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バフォール領との争い

第71話 剣術大会④

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「死ね! 俺が最強の剣士! 俺こそが剣聖レイ様だ!」

 レイは叫びながら漆黒の大剣を構えて、センダイに襲い掛かってくる。

 レギュレーション違反の剣の上に、審判はすでにKOされているのでもうこれは試合ではない。つまり俺が参加してボコってもよいということである。

 俺は席から立ち上がると違法改造エアガンを手元に出現させる。

「カーマ、ラーク行くぞ! あのルール破りの野郎に鉄槌を下すのだ! なるべく苦しめて、最後に無力化する方向でいくぞ!」
「私怨がだだ漏れてるよ……あの人を止めるのは賛成だけど。もう試合じゃないもんね」
「あの剣も気になる」

 俺達が土俵に上がろうとすると、センダイがこちらに笑みを浮かべてくる。

「手助け無用。拙者だけで十分でござる」
「大丈夫だセンダイ。手助けじゃなくて俺が復讐したいだけだから」
「はっはっは。なら拙者がこやつを無力化してからで」

 センダイは剣を片手に持つとレイのほうへと向き直る。

 偽剣聖はそれが不快だったのか、更に顔をゆがめながらセンダイを睨む。

「最強の俺が北の魔導帝国特注の魔剣を持っている! 俺は名実ともに最強の剣士だ!」

 レイは雄たけびをあげながら漆黒の剣を大きく振るった。先ほど審判を襲った闇が発生し、今度はセンダイに向かっていく。

「ふむ。よく分からぬが魔法の類でござるかな。ではこういった手品はいかがかな?」

 センダイが剣を振るう。それと同時に襲い掛かってくる闇は霧散した。

 闇は剣の刀身にかすってすらいないはずなのにだ。あれはまさか斬撃で真空波を起こすやつでは!? 

 俺は再び席に戻ると、ポップコーンを用意して隣の席に戻ったカーマに話しかける。

「解説のカーマさん、あの漆黒の剣の闇とセンダイの技はどう違うのでしょうか?」
「ボク解説じゃないよ……。漆黒の剣は魔法を使ってるね、センダイさんのは……よく分からないけど魔力は感じない」
「力技」

 なるほどやはり真空波か。そんな芸当があったなら今までに披露してくれてもよかったのに。

 偽剣聖ことレイ君は、闇の斬撃が簡単に防がれたことに唖然としている。

「ば、バカな……剣士が魔法に勝てるはずが!」
「はっはっは。そうなんでござるよなぁ。剣士は戦場で魔法使いに勝てない、そうなってしまっているのは真に無念」

 センダイは自嘲気味に笑いながら酒瓶を口にふくむ。その言葉には少し悲し気な感情がこもっていて珍しい。酒以外であいつに動く感情があったとは。

 戦場において剣士が魔法使いに勝てないのは当然だ。不意を突いたり至近距離から襲ったり、魔法を使われる前に殺さなければ勝ち目はない。

 大砲相手に剣で勝つなど無茶を通り越して無謀だ。
 
「そんな当たり前のことを今更! 剣で魔法に勝てるものかよ!」

 偽剣聖レイは漆黒の剣を振りかぶりながら叫ぶ。このことに関しては俺もレイの意見に賛成だ。

 カーマやラークに剣なんぞで勝てる気がしない。それどころか某防壁の魔術師――カール領で戦ったりジャイランド討伐でにぎやかしに来た魔法使い。

 戦場ならばあいつにすらこの剣聖はフルボッコにされるだろう。強いだけの一兵士と戦術兵器の武器。

 それほどの差が剣士と魔法使いにはある。

「拙者なぁ。放浪していた時に幼子の魔法使いに負けたのでござるよ。そのお方は拙者のことなど覚えてすらおらぬだろう。だからこそ拙者は剣士ではなく、人として強くならんと決めた」

