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ライダン領との争い
第112話 ドラゴン養殖①
しおりを挟むライダン領主の屋敷の執務室。
一人の少女がライダン領主の激怒を受けていた。
「暗殺に失敗しただと!? あんなバカで愚かで愚鈍なアトラス相手にだと!?」
「……アトラス伯爵はバカでも愚かでもなさそうです。少なくとも愚鈍でないことは断言できます」
「自分が失敗したからと、相手を持ち上げるとは! 所詮は貴様も売女か! もうよい、二度と私の前に姿を見せるなっ!」
ライダン領主は机を勢いよく叩きつける。
少女――メルは呆れた顔をした後、部屋から出て行こうとする。
「最後の義理で申し上げます。アトラス伯爵を暗殺するのは不可能に近いです。周囲の護衛も優秀な上に、本人も警戒心が強く……」
「くどいぞ! 貴様も鳥の餌にしてやろうか!」
メルは大きくため息をつくと、今度こそ部屋から去っていく。
ライダン領主は興奮おさまらぬようで、顔がトマトのように真っ赤になっている。
「ええい! 今までは暗殺に成功しておったのに! よりにもよって肝心な時に失敗とは! 所詮は平民の血筋か!」
「ほっほっほ。どうやら暗殺は失敗に終わったようですが、次の策はどうされるので?」
一部始終を見ていたローブを着た老人が、愉快そうに声をあげた。
「ふん! フォルン領を干上がらせてやる! ライダン領との交易を完全に遮断してやれば、奴らは金が手に入らずにすぐに終わる!」
「はてさて。そううまくいくものですかな」
「当たり前だ! フォルン領など所詮は弱小領地だぞ! 北の魔導帝国、貴様らも力を貸せ!」
ライダン領主の言葉に、老人はたくわえた髭を手で触った後。
「そうですなぁ。ではドラゴンをお貸ししましょうか? 五体ほど捕獲したものをお渡しできます。少々値段は張りますが」
「……ほお。それをフォルン領で暴れさせれば、大打撃を与えられるな」
「然り。ドラゴン一頭いれば街が壊滅する。それが五頭ともなれば」
「もはや災害の類だな。うまくいけばアトラスも死ぬ……ふっふっふ」
ライダン領主は気分が晴れたようで大きく笑い出した。
そのまま、ドラゴンを利用してのフォルン領壊滅計画を立てていくのだった。
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「アトラス様、ドラゴンが五頭ほどアトラス街の近くに出ました。討伐しておきますぞ」
「え? まだあの金づる生きてたの? もう狩りつくしたと思ってたのに」
執務室で珍しく仕事をしていると、セバスチャンがそんな報告をしてきた。
ドラゴンは開拓前のレード山林地帯にはゴロゴロいた。だが開拓後はてんで姿を見せなくなってしまったのだ。
普通のドラゴンはすでに俺達に狩りつくされてしまった。もしくはまだ未開の東レード山林地帯に逃げ込んで、グレードドラゴン以上に進化しているはずだ。
奴らは本当にありがたい金づるだった。竜殺しの槍で簡単に殺せるうえに、素材が貴重でべらぼうに高く売れる。
何なら毎日十頭くらいリスポーンして欲しい。今回は五頭だけだがそれなりの額に……いや待て。
「待て、セバスチャン。その五頭のドラゴンだがオスメス両方いるか分かるか?」
「アトラス様、あなたはゴブリンのオスメスがわかりますか?」
「……ゴブリンにメスっているのか?」
「さあ」
ゴブリンのメスとか正直あまり想像したくない。
あいつらは他種族のメスで繁殖する生物。それでよいではないか、いやよくないけど。
なんだっけ、他の巣に卵産んで育ててもらうやつ。カッコウだっけ、あいつの亜種みたいなもんだろ。
日本でも代理出産とかあるじゃん。それを合意なしに犯して産ませるだけの……どう言いつくろっても許せねぇ。
やっぱりゴブリンは生存を許してはいけない。
