【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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ベフォメット争乱編

第73話 どちらが強い?①

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 ベフォメット王城の個室。王子が優雅に紅茶を飲んでいた。

 そしてその隣には皿に山のように積まれたマシュマロを食べているエフィルン。

 王子はそんな彼女を見て少し辟易したような顔を浮かべる。

「……それ飽きないかい? 確かに美味しいが甘すぎて」

 エフィルンは首を横に振ると黙々とマシュマロを食べ続ける。

 ため息をつく王子。そんな彼らの話に割って入るように、個室に兵士が入ってくる。

「報告します。フォルン領のテンサイ強奪は失敗に終わりました」
「そうか。では失敗した関係者を追放してフォルン領に送ってくれたまえ」
「はっ! わかり…………はっ? え、えのあの何故フォルン領に……?」

 兵士は王子の言葉に条件反射で返事したが、内容が理解できずに困惑する。

 それを見た王子は微笑を浮かべると。

「そのほうが面白いだろ?」
「は、はぁ……ですが実行犯は全員捕まりましたので……すでにフォルン領にいますが」
「ならその家族でいいよ。お前たちのせいで罪なき者が家も職も失ったと手紙を添えてね」
「…………しかしその者達が受け入れてもらえるとは思えませんが」
「そうだろうね。フォルン領は受け入れないだろうから、他の場所に逃げる前に処分しておいて」

 王子はケラケラと楽しそうに笑う。その様子に兵士は恐怖を覚えたようで。

「はっ! すぐに行います!」

 兵士はそう言い残すと逃げるように部屋を出ていった。

「今回は防がれたようだけどまだいくつか仕掛けはある。あの男は果たして無事に切り抜けられるかな?」

 王子は愉快そうに笑みを浮かべた後。

「エフィルンを追い返すのにこんな高価な菓子を大量に渡したんだ。結構なダメージになってるだろう。次はもっと直接的に被害を出す策だし、戦う前にフォルン領が滅んでしまうかもね」

