64 / 220
バフォール領との争い
第60話 偽物を公開
しおりを挟む捕らえたクソデブハゲを縛った後、何発かホースを叩きつける。
そしてその場で俺達は今後のことを相談することにした。
「これからどうするの?」
カーマが捕らえたメイドたちを見ながら呟く。
残念ながら俺はメイドたちへのお触りを禁止され、捕縛もカーマとラークだけで行われた。
泣いてなんかないぞ。メイドの一人が好みだったなんてことはないぞ。
「どうしよう」
「何も考えてないの!? あれだけ攻め込もうと言ってたから、考えがあるとばかり……」
「……すまん。クソデブハゲが俺の偽物を演じてると思うと、流石に耐えきれなかった」
俺にも我慢できないことがある。
いくら何でも自分の尊厳を完全に破壊されたら耐えられなかった。
「もう少し後先考えようよ」
「だが待って欲しい。お前は耐えられるのか? 自分の偽物によりによってコレを立てられてるんだぞ」
俺は水道ホースでクソデブハゲ商会長を叩く。
「……ごめん。ボクも怒って殴り込むかも」
「わかってくれて嬉しい。まあ今後のことは簡単だ。こいつが偽物なのとバフォール領主が国を裏切ったと、この領地内に知らしめる」
バフォール領主の情報統制を打ち破るのだ。この領地が悲惨なことになっているのは、全てバフォール領主のせいにする。せいというか事実だし。
そうすれば領民たちも蜂起してこの領地を取り戻せるはずだ。
バフォール領の兵士たちとて、売国奴の領主と心中など嫌だろう。
「これで俺の悪名を打ち消す! 俺の見た目がこんなクソデブハゲなぞ、絶対に許すわけにはいかん!」
「……実際のとこ、国最強の魔法使いがこの見た目はちょっと困るよね」
「名誉堕落」
カーマたちの言ってることは間違っていない。やはり評判においてビジュアルは大事だ。
別に見た目が化け物でもよいのだ、強さを感じるならば。
だがデブでハゲはダメだ。どう言いつくろっても弱く聞こえるし。
「……ところでさ。これだけ騒いでるのに、誰もこいつ助けに来ないんだけど」
「人望がない」
「黙れっ! 貴様らを屠るために準備を整えているに決まってるだろうが!」
クソデブハゲが顔を真っ赤にして叫んでいる。
でも俺もラークの言葉に同意だ。こんな奴を危険犯してまで助けに来る物好きはそういない。
何ならもう偽フォルン商会の人間全員が、この建物から逃げ出してる可能性もある。
結論を言うとこの建物から急いで逃げる必要はない。
俺は水道ホースをぶんぶん振り回して風切り音を立てながら、クソデブハゲ商会長に近づいていく。
「さて……今まで色々とよくもやってくれたな。流石の俺も堪忍袋の緒が切れた。これまでの非道に対して、利子つけて返してやるっ!」
「待て! 復讐は何も生まない! そんなことよりも未来に目を向けろ!」
「それは復讐される側の台詞じゃねぇんだよ! それに生むんだよ、気が晴れる!」
「ぐぼぉ!?」
クソデブハゲの頬に水道ホースを叩きつける。
更に腹やモモもひっぱたいていく。このまま柔らかくして肉屋か異世界ショップに売り飛ばしてやる!
