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レード山林地帯開拓編
第33話 脅威は徐々に
しおりを挟む「……これより戦略会議を始める。議題はもちろん、ジャイランドについてだ」
いつもの執務室。だが俺達の雰囲気は普段通りではない。
皆が緊張した面持ちで、今後のことを必死に考えていた。しかも冒険者ギルドのドグルさんも呼んでいる。
センダイは普段よりも度数が少し低い酒を飲み、セサルは七色ではなくて六色の彩の服を着ている。
彼らですらこの事態に少しばかり気を張っているのだ。
「ジャイランドが、少しずつフォルン領に近づいている……か」
「最近、レード山林地帯の奥にジャイランドの影が見えていますぞ。そしてそれは、少しずつ大きくなってきています」
「……頭痛くなってくるな」
ジャイランド――ビルほどの大きさを持ち、山を動かして地形を変える巨人。
この国を崩壊寸前まで追い込んだ伝説を持つ魔物だ。レード山林地帯の奥地に住んでいて、今までは影も形も見せなかった。
だが俺達がレード山林地帯に入ってから、フォルン領でも巨大な影を見る者が現れ始めた。
…………完全に藪蛇だった。俺達が入るまでは眠っていたのに、起きてしまって活動し始めたのかも。
レード山林地帯の攻略において、一番の脅威となる存在だ。
……そもそも他の魔物も強すぎて、ジャイランドとはまともに戦ってはいないのだが。
「ミーはあまり役に立てなさそうサッ! ところでミーを、そちらのお嬢さんに紹介して欲しいサッ!」
セサルが髪をかき上げながら、カーマに視線を向ける。
そういえばこの二人は初対面だったか。カーマは王都にいることが多いから、会う機会がなかった。
カーマもセサルの顔を少し見た後に。
「……え? い、いやあぁぁぁぁ!!!」
凄まじくガチな悲鳴と共に、セサルから俺を壁にするように隠れる。
なんだ!? まるでわいせつ物でも見たような叫びだったぞ!?
セサルは今回はちゃんと服を着ているのに!
「どうした!? セサルが何かやらかしたか!?」
「この人、頭おかしいよ! 心覗いたら、意味不明過ぎる!」
「ミーをあまり褒めないでくれたまえ!」
「カーマ……触れてはならない者がこの世にはいるんだよ」
カーマは俺の背中にしがみつき、涙目になっている。
セサルの心の中なんて金もらっても見たくない。カーマからすればネットサーフィンしてたら、いきなりどぎついスプラッタ映像踏んだ感じなんだろうな。
「うぅ……お兄さん……アイスちょうだい……」
「……お前もけっこうたくましいよな」
「ケーキ」
「酒を!」
「お前らは黙れ」
便乗するラークとセンダイにくぎを刺しつつ、咳払いをする。
話がそれたので元に戻さねば。
「ジャイランドが仮にフォルン領に近づいてるとしよう。迎撃するとして……兵士たちをどう投入するか……」
「ひっく。アリのように潰される兵士をお望みでござるか? 彼らにジャイランドを相手させるなど無為の極み」
仮にフォルン領付近で迎撃するとしても、やはり兵士たちは役に立たないか。
レード山林地帯調査時もお荷物だからと連れて行かなかったが……これ、本格的に兵士たちいらない子では?
