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ライダン領との争い

第104話 見本市開催②

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 王命により民衆がライダン領の脅しから解放された後。

 見本市ではフォルン領の出店に大勢のカモが群がっていた。

 対してライダン領の店はそこまで人が多くない。

 この時点ではこちらが有利なはず。懸念があるとすればライダン領が売っているのは宝石関係。

 ようは下賤な金持ち相手に売る無駄に高い無駄な物である。単価が高いのでひとつ売り上げるだけでも、結構な金額になるのが厄介。

 今回は売上高での勝負になるため、売った金額がそのまま得点になるからな。

「ちっ。明らかに自分が有利な条件を勝敗にしやがって」
「あなたも他人のこと言えないと思うけど……店の場所とか」
「あれはライダン領主が勝手にぶちギレたのが悪いと百回言い続けるぞ」

 カーマよ。何度でも言うが、店の場所を決める旨の手紙を無視するほうが悪い。

 逆に聞くが俺がライダン領にへりくだるわけがないだろ。喧嘩も売られまくってるしそりゃ高圧的な手紙になるだろ。

「宝石なんてくだらないよな。大した技術がなくても、原石さえ出れば売れるじゃん」
「加工技術は必要だけど……」
「じゃあライダン領の加工技術はさぞかし有名なんだろうなぁ! 俺は聞いたことないが!」
「まあうん……大したことないと思うよ」

 ほれみろ。原石が出るのにあぐらかいてるだけじゃん。

 ライダン領もその領主も生まれ持った優位性で生きてるだけだ。

 俺も【異世界ショップ】の優位性は存分に活用している。だが努力もしているんだぞ。

 努力しないと貴族なのに餓死まっしぐらだったからな……。

 そんなことを考えていると、ライダン領の出店に寄っていた男がこちらのほうにやって来て。

「フォルン領の商品はゴミ! こんなの買う奴の気がしれねぇぜ!」

 意味不明な言葉と共にライダン領の出店のほうに戻っていった。

 なんだあの奇人は。これだけ多くの人間がいれば変なのも出てくるか。

 そう考えてると更に何人もの男が、ライダン領の出店から次々とこちらにやってきて。

「フォルン領の食べ物を食うと腹痛を起こす!」
「フォルン領の農具はすぐに壊れるって評判だぜ!」
「こんな商品買う奴の気がしれねぇよ! 男は黙ってライダン領だろ!」

 彼らはこれみよがしに大声で暴言をほざくと帰っていく。

 意味不明な暴言によって、フォルン領の出店に群がるカモたちが困惑している。

 これは明らかにライダン領の策略だ。妨害工作は王によって禁止されている。

 更にライダン領からやってきた男を見つけたので。

「エフィルン、あのゴミを捕獲しろ」
「かしこまりました、主様。絡めとる枝、次に食らうは汝が命」

 何かを叫ぼうとした男の足もとから木が出現。男の身体をからめとっていく。

「なんて野郎だ、誰得なんだよほんと。野郎が木に絡まっても醜いだけだろうが! 汚いものを見せつけられた損害賠償を払えよ!」
「主様を不快にさせた相手です。対価は命でいかがでしょうか」
「いやひどすぎるでしょ!?」

 ひどくない。あの男がフォルン領の悪口を叫ぼうとしたのが悪い。

 それに美少女だったら無罪だったのだ。

 俺達は醜い男の元に近づいていくと、汚らわしい男はニヤリを笑みを浮かべた。

「ええっ!? 俺は見本市にやって来た善良な一市民だぞ!? それを捕縛するなんてフォルン領は救いようがねぇな!」

 何をほざいているのだろうか。ライダン領の尖兵だろうが。

 お前は軍法会議なしで処刑と決まってるんだよ。王命に背いたんだから。

「……あなた、この人は見本市にやって来た市民だよ。フォルン領の悪口を叫んだら宝石を安く売るかもって言われて、それに従っただけのね」
「……いやずるくね? 妨害じゃないのかこれ!?」
「……結局、個人が好きに言ってるだけだからね」

 ライダン領め。卑怯なことをポンポンと考えつくものだ。

 領地として妨害を禁じられたから、民衆を利用して邪魔してきやがった。

 個人が意見を言うのは自由だからな……。宝石の安売りに目がくらんだのではなく、フォルン領の商品に物申したかったと誤魔化されてしまうし。

「どうするのあなた? このまま放置してたら悪影響が出てくるよ」

 カーマが少し心配そうにこちらを見てくる。

「大丈夫だ。こんなくだらん雑音など簡単に上書きしてやる」

 目には目を、歯には歯を、ならば雑音には雑音だ!

