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レード山林地帯開拓編

第43話 準備は大変

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 俺は結婚式を最優先して、レード山林地帯の開拓を後回しにした。

 その結婚式の準備をするために、今の俺はどこにいるかというと。

「アトラス殿! そちらにドラゴンが二頭行ったでござる!」
「畜生! 相変わらずドラゴンがモブ敵のノリで出てきやがる!」

 魔境レード山林地帯にいた。意味がわからない。

 後回しにするって言っただろうが! 内心ホッとしてたのに!

 俺はガトリング砲を撃ってドラゴンをハチの巣にしながら。

「何で結婚式に使うブローチにドラゴンの素材がいるんだ!? そこらの宝石でいいだろ!?」
「ダメでござる。国最強の魔法使いの初めての妻への贈り物、平凡な物では馬鹿にされる」

 センダイがドラゴンの首を両断して、酒瓶に口をつけた。

 そして俺の倒したドラゴンに視線を移すと。

「アトラス殿。もう少し優しく殺すのでござる。これでは素材がとれぬ」
「俺にも優しくして!?」

 この山林地帯で大量のドラゴンを相手にして、手加減できるわけないだろ!

 バズーカ砲だと手数が足りないから、ガトリング砲にしたくらいなのに。

「やっぱりカーマとラークとライナさん呼ぶべきだろこれ!?」
「ダメでござる。プレゼントの用意を、渡す相手に手伝ってもらってどうするか。それにライナさんは部外者、ここはフォルン領だけでやるべき」
「ごもっともで! 反論できない正論をありがとう!?」

 そんなわけで俺とセンダイだけで、レード山林地帯に潜っている。

 本当にバカじゃなかろうか。国最強の魔法使いとか名乗ったの誰だよ、俺だよ。

「アトラス殿。がとんぐ砲とやらは使うのをやめたほうがよいでござる。ここは剣でひとつ」
「俺に死ねと!?」

 そんなこんなでドラゴンを十体ほど討伐して、【異世界ショップ】に売らずに送り付けておいた。

 【異世界ショップ】に人を送れるのだから、物だって送れるだろうと試したらいけた。

 センダイには転送魔法と誤魔化しておいた。

 目的は達したのでフォルン領に戻って、【異世界ショップ】にドラゴンを回収しに行くと。

 ミーレが腕を組んで鬼の形相で待ち受けていた。彼女は身体中がドラゴンの血で塗れている……。

「ねえ? いきなり血まみれだったり、ミンチになったドラゴンの死体が大量に来たんだけど? ドラゴンの血を頭からかぶったんだけど、何か言うことはないかな?」
「……すみませんでした」
「信じられないよね! うちは肉解体店じゃないんだけど!」

 ミーレからドラゴンの血まみれ死体を送りつけたことを、延々と怒られまくったのだった。

 そりゃそうだな。巨大な死体を十体も俺だってキレる。

 何とか「ミーレは血の化粧も似合ってるよ、血も滴るいい女だよ」と誤魔化すと。

「そう? ま、まあ私ならどんな化粧でも綺麗になるからね!」

 俺の心にもない世辞で誤魔化されてくれた。助かった。

 そんなわけでドラゴンを回収して、七色変人《セサル》の家へと持っていく。

 カーマとラークの花嫁衣裳やアクセサリーを作って欲しいと伝えると。

「お任せサッ! じゃあアトラス君の要望を聞かせてもらうサッ」

 セサルは髪をかきあげると、近くにあったキャンパスを手に取る。

 そして椅子に座ると、俺にも同じように座る様にすすめてくる。

 ……後は任せた、って言うつもりだから要望なんてないんだが。セサルだし好き勝手作るだろ。

 ミーの祝福こそが至上の物サッ、とか言ってサッ。

「……後は任せろ、とか言うんじゃないのか? お前得意の祝福とやらをやるんだろ」
「ノン。花嫁を祝福するのは旦那の役目サッ。そこにミーの祝福を上書きするのはノン。この祝福は旦那でなければ」

 セサルは珍しく真剣な表情で呟いた。こいつ、変人なくせに至極真っ当なことをこんな時に限って……!

 ……後は任せた、って言える雰囲気じゃない。言ってはなんだが俺の美的センスは低いと自覚している。

 セサルは本人の趣味こそ七色お化けだが、大衆受けするものを作れる。

 だから完全に任せるつもりだったのに!

