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バフォール領との争い
第63話 一肌脱いで
しおりを挟むバイコクドンを捕らえて、広場で公開処刑でヅラを暴露させた翌日。
バイコクドンの屋敷の食堂。食事をしながら書類を見ていて、バフォール領の恐ろしい内情を知って恐怖していた。
詩的に言うと人間が生きるための希望がない。端的に言うと金と食がない。
「……さてと。じゃあそろそろ希望の地フォルン領に帰るか」
「放置したら、ここの領地の人は飢え死んじゃうよ?」
「いいかカーマ。知らない人間が万人不幸になっていたとしても、認知しなければ俺の世界では起きていない」
我ながらクズな発言だが本音なので仕方ない。
俺は聖人ではないからな。全く顔も知らない上に、俺をクズアトラスと呼んだ多数の民衆どもだ。
クズと言った奴らめ……顔は覚えたから復讐してやる……!
「顔覚えてるよね!? 知り合いだよね!?」
「奴らを不幸にするためなら出費も辞さない」
他人のために貧乏になるなどごめん被る! だが復讐のためなら大枚をはたくこともやぶさかではない!
「この領地は金もないしな。バイコクドンがベフォメットに貢ぎまくったせいで」
書類を見ると明らかに理由不明の出費が多々ある。これ間違いなく貢物に使っただろ。
金があったなら俺が食料を用意してやったが、ないなら嫌だよ。
「王家から支援も来るんだろ?」
「……要請はした。でも時間がかかる」
ラークがケーキを食べながら呟く。
時間がかかるのは仕方ない。民衆を食わせる食料を用意して運搬も必要だからな。
そんなことを考えながら【異世界ショップ】で購入した高級肉を食べる。
「あー! 民衆が飢えてる中で食べる肉はうまい!」
「「酷い……」」
「うるさい! 散々クズだのボケだと言われまくったんだぞっ!」
俺の中で元バフォール領の民衆は救う対象にないのだ。
例え偽物に騙されていたのだとしてもっ! 俺は九百九十九回以上もクズアトラスとかの暴言を食らったんだぞっ!
怒りに震えながらカウントウォッチで計っていたらカンストしていたのだ。本当舐めてるのかと。
そもそも元バフォール領の金には一切手出ししてない。搾取したわけでもなく、自分の金で贅沢して何が悪いのか。
……いや悪いんだろうけど。でもあそこまで悪口言われたら、助けたくもなくなるというか。
カーマたちからの視線も痛くなってきたので、そろそろ潮時のようだ。
「わかったよ。俺も本当のクズにはなりたくないからな。王都の支援が来るまでは弁当を配る」
「ほんと? よかったよ。お父様も困ってたから」
「最近太っ腹」
「最近太ったみたいな言い方やめろ」
「最近太ってる」
「罵詈雑言にしろって意味じゃない」
カーマとラークが俺を褒めてくる。彼女らは俺だけが全てを用意すると勘違いしたのだろう。
だが甘いぞ。ケーキやアイスのように甘いぞ。
今回は俺にメリットがなさすぎる。悪いが俺は自分に利益がなければ、梃子でも動かぬ!
