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バフォール領との争い

第67話 フォルン領に帰還

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 ラークの転移でフォルン領へ屋敷へ戻ると、門の前でセバスチャンが待ち構えていた。

 手に斧を持ってないのを確認して俺はセバスチャンに近づく。

「アトラス様! 憎きバフォール領を壊滅させ焦土にしたとのこと! おめでとうございます!」
「いやしてないが」
「ではアデルを探してきます。是非バフォール領が潰れたことを説明してください。奴のもはや唯一のよりどころは粉砕されたことを!」

 バフォール領を壊滅などと人聞きの悪い。ベフォメットに対する肉壁にする領地を、壊滅させるわけがないだろう。

 セバスチャンは深々と礼をしてここから去ろうとする。

 相変わらずセバスチャンがセバスチャンで安心した。

「……ところでアデルはどこにしまっておりましたかな。豚小屋のひとつに押し込んだはずなのですが」

 相変わらずアデルの扱いは変わってないようだ。

 王家が取りに来るまでは生かしておく話だった気がするが……。

 正直バフォール領が潰れた今となっては、唯一の価値だった領主の息子ですらなくなってしまった。

 冗談抜きで存在価値がないので、本当にどう扱えば正解なのだろうか。

「セバスチャン、後で執務室にいつもの面子を集めてくれ」
「ははっ!」

 そう言い残すとセバスチャンは凄まじい速度で走り出していった。

「相変わらずご老人とは思えない……」
「怪物の類」
「おいおい。セバスチャンは忠臣だぞ。怪物なんて失礼な、あいつは妖怪だ」

 セバスチャンは老人の姿をした妖怪である。妖怪寝ずの翁。

 夜も眠らず朝早くに必ず起こしに来る老人。惰眠を貪る者いれば斧を振るってくる。

 寝坊したら寝ずの翁が襲ってくるぞ……完璧に行動原理が妖怪のそれである。

 セバスチャン妖怪説を語りながら執務室へと戻ると。

「おお、アスタロ殿。無事に帰って来たでござるな」
「誰がアスタロだ」
「冗談でござるよ。アストラン殿」
「余計に遠ざかったが」

 センダイが顔を真っ赤にして酒を飲んでいた。床にはいくつも酒瓶が転がっている。

 やれやれ、いつも通りの光景だ。本当にこいつは……いや待て。

 床に転がっている瓶に見覚えがある、あれは俺のとっておきでは!?

「センダイ! その酒どこで!」
「ここの床の下に置いてあったでござる」
「隠してたんだ! お前どうやって見つけたよ!? 俺の酒を返せ!」
「もう空でござるよ。何、床から酒精の香りがした故」

 俺は思わず床に崩れ落ちる。た、楽しみにしていた酒が……。

 やはり酒を置いておくべきではなかった……こんなことなら吐きながらでも飲んでおけばっ……!

「それとアトラス殿。フォルン領の東にある未開のレード山林地帯、少し調査する必要があるのでは?」
「……放置したい」
「何かあってからでは遅いでござる」

 センダイの至極もっともな意見。

 フォルン領は元々、東西南をレード山林地帯に囲まれていた。

 西は開拓が進んでいるが東は手つかず。そして西にいた雑魚のように溢れるボスクラスの強さの魔物たちが、東側に逃げて行ったという報告もある。

 東側も調査してどういう状況かくらいは把握しておかねばならない。

 今まではありがたい状況だったんだけどな。バフォール領との間に魔境があるのは。

 レード山林地帯は並大抵の戦力では突破どころか、五分生き残ることすら不可能。
 
 つまりバフォール領との間には、立ち入り無念の天然の無敵要塞が存在していた。

 いざとなったら魔境の魔物をバフォール領に追いやる作戦もあったくらいだ。

 当然魔物の制御など出来ないので、バフォール領は崩壊するが些細な事だ。

「わかった。では近いうちに向かうように前向きに善処しよう」
「「「それ絶対行かない」」」

 俺の言葉は欠片も信じてもらえず、帰って来たこの足で東レード山林地帯に連行された。

 今回の面子はセンダイ、カーマ、ラークと俺。様子見のためにライナさんやセバスチャンは誘わなかった。

 あの二人は様子見にとことん向かない人選だからな。片や敵に突っ込んでいく狂戦士、片やすぐさま玉砕しようとする老いぼれ。

 ……非戦闘員のセバスチャンを、もはや完全に戦力に見ている件について。

 俺達は森の入り口についたので周囲を観察する。小鳥のさえずりやドラゴンの咆哮は聞こえない。

 だが森から異様な雰囲気を感じる。……例えるならば自殺スポットの深き樹海のような。

「……よし。ヤバイ雰囲気を感じたので撤退だ」
「まだ一歩たりとも踏み入れてないでござる」
「そうだよ。ボクたちも頑張らないと! あのエフィルンさんに負けないように強くなりたいし」
「……強くなる」