「安心するサッ。何もドレスのデザインから考えるとかではないよ。どんな雰囲気が彼女たちに似合うか、どんな色が映えるかなどを聞くサッ。まずは彼女らに似合う色からかな」

 セサルは筆をとってキャンパスに何かを描きながら、俺に対して質問をぶつけてくる。

 しばらくの間、セサル変人先生と問答を繰り広げた後に。

「じゃあこれでどう?」
「…………すげぇ」

 セサル変人大先生が見せてきたキャンパスには、完成品のブローチやドレスの絵が描かれていた。
 
 それは俺の脳内で思い浮かべていたものを、そっくりそのままキャンパスに描いたかのようだ。

 ヤバイ、セサルがまともな人間に見えるっ!? 俺は背筋を伸ばすとセサルに頭を下げていた。

「それで頼みます、セサル先生」
「セサル変人と呼んでくれサッ。じゃあ完成したら届けるサッ」

 セサル変人は髪をかきあげてウインクしてきた。やだこの変人頼りになる……。

 椅子から立ち上がって去ろうとして、伝えることがあったのを思い出す。

 この変人もいちおうはフォルン領主要メンバーなので、今後の動きの予定くらいは把握してもらわないと。

「あ、そうそう。それとバフォール領と敵対すると思うから。バフォール領は隣国ベフォメットと繋がってる可能性も高いし」

 こいつにはどうでもよいだろうと、軽く伝える。だがセサルは少し考え込むような仕草をした後。

「ベフォメットか……」
「どうした? 何かあるのか?」
「いや、そこにはミーの妹がいるのサッ。ミーはベフォメット出身なのサッ」

 そうなのか。どこから流れてきた難民かと思っていたが、隣国だったか。

 しかも妹がいるという恐ろしい情報まで得てしまった。正直知りたくなかった。

 こいつはドワーフとエルフの間に生まれた子だ。

 その妹がいるということは、数奇な生まれの子が二人以上いるのか……すげえな。

 ……詳細が少し気になる。だがなんか嫌な予感がしたので聞かないことにした。

 そうして一ヵ月後が経ち、王都で結婚式が行われる当日になった。

 この結婚式は二人の姫の婚姻とのことで、国を挙げての行事となっている。

 国中の貴族や、他国の重鎮も招待しているらしい。……そこまで派手にしなくても、こっそりと身内で済ませたかった……。

 王都中が前日から二人の姫の結婚に騒いでいた。結婚相手の俺に関しては、こいつ誰? と皆が首をかしげていた。

 フォルン領の知名度が低すぎるっ……! 俺は巨神を討伐したのに、知名度全然上がらないの何でだ!?

 なんか呪われてるか妨害でも受けてるんじゃないの!? 俺の顔が売れたら困る誰かの!

「アトラス様……このセバっ、スチャン、感激のあばり前がみえまぜぬぅぅぅ!」

 王城の待機室で緊張している俺に、セバスチャンが号泣している。

 ハンカチではとうてい涙を吸収しきれず、床にぼたぼたと落ちている惨状だ。

「セバスチャン、お前また水分不足で死にかけるなよ!?」
「ご安心を! これを見越じて、水分も塩分もっ、大量に用意じておりまずっ!」

 セバスチャンは足元にある樽二つを指さしながら泣く。

 あの樽には水と塩がそれぞれ入っている。現在進行形で失っている水分と塩分を補給し続けることで、何とか耐えるつもりのようだ。

 ……熱中症の対策であって、泣きすぎに有効なのかは知らん。

 センダイは俺の姿を見た後に、納得するように頷くと。

「アトラス殿。その衣装、よく似合っているでござる」
「そうだろ? セサル変人が、カーマとラークの意見を聞いて作ってくれたらしい」

 あの変人、俺の衣装も作ってくれたのだ。しかも花嫁二人の意見を聞いてだ。

 俺は自分の衣装など、そこらのものでよいと思っていたのだが。

「花嫁には婿の祝福を。では婿には花嫁の祝福を。それがこの世の真理サッ」

 セサルが髪をかき上げてドヤ顔をする。許す、今回のお前の働きはそのドヤ顔をするに値する!

「そうだ。セバスチャン、お前に重要な任務を与える」
「は?」

 困惑しているセバスチャンに、俺はバズーカ砲や麻酔銃を手渡すと肩を叩いて。

「次に邪魔者が出たら眠らせるか殺れ。これは国を想えばこそ」
「ははっ!」

 バフォール領がこの期に及んで邪魔してくる可能性がある。そんな最悪の事態が起きれば口封じするしかない。

 今回の結婚式は他国の重鎮も来る。もし結婚式に茶々が入れば、他国に対してこの国がダメだと知らしめてしまう。

 そしてバフォール領は裏切っている可能性があるからやりかねん。

 冗談抜きで国を想うなら、未然に防ぐしかないのだ。

 麻酔銃なら大事にはならないし、バズーカを撃つことになってもセバスチャンは捕まらないだろう。何故なら彼がやったという証拠を出せないから。

 バズーカ砲という仕組みが解明されてない以上、爆発が起きれば魔法と判断される。つまり魔法使いの誰かが殺したと思われる。

 セバスチャンは犯人からまず除外される。俺とカーマとラークも衆人の目があるので除外。

 誰が殺したかの証拠が出ないので誰も捕まらない完全犯罪。みんな幸せの最善策だ。

 これで憂いもなくなったので、安心して結婚式に参加できるというもの。

 ……まあ撃たずに済むならそれにこしたことはない。バフォール領が最低限の常識は持ってることを祈ろう。
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