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ベフォメット争乱編
第81話 戻ってきてしまったバフォール領
しおりを挟む俺とカーマとラーク、そして酔っ払いはバフォール領へとやって来ている。
ベフォメットに対抗するための援軍としてだ。俺達は王から独自の指揮系統を認められている。
つまり俺達はバフォール領に命令されることはない。好きに暴れられるし誰からも縛られない!
そう思っていた時期が俺にもありました。確かに命令されることはない、ないのだが……。
「アトラス様。この書類もお願いします」
「なんで!? 俺が!? バフォール領の!? 書類仕事させられてんの!?」
「領主がいないので。アトラス様に指揮官になって頂いた方がよいのです。ついでに書類も片付けて欲しいので」
俺は元バフォール領主屋敷の執務室で必死に書類を片付けていた。
そんな俺の作業している机に、元バフォール領兵士長が更に追加の書類を置いてくる。
確かに誰からも命令されてない。むしろ命令する側になっている。
だが元バフォール領の指揮をさせられるのは計算外だ。
そんな面倒な、七面倒なことやりたくない。
「はっはっは。アトラス殿はつくづく貧乏に縁があるでござるな」
「貧乏くじ引いたってか、やかましい」
センダイが飲みながら俺を見て笑っている。
おのれ酔っ払い……こうなればお前も道連れだ!
「センダイ! お前はバフォール領の臨時防衛隊長だ!」
「いやいや。防衛隊長なら本物がいるでござるよ」
センダイはあごで元バフォール領兵士長をさす。
なんで兵士長はいるのに領主がいないのか。バフォール領やばすぎて笑えない。
シビリアンコントロール――文民統制をあざ笑うような状態だ。軍がクーデター起こすまでもなく即座に実権を掌握できる。
……まあしてくれなかったせいで、俺が実権を押し付けられたのだが。
「カーマ。お前王族だし領主代理やってくれ」
「無理だよ。ボクは領主なんてやったことないし」
「大丈夫だ。俺と同じように偉そうにして、よく分からない書類をサインだけしてればいいから」
「ダメだよねそれ!? というか、あなたよく分からずに書類仕事してたの!?」
当たり前だ。全部把握なんて出来るわけないだろ。
総理大臣が原子力発電の仕組みを全て知ってるわけがない。
雑談しながら山のような書類を何時間もかけて全て処理した。う、腕の感覚が……だがこれでようやく一息つくことが。
「アトラス様。ベフォメットが攻撃を仕掛けてきました」
「なんて領地だ! 俺が書類作業終わる前に来いよ!」
元バフォール領兵士長の報告に思わず叫ぶ。
なんて奴らだ! 俺の右手が痺れて疲れるのを待っていやがったな!
いやこの大量の書類もベフォメットの策略だったのだ! 俺を疲れさせるための!
「被害妄想が激しすぎる……」
「散々フォルン領の弱点をついてきたベフォメットだぞ。俺の弱点が真面目に仕事するということもわかっているはずだ!」
「弱点がそれってどうなの!? 真面目にやろうよ!」
カーマのことは無視して執務室から出ていく。ベフォメットめ! 思い知らせてやる!
よくも俺に真面目に仕事をさせやがったな!
復讐と怨嗟の炎で心を燃やしながら、自軍の兵士を招集して町の広場に集める。
集まった兵士たちの装備はわりかしまともだ。仮にもバフォール領は隣国と接しているのだから、国からも支援が出ているのだろう。
だが何というか、兵士たちの表情が腑抜けているように見える。
戦争というより軍事訓練に向かうかのような心持ちというか。
「センダイ。バフォール領の兵士の強さはどれくらいだ?」
センダイは広場に並ぶ兵士たちを観察した後、酒瓶を口につけると。
「そうでござるなあ……お茶を濁すが万騎当千というところでござるな」
「一瞬強そうに聞こえるのやめろ。素直にゴミって言え」
悲報、バフォール領の兵士。通常の兵士の十分の一の強さである。
「いやいくらなんでも弱すぎないか!?」
「戦う気がないでござるよ。こんなの連れて行った方が足手まといでござる。元々領主が裏切り者だったなら、てきとうに八百長戦争でもしていたのでは?」
そんな八百屋戦争みたいな……
センダイは酒瓶を飲み干して空になった瓶を懐にしまうと、新しい酒瓶を同じく懐から取り出して飲み始めた。
……お前も戦う気があるのか怪しいところではないだろうか。
「……肉壁にもならないか?」
「断言するが即座に逃げ出すでござる。更に言うなら敵軍とこやつらが入り乱れたらカーマ殿やラーク殿の魔法の邪魔。百害あって一利なしでござる」
流石はバフォール領の兵士たち! 微塵たりとも使えないどころか邪魔である!
