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レード山林地帯開拓編
第45話 開拓準備
しおりを挟む「……え? 何だその顔……」
「君の願望が強く出てしまってるんだよ……」
俺が【異世界ショップ】に来店すると、ミーレがいつものようにカウンターに立っていた。
だがその姿が今までと変わっている。端的に言うとカーマとラークにそっくりになっている。
髪の色に至っては紅と銀が混ざっている始末だ。
「私も【異世界ショップ】もアトラスの力だから。君が望んだように変わることもあるんだよ」
「そ、そうか……なんかすまん」
「別にいいよ。裸エプロンとか変な望みがなかっただけマシ……」
……俺がカーマとラークの裸エプロンを望んでいたら、ミーレがそうなっていたのだろう。
これは迂闊なことを望みたくなる。とりあえず裸を……。
「望んだら追い出すよ?」
「すみませんでした」
心の中を読まれてしまったので諦める。近くの椅子に座ると現在の状況を説明し始める。
レード山林地帯の開拓についてだ。実はあそこの魔物を何とかする目途がついた。
そのカギはジャイランドの死体である。驚くことにあの死体全く腐らない。
そして死体がある荒れ地には、魔物が一切寄り付かなくなったと報告が来たのだ。
試しにレード山林地帯に、ジャイランドの肉のかけらを持っていくと。
魔物と全くエンカウントしなくなったのだ。この死体を使えばレード山林地帯の開拓が可能と判断した。
「そういうわけで、魔物に対してはある程度目途がついた。問題は労働力だ、重機とか使いたいけど……誰も使えないのがな。盗まれても困るし」
「盗まれるのは大丈夫だよ。仮に盗られてもその物の所有権は君にある。その物を君が売ると宣言すれば、どこにあろうが【異世界ショップ】は買い取るから」
「それは便利だな。なら後は重機を使わせる手段があればいけるか」
重機が盗まれても回収できるのはかなり助かる。チェーンソーとか切れ味鋭い魔剣に認定されかねないし、クレーンカーなどはゴーレムに見なされかねない。
魔剣もゴーレムもこの世界では恐ろしく貴重な物だ。売れば一生遊んで暮らせる金になるし、間違いなく盗難が多発してしまう。
どちらもガソリンなり電力なりが必要だから、そのうち使えなくなるが……使えなくなると伝えていても盗み防止の嘘と思われる。
特にクレーンカーなんぞで暴走されて逃げられたら恐ろしいことになる。死人が出そうだ。
「使い方についても、以前のヘリコプターの操縦みたいに記憶として、大勢に売ることは出来るけど……」
「それはいい。誰か一人に学ばせて教えさせる」
ミーレの提案を速攻で蹴る。わかってるぞ、絶対に高くつくって。
彼女は俺の言葉に「だよね」とクスリと笑った。その表情がラークに似ていてドキリとする。
先日の結婚式のドレス姿はすごく綺麗だった……またいつか見たいものだ。
そんな俺の願望によって、ミーレの服が一瞬でドレスに変わった。
…………まるでシンデレラだ。かぼちゃの馬車もあれば完璧だな。
そんなことを考えるとかぼちゃの馬車まで出現してしまった。
「……店番やめて舞踏会に行ってきていい?」
「すみませんでした」
不機嫌そうなミーレに急いで頭を下げる。
【異世界ショップ】で迂闊に妄想できないなこれ……変なこと考えたらやばいことになりそう。
「ちなみにチェーンソーの値段は?」
「金貨2枚」
思ったより安かった。これなら大量に仕入れて、作業員に使わせることができるな。
作業員には重機は俺の魔法の力で用意したゴーレム。チェーンソーは魔剣とでも言っておこう。
魔法って言葉自体が、魔法のように便利である。困ったら魔法って言っておけば何とかなる。
俺の力は魔法じゃないけど。うまく表現するなら……商法?
