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ベフォメット争乱編

第91話 消化試合

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 俺はエフィルンの生やした大樹の元へと走る。

 早く行かねばならない。カーマたちが目を覚ます前ならば……多少服剥いてもエフィルンのせいにできるっ……!

 俺はカメラを首にかけて大樹を登り始める。だが……。

 そんな俺を邪魔するように大樹の上のほうから声。

 見上げるとクズ王子が枝に座って俺を見下していた。

「クズめ! お前に用はない! 早くカーマたちの元へ行く必要があるんだ!」
「安心したまえ。私は彼女らに触れる気は……」
「そんなことはどうでもいい!」

 早く行かないとカーマたちが目を覚まして、好き勝手できなくなるだろうが!

 今ならお前が全てやりました! って言えるだろうが!

 クズ王子はそんな俺の考えを知ってか知らずか……いやあのゲス笑みは理解しているな!

 その上で奴は拍手してきた。

「いや見事だ、まさかエフィルンを倒すとは。それに暴走の魔法紙を使っても反応がない。何をしたんだい?」
「拉致監禁」

 【異世界ショップ】に監禁したから、魔法の類が届いてないだけだろうな。

 クズ王子は俺の返答に腹を抱えて笑い始める。

「はははっ! あの怪物と化したエフィルンを拉致監禁! 君の行動は本当に読めなくて面白いな!」
「うるさい! 気が散る!」

 俺は必死に木を登っているのだ。自慢ではないが俺は身体能力が低い。

 油断したら地面に落ちて大怪我もあり得る。

 はっ!? この集中力を削ぐのも奴の作戦か! 卑怯者め、恥を知れ!

「ところでだ。後は君は私を捕らえれば完全勝利だろう? ならここで決着をつけようじゃないか」
「うるさい! そんなことはどうでもいい! てかこの木、普通に登るの無理だな!?」

 俺は木を自力で登るのを諦めてゆっくりと地面に降りていく。

 まだ数メートルしか登れてなかったが、すでに腕がプルプル足がガクガク。

 そもそも自力で木を登るなんぞ猿のやること。進化した人間のやることではない。

 俺は進化した人類だからうまく木に登れないのだ。決して身体能力が低すぎて諦めたわけではない。

 【異世界ショップ】から山登り用のグッズでも買おうと考えていると、クズ王子が枝から飛び降りて颯爽と地面に降りてくる。

 おかしい、地面まで十メートルくらいはあったはずなのに。

 俺はクズ王子が邪魔でうっとうしいので投降を促すことにした。

「もうさっさと諦めて投降しろ。さすれば苦しめて殺してやる」
「その言葉、投降させる気がないと思うのだがね。まあどちらにせよ、私は諦めるつもりはないよ。言っただろう? 最後まで惨めにあがいてこそと」

 クズ王子は懐から小さなビンを取り出した。

 その中には血のように真っ赤な液体が入っている。

「なんだ? 実は私は吸血鬼だったとか言うんじゃないだろうな? それなら他人の生き血をすする醜いお前にお似合いだと言ってやる」
「残念ながらそんな高尚な存在ではないよ。私はいたって普通の人間だ」

 そう告げながら王子はビンを口につけて、真っ赤な液体を飲み干していく。

 ……ただのトマトジュースだったりしないかなぁ。違うだろうなぁ。

 クズ王子は飲み干したビンを地面に放り投げると、人類が出せるとは思えない気持ち悪い悲鳴を奏でだした。

 その身体がぶくぶくと膨れ上がり、どんどん巨大になっていく。

「君も見ただろう。我がベフォメットの優れて強靭なる巨人たちを!」
「すまん記憶にない」

 ひたすらに残念な見た目と性能で、「コロシテ……」というセリフが似合う無駄にデカい奴なら見たが。

 結局王子は3メートルほどの巨体になってしまった。

 ただでさえ見たくない顔が巨大になるとか嫌がらせやめてくれ。

「これが北の魔導帝国からもたされた巨人薬! その中でも最も高価だったものだ! ただの巨大化ではなく、身体が硬質化されてドラゴンと殴り合えるほどになる、らしい!」
「いや断言しろよ」
「私も飲んだことなかったからね。だが力のみなぎりを感じる!」