この二人は姫君だ。下々のことなど分からないだろうし、お金稼ぎなどしたこともないだろう。
それはよろしくないと思う。やはり社会勉強は大事だ。そういうわけで。
「二人には金稼ぎに一肌脱いでもらうから」
「「えっ」」
俺は【異世界ショップ】に二人を連れて転移。
カウンターで待ち構えていたミーレの元に近づくと。
「ミーレ。この二人のコスプレ写真、いくらで売れる?」
「……その発想はなかったよ。君、変な事ばかり思いつくね」
ミーレはカーマとラークを観察した後、手元にソロバンを出して叩き出す。
「うーん……エロ本はあり?」
「却下」
「じゃあ少しきわどい感じのグラビアは?」
「却下」
「却下却下って! そんなんじゃ厳しい芸能界を生きていけないよ!」
ミーレの熱のこもった叫び。勝手に芸能界で暮らさせないで欲しい。
目が血走ってるのでミーレが見たいだけだろう。さっきからカーマとラークを見てはぁはぁと息を切らせている。
テレビで映していいのか微妙なところだ。どうやらミーレは百合属性だったらしい。
「残念だったな! そういうのは俺の独占だっ!」
「ずるいっ! せっかく売れそうなのに! 一脱ぎごとに買い取り価格が十倍に跳ね上がるよっ!」
「お金で買えない価値ってあるんだよ」
変な写真を撮って売って、それが油ぎったオッサンの行き来するキャバクラの看板にでもされてみろ。
一生ものの思い出になるぞ。たまに日常生活中に思い出して、あーっ! って叫ぶ感じの。
「……わかった。性的なのはやめるよ。全裸で手ブラまでなら問題ないから……」
「お前は性的の意味を調べてこい。てか自分でやれ」
「嫌だよ! 何でそんな生涯の恥になることやるのさっ!」
お前、カーマとラークと同じ顔だろうが。
「えーっと……ボクたちどうすればいいの?」
「まあてきとうにやっといてくれ。変な要求されたら、ミーレは燃やしていいから」
ミーレは俺の言葉が聞こえてないようで、何やらブツブツと唱えている。
「紐ビキニはセーフとして……絆創膏も許されるはず」
「論外だ。それはそうとして、これって買い取れる?」
俺はミーレに三枚の写真を渡す。そこにはクソデブハゲ、アデル、バイコクドンの汚物三点セットが映っていた。
この写真にも使い道はあるはずである。例えば整形ビフォーアフター写真のビフォー状態とかで。
とはいえ汚物三点セットだ。価値がゼロの可能性も大いにあり得る。
ミーレは嫌そうに写真を見た後に。
「金貨十枚」
「まじでか」
何と言うことだろう。汚物三点セットに価値がつくとは。
いったい何に使うのだろうか。この写真に比べればお前らは美少年とでもいうのだろうか。
「引き取り代ね」
汚物三点セットの価値はマイナスだったようだ。
「さてと。じゃあここからが本題だ。コンビニで廃棄された消費期限切れの弁当を大量に欲しい」
「……テロでも起こすの?」
「違う。民衆に配って食わせる」
「飯テロ以外のなにものにも聞こえないんだけど!? 食中毒出ても知らないよ!?」
「大丈夫だ。胃薬は用意しておく」
「胃薬に全幅の信頼を置きすぎてるよっ!」
ミーレは叫んでいるがたぶん大丈夫。日本の弁当の消費期限は余裕を持っているはずだ。
やばそうならカーマに熱してもらおう。から揚げとか米とか全て、ドロドロの液体にすれば細菌も死ぬだろ。
もちろん消費期限切れの弁当なのは嫌がらせだけが目的ではない。
安く買いたたけるというメリットがある。
「ちなみに消費期限直前のでも値段変わらないけど」
「……食べ物は腐りかけがうまいって言うだろ!」
「腐ってたらマズイと思うよ!?」
「いいんだよ。いざとなったら胃薬飲ませるから」
「だからその胃薬への信頼は何っ!?」
バカ野郎。胃薬は天下の妙薬だぞ。
俺がラークに凍り付けにされた後、腹が冷えて常に胃薬飲んでるくらいだぞ。
「ダメだよ! 消費期限切れの弁当なんて売れない! 私だって店員の端くれだ! 守るべき誇りがある!」
「写真だが少しはだけるくらいは許そう」
「消費期限一週間オーバーまでなら用意できる」
随分と軽い店員の埃だな。
流石に消費期限一週間オーバーはまずいので、ギリギリアウトのものを大量に用意させた。
そしてカーマたちの撮影会が行われている。
「いいねいいね! もう少し肩出してみようか!」
「うう、何でこんなこと……」
「……恥ずかしい」
ミーレがカメラを持って縦横無尽に駆け巡り、カーマやラークの姿を四方八方から撮影している。
さっきから何度も着替えさせたりして大変そうだ。
「はぁはぁ……ほらほら! もっと脱いでっ! 下着姿にあっつぃ!?」
「もうやだ! 自分と同じ見た目の人を燃やすのつらいんだけど!?」
時たま服を脱がそうとするミーレに対して、カーマは魔法をぶつけるたびに苦しんでいた。
あれだ。自分の偽物と戦うのはこんな感じなのだろう。
「よかったじゃないか。自分の偽物と戦うなんて、そうそうできる経験じゃないぞ」
「そんな経験したくないんだけどっ!?」
「これくらい思い出話だろ。それとも俺みたいにクソデブハゲを偽物にされたいか?」
「ごめんなさい」
ノーモアクソデブハゲ。
結局弁当を安く用意できるようになったので、王家の支援が来るまで餓死者は出ないだろう。
カーマたちも社会勉強できたし、俺は可愛い写真を大量に手に入れたので完全勝利である。
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