 センダイはそう告げるとこの大会で初めて両手で剣を構える。

 その構えは普段のへべれけ剣とは違い、ムダな動きはなく微動だにすらしない。

 剣豪と呼ばれるに相応しい雰囲気をかもしだしている。

「我が鍛えし太刀は岩を斬り、空を斬り、そして今日に魔法を斬る」

 センダイは告げる。それはレイにというより、己に対して呟くかのような。

「ならば魔剣ごとき何するものぞ。今ここに魔を切り裂こう」
「何をゴチャゴチャと! 死ねぇ!」

 レイは地面を叩き割るような勢いで漆黒の剣を振るった。

 先ほどよりも遥かに大きな闇がセンダイに向けて襲い掛かる。

「はっはっは。お主に感謝しよう、魔法使い相手の練習になった」

 センダイは鋭く剣を縦に振るった。その瞬間に巨大な闇は完全に霧散し、センダイとレイの間の地面に一筋の地割れ線が作られた。

 そして――レイの持っていた漆黒の剣が、縦に真っ二つに割れた。

「……は?」

 レイが茫然と自分の持っていた剣だったものを見る。その隙を逃す酔っ払いではない。

 その間抜けな顔にセンダイの飛び蹴りがさく裂し、偽剣聖は無様に吹き飛ぶ。

「やはりこの剣では耐えられなかったでござるなぁ」

 センダイは刀身が木っ端みじんに砕けた剣を投げ捨てた。どうやらコロシアムからもらった剣は壊れてしまったらしい。

 剣を失ってもすぐに格闘技に持ち込むのは、本当に戦場慣れしているというか。

 まあこれで決着はついたな。俺は席から立ち上がると土俵に登ってセンダイのそばにいく。

「じゃあ続きは俺が」
「ご自由にどうぞでござる」

 倒れて気絶している偽剣聖に向けて、俺は水道ホースを取り出して地面に叩きつける。

 奴隷商人などと言ってくれたのだ、せっかくだから俺の鞭捌きを教えて進ぜよう。

 いやそれだけでは足りない。もっと嫌がらせをしてやる。

「天誅!」

 俺はヘアカラースプレーを構えて、気絶した偽剣聖に襲い掛かった。

 

ーーーーーーーー


「天誅完了」

 俺の背後には七色のロン毛髪を持った偽剣聖が爆誕していた。

 丁寧に縦に七色に塗ったので、ハゲにするか長い時間待たないと色は落ちないだろう。

 ついでに財布の中身も半分ほどもらっておいた。髪染め代として。

「これぞセサル直伝七色染め……!」
「いつ習ったの?」
「実は特に習ってない」

 カーマからジト目で見られているが無視。

 俺が偽剣聖の髪を七色に染め上げたのには理由がある。

 無様に負けて七色髪、もしくはハゲになったら派手に目立って恥ずかしい。

 つまり敗者の烙印を押してやったのだ。命を狙われたのだから、これくらいは反撃はさせてもらう。

「おっと。忘れてたでござる……おろろろろろ」

 センダイから偽剣聖トドメがなされた。ヨシ。

 やりたいことは全部やったので審判を起こす。審判は周囲の状況を確認した後。

「……レイ選手が無残な姿になりました! フォルン領の酔っ払いセンダイ選手の優勝です!」

 その言葉とともに観客から歓声が巻き起こる。

 これでフォルン領の評判は上がるだろう。何せ優勝した上に卑怯な手段を取った男を、実力でぶちのめしたのだから。

 耳をすませばフォルン領やセンダイへの賞賛の言葉が聞こえる。

「ひどいわ……レイ様おかわいそう! 何もあそこまでしなくても!」
「人間のクズよ! あんな奴ら!」
「汚い」

 女どももとい国の裏切り者候補が、事実無根な罵詈雑言をほざいていた。

「って最後ラークだろ!」
「バレた」

 ラークは席に座ったまま、無表情でケーキを食べ続けている。

 やれやれ、俺達はルール違反の悪漢をぶっ飛ばしたというのに。

「ぶっ飛ばしたのはセンダイさんだけで、あなたはただ追い打ちというか追い剥ぎしただけじゃ……」
「正義の鉄槌と言ってくれ」
「不義だと思う……」

 まあ見ようによってはそういう見方もあるかもしれない。

「……あのセンダイっておっさん、どこかで見たことあるような」
「お前もか? 実は俺も最後の一振りが……」

 観客席のほうから何やら気になる声が聞こえてくる。

 センダイの知り合いらしき観客もいるようだ……実はセンダイって元有名人なのでは。

 剣技も明らかに常人の強さではないし……気になりながら珍しく真面目に戦ったセンダイのほうに視線を向けると。

「ひっく……」

 俺の懸念を完全否定するように、酒瓶を抱いて居眠りしている酔っ払いがいた……。
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