いやまあ普通の戦争や、普段の領地の警備などで必要ではあるのだが。
「ボクたちに任せて……!」
「討伐」
まだ少し目の赤いカーマと、ラークが口を開く。
彼女らは万全の状態ならジャイランドに勝てると豪語していた。
ジャイランドをレード山林地帯外で迎撃できるなら、彼女らの言う万全の状態を作ることも可能かもな。
「ドグルさん。冒険者の戦力を……」
「ははは。今のフォルン領にいる冒険者など、ジャイランドの前では塵芥です!」
「そうか……なら戦力はドグルさんだけか……」
「えっ」
ドグルさんは筋肉で服がぱっつぱつになるほどの偉丈夫だ。
かなりの戦力になるだろう。だがまだ不安だな。
「あ、あの……私は非戦闘員でして……」
「ご冗談を。その筋肉は飾りとでも?」
「いえあの、これは体質でして……私は事務系の人間で……」
ドグルさんの冗談を流しつつ、更に戦力のアテを考える。
後は狂戦士のライナさんを呼ぶとして……王都に出向いて国王に援助を仰ぐべきだろうか。
ジャイランドがフォルン領を壊滅させれば、次は他の領地に向かう。
つまりこの国の危機なのだ。王に支援してもらうべきだ。
「よし。王都に出向いて王に戦力の補充を願おう。それとジャイランド対策として、教材を用意しておく」
「教材?」
「怪獣が未知の世界で大暴れして、それを倒したものがあるんだ」
首をかしげるラークの問いに答える。
ようは怪獣映画の類である。見ないよりはマシだろ、見ないよりは。
巨人が怪獣倒す作品とか、怪獣同士の戦いの映画を選んで買うか……バッテリーつきのプロジェクターなら上映会もできるはず。
とりあえずの対策として、レード山林地帯を眺め続ける者を用意することにして会議は終了。
ラークの転移で王都に出向いて、王に戦力補充直訴をしたのだが。
「……ダメだ。今、フォルン領に魔法使いを貸し与えることはできない」
王の間にて謁見を許された俺に、王の無慈悲な言葉が突き刺さる。
「何故でございますか!? ジャイランドはこの国にとっての脅威! ここはレスタンブルクが一丸となって……」
「隣国ベフォメットに不穏な動きが見えるのだ。上位の魔法使いを防備から外すわけにはいかぬ。半端な魔法使いでは足手まといなのだろう?」
「ですが……」
「ジャイランドを討伐した暁には、特別な褒美をとらす。よいな?」
王の有無を言わさぬ言動。これは反論の余地を許さぬ確定事項だ。
何を言ったところで覆らない。マジかよ、国のくせに助けてもくれないのか。
特別な褒美って言われても討伐できなきゃもらえないし。
「フォルン領で砂糖の原料になる作物を育てていると聞いています。是非、国にも一部を献上して頂きたいのです」
王のそばに控えていたワーカー農官候が、追い打ちをかけてくる。
何で支援もらえないのに、更にそんなことをせねばならんのか。
「栽培にうまくいっていないので、とても無理でございます」
嘘は言っていない。フォルン領でサトウキビは育たなかった。おそらく寒かったのが問題と仮定し、テンサイを育てることにした。
テンサイのほうはうまく行きそうと報告が上がっているが隠す!
「それは残念です……今、レスタンブルクは余裕のない状況です。貴族としてご協力をお願いします」
ワーカー農官候に愛想笑いで返す。フォルン領は余裕ないどころか、危機的状況なんですけど!?
助けてもらませんかね!? そんな俺のチワワ的な視線に気づいたのか、王は少し考える素振りを見せた後。
「フォルン領には期待しておる。ジャイランドを見事討伐せよ、これは王命である!」
最終的に自分で頑張ってね! という言葉と共に、何の成果もなく王都の謁見は終了。
自分の屋敷に戻った後、やけくそ気味に【異世界ショップ】に駆け込む。
何故か水着姿でカウンターに座っているミーレに対して。
「ミーレ、巨大ロボットをくれ」
「巨大ロボット」
「ジャイランドに対抗するにはそれしかない!」
そう! 敵が巨大なら、こちらも巨大を用意するのだ!
敵だけ大きいとかずるいだろ! 俺達もロボットに乗って戦うべきなのだ!
「今のアトラスじゃ巨大ロボットなんて買えないよ」
「やっぱ無理か!? ……ん? 今?」
「もっと領地と領民が増えて、アトラスを信仰……主君とあがめる人が増えれば、買えるようにはなるかもね。すごい対価が必要な上に、お金では買えないだろうけど」
……どういう理屈だ。巨大ロボットなんぞ売ってるのかここ。
困惑している俺に対して、ミーレは片目をウインクした後に。
「【異世界ショップ】は君の世界の物を買える。君の時代の物だけしか買えないわけじゃないよ」
「じゃあ巨大ロボットとビームガンとレーザーソードくれ」
「今は無理って言ったよね!?」
結局売ってもらえず、諦めてプロジェクターや怪獣映画のBDを買うのであった。
「ところで私、水着なんだけどどう思う?」
「チェーン店の景色で水着の店員ってシュールすぎるだろ」
至極真っ当な意見を言ったら、ミーレは肩を落として落ち込んだ。
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