 少し早い出番になってしまうが仕方がない。俺はセバスチャンのほうに視線を向ける。

 セバスチャンは斧を構えながら笑っていた。次に暴言を吐いた者は助からないだろう。

「セバスチャン、音楽部隊を出せ。音楽で暴言を消し去ってやる」
「アトラス様。それよりも暴言を血で消したほうが早いと思われますが」

 目が血走っているセバスチャン。斧を素振りして殺る気マンマンだ。

「暴言に対して暴力はやめろ! それはこちらの正義を示してからだ!」
「正義示したらいいんだね……」
「……承知しました。フォルン領音楽隊の皆様! よろしくお願いしますぞ!」

 セバスチャンの号令と共に、広場に大小さまざまな楽器を持った者たちがやってくる。

 彼らは太鼓やマラカス、鈴にすりがねと祭り御用達の楽器を持っている。

「さあ音楽を奏でますぞ! ライダン領を呪う死の音を!」
「いや普通に演奏しろ!」

 セバスチャンの斧の指揮と共に、フォルン領音楽隊の演奏が始まった。

 太鼓が鳴り響き、一気に周囲がにぎやかになった。そうそう、これこそが祭りだ!

 人々をせんの……魅了して、財布のひもをゆるくする音!

 またライダン領の出店からやってきた男が何やら叫ぶが、演奏にかき消されて何も聞こえない。

「すごく賑やかになったね。なんか楽しい」
「にぎやか」

 カーマやラークも音楽を聴いて上機嫌になっている。

 やはり祭りには太鼓の音がつきものである。本当は太鼓とかマラカスを売るための音楽隊だったが思わぬ形で役に立った。

 先ほどよりも少しフォルン領の出店に群がるカモが増えた気がする。

 音に釣られて吸い寄せられてきたのだろう。

 だがここまでしてもなお、ライダン領は諦めなかったようだ。

 今度はライダン領の出店から十人くらいの者が、こちらに固まって駆け寄ってくる。

 なるほど。一人では足りなくても、十人いれば太鼓の音にも抵抗できると踏んだか。

 だがまあ……十人も固まったら個人の戯言とは言えないわけで。

「「「「フォルン領は……」」」」
「おおっと! 手が滑りましたぞ!」

 セバスチャンがフォルン領謹製の鉄製農具を、彼らの足もとに叩きつける。

 鬱憤を晴らすかのような一撃で地面に大きな穴が発生した。

 腰を抜かす敵に対して、セバスチャンは恭しく頭を下げた。

「失礼いたしました。手が滑りまして」
「なっ、なっ!? あ、あぶねぇだろうが! 滑るんじゃねぇよ!」
「ご安心ください。次は、確実に頭を叩き割りますので」

 セバスチャンはそう告げると、農具を大きく振りかぶった。

 なお先ほど手が滑ったのは嘘ではない。何故なら……滑ってなかったら彼らはすでに畑のこやし。
 
 もしくは物言わぬかかしになっている。

「む、無辜の民に手をあげるのか!?」
「ご安心ください。ライダン領の妨害は王命で禁じられております。つまり貴方達は大罪人でございます!」
「「「全く安心できねぇ!?」」」

 セバスチャンの言ってることは間違っていない。

 個人単位の戯言ならば無辜の民との言い訳も通るだろう。

 偶然ライダン領の出店に行って、偶然フォルン領の悪口を言いたくなったと。

 だがライダン領の店から大勢飛び出してきて、フォルン領の悪口をほざいた。

 これはもうどう言いつくろうがライダン領からの妨害になる。

 つまり王命に背いた者たちである。

 俺は悲惨な目に合うだろう敵に哀れみの目を向ける。

「さてと。彼らの悲鳴も音楽がかき消してくれるだろうさ」
「酷い……」
「さあ! 首を垂れるのですぞ!」
「「「助けてくれぇ!」」」

 こうしてライダン領の非道にて下劣な策略をまた破ったのだった。

 セバスチャンによる殺戮を見ていた周囲の人たちは。

「お、おい。なんだあの農具……伝説級の武具じゃないのか!?」
「フォルン領の出店で売ってるって聞いたぞ!」
「なんだと!? すぐに買わねば!」

 何故か鉄製農具が武器に見なされて、冒険者とかにバカ売れした。

 実際のところ、セサル謹製のため結構武器としても優秀らしい。

 セバスチャンのフルスイングに耐え抜いただけのことはあるようだ。
 
 ライダン領の悪だくみは面倒だがくだらない。簡単に粉砕できるしこれは勝ったな。
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