『そんなことしたら、今度こそ許さないからね!?』
脳内にミーレからの買い取り拒否のガチ悲鳴が響いてくる。……買い取り拒否されるとは。
クソデブハゲは顔を大きく腫らしながら、俺に対して叫んできた。
「私を殺せば息子たちが復讐をするぞ! 復讐の連鎖はここで断ち切るべきだ!」
なんかそれっぽいことを言いよる。腫れた肉塊のくせに主人公のようなセリフだ。
心清い肉塊が言うならばよいセリフだったろう。
だがこいつは心も肉体も腐りきっている。
「そうだな。お前の言う通りだ」
「貴様程度でも流石に理解できるか。ならば私を開放……」
「一族郎党皆殺しだ」
復讐の連鎖は断ち切らねばなるまい。
こいつの息子がどれほどいるかは知らないが、まあ何とでもなるだろう。
「ふざけるなっ! そんなことが許されると思っているのか!?」
「お前が偽アトラスを演じたことに比べれば、千人殺しすら生ぬるい!」
「ばかなっ! いくら何でも言い過ぎだろうが!」
言いすぎなものかよ。鏡見て己の姿に絶望してから出直してこい。
一秒でも早くこいつが偽物だと知らしめなければ……。
「…………よし、作戦は決めた。カーマ、ちょっとこのクソデブハゲを見ておいてくれ」
俺の言葉にカーマは嫌そうな顔をした後、クソデブハゲのほうへ視線を向ける。
「え……見てないとダメ……?」
「視界にいれなくていいよ。人生に不要な見た目だし」
そう言い残すとラークを連れて部屋を出て、【異世界ショップ】に入店する。
「あの肉塊なら買わないからね!? 買い取り拒否!」
ミーレがカウンター席で必死に叫んでくる。どうやらガチで嫌らしい。
「わかってるよ。あいつはまだ使い道があるから。それよりも頼みがある」
「頼み? 何か欲しいってことだよね。任せて、大抵の物は用意できるよ」
「クソまずくて不人気かつ賞味期限ギリギリで、廃棄されるコンビニ弁当を大量に用意して欲しい」
「…………要求がピンポイントすぎない?」
ミーレがあきれたような口調で返事してくる。
だがこれには訳がある。俺が本物のアトラスだと知らしめても、バフォール領民が俺に従うかは怪しい。
バフォール領主への忠誠もないだろうが、俺に簡単になびくかは微妙だ。例え国の裏切り者と宣言しても、どうなるかは何とも言えない。
ならばどうするか。このバフォール領は寂れていて物乞いもいるくらいだ。
食事を授けてやればよい。そうすれば簡単になびくはず。
バフォール領主なんてしょせんは胡散臭いおっさんだ。カリスマ性なんぞ絶対ないし。
民衆は飯の魔力の前では尻尾を振ってくるだろ。
「大量の食事がいるんだよ。でも普通に用意したら高くつくから、廃棄寸前のコンビニ弁当なら格安にできるよな?」
「……多少は安くできるけど。でも鮮度は保障できないよ? 大勢に配るなら時間もかかるし」
「大丈夫だ。ここに歩く冷蔵庫がいるから」
俺はラークの頭をポンと叩く。こちらに抗議の視線を送ってくるが無視。
「それでも微妙だと思うけどなぁ」
「日本の消費期限は余裕持ってるし。それにこの世界の住人は日本ほど貧弱じゃないから大丈夫だ。それに……」
「それに?」
「俺を散々クズボケ言ってきた奴らだし、多少当たっても天罰だっ!」
「そ、そう……」
街で俺を侮辱した奴ら覚えてるからなっ! 奴らの弁当にはタバスコいれちゃる。
そういうわけで大量の廃棄直前弁当を置くための建物ごと購入し、異世界ショップから退店すると。
「あちっ!? やめろっ!? 焼けるっ!?」
「あ、お帰りなさい」
部屋に戻ったら笑顔で迎えてくるカーマ。そして炎の中からクソデブハゲの悲鳴が聞こえてくる。
「……焼き豚?」
「違う違う。焼いてないよ! あまりにもうるさかったから炎の壁で囲っただけ! あんなの焼いたら匂いがきつそうだし……」
「そうか……まあサウナと考えれば痩せるしいいんじゃないか」
哀れチャーシューかケバブになりそうなクソデブハゲ。いやそんな上等な物ではないが……。
そんなこんなで全く誰もクソデブハゲを助けに来ないまま夜が明けた。
俺達は街の広場に弁当用の建物を設置し、クソデブハゲを磔にする。
広場に用意した高台に乗ると拡声器の音量を最大にして、街中に響き渡るように。
「偽アトラスを捕らえた! 今なら一発銅貨一枚で殴り放題だっ! もってけ泥棒!」
「「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」」
信じられないほど勢いよく、民衆たちが広場に走って来た。
皆が肉叩き棒や木のスコップ、バケツなど手近にあった物を持っている。
まるでバーゲンセールのおばちゃんのような勢いだ。どれだけ恨まれてるんだこいつ。
「聞けっ! ここにいる豚はアトラスを名乗った偽物! 本物はここにいる俺だっ!」
民衆にそう宣言して指パッチンを行う。それと共に後ろからカーマが花火を打ち上げた。
なおラークはすでに弁当置き場の建物で寝ている。役割的には弁当を冷やすドライアイスである。
惰眠姫は朝に起きれないから仕方ない。
ここで何としても、何としても俺が本物のアトラスだと知らしめなければ!
末代までの恥だっ!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,327
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる