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ベフォメット争乱編

第80話 内部の敵

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 フォルン領に帰るため、王城の廊下を歩いているとガタイのよい青年とすれ違う。

 すれ違った青年は忌々しそうに俺を睨んできた後。

「おやおや。これはフォルン領主ではないか。姫様たちを見せびらかしてどうされた?」

 立ち止まると偉そうに俺を見下してくる。いきなり喧嘩を売られてしまったが誰だコイツ。

 思い当たる節などなくガン無視して去ろうかと思っていると。

「ライダン領主。お久しぶりです」

 カーマが俺に教えるように青年に挨拶した。

 この頭をワックスで固めたような男はライダンの領主らしい。

 ライダンはレスタンブルクの南西に位置する領地で、かなりの広さを誇る大領地。

 その領主ならそれなりに有力なはずだが。

「姫様もご機嫌麗しゅう。もしこの男が嫌になればすぐに我が領地にお逃げください」

 俺の敵味方識別センサーにピンときた。こいつは敵だ。

 カーマは愛想笑いを浮かべている。

「忘れるな。この国はライダンによって支えられている。貴様なぞいなくてもレスタンブルクはやっていけるのだ」

 俺に謎の吐き捨てと共にライダン領主は去っていった……何だあいつ。

 カルシウムが足りてないのでは? バケツいっぱいの腐った牛乳をぶちまけてやろうか。

「なんだあいつ。不快極まりないんだが」
「たぶんフォルン領が発展して、ライダン領が後れを取ってるのが不愉快なんだと思うよ。この国で一番の領地だったのに、最近はお父様もフォルン領フォルン領だし」

 カーマが去っていくライダン領主を見ながら呟く。

 ただの嫉妬か。また売国奴がカーマを狙ったのかと思った。

 この国は前科があるからなぁ……。

 ライダン領主の顔は覚えたので、次は懐にこっそりとムカデの玩具でも入れてやろう。

 そんなこんなでラークの転移でフォルン領に戻った後。

 いつものようにフォルン領有力者会議を開いて、俺達がワンマンアーミーとしてベフォメットとの戦いに参加すると話した。

 その時のセンダイの一言がこれだ。

「それがよいでござる。フォルン領の兵士が出向いたところで、何の役にも立たないでござるからなぁ」

 おい防衛隊長。仮にも軍の長がそれはどうなんだ。

 確かにフォルン領の兵士は総勢千名程度。大勢に影響を与えられる数ではない。

 それに出兵したら酒代がかかるからな。うちの軍の遠征費の半分は酒代だ。

 あいつら出兵となったら大量の酒を寄越せとうるさい。命をかけているのでござる、と言われては断りづらいし。

 ベフォメットとの戦争に、フォルン領兵士を使いたくない一因。いやほぼ全因である。

 それと以前に主力メンバーが全員いなくなった時の反省として、セバスチャンは絶対に領地に残ることが決定した。

 セバスチャンがいれば大抵の問題は対処できるからな。政治に経済、軍の指揮と万能執事である。

 そういえばセバスチャンの孫はまだ寝込んでるらしい。

 そして会議も終わったので寝室に戻ってベッドに入ると。

『ちょっと話があるんだけど。異世界ショップに来て』

 頭にミーレの声が響いてくる。眠いので無視だ、無視。こちとらお客様だから。

『起きろー! ほら早く来て!』

 ……頭の中に目覚ましのように声が鳴り響く。放置できねぇ!
 
 それどころか工事現場の何か削るような音まで流してきやがった! 完全に安眠妨害だ! 今夜は眠らせる気ないぞこいつ! 

 流石に頭の中がガンガンうるさすぎてキツイ!

「【異世界ショップ】開店せよ!」

 叫んだ瞬間、部屋の風景がいつものチェーン店に変わり頭の中の音が消える。

 いつものチェーン店ではない。なんか少しお高いチェーン店っぽい雰囲気だ。

 具体的には壁とかが少しオシャレな木になっていた。

 そして重機に乗って店内で動かしているミーレの姿があった。馬鹿だろ。

 服装も普段の店員服だからミスマッチすぎる。ヒラヒラのエプロンみたいなのまでしてるし。

「ガチで工事音鳴らしてたのか!? てか店内工事してたのか!?」
「リアリティを意識しました! 丹精込めたほうが心に響いて残るでしょ!」
「響かせる必要がないだろ! 工事現場の音なんぞ頭にしか響かんし耳に残るだけだ!」

 頭痛と耳鳴りを残して去っていくよな、工事の音。

 そんな俺の言葉を無視して重機から降りるミーレ。
 
「ようこそ! 今日は大事なお知らせがあるから呼んだよ!」

 笑顔を浮かべるミーレ。周囲の風景を見る限り、彼女の言おうとすることはわかる。

 店の改修工事を行っているということは答えはひとつだ。

「とうとうこの不況で異世界ショップが、大手チェーンに吸収合併されるのか」
「違うよ!? 異世界ショップは業界最大手だよ!?」

 どうやら異世界ショップはチェーン店らしい。

 俺のジト目に気づいたのか、ミーレは話を変えるように咳払いをすると。

「おめでとう。君がフォルン領の人手を増やして信仰心を集めたことで、新しく異世界ショップに新機能が追加されました!」
「ほう。どんな機能だ?」

 もったいつけて言うくらいだ。かなりのことだろう。

 以前に言っていた未来の物が買えるようにとかだろうか。それならすごくいいな。

 ビーム砲とかビームサーベルとかビームシールド欲しい。

 そんな俺のワクワク心に対してミーレは満面の笑みで。

「なんと! 君が触った人間を強制的に【異世界ショップ】に転送できるようになりました! 強制入店って叫んでね」

 …………まず最初に言いたい。出来なかったのかそれ。

 許可した人物だけしか入店させられないし、必要性皆無だから強制的に入店させるなんて試したことすらなかった。

 拒否してたら入店させられなかったんすか。

 ちなみに今までで異世界ショップに入店したことがあるのは、セバスチャンとカーマとラークだけだ。

「どう! すごいでしょ! これからは嫌がる相手も触れば」
「…………それに何のメリットが?」
「ほら拉致監禁とかに」
「拉致監禁」

 何だろう。コンビニ強盗が人質とって立てこもりみたいな能力だ。

 欠片も使い道が思いつかないあたりすごい。

「そういうわけでこの能力を活かして領地発展頑張ってね」
「領地発展に拉致監禁をどう活かせと?」
「邪魔な奴は鎧袖一触に出来るよ!」
「触った相手が消えたら明らか怪しいだろうが! そこまで近づけるなら銃撃った方が早い!」

 俺が格闘家ならば強力だった説はある。だが俺は自慢じゃないが身体能力には自信がない。

 特に肉弾戦はひょろえもんな自信がある。相手に触る前にボコられる。

 何とも無意味な追加機能である。顧客の意見をもっと参考にすべきだと思う。

「この機能いらない……」
「絶対役に立つから! ほら、まずは三ヵ月お試しで! 今なら洗剤もつけるから!」
「新聞屋かお前は」

 何とも期待外れの力なので今後も使うことはなさそうだ。

 せめて呪いみたいに遠方から行えるなら強かったのだが……。

 邪魔な政敵を物理的に消せるからチートだったのに。
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