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ベフォメット争乱編

第94話 集金祭

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 【異世界ショップ】でエフィルンを開放した後、俺達はバフォール領の執務室に戻った。

 彼女はもう洗脳解けてるし大丈夫だ。その判断は間違っていない。
 
 問題は…………。

「我が妹よ! よくぞ無事でぇ!」

 変人がエフィルンに勢いよく抱き着く。これは犯罪ではなかろうか。

「兄さん、苦しい」
「おおエフィルン! よくぞ無事で!」

 セサルはかなり感激しているようで少し目に涙を浮かべている。

 エフィルンのほうは少し困り顔だ。やはりシスコンでは?

 それと言うほど無事ではない。主に洗脳解除薬という名の激辛薬のせいで。

 とはいえエフィルンも言うほど嫌がってないので、変人の一方的な偏愛ではないようだ。

 よかったよかった、本当によかった。一方的な偏愛だったら、手に持っている痴漢撃退スプレーが火を噴くところだった。

 喜ばしいことだしパーティーでも企画してやるか。戦勝祝いで各自好きな物を出してやろう。

「カーマ、ラーク何か食べたいものはあるか?」
「アイス!」
「ケーキ」
「酒!」

 聞くまでもなかった。あとセンダイには聞いてすらいない。

 財布の中身が空なのでバフォール領の金庫からネコバ……永久に拝借するか。俺達も働いたのだから給料分はもらうとしよう。

 エフィルンにも何か食べたい物を聞こうとすると、まだ兄妹で仲睦まじく話している。

「兄さん。ちょっと言うことがあるの」
「なんだい我が妹よ。新しい服が欲しいのかい?」
「私、主様の肉奴隷になります」

 エフィルンは俺のほうに視線を向ける。

 その言葉に周囲の空気が完全に凍り付いた。さて……どうやってここから逃げようかな。

 もはや言い訳は通用しない。すでに部屋の温度が上がり始めている。

「あなた……エフィルンさんに何を言ったの……?」

 カーマが問いかけてくるが、怖くて彼女に顔を合わせられない。

 たぶんすでに炎を纏ってそうなので、見ない方が精神衛生上よいだろう。

「ひとつだけ言わせてくれ、俺は無実だ! 心を読めるならわかるだろう!?」
「……ボクの魔法も絶対じゃないからね。あなたのことだから、何か変な手段で誤魔化してる可能性が」
「俺の評価低すぎませんかねぇ!?」

 思わず叫ぶと少しむせてしまう。まあいい、セサル変人もエフィルンの謎宣言を聞いた。

 流石に妹がこんなこと言ったら兄として止めるはず……。

「そうか。我が妹はアトラス君の肉奴隷になるんだね。頑張るんだよ」

 セサルは笑みを浮かべている。その目は優しかった。

「何を頑張るんだ!? え、お前兄だろ!? 止めろよ!?」
「エフィルンもすこやかに育った。もう私は必要ない。妹が決めたことならば、応援するのが兄の役目だ」
「応援してはダメなことってあると思うんだ!?」

