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ライダン領との争い
第98話 領地の現状整理
しおりを挟む王との謁見が終わった後、俺達はフォルン領の屋敷に戻って来た。
ちなみに俺は見ていないのだが、ライダン領主は乗っていた馬車が走行中に脱輪。
その時の事故の衝撃で骨が折れる怪我したらしい。
ワーカー農官侯の微笑の死神の名の面目躍如である……いや本当怖いな。農官侯より呪術師でもやったほうが天職なのでは……?
いつも通り……いや久々に主要メンバーを集めて、執務室で会議を行うことにしたのだが……。
「メンバーが増えて、少しこの部屋だと狭くなってきたな」
カーマにラーク、セバスチャンにセンダイにセサル。更にエフィルンも増えたのでこの部屋には七人。
面倒だから執務室に集まらせていたが、専用の会議室でも用意すべきかもしれないな。
屋敷自体は新築して無駄に広いので部屋は有り余ってるし。
しかし感慨深いものがあるな。最初は俺とセバスチャンだけだったのに。
彼らに対してライダン領主にイチャモンをつけられたこと。そしてフォルン領の技術、文化、革命……違う、教養を見せる必要があることを伝える。
「すごい言いがかりですぞ! 明らかにエフィルン様を欲しがっているだけですぞ! しかもアトラス様のことを下賤とほざくとは!」
「ミーの愛する妹を再び洗脳とは。流石のミーも少々不快」
「武力では勝てないから搦め手で来たでござるなぁ。仮にも家柄がなど言うのにせこい、実にせこい。薄めた酒のようにせこい」
皆、ライダン領主に対して悪口が飛び出して行く。
特にセバスチャンは鼻息を荒くしている。もし目の前にライダン領主がいたら、襲い掛かってたかもしれん。
「それで文化とか技術とか見せる必要があるんだが。その前に現状のフォルン領の状況を確認したい。人口や景気、不足しているものなどだ」
「承知しました。こんなこともあろうかと、このセバスチャン用意しております。少々失礼します」
セバスチャンは俺の机の引き出しに手をいれると、書類の紙束を取り出す。
……何で俺の机の引き出しに入ってるんだろうか。
「現在のフォルン領の人口は約一万人。そしてここ、アトラス街の住民が六千人です。それで景気としましては」
「おい待て。いま聞き逃せない単語が聞こえたんだが!?」
アトラス街ってなんだ!? 俺達が住んでる場所は名前なかっただろ!?
うちの領地は街がひとつしかないから、フォルン領の街とかで通じているし。
セバスチャンは俺の言葉にしばらく考えた後、理解したようで頭を下げる。
どうやらわかったようだな。ちゃんと納得のいく説明をしてもらわねば。
「申し訳ありません。住民が増えてない理由ですが、人口の増加を一時制限しております」
「いやそこじゃない!? 何で俺の名前が街に使われてるんだ!」
「ああ。それならアトラス様のお耳にいれるまでもないと思い、私のほうで勝手にやっておきました」
「お耳にいれてくれよ!? めちゃくちゃ重要だと思うんだが!?」
街の名称はすごく重要だと思うんだけど!? なんかよい名前つけたかったのに!
例えばカーマたちへのおべっかに彼女らの名前つけるとか!
「安心するでござる。この街の名前は住民投票で決めたでござるよ」
「えぇ……」
うちの住民のセンス壊滅的ではなかろうか。領主の名前の街とか痛々しいと思うんだが。
「セバスチャン殿が住民全員に対して、選挙活動していたでござるからなぁ」
センダイが酒瓶を口にくわえながら呟く。
前言撤回。うちの住民の生存センスは高いと言わざるを得ない。
「まあ街の名前なんぞ正直どうでもよいでござるよ」
「いやまあそうだけど……」
「元々はアトラス殿とフォルン領の頭文字をとって、アフォ街という話も」
最悪過ぎる。俺の名前でまだマシだったな。
まあ街の名前はいいや。いざとなったら領主権限で変えればよいし。
「では話の続きを。景気は素晴らしくよいです。芋やテンサイは変わらず安定して栽培できています。黄金の道も動き始めて、香辛料の類も生産に成功して来年から本格的に栽培予定です」
うんうん。やはりよい報告を受けるのは気分がよい。
元西レード山林地帯こと黄金の道も、どうやら交易路として動き始めたようだ。
ぜひ名前負けせずにフォルン領に益をもたらす道になって欲しいものだ。
失敗したら『剥がれたメッキ道』に名称変更してやるからな。
報告にうなずいていると、セバスチャンが読み終えた紙束を丸く押しつぶし……食べた。
……セバスチャン!? これには俺のみならずカーマも驚いたようで。
「セバスチャンさん!? 何やってるの!?」
「証拠隠滅でございます。この書類には重要機密がありますので」
「た、食べなくても……燃やしたりとかで」
「燃やそうとしている間に盗まれる可能性もありますので。ご安心を、木を食べることには慣れております。木の根よりはインクの味などがアクセントになりマシですぞ」