 カーマとラークが燃えている。どうやら自分たちよりも格上の存在を知って、ライバル心が芽生えたようだ。

 是非頑張って欲しい。二人が強くなればその分フォルン領が強化されるし。

「……わかったよ。行けばいいんだろ行けば」

 俺は諦めて樹海への一歩を踏み出した。その瞬間に周囲一帯に大量の魔物の叫び声が響き渡る。

 あまりの五月蠅さに思わず両手で耳をふさいでしまう。

「…………俺達はこの魔境への輝かしい第一歩を踏み出した。なので帰ろう」
「まだ一歩しか踏み入れてないよ!?」
「大丈夫だ。0と1はものすごく違う。次は更に倍進むから」
「それ次も二歩しか進まないよね!?」

 俺の言葉はガン無視されて、カーマたちは奥へと進んでいく。

 ……どうする。中に入るのは当然危険だ。だがカーマたちから離れるのも危ない。

 今この瞬間にも俺が狙われている可能性は大いにある。自慢ではないが俺はすごく弱いので、格好の獲物だと思う。

 そんな俺の考えに答えるように近くで魔物の叫び声……とりあえずカーマたちについていくことにした。

 だがそれは間違いだった。いやそもそも正解はなかったのかもしれない。

「だから来たくなかったんだ! 何だよこの魔境! パワーアップしてるじゃねぇか!」
「すごい! 新種のドラゴンに新種のオーガ、新種のよくわからないのまでいるよ!」
「……名状しがたい何か」

 俺達は入り口に向けて全力で走っていた。端的に言おう、ここ死地。

 西のレード山林地帯はボスクラスの魔物が雑魚のようにいた。

 では東のレード山林地帯はというと……裏ボスクラスの魔物が雑魚みたいに出てくる。

 見たことのない魔物ばかりが生息していて、俺の知っている超強力な魔物たち――クイーンアルラウネやレッドドラゴンが死体で転がっていた。

 つまり彼らは生存競争に敗れたというわけで……もはや魔境すら生ぬるい。

「ふざけんな! こんな土地存在したらダメだろ!? どうなってんだ!?」
「ふむ。元々レード山林地帯は魔物の蟲毒でござった。その蟲毒で生き残った魔物が、更にこの場所に集められて蟲毒になったか」
「誰だそんなバカみたいなことしたやつ! 俺だよ!?」

 どうやら俺は存在してはいけない土地を生み出してしまったらしい。

 裏ボスが大量発生する人外魔境。これでバフォール領への備えは万全だー。

 絶対にこの山林を越えることは出来ない。もし越えられる奴がいたら世界滅ぼせるだろ。

 逃げる俺の後ろから追いかけてくるは漆黒の龍1ダース。

 信じたくないのだがバズーカの直撃で無傷だった。カーマやラークの魔法も効いてはいそうだが倒すには及んでいない。

 一頭倒すだけでもかなりの力を使う必要があるだろう。そんなのが1ダース無理。

 本当に何で群れてるの!? 裏ボスの誇りを持ってくれ!?

「裏ボスがダース単位で出てくるんじゃない! これどうする!? 下手に逃げたらフォルン領にトレインするぞ!?」
「空飛ぶゴーレムは!?」
「あんなの乗り込む隙があるか!? いやない!」

 後ろから襲い掛かってくるメインストーリークリア後の裏ボス×12を前に、もはや成す術はないのだろうか!?

 そんなことを考えていると、裏ボスたちがド派手にこけた。

 その衝撃で巨大な地割れが起き、こけた一頭にぶつかられた巨岩が木っ端みじんになった。

「えっ?」

 思わず後ろを振り向くと立ち上がろうとするドラゴンたち。

 彼らの足もとを見ると氷が張っていた。

「地面凍らせた」

 ラークがボソリと呟いた。グッジョブ! ドラゴンたちは凄まじい速度で走っていたから、氷で簡単に滑ったのか!

「裏ボスのくせにスタン攻撃効くのか! よし逃げるぞ!」

 俺は即座にヘリコプターを購入し、全員が乗り込んだところで空へと舞いあがる。

 だがドラゴンたちは飛翔しヘリコプターに襲い掛かってくる。

「おかしいだろ!? レード山林産のドラゴンは飛べなかったろ!?」
「蟲毒の中で生き残るため進化し、失った翼を骨身を削る想いで生やしたのでござろう」
「そこまでしないと生きていけないなら、大人しく死んでいて欲しかったな!?」

 俺は必死にヘリコプターを操縦し高度を上げていく。ドラゴンたちはヘリを襲おうと向かってくるが。

「焔よ踊れ、焔が嗤う」
「氷が唄う、結露の嘆き」

 カーマとラークが魔法を発動。ヘリに近づいたドラゴンたちの羽根が燃え、凍り付いていく。

 飛ぶ力を失ったドラゴンは高高度から地面に墜落し……俺達に向けて怒りの遠吠えをしてくる。

 …………高度100メートル以上はあるんだけど、何で生きてるんですかね。

 追いすがって来たドラゴンを全て撃ち落とし、フォルン領へと脱兎のごとく逃げ出した。

 なお着陸は未だに出来ないので、いつものようにヘリコプターは乗り捨てた。
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