 しばらく話したがセサルはエフィルンを止めるつもりはないらしい。

 ……本当に大事な妹なのだろうか。

 結局エフィルンの宣言はとりあえず、正気の沙汰ではないので後日確認することになった。

 洗脳解除されてすぐだし何かおかしなことになってるんだろうな……。

 そして数日の間ダラダラした後。この後どうするかを相談して、この町全体で戦勝祭を行うことにした。 

 もうベフォメットが攻めてくることはない。すでにクズ王子を人質にして脅し……交渉に入っている。

 そもそもベフォメットからすればもう勝ち目のない戦いだ。

 彼らの最大戦力だったエフィルンがこちらの味方になった。クズ王子曰く、エフィルンひとりでベフォメット全軍より強いと言っていたのだ。

 実際彼女は巨大な大樹や竜巻を出せるし、冗談抜きで全軍より強い可能性もある。

 そんな彼女が敵になるなど、ベフォメットからすればガクブルものだろう。

 実際はエフィルンは洗脳と共に、魔法のドーピングも切れて弱体化しているが内緒である。

 そんなわけで俺達は町の広場に出店を出して、頑張って食べ物を売りさばいていた。

「たこ焼き、わたあめ、焼きそば……全部知らない食べ物なんだけど」

 カーマが屋台の看板を見て首をかしげている。

 このお祭りは俺プロデュースの祭りだ。フォルン領の祭りとは違って、領で育てた物ではなく【異世界ショップ】から直に購入している。

 後は温め直したり焼いたりすれば完成の物ばかりだ。わたあめにいたっては最初から袋詰めで風情も何もあったものではない。

「基本的に祭りで輝く食べ物だからな。普段は出してない」
「なんでお祭りで輝くの?」
「安くて大量に作れるし、匂いで愚民をおびき寄せる」
「……」

 カーマがジト目でこちらを見てくるが無視。俺は鉄板で焼きそばを焼き続ける。

 いや本当に祭りの食べ物ってよく考えられてるよな。

 だいたいの食べ物が物珍しい、もしくは匂いがよいものである。

 視覚もしくは嗅覚の暴力で売り切るという魂胆がひしひし感じられる。

「ふーむ。何とも変わった食べ物でござるなぁ。熱いが美味にてござる」
「つまみ食いするな、焼けっ!」

 隣の屋台でたこ焼きを焼きながら、つまみ食いしているセンダイを注意する。

 【異世界ショップ】で用意した屋台は全てフォルン領メンバーで運営している。

 理由は簡単である。俺達だけで利益を独占するためである!

 このお祭りの目的はただひとつ! バフォール領から去る前に、ここの金を回収してフォルン領へ持ち帰るのだ!

「発想がかなり悪魔だよね」
「違う。これは俺からの救いだ! 俺がいなくなったら食糧不足になるんだから、その前にせめてお腹いっぱいにしてやろうという優しさだ!」
「死ぬ間際にせめて最後にご馳走をみたいだね」

 やめろよ。頑張って言い方変えてるのに真実を言うなよ。

 俺は焼きそば、センダイはたこ焼き、セサルはお好み焼きとか色々を受け持っている。

 セサル君、四人力くらいのペースで料理作ってて意味不明である。

 奴はエフィルンが助かったことでものすごくやる気になっていた。

 カーマとラークは戦力外の烙印を押したので、パックのたこ焼きを食べている。

 屋台で爆発騒ぎになるのは流石にごめんこうむる。

「このたこ焼きって食べ物、丸くて面白いしやわらかくて美味しいね。中にスルメも入ってるし」

 それはもはやたこ焼きとは言わないと思う。

「センダイ!? お前、たこ焼きに酒のアテいれるんじゃない!? イカ焼きになるだろうが!?」
「はっはっは。細かいことは気にするなでござる」

 センダイはたこ焼きを焼く鉄板に、油の代わりに酒をさしながら笑い飛ばす。

 もはやたこ焼きというよりのん兵衛焼きでは……。

「熱い……」

 ラークはたこ焼きを食べようとして、熱さで涙目になっていた。

 本当に熱いの苦手なんだなぁ。

「ラーク、そこまでして食べなくても」
「負けない」

 謎の対抗心を燃やしながら、たこ焼きに必死にに息を吹きかけるラーク。

 何がそこまで彼女をかきたてるのだろう……。

「姉さま、凍らせれば食べられるよ」
「もうそれはたこ焼きではない」

 カーマの意味不明な提案をぶった切る。彼女はハフハフと美味しそうにたこ焼きを食べている。

 凍らせたたこ焼はもうたこ氷とかそんなんだろ。

 全くもってうまそうではない……てか拷問とか嫌がらせの類である。

 そんなことを考えながら、周囲に群がる愚民たちに焼きそばを売り続ける。

 匂いの暴力に彼らは完全に屈服し、焼きそばなど全部飛ぶように売れた。

 購入者はみんなすごくおいしそうに食べている。

「なんてうまさだ……この黒い液体がうまいのか!?」
「この雲甘いんだが!? 天上の食べ物じゃないのか!?」
「久々に新鮮なものを食べた気がする……」

 ここの街の住民たち、売れ残り消費期限直前のコンビニ弁当ばかり食ってたからな。

 せめて俺が去る直前くらいはまともな飯を食わせてやろう。

 ……真剣に俺がいなくなったら食糧どうするんだろうなここ。

 そんなことを考えながらしばらくそば焼いてると。

「……勝てなかった」

 ラークが悲しそうにたこ焼をほおばっていた。すでに冷めきっている。

 ここでお代わりを出したら嫌がらせにしかならんな……熱くて食えないのだし。

「……でも美味しい」
「冷めたたこ焼も案外食べられるよな」
 
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