けていた。
奴らとの交渉は死ぬほど面倒なのだ。黄金色のお菓子なども通用しないし……。
「ああ面倒だ……。だがここで下手な契約を結ぶと、今後のレスタンブルクの将来にも関わるし……」
「ふむ……ならばフォルン領で名酒を造るでござる」
「もうお前黙れ」
酒瓶を口つける酔っ払いは悪びれる様子もなく、ケラケラと笑い始めると。
「拙者、ドラゴンたちとは酒飲み友達なのでござるが」
「ドラゴンと酒飲み友達ってパワーワードだなおい」
「彼らも拙者同様、酒に目がないのでござるよ。超絶な名酒があれば、交渉が楽になるやもしれぬ」
センダイの言うことが本当なら名酒を【異世界ショップ】で用意しまくるぞ。
ドラゴン便を始めるのならば、ドラゴンたちのご機嫌伺い用の品も欲しいのだ。
……ストライキとか起こされたら死ぬほど面倒だし。
将来的にはフォルン領で名酒を造っていけば、ドラゴン便も安泰になるし。
「センダイ、ドラゴンが酒に目がないのは本当だろうな?」
「嘘偽りは申さぬ。もし嘘だったら、用意した酒は責任取って拙者が全て飲む!」
「お前に得しかねぇじゃねぇか!」
「はっはっは。酒好きなのは本当でござるよ。後はどうやって交渉するかでござる」
センダイの言うことも最もなので、どうやって交渉するか考えることにした。
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