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ライダン領との争い
第116話 追い込み猟?
しおりを挟む朝の食事を食堂でとっていると、セバスチャンが書類を持って報告をしてきた。
……最近は朝食時に特に重要な書類や話をされることが多い。俺が唯一真面目に仕事しているのがこことバレているのか。
「アトラス様! ライダン領がうちに脅しをかけてきました! 我らが民衆が飢えているのは、全てうちのせいとか!」
「……デジャブ感あるな。それで脅しって何をしてきたんだ?」
「栄光あるライダン領を苦しめるとは! と王に直訴しているそうです。それとライダン領を不当に苦しめる者には、呪いが降り注ぐであろうとか」
「そんなことで呪いが降り注ぐとは光栄だ、と返してやれ」
自分たちから交易を断っておいて、困ったら王に泣きつくとは……。
奴らが意味不明なこけおどしを言ってるのは理由がある。俺達に対して脅せるカードが何もないのである。
武力は俺とカーマとラークとエフィルンだけでも、ライダン領総戦力の十倍以上。
政治力でも今のフォルン領はかなり強い。黄金の道の利益を得ようと、様々な貴族や大商人が俺達にすり寄ってくる状況だ。
香辛料やドラゴンの素材なども含めて、フォルン領は国内でも有数の金持ちである。
農作物関係も芋や地球の肥料、そしてエフィルンの植物魔法で大豊作。
宝石くらいしか能のないライダン領なぞ何も怖くないのだ。
衣食住足りて礼節事足りる。宝石なんぞ衣食住不足していればただの綺麗な石ころである。
「ライダン領はかなり焦っているようですな。民が飢え始めた上に、奴らの間者も大量にうちに裏切りましたからな」
「奴らからしたら踏んだり蹴ったりだな」
「もっと踏み潰してやりましょうぞ」
セバスチャンの報告に思わずうなずいてしまう。
ライダン領の暗部の大半はフォルン領に寝返って、今はうちの暗部として活動している。
元ライダン領幹部のメルの説得……というよりも自慢で、ほぼ全員が勝手に裏切ってしまったのだ。
月給が農民以下という劣悪なブラック環境から、給与だけは大判振る舞いのブラック環境へとやって来たわけだ。
暗部という時点でブラックなのは不可避だから仕方ない。
「暗部からライダン領の違法行為など大量に報告されております。まるで恨みを晴らさんがごとく、彼らも目が血走っておりました。合言葉は『ライダン領主殺す』、だそうです」
「……どれだけ鬱憤溜まってたんだ」
「なかなか見込みのある者たちですぞ」
満足げに呟くセバスチャン。こいつは手加減という言葉が嫌いだ。
全力を持って全てを、持てる全ての力でぶちのめすがモットーだ。暗部たちのライダン領を根こそぎ殺しつくす動きは好きなんだろ。
……まったくもって恨みの力は恐ろしい。
俺も暗部に裏切られないように、ちゃんと給与とか与えないとな……。
「アトラス様、ライダン領はもはや虫の息。ここでプチっと潰してしまいましょうぞ」
「虫じゃあるまいし……潰れたら難民とかどうするつもりだ」
「それは醜き豚をブクブク太らせた周囲の領地の責任ですぞ。あの領地を放置しておいたら、また面倒なことをやってきますぞ!」
勢いよく叫んでくるセバスチャン。確かに言うことは間違ってはいない。
追い詰められた奴は何をするかわからん。気が狂って俺達を道連れに……など考えられたら厄介の極みである。
今までも理不尽に嫌がらせをしてきた連中だからな……。
うちの領地の村とか占領されて、皆殺しとかされた後では遅いのだ。
「ボクもライダン領主は引きずりおろしたほうがいいと思う」
「同じく」
朝食を食べながら話を聞いていたカーマとラークも口を挟んでくる。
「ライダン領を潰せば、もはやこのレスタンブルクでフォルン領に逆らえるものはおりませぬ! アトラス様の天下、独裁政権でございます!」
「待って!? 父様がいるからね!?」
「王家」
「セバスチャンちょっと黙れ」
危険思想を垂れ流すセバスチャンを注意しつつ、今後の展開を考える。
……この国はかなり腐っている。ここで俺が最大の権力を得て国に大ナタを振るう……考えただけで面倒だ、却下。
だが腐り切った貴族どもにグダグダ言われたくないので、最大権力になること自体はアリだ。
というよりも最大権力にならないとひたすら面倒だし。
「王に手紙を出す。ライダン領との交易を再開してもよい。ただし条件は現ライダン領主を引退させ、他の貴族に領地を継がせることだ」
「そんな条件、ライダン領主がのむとは思わないけど……」
カーマの言葉に俺はうなずく。
当然だ。ドロドロに腐り切った醜悪な醜き貴族の権化が、こんな提案を飲むわけがない。
「これでライダン領が暴走でもすれば、俺達が正しいという大義名分が生まれるからな。そうすれば王家の御旗の元にぶっ潰せるし」
「……王家のことを身分証明書発行係みたいに思ってない?」
「えっ? 違うの?」
「違うよ!? 本当に身分証明書みたいに思ってるの!?」
王家って身分証明書発行機関だろ。今までで役に立ったのそこだけだぞ。
大学の卒業証書とか発行してくれる場所と変わらんのでは……?
「違うからね!? 本当に違うからね!?」
俺の言葉にカーマは必死に首を横に振っている。かわいい。
「アトラス様。ライダン領へも手紙を出します。内容ですがこんな感じでいかがでしょうか? 我らに土下座して靴を舐めて己が状況を弁えれば、交易再開を考慮してやらんこともない」
「いいんじゃないか。最後まで読まれずに手紙破かれ不可避なあたりが」
ライダン領主が顔面を真っ赤にして、手紙を引きちぎる様子が目に浮かぶようだ。
セバスチャンは俺の言葉に満足したのか笑顔を浮かべると。
「では手紙の最後に小さく重要事項を記載しておきますぞ。交易再開の場合、これまでの二倍の値で売りますと」
「いいぞもっとやれ」
「せ、せこい……」
俺達が和気あいあいと悪略を練るのを見て、カーマが顔を引きつらせている。
いいんだよ。どうせライダン領がこの提案を受け入れるわけないんだから。
万が一受け入れたらそれはそれでいいが……受け入れられるならこんな状況になってない。
「そもそもライダン領は俺の暗殺を実行してきたんだぞ? たぶん?」
「なんで疑問形なの……」
「実行犯のメルが何もせずに帰ったから……」
まあ重要なのは暗殺しようとしたこと。どんなにみじめで大失敗していても、暗殺を仕向けたという事実が大事である。
例え実行犯に言われるまで、暗殺されかけたとすら思えなくても。何なら今も本当に暗殺しようとしたのか疑問でも。
いかんな話がそれた。俺は咳払いをして話を切ると。
「そういうわけで、ライダン領がこの提案を拒否したら戦争だな。まあ一方的な蹂躙になるのだろうが」
「戦争嫌いなんじゃないの?」
「戦争は嫌いだ。だが……蹂躙するのは楽しい! 負けの可能性を考える必要なく、一方的に無双できるからな!」
「ええ……」
「それに圧倒的な戦力差なら手加減して、敵兵を殺さないことも可能だろうしな」
この戦、はっきり言ってあまりよろしくはないのだ。
同じ国の貴族同士の戦いである以上、どちらが勝っても国力は低下する。
王家からすれば絶対避けて欲しいと思う。だがこちらも我慢の限界である。
というか、暗殺まで仕向けられて許せるほど俺は人間できてない。いやあれを暗殺にカウントしていいかは微妙だけど……。
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