「商法はないよ……センスない」
「言われなくてもわかってる! じゃあ帰るから! 後任せた!」
椅子から立ち上がるとミーレが俺を呼び止めてきた。
「あ、待って。一つだけ助言、魔法をあまり信じると痛い目見るよ! 魔法って言ったって使うのは人だから!」
「はあ。まあ覚えておくよ」
何が言いたいのかよく分からないが、まあ覚えておくとしよう。
俺は【異世界ショップ】から退店して屋敷の庭へと戻った。
そのまま屋敷の中の執務室へと入ると。
「うわぁ……ちょっとこの絵は過激じゃない?」
「男はみな俗物」
カーマとラークが俺の机の引き出しに隠した、サボりようの漫画を見ていた。
念のため言っておくが少年漫画である。過激と言っても戦闘で服が少し破れている程度なはず。
「……何してるんだ?」
「あ、お帰り。暇だったからおに、えっと絵本でも見ようかと」
「暇つぶし」
カーマとラークは悪びれもせず、二人仲良く一冊の漫画を読み続ける。
うん。ここは夫としてガツンと言っておかねばなるまい。
夫婦のヒエラルキーは最初の数か月で決まりそうな気がするし。
「俺の机は重要書類も入っているんだ。決して暇つぶしで見ていいものでは」
「サボりようの絵本だよねこれ」
「サボり魔」
「うっ」
ガツンとやられてしまった。
そもそも心が読める相手に口喧嘩で勝つのは無理じゃん。
普通の喧嘩になったら魔法使われて更に勝てない。あれ? これって俺のほうがヒエラルキーが下なの確定では!?
「おに……アイスちょうだい」
「ケーキ」
「はい……」
敗北感に苛まれながら、諦めてアイスとケーキを【異世界ショップ】から購入する。
机にカップアイスと皿にのせたケーキが出現する。ご丁寧に木製のスプーンとフォークつきだ。
カーマとラークは漫画を引き出しにしまうと、アイスとケーキを食べ始めた。
「お姫様だろ。食堂で食べたほうがいいんじゃないか」
「礼儀を守ってる間にアイス溶けちゃうし」
「早く食べたい」
食べ方は上品だが、わりと彼女らは礼儀にうるさくない。
地球ではペットボトルに口をつけて飲むのは下品。なんて人もいる。別にそれが悪いとは言わないが。
「戦に出たら食堂でなんて食べられないよ」
「ごもっともで」
カーマもラークもこの国最強の魔法使いだ。戦場に出たこともあるのだろう。
彼女らは純粋培養のお姫様ではないし、深層の令嬢タイプでもない。
「おに……レード山林地帯の開拓はどうするの?」
カーマが空っぽになったカップを机に置いて、俺に話しかけてくる。
……さっきからおに、と言ってるのがすごく気になる。
俺を以前のようにお兄さんと言いかけてやめてるんだろう。
「人を募集するつもりだが……伝手がないのが現状だな」
俺にはコネがほとんどない。いや見栄を張ったな。
コネなどまったくない。この国で仕事に困ってる者は大勢いるだろうが、それを集める術がないのだ。
かといって下手な貴族に人員を求めるなど愚の骨頂である。おかしな奴ばかり紹介されても邪魔にしかならない。
最悪、間者を大量に紛れ込ませてしまう。
「そうだと思ったよ。はいこれ」
カーマが俺に手紙の封筒を十通くらい渡してくる。
受け取って観察すると上等な紙の封筒とわかる。そこらの弱小貴族では用意できないレベルの。
「王家関係で信用できる人からのお手紙だよ。おに……えっと、みんなフォルン領と懇意になりたいんだよ。レード山林地帯の開拓に関われば、大きな恩恵を得られるからね」
「下手な者は遮断する」
確かにレード山林地帯の開拓は、国の一大事業と言っても過言ではない。
まず開拓作業で大量の金や人が動く。この時点で関係者は大きな利益を得る。
しかもレード山林地帯は高ランク魔物の宝庫。討伐すればこれまた大きな金が動く。
開拓に成功すれば王都の近くに広大な土地が開ける。当然土地の価値は極めて高い。
その土地に街も作られるだろうし、更に人と金が……と恐ろしい経済活動だ。
「おに……あーもう! ……あなた、手紙の人と会ってコネ作ってきて!」
「王家主導」
カーマのあなた呼ばわりに極めて深刻なダメージを受けつつ、もらった手紙の差出人を確認する。
あっ、ワーカー農官候の名前がある。他は法官候とか財官候とか、国の役職持ちばかりだ。
もちろんだがバフォール領主の名前はない。あったら手紙を斬りつけた後に破り捨てて燃やしていた。
手紙を全て見たが領主の名前がまったくない。完全に国のお偉いさんばかり。
……明らかに陰謀を感じる。レード山林地帯の利権は、在地領主ではなくて王都の関係者で独占してやるとの意思を。
「……俺さ、完全に王家に包囲されてない?」
「うん。今更気づいたの? ちなみに他の貴族たちも接触してくると思うよ。今のフォルン領はコネも人手も不足して、明らかに狙い目だから。アイス食べ放題みたいなものだよ」
「変なの注意」
め、面倒くさいことになりそうだ……。
たぶんこれ、俺は在地領主と王家の板挟みになりそう。
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