 そう言いながらマシュマロの山からひとつ摘んで口に入れた。

 実際は超お徳用業務マシュマロパックで購入し、総額金貨一枚であることを知る由もない。

 更にアトラスのせこい抵抗によって、全て同じ味のマシュマロにされている嫌がらせも知る由もない。




~~~~~~





 テンサイ盗難事件の翌日。

 俺がフォルン領の防衛のため要所に対して――テンサイ畑やコショウ畑や屋敷の風呂などに、バッテリーつきの監視カメラを設置していると面白い噂話が聞こえてきた。

 魔法使いの双子姫であるカーマとラーク。元最強とうたわれた少女たちだが……どちらが強いのかと。

 確かに気になるところではある。娯楽の少ないフォルン領では、ゴシップ話として申し分ない。

 最近のトレンドのようでいたるところでこの噂話が聞こえてくる。

「強いのはカーマ様じゃね。以前にドラゴン焼いてるの見たけど、あんな大きな炎出すのやばすぎだよ」
「ラーク様もかなりヤバイぞ。以前に山のように積んだ肉を全て氷漬けにしてたの見たぞ」
「氷は炎に弱い。これ魔法の常識ですよ……こんなことも分からず噂するとは。相性を考えればカーマ様一択」

 周囲の評価を聞く限りではカーマが少し優勢な雰囲気だ。

 だがラークの氷は生半可な炎では溶けない。それは俺が身をもって、本当に身をもって知っている。

 氷漬けにされるとなかなか溶けないんだよアレ……。以前に首から下を氷漬けにされた時は、【異世界ショップ】に転移してミーレに火炎放射器で頑張って溶かしてもらった。

 そんなことを考えながらも漫画の続きを読みに屋敷の執務室へ戻ると、セバスチャンが待ち構えていた。

 ……隠していた漫画がバレた!? いや違うな、それならセバスチャンは悪鬼羅刹と化して右手に斧を持っているはずだ。

 俺は極力平常心で執務室の自分の席につくと。

「ど、どうしたセバスチャン? 俺は決してサボってなどなく真面目に働いてるぞ」
「ええはい。実は我が孫のことなのですが……」

 セバスチャンの孫。先日のテンサイ盗難事件でついでに誘拐された可哀そうな少女だ。

 まだ会ったことはないが、すでに俺の面接に合格済でフォルン領で働くことが内定されている。

 つまりは完全なる汚職コネ採用である。生涯をフォルン領のためドブに捨てたセバスチャンの願いだ……せめてこれくらいはしてやらないと俺が辛い。

「申し訳ありません。先日の誘拐のショックでまだ寝込んでおりまして……!」

 セバスチャンが頭を下げてくる。……本当に誘拐のショックなのだろうか。

 もっと他のことな気がするなぁ……。

「ゆっくり身体を休めるように伝えてくれ。無理して働く必要はないから」
「ははっ! ありがとうございます! 明日には地を引きずってでも連れてきてご挨拶させますゆえ!」
「ゆっくり休ませろと言ったところだが!?」

 セバスチャンは嵐のように執務室から去っていった。

 …………セバスチャンの孫だから鉄人だと思っていたが、実は身体が弱いのだろうか。

「……無理やり連れてこられる前に、お見舞いに行くのもありかもな」
「ボクもそう思う」

 …………いきなり足もとから声が聞こえてくる。

 机の下を覗くとカーマとラークが猫みたいに隠れていた。

 かわいい……じゃなくて何やってるんだ。

「……いやあの、セバスチャンさんが急に部屋に入って来たからつい」
「緊急避難」
「セバスチャンは鬼か何か?」
「あはは……ちょっとこないだのセバスチャンさん怖かったから」

 カーマが遠い目をしている。

 先日の殺戮者セバスチャンは、カーマとラークに恐怖心を植え付けていたようだ。

 正直あれは俺も怖かった。ハリウッドの特殊メイクの化け物よりも迫力が……特に生々しさがやばかった。

 生々しいというか完全自然素材の血による、紛れもない本物なのだが。

「セバスチャンさんのお孫さんが寝込んでるのって、誘拐が原因じゃなくてセバスチャンさんが怖かったからじゃ……」
「それ以上いけない」

 俺は慌ててカーマの言葉を遮る。

 その線が極めて濃厚だがタブーだ。セバスチャンは必死に、それはもう相手を必ず死に追いやるように頑張ったのだ。

 領民たちから死に物狂いで情報を集め、恐ろしい脚力で馬車に追い付き、盗賊を悪鬼羅刹もかくやとぶっ潰した。

 その必死の救出劇の結果が孫に怖がられるなど涙を禁じ得ない。
 
「いいか。セバスチャンに真実を伝えるのは禁止だ。孫は盗賊に捕らえられた恐怖で体調を崩した、いいな?」

 カーマとラークが俺の言葉にコクコクとうなずいた。
 
 これでセバスチャンの中では、自分は孫のヒーローのままだろう。

 実際は化け物、何なら最凶の悪役に見られていてもおかしくないが知らぬが仏だ。

 しかしこの話題はあまりよくないな。話の流れを変えるか……しかし何の話を……。

「あー……そうだ。今の領内でお前たちのどちらが強いかが噂になってるんだが」
「「えっ?」」

 カーマとラークは互いに顔を見合わせた後。

「ボク(私)」

 二人は同時に口を開く。互いに「えっ」と声を漏らして少し驚いた顔をした後。

「姉さまは確かに強いけど、ボクは炎の魔法使い。氷は溶かせるからボクが勝つよ」
「氷の魔法は炎も凍てつかせる。私が勝つ」

 再び同じタイミングで合わせ鏡のように言葉を告げてくる。

 見ていて微笑ましいが……いつまで机の下にいるつもりだろうか。

「ねえあなた、ボクが勝つと思うよね?」
「アトラス、私が勝つ」

 ……絶妙に返答に困るやつ来たなこれ。正直に答えてもよいが……ここはお茶を濁そう。

「どっちもか……」
「「誤魔化したら怒る」」

 濁せなかった。濁ったお茶で誤魔化すのではなく、清い透き通った水を出せとお達しされてしまった。
 
 まだ魔法の優劣でよかったかもしれない。これでどちらのほうが可愛いとか言われたら、怒られるところだった。

「…………魔法の実力は極めて拮抗していて、優劣も甲乙もつけがたい。だがその上であえて豆から油を搾るかのように無理やり」
「「結論を言って」」
「…………ラークかな」

 俺の言葉にラークが少しだけ自慢げな表情を浮かべる。対してカーマは不満そうにしかめ面だ。

「何で姉さまなの! 何で判断したの!」

 カーマが机の下から乗り出して、俺の服を引っ張ってくる。

「……被キル数」

 判断基準はそれだけである。ラークには毎朝起こすたびに氷の魔法を食らい、何度も凍り付けにされてきた。

 その恐ろしさは骨の髄まで染みついている。思い出したら寒さで身の毛がよだつ。

 カーマはその言葉に首をかしげた後、ポンと手をついて。

「じゃあボクもあなたを火で炙ればいいんだね」
「笑いながら処刑を宣告するのやめてくんない!?」
「冗談だよ。でもこれで優劣つけられるのは納得いかないよ! ボクのほうが強い!」
「私」

 ラークも机からはい出てくるが、互いに強さを譲る気はないようだ。

 こうなるとだいたいのオチも見えるから困る。いくら言い争おうが解決などするわけがないなら、行うことはひとつしかない。

「姉さま、決闘だよ! ボクが勝つから!」
「受けて立つ」

 …………こうなるよなぁ。正直この二人の決闘を見届けるとなると命がいくらあっても足りない。

 たぶん互いに最強魔法を撃ちあったら、その余波で俺は人知れず死んでいる。

 …………巻き込まれる前に逃げるか! 俺は二人に背を向けて即座に走り出そうとしたが……。

「どこ行くの?」
「見届け人がいないと決闘できないじゃない」

 俺の足はすでに床と一緒に氷漬けにされていて、更に進行方向には火の壁が展開されている。

 ここまで連携取れて仲もいいのに、何でどちらが強いかをはっきりさせたがるんだ!

 互角でいいじゃん! 最強の二人でいいじゃん! 

 もう逃げるのは無理だ。ならばせめて…………俺が得する方向にもっていこう。

「わかった! だがこれでは面白くない! 負けたほうは罰ゲームだ! 負けたほうはしばらく屋敷の食事を作ること!」

 いつも俺が用意して味気ないし、一度くらい妻の手料理を味わってみたかった。

 そんな軽い気持ちで言った、すごく軽度な罰ゲームのはずなのだが……。

「うう……絶対負けられない。負けたら……」
「必勝」

 先ほどよりも遥かにすごい気合で、カーマとラークは互いににらみ合っていた。

 周囲に吹雪が吹き荒れて火花が飛び散る。明らかに感情の高ぶりによる魔法の漏れで、すごい必死さを感じてしまう。

 …………もしかして二人とも料理作れないのだろうか。
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