「生け捕りでございますか。そうなると一般兵では厳しいですな。ラーク殿の手を借りねば」
「氷漬けにしてしまえばよいのは楽だな。そういえばラークは最近は何を?」
「もっぱら酒場の飲み物を冷やして頂いてますぞ」
「……役割が完全に冷蔵庫じゃん」
一国の姫の仕事内容じゃない。もう少しよい仕事を与えてやるべきだ。
例えばアイスを作る仕事とかのほうがよいだろう。
「じゃあドラゴンの生け捕りを頼むぞ」
「お任せを。懸念があるとすれば、捕獲した時に弱らないかですな」
「縁日の金魚じゃあるまいし……」
セバスチャンの懸念を否定する。
仮にもドラゴンだぞ。捕獲しただけで弱ってたまるかよ。
もし弱ったらこれからはドラゴンじゃなくて、図体でかいだけの出目金って言ってやる。
そうしてドラゴン捕獲大作戦……というほどでもなく、簡単にドラゴンを捕らえることに成功。
氷漬けにされたドラゴンたちを牧場に置いたというので見に行く。
広がる草原のど真ん中。顎を大きく開けて、明らかに何かに恐怖した表情のドラゴンの氷像が五つ。
まるで妻に浮気がバレた時のように、目を見開き絶望した顔だ。先日のことを思い出して背筋が凍る。
「……なに? なんでこのドラゴンたち怖がってるんだ?」
「説明すると少々長くなりますが。ドラゴンの吹いた炎が、センダイ殿の酒に直撃し……」
「もういい、全てわかった」
よりにもよってセンダイの逆鱗をついてしまうとは……。ドラゴン君、自分の逆鱗触るのダメって言うなら他人のも気をつけよう。
酒とセンダイの怒りを着火させてしまったか。
センダイから酒を奪うなど考えただけで身震いする。むしろドラゴンたちは感謝するべきだろう。
殺されずに氷漬けにされてよかったと。もしお前たちが盗賊ならば、とうの昔に身体が原型を留めていないだろう。
明日の我が身にならぬように、ドラゴンたちの氷漬けを心に刻み込む。
お前たちの犠牲は忘れない……いや死んでないけど。
「しかしドラゴンを飼うとはアトラス様はやはり凄まじい。未だかつて誰もなし得たことのない偉業ですぞ」
「だってドラゴンを飼えたら戦力になるし。しかも鱗とかも定期的に手に入る」
羊の羊毛刈りならぬ、ドラゴンの鱗刈りができるのだ。
無論、羊の毛とは価値が違いすぎる。ぼろもうけ間違いなしでウハウハだ。
何故誰も思いつかなかったのだろうか。
セバスチャンは俺を見て更に感心したような声をあげる。
「まずドラゴンを抑える術がないですからな。それに餌も問題です、ドラゴンの餌など毎日牛一頭ほど必要です。いくらドラゴンに価値があっても、食わすだけで損しかねません。アトラス様ならば対策を考えておりますでしょうが」
「ふっ」
俺はポーカーフェイスを気取ることにした。
…………エサ代のこと完全に忘れていたなんて言えない。
そうじゃん、こんなムダにデカいトカゲ食わすのかなり大変じゃん!?
犬飼いたいと言って、母親に世話できないでしょと怒られる子供と同レベルじゃん!
鱗が高く売れるって言っても割に合うのかこれ!?
収益考えたらここで損とドラゴンの首を切ってしまったほうがよいのでは!?
……いやでも待て。ドラゴンだぞドラゴン!
もし俺がドラゴンに乗って戦場に出れば、ドラゴンライダーのアトラスと呼ばれて格好よくなる……!
馬には乗れない俺だがドラゴンになら乗れるはずだ! だってドラゴンだし!
「よし。俺は少しドラゴンのことを調べてくる。セバスチャンはこいつらを解凍しつつ、逃がさないようにしてくれ」
「承知しましたぞ」
よし【異世界ショップ】に行ってドラゴンの安上がりな育て方を調べよう。
地球にドラゴンはいないがトカゲがいる。たぶん生態系は似たようなもんだろ。
ちょっと千倍くらい大きくて、空飛べたり火を噴いたりできるくらいだ。
誤差だよ誤差。誤差と考えれば誤差なんだよ。
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