【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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バフォール領との争い

第62話 マッチポンプ

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 俺達は民衆を腐り欠けのコンビニ弁当で従えた後、バフォール領主の屋敷を占領していた。

 バフォール領主はベフォメットに出かけているらしく、もぬけの殻のところを奪った形だ。

 今はバフォール領の兵士たちを使って、家から金目の物を回収している。

  この街を抑えた今、バフォール領は手に入れたも同然。

「アトラス様。この悪趣味な絵画はどうしましょう」
「そこらに置いといて」
「この凍ったサクラたちはどうしましょう」
「そこらに置いといて」

 実に趣味の悪い物ばかりだ。やはりバフォール領主はセンスがない。

 俺の旧屋敷の家具全てよりも高い家具とかセンスない。

 ムダに値段だけ高い家具を見て嫉妬……辟易していると、元バフォール領兵士長が俺の元へ走ってくる。

「アトラス様。バフォール領主が戻って来た時に備えて、断頭台を整備しておきます。どうか首を斬るのは私にお任せを」
「不要だ」

 処刑なんぞするつもりもない。あいつも徹底的に痛めつけた後に、レスタンブルク国に献上する予定だ。

 兵士長も俺の意図に気づいたのか頷いた後。

「錆びた刃のほうが死ぬ時の苦しみが増すということですね。処刑は是非とも私にやらせてください」
「ちげーよ。処刑しないんだよ」
「なんと!? それでは私が今まで兵士長になっていた理由が虚無に!?」
「お前は主君を殺すために兵士長になっていたのか!?」

 この兵士長怖すぎる。俺が何かしなくても、そのうちバフォール領崩壊してたかもしれん。

「それでバフォール領主が戻ってきました」
「違う」
「失礼しました。クズが戻ってきました」
「よし」

 俺は兵士長に連れられて、元バフォール領主の元に案内される。

 そこでは奴が紐で縛られて、兵士たちに罵詈雑言を受けていた。

「貴様ら!? 何をするっ!」
「黙れ! お前はもうただのクズなんだよ!」
「よくも今まで偉そうにしてくれたな! このヅラ野郎が!」
「違うぞ!? 事実無根だっ!」

 そりゃまだ事実無根だろう。だって今から永久脱毛して無根にする予定だし。

 俺は縛られた元バフォール領主を見下すように睨む。

 こいつのせいで俺は散々な目にあった。カーマたちとの結婚は邪魔されそうになるし、クソデブハゲを偽物に立てられるしで。

「やあ元バフォール領主、いやバイコクドン」
「なっ!? フォルン領主が何故ここに!?」

 バイコクドンは俺を見て驚きの表情を浮かべた。

 奴からすればベフォメットから帰ってきたら、いきなり縛られたあげく俺がいたのだから。

「まあ落ち着け。まずはそうだな、温かいのと冷たいのどちらが好きだ?」
「なんだ? 紅茶の話か? それなら冷たいほうが」
「いや凍り付くのと火だるまのどちらがよいかなと」

 温かい担当のカーマと、冷たい担当のラークが俺の後ろで待ち構えている。

 二人ともバフォール領主に対して冷たい視線を送っていた。慈悲はない。

「ふ、ふざけるなっ! 私はバフォール領主だ! 貴様の行動は国に抗議して……!」
「はははっ、おめでたいやつだな。国に抗議できるなんて夢を見てるなんて……五体満足で帰れるとでも?」

 具体的には頭の頂点部分が涼しくなるだけだが、バイコクドンは俺の言葉に口をパクパクさせる。

 徹底的に脅して、生きて帰れることを至上の喜びと誤認させよう。

 背骨の二本程度で済めば幸運、話はそれからだ。

「待てっ! 実は私も君に話があったのだ! ここは二人きりで話をしようではないか!」
「俺に何のメリットが?」
「実は私は王家にも内緒で、ベフォメットの情報を探っているのだ! 不幸な行き違いこそあったが色々と教えられる!」

 どうやらバイコクドンはベフォメットにスパイしていると言いたいようだ。

 こんなクズがスパイだなんて、全国の本物スパイに謝るべきだと思う。

 カーマや兵士たちを部屋から退出させ、二人だけの状況を作りだす。

「話ってなんだ? つまらない話なら鞭で叩くぞ」
「一緒にレスタンブルク国を裏切らないかへぶしっ!?」

 俺は返答代わりに水道ホースを叩きつけた。奴は顔を腫らしながらも話を続けてくる。

「レスタンブルクは我らのことをぼへっ!? 考えていないっ! 君もっ!? いずれ捨て駒にっ!? やめてっ!? せめて口開いてる時は叩かないでくれっ!?」
「お前の言葉より、ホースの出す音のがいくらかマシだし……」

 水道ホースの打撃音とバイコクドンの悲鳴が、悪趣味なコーラスを奏でる。

 だって死ぬほどつまらない話をする奴が悪い。

「ジャイランドの時も支援されずぼへっ! 領地の利権は奪われがはっ! それでよいのか!?」

 バイコクドンは水道ホースで叩かれながら根性で喋り続ける。

 すごいなこいつ……。

「私には洗脳薬があるっ! これで双子の姫も思うがままだっ! もはや君がレスタンブルクに従う必要はぼぼはぁ!?」
「……まあ確かに。レスタンブルクが理不尽と思うことはある」