 王子は巨大化して少し野太い声で笑う。

 なるほど、硬質化かねぇ。俺は王子の腹を狙って拳銃の引き金を引く。

 だが金属音が響いて銃弾が跳ね返されてしまう。

 確かに奴の言う通り、身体が硬質化しているようだ、銃弾を受けて無傷とは。

「ぐふっ……ふははは! 痛いぞ!」

 いや多少は効いてるようだ。

 まあ血などは出ていないので、当たったところが少し痺れたとか程度だろうが。

 拳銃の弾丸を弾くならば結構な硬さということになる。つまり……。

「どうだね? この私の力を見ての感想を聞こうじゃないか」

 クズ王子はこちらを腕を組んで見下してくる。
 
 俺はバズーカをクズ王子に向けて構えつつ、隠しきれずに笑みを浮かべた。

「いい塩梅だと思うぞ」
「いい塩梅? なんのだい?」
「そりゃもちろん…………サンドバックのな!」

 俺はバズーカを王子に向けて発射。弾がクズ王子に直撃して爆発する。

「ぐふぅ……まだまだぁ!」

 爆風が晴れた後、奴の身体は焦げた程度のダメージを受けているのを確認。

 予想通りだ! 今の巨人化したコイツならば、かなり酷いことしても大丈夫だ!

 追撃でガトリング砲を手に出現させて連射する。

「ぐっ……痛いなこれ!?」
「もっとだ! もっともだえ苦しめ!」

 俺はガトリング砲で奴の顔や足の膝、弁慶の泣き所、みぞおち。

 とりあえず人体の弱点そうなところを狙いまくる。次は小指だ!

 奴がでかくなってくれたおかげで、的が大きくなってすごく狙いやすい!

 クズ王子は腹を手でおさえながら、痛みのあまりうずくまった。

「ほらほらほら! 次はどこを狙って欲しい!?」

 その様子を見て更に俺は攻撃の手を強める。次は股間だ! 股間を狙う!

「ぐっ……やはり君は厄介だな……! 性格悪いと言われるだろう!」
「お前にだけは言われたくねぇ!」

 俺は更にクズ王子の下半身を集中的に狙い、機動力を完全に潰す。

 奴はもはや息も絶え絶え、顔は足や下半身の痛みで悶絶の表情を浮かべている。

 残念だったな、巨人の相手はすでに経験済みだ!

 俺には必勝法があるのだよ! 巨人潰しの!

 それにジャイランドに比べればクズ王子なんぞミニマム巨人だ。

 ……ミニマムな巨人って一単語で矛盾してるのすごいな。

 【異世界ショップ】でヘリコプターを目の前に呼び出し、急いで運転席に乗り込む。

 そしてヘリを飛ばしてクズ王子の頭上をとる。

 奴は痛みで身動きが取れず、膝を地について俺を見上げていた。

 お前には散々苦しめられたが最後に底が知れたな。敵の巨大化は負けフラグだ。

「ジャイランドの時は言えなかったが、ここは考えた呪文を言わせてもらおう。重力の檻、鉄の揺りかご……落ちたら……落ちて…………この続きなんだったっけ……」

 しばらく悩むが思い出せない……せっかく恰好いい無駄な呪文考えたのに忘れてしまった。

 やはりメモしておくべきだったか。

「まあいいや。落ちろ、漁船! クズ王子に鉄槌を!」

 俺は【異世界ショップ】から漁船を購入。漁船はクズ王子目掛けて落下していく。

 奴はそれを見上げて不敵な笑みを浮かべると。

「見事だ! この私を破ったことを誇りに思うがっ」

 王子の頭に漁船の底が直撃し、奴は地響きを立てながら地面に倒れ伏した。

 意識を完全に失ったようで耳障りな声が聞こえなくなる。

 勝利を確信した後、せっかくなので王子の身体に腐葉土を撒いておく。

 クズはさっさと分解されて土に還るべしとの願いを込めて、奴の身体を土で生き埋めにする。

 本当は牛ふんにしておこうと思ったが武士の情けだ。せめて眠りし土くらいはまともにしてやろう。

 万が一化けて出てこられた時、ふんまみれは勘弁して欲しいし。

 これで長かったクズ王子との戦いは終わりだ。後は奴を人質にベフォメットに降伏をせまれば……。

「ってしまった!? あいつ生き埋めにしたらダメじゃん!? 最後まで俺を苦しめやがってくぞっ!」

 後で王子を掘り起こす作業が追加されてしまった。

 不幸中の幸いなのは武士の情けと牛ふんを撒かなかったことだ。

 情けは人の為ならずか……。
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