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カール領との対決編

第14話 祭り

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 フォルン領は王都のレスタ商会と商売契約を結んだ。

 レスタ商会の商会長であるラークは、外套にベールと怪しさ満点だが身分は保証されている。

 王城と商売許可証を見せてもらったので、疑うと逆に国への不敬罪になりかねない。

 そんな商会が俺達の領地にもたらした恩恵はと言うと……。

「はっはっははは! 笑いがとまらんなぁ!」
「これだけのお金、先代様でも集めたことはありませぬぞ!」

 執務室。俺とセバスチャンは、テーブルに置かれた金貨袋を見て下品に笑っていた。

 レスタ商会と契約を結んでから三ヵ月が経つが、彼らはアンパンを大量に購入してくれたのだ。値段こそ王城購入価格に比べれば安いが、それでも一つにつき金貨一枚。

 そしてうちの領に商隊としてやってくるたびに買ってくれる。

 アンパンは【異世界ショップ】で銅貨一枚で購入できるのでぼろもうけだ。

 フォルン領にはアンパンを売りさばくルートはないので非常に助かる。

 しかも領民に色々と売ってくれるので、物資の不足も解決した。もう万々歳である。

「カール領からの賠償金もあるし、フォルン領は安泰ですな! ささっ! 今日は年に一度の祭りです、アトラス様には音頭を取って頂かないと」
「ああ!」

 フォルン領では年に一度、収穫祭が行われる。

 田舎の祭りなのでささやかな規模だが、領民たちはかなり楽しみにしていた。

 今年は開催しますよね? と様々な者から聞かれたくらいだ。去年はあまりに金がなくて行われなかったらしい。

 領主からしたら金のかかるイベントだからな……酒とか多く用意する必要あるし。

 去年のおとり潰し一歩前の状態では無理だったのだろう。だが今年は違う、大儲けしているのだから派手にやる。

 ここで民衆たちに力を見せつけて、俺の領主としての評判を爆上げするのだ。

 俺とセバスチャンは執務室から出て、祭りの会場である広場へと向かう。

 そこでは民衆たちが木のカップを持って、今か今かと待ちわびていた。

 彼らは俺の姿を確認すると歓声をあげる。

「アトラス様! 早く酒を!」
「今年は飲み放題って聞きましたぜ! 去年の分も飲むんでさ!」
「アトラス様が領主になってよかった! 酒が飲める!」

 ……いいんだけどさ。俺の評価、ほぼ酒で決まってない?

 そんな中センダイが近づいてきて、俺を木で作られた簡易な高台に立つよう促した。

「アトラス殿のお言葉でござる。すぐに、刹那に終わるゆえ、清聴するでござる」

 センダイの声に民衆の声が静まり返る。センダイはすでに左手に酒瓶、右手に木のグラスの飲兵衛スタイルだ。

 流石の奴も周りに合わせて酒をまだ待ってるらしい。そのせいかさっさと号令を終わらせて、早く酒を飲ませろと血走った目で睨んでくる。

「えーっと。酒のせいで死にたくないから手短に話す。フォルン領はこれから大発展する。そのためにはお前たちの尽力が……」
「長いでござる」
「これでかよ!?」

 周囲から笑い声が聞こえる。冗談交じりに酒はよ! と声も。

 センダイが俺に酒の入ったグラスを手渡してくる。

「……これからも頼むぞ! 今日は飲み放題だ!」

 俺はグラスを空に掲げた後、一気に飲み干した。それを見た民衆たちは雄たけびと共に、持っていた酒を飲み始める。

 こうして宴が始まった。

「アトラス様! このサツマイモはうまいですぜ! おひとついかが?」
「ジャガイモを焼いて塩をまぶしたでさ! 食ってけれ!」
「おう! もらおうか!」

 領民が開いている出店で、木の棒で刺した焼き芋二種を受け取る。

 これらはフォルン領で栽培に成功した芋だ。種芋も自前で用意できたので、これからのフォルン領の名産品になる。

 彼らにはお金を払って店をやってもらっている。祭りにはやはり食べ物がなければな。

 無礼講なので彼らも酒を飲みながら、楽しそうに芋を焼いていた。

「お兄さん! アイスちょうだい!」

 カーマがいつもの外套を着て、俺に駆け寄ってきた。

 彼女は三ヵ月経ってもまだフォルン領に滞在していた。調停者のお役目は終わったように思えるのだが、色々と言い訳して居座っているともいえる。

「祭りだぞ? いつも食べるものより、他のを食べればどうだ?」
「他のも食べるけどアイスも欲しい! お祭りで食べるアイスはきっと格別だから!」

 カーマの顔は少し紅潮している。おそらく酒を飲んだ後なのだろう。

 しかし祭りでカップアイスはいただけない。やはりアレだろう。

 俺は領民たちから見えないように、民家の影に移動すると【異世界ショップ】から三色アイスを購入した。

 お値段は銅貨三枚。お祭り料金なのか普通のアイスよりも高い。

「何それ? いつもとの違うね?」
 
 カーマは俺の持っているアイス。球状の形をした三色のアイスが、コーンに乗っているものを見て首をかしげた。

 ちなみに彼女には【異世界ショップ】のことを少し誤魔化して教えている。

 魔法で特殊な物を作ることができる、と。

「祭り用のアイスだ。持ち手部分はコーンって言うんだが、食えるから捨てるなよ」
「えっ、持つところも食べるの?」
「もちろん」

 コーンアイスは人類の発明品のひとつだ。なにせゴミが出ないからな。

 こういった祭りでゴミが減るのはすごく大きい。

「これ美味しいね! 味も違うからそれぞれ楽しめるし! このコーンと一緒に食べたら、また味わい深くなる!」
「そうだろう。ちなみにおかわりはないから」
「えっ!? なんで!?」
「祭りのアイスは大量に食べるものではない!」

 普段あまり食べられないからこそ、祭りのアイスは美味しいのである。

 足りないくらいがちょうどよい。

 周囲を見回すと領民たちが思い思いに、酒を飲みながら騒いでいた。

「くぅー……、去年はずっと腹空かせてたのが嘘みたいだ!」
「まったくだ! 去年の今頃はどうなることかと思ってたぜ! 餓死者も出そうだったしな!」
「カール領に逃げた奴ら、元気かなぁ。あの時耐えていれば……」

 ……去年は本当にヤバイ状態だったみたいだな。カール領に逃げた領民までいたのか。

 俺もフォルン領に継ぐのを罰ゲームと思っていたし致し方ない。

 過去は過去と、振り払うように持っていたグラスの酒を飲み干すと。

「アトラス殿、いい飲みっぷりでござるな。もう一杯、いかがでござるか?」
「センダイか。もらおう」

 センダイがグラスを手渡してきたので受け取る。

 するとセンダイは両手が手持ちぶさたになっている。すごい違和感だ、常に酒瓶片手なのにこんな宴で酒を手放す?

 そう思っているとセンダイは。

「隠れている者、姿を現すでござるよ」

 周囲に聞こえるようにそう言い放つ。ん? 隠れている者? 

「……ま、待ってくれ! 俺達は違うんだ! 助けてくれ!」

 周囲の木陰から三人の男が出てきた。……姿を現す前に身体がちらっと見えていたので、お世辞にもうまい隠れ方ではなかったようだ。

 酒で酔っていなければ俺でも気づけたかもしれない。少なくとも暗殺者の類ではなさそうだ。

 彼らを観察すると頬がこけていて、身体もやせ細っている。

「お、俺達はカール領の者だ……頼む、食事を恵んでくれ。いや、恵んでください。もう三日もまともに食べてないんだ……」
「作物は全て税で持っていかれて……木の皮を食う生活なんだ!」
「どうか、どうかお慈悲を……!」

 彼らの様子を見る限り、嘘をついてるとも思えない。

 少し食事を与えると彼らは、自分たちの立場や現在のカール領の様子を語ってくれる。

「フォルン領で祭りが開催されると聞いて、逃げてきたんだ。祭りをできるくらい余裕があるなら、俺達も助けてもらえるかもって……」
「今年は酷い不作の上に……その、フォルン領から作物を盗まれたって話で、残っていた作物も全て領主様に盗られたんだ!」
「もはや食べ物なんて誰も持ってねえ! フォルン領に向かう商隊が、大量の物資を運んでるのを見て、最後の希望とばかりに来たんだ!」

 ……レスタ商会が俺達に派遣している商隊のことか。

 ここに来るのにはカール領を通行するので、見られていてもおかしくない。

 しかしカール領はそこまで悲惨なことになっていたとは……確かに今年は酷い不作だが、少しは蓄えがあるはずなのだ。

 去年の自転車操業のフォルン領は例外として、まともな領地ならば飢饉に蓄えているはずだ。

 うちに払う賠償金を考慮しても、生き地獄までは行かないと踏んでいた。

 仮に生き地獄になると理解していたとしても、俺達が賠償金をもらわない選択肢はなかったが。

 一方的に攻められたのに、何もせずに許せばフォルン領は全ての領地に舐められる。

 生き地獄をフォルン領のせいにされても困る。彼らの身から出た錆だ。

「ここまで余裕がないならば、近いうちにカール領は……」
「再び攻めてくる可能性は高いか。センダイ、新しく雇った兵士たちはどうだ?」
「元々冒険者でござる。すでに実用的な兵士で候」

 センダイは薄い笑みを浮かべた。カール領、攻めてくるならば今度は容赦しない。
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