66 / 220
バフォール領との争い
第62話 マッチポンプ
しおりを挟む俺達は民衆を腐り欠けのコンビニ弁当で従えた後、バフォール領主の屋敷を占領していた。
バフォール領主はベフォメットに出かけているらしく、もぬけの殻のところを奪った形だ。
今はバフォール領の兵士たちを使って、家から金目の物を回収している。
この街を抑えた今、バフォール領は手に入れたも同然。
「アトラス様。この悪趣味な絵画はどうしましょう」
「そこらに置いといて」
「この凍ったサクラたちはどうしましょう」
「そこらに置いといて」
実に趣味の悪い物ばかりだ。やはりバフォール領主はセンスがない。
俺の旧屋敷の家具全てよりも高い家具とかセンスない。
ムダに値段だけ高い家具を見て嫉妬……辟易していると、元バフォール領兵士長が俺の元へ走ってくる。
「アトラス様。バフォール領主が戻って来た時に備えて、断頭台を整備しておきます。どうか首を斬るのは私にお任せを」
「不要だ」
処刑なんぞするつもりもない。あいつも徹底的に痛めつけた後に、レスタンブルク国に献上する予定だ。
兵士長も俺の意図に気づいたのか頷いた後。
「錆びた刃のほうが死ぬ時の苦しみが増すということですね。処刑は是非とも私にやらせてください」
「ちげーよ。処刑しないんだよ」
「なんと!? それでは私が今まで兵士長になっていた理由が虚無に!?」
「お前は主君を殺すために兵士長になっていたのか!?」
この兵士長怖すぎる。俺が何かしなくても、そのうちバフォール領崩壊してたかもしれん。
「それでバフォール領主が戻ってきました」
「違う」
「失礼しました。クズが戻ってきました」
「よし」
俺は兵士長に連れられて、元バフォール領主の元に案内される。
そこでは奴が紐で縛られて、兵士たちに罵詈雑言を受けていた。
「貴様ら!? 何をするっ!」
「黙れ! お前はもうただのクズなんだよ!」
「よくも今まで偉そうにしてくれたな! このヅラ野郎が!」
「違うぞ!? 事実無根だっ!」
そりゃまだ事実無根だろう。だって今から永久脱毛して無根にする予定だし。
俺は縛られた元バフォール領主を見下すように睨む。
こいつのせいで俺は散々な目にあった。カーマたちとの結婚は邪魔されそうになるし、クソデブハゲを偽物に立てられるしで。
「やあ元バフォール領主、いやバイコクドン」
「なっ!? フォルン領主が何故ここに!?」
バイコクドンは俺を見て驚きの表情を浮かべた。
奴からすればベフォメットから帰ってきたら、いきなり縛られたあげく俺がいたのだから。
「まあ落ち着け。まずはそうだな、温かいのと冷たいのどちらが好きだ?」
「なんだ? 紅茶の話か? それなら冷たいほうが」
「いや凍り付くのと火だるまのどちらがよいかなと」
温かい担当のカーマと、冷たい担当のラークが俺の後ろで待ち構えている。
二人ともバフォール領主に対して冷たい視線を送っていた。慈悲はない。
「ふ、ふざけるなっ! 私はバフォール領主だ! 貴様の行動は国に抗議して……!」
「はははっ、おめでたいやつだな。国に抗議できるなんて夢を見てるなんて……五体満足で帰れるとでも?」
具体的には頭の頂点部分が涼しくなるだけだが、バイコクドンは俺の言葉に口をパクパクさせる。
徹底的に脅して、生きて帰れることを至上の喜びと誤認させよう。
背骨の二本程度で済めば幸運、話はそれからだ。
「待てっ! 実は私も君に話があったのだ! ここは二人きりで話をしようではないか!」
「俺に何のメリットが?」
「実は私は王家にも内緒で、ベフォメットの情報を探っているのだ! 不幸な行き違いこそあったが色々と教えられる!」
どうやらバイコクドンはベフォメットにスパイしていると言いたいようだ。
こんなクズがスパイだなんて、全国の本物スパイに謝るべきだと思う。
カーマや兵士たちを部屋から退出させ、二人だけの状況を作りだす。
「話ってなんだ? つまらない話なら鞭で叩くぞ」
「一緒にレスタンブルク国を裏切らないかへぶしっ!?」
俺は返答代わりに水道ホースを叩きつけた。奴は顔を腫らしながらも話を続けてくる。
「レスタンブルクは我らのことをぼへっ!? 考えていないっ! 君もっ!? いずれ捨て駒にっ!? やめてっ!? せめて口開いてる時は叩かないでくれっ!?」
「お前の言葉より、ホースの出す音のがいくらかマシだし……」
水道ホースの打撃音とバイコクドンの悲鳴が、悪趣味なコーラスを奏でる。
だって死ぬほどつまらない話をする奴が悪い。
「ジャイランドの時も支援されずぼへっ! 領地の利権は奪われがはっ! それでよいのか!?」
バイコクドンは水道ホースで叩かれながら根性で喋り続ける。
すごいなこいつ……。
「私には洗脳薬があるっ! これで双子の姫も思うがままだっ! もはや君がレスタンブルクに従う必要はぼぼはぁ!?」
「……まあ確かに。レスタンブルクが理不尽と思うことはある」
俺の言葉にバイコクドンは薄気味悪い笑みを浮かべた。
きっと奴は俺が同意したと思ったのだろう。
「そうだろう! ここで我らが手を組み! レスタンブルクを滅ぼして、王にげぼふぅ!?」
俺は水道ホースで渾身の一打を放ち、バイコクドンの頬にぶち当てた。
「まずお前と組むなんてあり得ないんだよ!」
「ぼへっ!?」
「ジャイランド討伐時、魔法使いの支援が来なかったのはベフォメットの怪しい動き。つまりお前のせいでもあるだろうがっ!」
「ごぼぉ!?」
「しかもテンサイとか渡したのも、ベフォメットが諸悪の根源だろうが!」
俺は水道ホースでフォルン領の仇とばかりに、バイコクドンを叩き続ける。
王国からの理不尽な要求は、基本的にベフォメットの不穏な動きが原因なのだ。
ベフォメット関係なかった芋の時は、ラークというか転移魔術をくれたし。
つまりこのバイコクドンのせいでもある。こいつが裏切っていたせいで!