バイコクドンめ。死してなお足を引っ張るとは……!
「いやまだ死んでないよあの人」
「俺の中ではもう生命体にカウントされてないから」
カーマのツッコミを華麗にスルーしつつ、この役立たずの無駄飯くらい共をどうするか考える。
やはりゴミはゴミ箱に……じゃなくて、リサイクルせねば。
「センダイ。こいつら徹底的に鍛え直してやれ」
「よいでござるが性根も腐った者たちゆえ、簡単にはいかぬでござる。正直時間の浪費になりそうでござる」
「マジでゴミだな……どうせこれ以上腐ることはないだろう。成功の暁にはとっておきの酒をやろう」
「御意。拙者の全てをもちて、このゴミたちを蘇らせるでござる」
センダイは真剣な表情を浮かべると、兵士たちの元に向かって行った。
これで少しは使えるようになれば儲けものだがはてさて。センダイのお手並み拝見といこうか。
どうやって腑抜けたバフォール兵のやる気を出させるのだろうか。
あいつのことだから頑張れば酒が飲めるぞーとかで。
「よいか。お主ら次第で拙者が酒をもらえるか決まる。もらえなければ……斬る」
センダイが剣を鞘から抜いて振るうと、地面の土が吹き飛ばされて穴があいた。
完全に脅しだったがまあいいか……。流石に冗談だろうし。
「腑抜けが直らぬなら血を抜いてやるでござる」
センダイは完全に目が座っているが冗談だろう。
これ以上余計な事を聞く前に出陣することにしよう。俺はバフォール領の兵士は誰一人知らないから、仮に何人か減っていても気づかない。
俺はセンダイから背を向けるとカーマとラークの肩を押す。
「カーマ、ラーク。行くぞ、俺達だけで敵軍を倒す」
「そうなるよね。ちなみに敵軍にも魔法使いが数人いるよ」
「まじか。とうとう魔法使いと戦うことになるのか」
カーマの言葉に少し緊張する。魔法使い同士の戦いは予想がつかない。
今までは人間相手なら一方的に蹂躙してきたが、今度の戦いは少し苦戦するかもしれない。
「魔法使いと戦ったことあるよね? ほら元カール領の……」
「あれは魔法使いじゃなくて壁だったし……」
あの魔法使いは俺のバズーカを障壁とやらで防いだだけだった。しかも数発で力尽きるというおまけつき。
結局一方的に攻撃してただけなので魔法使いとカウントしていない。
うーむ、少し対策というか作戦を考えたほうがよいかもしれない。敵は多勢に対してこちらは三人。
ラークとカーマがいくら強いと言っても不安は残る。
「……魔法使いってみんな空飛べるのか?」
「飛べない」
「ボクたちみたいに空飛べるのはかなり珍しいよ」
ふーん……カーマたちの飛行能力はジャイランド戦で見ている。
俺の所感としては二人は確かに空を飛べる。だが空中で戦うことは難しいだろう。
飛行できることと空中戦が出来ることは大きく違うのだ。
そんな二人ですらかなり珍しいならば、空中戦ができる魔法使いはほぼいないと考えてよさそうだ。
「よし。制空権を確保して空から蹂躙するぞ!」
「「制空権?」」
「敵の頭上を取って好き放題するってことだ。上さえ取れば最強だぞ、高さかける重さイコール威力だ」
俺はヘリコプターを購入して、カーマとラークを乗せて飛び立つのだった。
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