セバスチャンは何事もなかったかのように答えてくる。
木を食べるのに慣れているのは深く聞いてはいけない。それはフォルン領の貧困時代を省みることにしかならないだろう。
むしろこの話題を続けていたら、一口どうですかとか言われかねない。
「人口増加を制限している理由はなんだ?」
「黄金の道の整備などで手が空いてなかったのと、アトラス様が留守の間はやめておこうと」
セバスチャンの言葉にセンダイとセサルがうなずいた。
どうやら彼らの中での共通認識らしい。俺としては制限しなくてもよかったんだがな。
「なら人口増加の制限は解除しろ。フォルン領はもう少し大きくしておきたい」
「ほほう。その心は?」
「ライダン領にでかい顔されるのもうっとうしい。古いだけの無能は小さくなってもらう」
このレスタンブルク国、わりと貴族が腐ってるからなぁ……。
以前のバイコクドンに今回のライダン領主に、俺の潜在的な敵が多すぎる。
これは俺の権力が半端だからこその問題である。なので俺に逆らえば損をする、と脳裏に刻ませられるように権力を増やしたいのだ。
センダイは面白そうに笑みを浮かべた後。
「ほほう。アトラス殿は権力に興味はないと思っていたでござるが」
「偉くなることに対して興味はないぞ。それ以上に不利益を受けたくないだけだ」
さっさと隠居して楽に暮らしたいのが本音だ。
俺の言葉に納得したようでセンダイも「御意」と呟いてうなずいた。
「後は技術や文化、教養をどう見せつけるかだな」
「アイスでお城を作って王都に置こう!」
「一夜で消滅するだろそれ」
俺はカーマの意見をぶったぎる。
まさに一夜城である。溶けてなくなるのが先か、食べられるのが先か。
そしてカーマの他にも似たようなことを考える奴らがいる。俺はラークとセンダイのほうに顔を向けると。
「念のため言っておくが、ケーキの城も酒の城もダメだからな」
「……むう」
「はっはっは。では酒の滝ではどうでござるか?」
酔っ払いの戯言は無視して他の面子に視線を向ける。
セサルたちならばもう少し面白い意見を提案してくれるはずだ。
セサルは俺の期待に気づいたのかウインクしてくる。
「ミーの美しい巨大銅像を王都に立てるサッ!」
「フォルン領の永遠の恥になるわっ!」
「アトラス様の巨大銅像を王都に立てるのですぞっ!」
「お前ら銅像から離れろ!」
ダメだこいつら。思考回路が謎に似ている上に発想がダメすぎる。
銅像で見せつけられるのは技術などではなくて、肥大化した承認欲求だけだろう。
後はエフィルンのみだが、彼女は洗脳されていたしアイデアを期待するのは酷だ。
仕方がない。俺の中でアイデアはあるので、それを話して……。
「主様。フォルン領の美味しいものや、自慢の品を広めるのがよいと思います。王都にフォルン領の品物の評判が広まれば、ライダン領主も認めざるを得ないかと」
…………つい先日まで洗脳されていた少女が、唯一まともな意見を出してくるとは。
おかしいな? フォルン領の主要メンバー、全員一度頭洗ってみるべきかもしれん。
「俺もエフィルンの意見に賛成だ。なので王都でフォルン領見本市を開こうと思う」
「見本市?」
「簡単に言うなら期間限定の市場だな。期間限定なのが肝だ」
俺の言葉にカーマが首をかしげる。どうやら彼女は期間限定の魔力を知らないようだ。
「何で期間限定なの? 常にやったほうが噂も広まるような」
「期間限定はな、魔法なんだよ。その言葉には恐るべき吸引力と誘惑がある」
日本でも北海道見本市とか、ついフラッと見てしまうんだよな。
それでつい買ってしまう。期間限定は本当にズルいのだ、強すぎるのだ。
「そして見本市にライダン領も参加させる」
「えっ、なんで?」
「売上で徹底的に分からせるためだ。敵は同じ土俵にひきずりこんで、徹底的にぶちのめして叩きのめす必要がある」
見本市の目的は王都にフォルン領の文化を広めることではない。ライダン領主にフォルン領の文化や技術を認めさせる必要があるのだ。
どんなに見本市が好評だったとしても、あのクズが認めないと言えばそれまでだ。
だがライダン領とフォルン領が同じ土俵で競い合い、その上でライダン領が敗北したとする。
その上で認めないなど言ったら、無様な負け犬の遠吠えだと煽りまくれる。
その場合はライダン領の敗北遠吠えと王都中に噂を広めてやるつもりだ。
そうすれば奴の名声は地に落ちて敗北を認めざるを得ない。
このことをみんなに説明したところ、全員が感心したような顔を見せた後。
「あなたって人の揚げ足とったり打ち負かすのは本当に得意だよね」
「褒め言葉を受け取っておこう」
「ちなみにライダン領が参加を拒否したら?」
「絶対に逃がさん。どんな手を使っても勝負の土俵に引きずり込む。負けるのが怖くて逃げた臆病者って周囲に広めて、王にも強制参加を要請する」
「まるで極めて悪質な粘着力の蜘蛛の巣でござるなぁ」
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