 俺の言葉にバイコクドンは薄気味悪い笑みを浮かべた。

 きっと奴は俺が同意したと思ったのだろう。

「そうだろう! ここで我らが手を組み! レスタンブルクを滅ぼして、王にげぼふぅ!?」

 俺は水道ホースで渾身の一打を放ち、バイコクドンの頬にぶち当てた。

「まずお前と組むなんてあり得ないんだよ!」
「ぼへっ!?」
「ジャイランド討伐時、魔法使いの支援が来なかったのはベフォメットの怪しい動き。つまりお前のせいでもあるだろうがっ!」
「ごぼぉ!?」
「しかもテンサイとか渡したのも、ベフォメットが諸悪の根源だろうが!」

 俺は水道ホースでフォルン領の仇とばかりに、バイコクドンを叩き続ける。

 王国からの理不尽な要求は、基本的にベフォメットの不穏な動きが原因なのだ。

 ベフォメット関係なかった芋の時は、ラークというか転移魔術をくれたし。

 つまりこのバイコクドンのせいでもある。こいつが裏切っていたせいで!

 こいつの言ってることは全て、原因もこいつ自身が作り出したものなのだ。

 例えるなら品薄にした転売屋が、メーカーに品薄の文句を言うようなもの!

 おのれ転売ヤー! 奴らのせいで俺は新作ゲームを買えなかったんだ!

「もう話は終わりだ。遺言を聞こう」
「待てっ! 考えるんだ! あの双子姫は君の味方なのかっ!? 王家の味方ではないか!? 私を選べば、双子姫も心の底から君の味方にできるぞっ!」
「お前さ、1引く1も出来ないだろ」
「は?」

 間の抜けた顔をするバイコクドン。俺が裏切らないことなど簡単である。

「美少女姉妹とオッサンで、誰がオッサンを選ぶかっ! 鏡見てから言えやっ! 地獄に落ちろ、転売屋っ!」

 水道ホースに強化アタッチメント――シャワーヘッドを装着し、バイコクドンのみぞおちに打ち付けた。

 奴は悶絶した後に気絶して床に倒れ伏した。悪は滅びた。

 俺と交渉したいなら三回くらい異世界転生して、徹底的に性格をろ過されて小柄な美少女になってから出直してこい。

 そもそもだ。俺は王家に文句の百……いや千も言うが、反逆するようなことを考えてなどいない。

 全く不満のない上司など幻想だし、カーマたちが目に余ることをしてるならとっくに対策してる。

 あの二人と結婚した時点で、王家にある程度利用されるのは覚悟してるんだよ。

 そのうえでこの国最強の魔法使い詐欺になると約束したんだから。レスタンブルク国がなくなると、カーマたち悲しむし。

 …………ベフォメットとの戦争終わったら、損した分は返してもらうつもりだけど。

「おーい。終わったから入っていいぞー」

 俺の言葉に部屋の外で待っていたカーマたちが入室してくる。

 彼女らは気絶したバイコクドンを見て、全てを察したようだ。

「話ってなんだったの?」
「同性愛者です、双子姫より俺をどうですか。ってカミングアウトしてきた」
「ええ……」

 ついでなので多少事実を捻じ曲げて、バイコクドンに新しい属性を追加することにした。

 ヅラホモか。なかなか罪深い組み合わせだ。

「……断ったよね?」
「そんな恐ろしい質問するのやめてくれます!?」

 何故受けた可能性を考慮する!? 俺はオッサンなんぞ大嫌いだっ!

 ましてやバイコクドンなど身の毛がよだつわ!

「まあとりあえずこれでバフォール領は終わりだ。後はこいつをヅラにして、民衆に見せびらかせば終わり」
「お待ちくださいっ!」

 俺の決定事項に兵士長が異議を唱えてきた。なんだよ、もう決定事項なのに。

「ここは断首すべきですっ! 我らはここ数年、飢餓に苦しんできました! どうか復讐をさせてくださいっ! これは全ての領民の願いですっ!」

 兵士長は俺に頭を下げてくる。

「復讐したいのなら殺すのはダメだ」
「へ? しかしこやつが死ねばみんな喜びます! 貴方は心清き臆病者なのでしょうが、ここはひとつ」
「けなしてるのか褒めてるのかはっきりしろ」
「人も殺せぬ貴族失格の臆病者でしょうがここはひとつ」
「よし表に出ろ! その喧嘩買ってやる!」

 この兵士長! めちゃくちゃよい性格してやがる! 

 だがこいつは復讐の素人のようだな。俺は兵士長に諭すように呟く。

「殺したらその喜びはすぐに終わるぞ。死ぬ寸前までで抑えておけば、何度も楽しめる」
「……た、確かに!」

 皆、復讐と言えば殺すと安直に考えすぎなのだ。

 生き地獄という言葉もあるし、殺すことだけが復讐ではない。

「貴族失格の臆病者の言葉には含蓄がありますね。確かに処刑が全てではないですね」
「カーマ、バイコクドンと兵士長の毛根を全て焼き払ってくれ」

 結局バイコクドンの頭を焼野原にして、民衆の前でヅラ外しの刑に処した。
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