こいつの言ってることは全て、原因もこいつ自身が作り出したものなのだ。
例えるなら品薄にした転売屋が、メーカーに品薄の文句を言うようなもの!
おのれ転売ヤー! 奴らのせいで俺は新作ゲームを買えなかったんだ!
「もう話は終わりだ。遺言を聞こう」
「待てっ! 考えるんだ! あの双子姫は君の味方なのかっ!? 王家の味方ではないか!? 私を選べば、双子姫も心の底から君の味方にできるぞっ!」
「お前さ、1引く1も出来ないだろ」
「は?」
間の抜けた顔をするバイコクドン。俺が裏切らないことなど簡単である。
「美少女姉妹とオッサンで、誰がオッサンを選ぶかっ! 鏡見てから言えやっ! 地獄に落ちろ、転売屋っ!」
水道ホースに強化アタッチメント――シャワーヘッドを装着し、バイコクドンのみぞおちに打ち付けた。
奴は悶絶した後に気絶して床に倒れ伏した。悪は滅びた。
俺と交渉したいなら三回くらい異世界転生して、徹底的に性格をろ過されて小柄な美少女になってから出直してこい。
そもそもだ。俺は王家に文句の百……いや千も言うが、反逆するようなことを考えてなどいない。
全く不満のない上司など幻想だし、カーマたちが目に余ることをしてるならとっくに対策してる。
あの二人と結婚した時点で、王家にある程度利用されるのは覚悟してるんだよ。
そのうえでこの国最強の魔法使い詐欺になると約束したんだから。レスタンブルク国がなくなると、カーマたち悲しむし。
…………ベフォメットとの戦争終わったら、損した分は返してもらうつもりだけど。
「おーい。終わったから入っていいぞー」
俺の言葉に部屋の外で待っていたカーマたちが入室してくる。
彼女らは気絶したバイコクドンを見て、全てを察したようだ。
「話ってなんだったの?」
「同性愛者です、双子姫より俺をどうですか。ってカミングアウトしてきた」
「ええ……」
ついでなので多少事実を捻じ曲げて、バイコクドンに新しい属性を追加することにした。
ヅラホモか。なかなか罪深い組み合わせだ。
「……断ったよね?」
「そんな恐ろしい質問するのやめてくれます!?」
何故受けた可能性を考慮する!? 俺はオッサンなんぞ大嫌いだっ!
ましてやバイコクドンなど身の毛がよだつわ!
「まあとりあえずこれでバフォール領は終わりだ。後はこいつをヅラにして、民衆に見せびらかせば終わり」
「お待ちくださいっ!」
俺の決定事項に兵士長が異議を唱えてきた。なんだよ、もう決定事項なのに。
「ここは断首すべきですっ! 我らはここ数年、飢餓に苦しんできました! どうか復讐をさせてくださいっ! これは全ての領民の願いですっ!」
兵士長は俺に頭を下げてくる。
「復讐したいのなら殺すのはダメだ」
「へ? しかしこやつが死ねばみんな喜びます! 貴方は心清き臆病者なのでしょうが、ここはひとつ」
「けなしてるのか褒めてるのかはっきりしろ」
「人も殺せぬ貴族失格の臆病者でしょうがここはひとつ」
「よし表に出ろ! その喧嘩買ってやる!」
この兵士長! めちゃくちゃよい性格してやがる!
だがこいつは復讐の素人のようだな。俺は兵士長に諭すように呟く。
「殺したらその喜びはすぐに終わるぞ。死ぬ寸前までで抑えておけば、何度も楽しめる」
「……た、確かに!」
皆、復讐と言えば殺すと安直に考えすぎなのだ。
生き地獄という言葉もあるし、殺すことだけが復讐ではない。
「貴族失格の臆病者の言葉には含蓄がありますね。確かに処刑が全てではないですね」
「カーマ、バイコクドンと兵士長の毛根を全て焼き払ってくれ」
結局バイコクドンの頭を焼野原にして、民衆の前でヅラ外しの刑に処した。
0
お気に入りに追加
1,350
あなたにおすすめの小説

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる