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カール領との対決編

第11話 カール領との話し合い

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 調停者が我が領にやって来たので、カール領との話し合いを開くことになった。

 意味不明なカール領と言えども、調停者の権威には逆らえない。

 明日の午後からカール領とフォルン領の境界線。つまり先日、戦闘になりかけた場所に軽い陣地を作って会談することになる。

 ちなみに本来ならば平等を期すために、調停者は一日ごとに泊まる場所を変更する……つまりフォルン領、カール領、フォルン領と移動していく必要がある。

 今日は調停者が来て二日目なので、調停者はカール領にいるべきなのだが……。

「アイスおかわりください! 2つ!」
「……カール領に泊まらなくていいのか?」

 カーマが堂々と執務室に入り込んで、アイスを要求してくる。

 見た目こそ外套やベールに身を包んでいるが、態度は調停者のそれではない。

「やだよ、危ないもん。問答無用で攻めてくる領地なんて、人質にされかねないもん」
「俺の立場としては納得するが……それでいいのか調停者。フォルン領の言葉だけで危険を判断したら、カール領は納得しないと思うぞ」
「大丈夫。ボクは魔法で心が読めるからね。お兄さんが嘘をついてない以上、現在のカール領に入ることはできない。調停者は自分の判断に基づいて、安全のために規約を曲げられるし」

 カーマは薄い胸を張りながら得意げに答える。

 ……やっぱり俺の心を読んでたか。昨日も口に出してない言葉《フランク》の意味を聞かれたからな。

 フランクなんて地球の言葉だし、カーマが知ってるわけがない。

「まあカール領程度ならボク一人でも勝てるけど……これで今日もボクはフォルン領にいる言い訳ができたね。というわけで、アイスください!」
「言い訳っておい」
「だってカール領のごはん、絶対マズイよ? やだ!」

 どうやら本音はこちらのようだ。

 カーマからすれば食べたことのない甘味が出てくるフォルン領と、田舎料理のみ出てくるカール領。

 どちらがいいかは明白なのだろう。あきれつつも執務室から食堂にアイスを取りに行くフリをする。

 食堂で【異世界ショップ】からアイスを買って、また執務室に戻ってカーマに手渡した。

「わーい! あれ? 昨日と違って茶色?」
「味が違う。昨日のはバニラ、今日のはチョコだ」
「昨日のよりも味が濃いね! こっちも美味しい!」

 すごい勢いでアイスをたいらげるカーマ。

 なんか完全に賄賂送ってる気分だ。でも食事で賄賂は違和感があるな……接待か。

 接待なら許されるだろう。食事を出すのは当然だし、調停者ともなれば可能な限り歓待せねばならない。

 こちらの可能な限りに、甘味がたまたま入っていただけ。つまりルール上のことだ。ヨシ。

 なんだかんだで翌日になり、俺達は軍を率いてカール領との会談場所に向かった。

 カーマはあの幻想的な馬車に乗っている。何とあの馬車には御者がいないのだ。

 馬車をひいている白い馬が極めて利口で、御者が不要とか……すごいな。

 先日の戦場にはカール領主はすでに到着していて、こちらを憎々し気に睨んでいる。

「調停者殿! 今すぐフォルン領主から離れるのです! その男は極悪非道にして、貴族失格の人間です! 何をされるかわかったものではありません!」
「何を言うか。我らは調停者殿に対して、一切の危害を与える気はない」
「誰が口を開いてよいと言った! ゴミは黙っておれ!」

 ……カール領主は人間なのだろうか? そこらの猿よりもバカに見える。

 調停者の前で相手を侮辱するとは……何も考えてないのだろうか。

 カール領主と俺が代表として、それぞれ軍から離れて前に出る。

 すると調停者の馬車が俺達の横にやってくる。

 馬車の扉が開き、中から正装をまとったカーマが現れる。顔は相変わらずベールで隠されているが。

「今のやり取りだけでも、貴方達では話し合うことは無理と判断しました。中に入りなさい、これより調停者の命を下します」

 カーマはこれまでと全く違う雰囲気を出している。いつもの明るい雰囲気はなく、威圧感や神聖さを感じる。

 まるで高貴な者のようだ。誰だこいつ? と言いそうになってしまう。
 
「ははっ! どうかおろかなフォルン領に裁きを!」

 カール領主はニヤリと下卑た笑みを浮かべながら、馬車の中へと入っていく。

 こちらを完全に見下し、すでに己が勝ち誇ったかのような目だ。

 俺も続いて馬車に入ると、扉が自動でしまった。すごいな、自動ドアかよ。
 
 俺とカール領主が見合うように座席に座ると、カーマは咳払いをした。

「カール領はフォルン領に賠償として、金貨千五百枚を三年で支払うこと。またその期間中、フォルン領との境界線に近づくことを禁ずる」

 カーマの宣告を聞いて俺はうなずく。一年に金貨五百枚なら妥当なところだろうか……カール領の財源の三割くらいかな。

 三年の間はカール領は苦しいだろうが、ここで譲るわけにはいかない。

 カール領主の顔を見ると、表情が完全にひきつっている。

「……調停者殿、言い間違えていますよ。フォルン領がカール領に賠償を払うのでしょう?」
「間違っていません。カール領がフォルン領に賠償を払うのです」

 カール領主はその言葉を聞いて、顔を真っ赤にして震えだした。

 勢いよく立ち上がると、俺に向けて憎々し気に指さしてくる。
 
「調停者殿! カール領とおとり潰し直前のフォルン領ですぞ! まともに戦えば、間違いなく我らが勝ちます! なのにこれはあり得ません! 先ほどの小競り合いも、フォルン領が無様に逃げて行ったというのに!」

 ……は? 俺達がいつ逃げたというのか。どうやらカール領主は、真実を捻じ曲げるつもりのようだ。

 黙っていては事実を認めたとみなされるので、俺は即座に反論する。

「何を言うか! 逃げたのはカール領で……」
「フォルン領は大嘘が得意なのです! おとり潰しも当然で……」
「黙りなさい」

 俺とカール領主の醜い言い争いを、カーマが一言で遮る。

 彼女はカール領主のほうを見ると。

「私は全て知っています。貴方が攻めたことも、敗走したことも。そして攻めた理由が子供じみた言いがかりなことも」
「な、何をおっしゃいますか! 我らの作物が盗られたのです!」

 顔を真っ赤にして叫ぶカール領主。それに対してカーマはただ一言。

「証拠は?」
「我らの収穫量は例年の半分以下! フォルン領は例年以上! これは明らかに我らから盗んだに違いありません!」
「証拠は?」
「ですから! 我らとフォルン領の収穫量を足せば、ちょうど例年どおりに!」
「もう結構です。言葉の通じない者と会話はしません」

 カーマの声のトーンが下がる。証拠を求めてるのに、意味不明な自論を展開して通るわけがない。

 カール領主はわなわなと震え手で髪をかきはじめた。顔も破裂しそうなほど真っ赤だ。

 いっそ破裂しないかなぁ、パァンって。

「ではカール領、フォルン領ともに命に対して誓いをあげよ」
「ははっ。我らフォルン領、調停者様の命に従います」
「……あり得ぬ! こんなものは認められぬ! 調停者殿は、フォルン領の操り人形になっている! そうだとも! だからこそ我らの領に泊まりに来なかったのだ!」

 この期に及んでこのバカは何を言ってるんだ?

 自分の不利が確定した瞬間、いちゃもんをつけだすとか。

 カーマが操り人形なわけがない。闇取引に見えることはあるが、俺達が望んでやったことではない。

 ようは完全な言いがかりである。

「カール領は問答無用で攻撃する野蛮な領。安全のために滞在しなかっただけのこと」
「なっ……! 我らカール領はそのようなことはありません! それはフォルン領で……」
「最終通告です。調停者たる私の命に従わないのですか?」

 カーマは有無を言わさぬ言葉を投げかける。

 最終通告とまで言われては流石に反論はできまい。

「…………カール領、調停者様の命に、従います」

 カール領主は凄まじい表情で声を絞り出した。

 これにてカール領との講和が成立し争いは完全解決した。

 俺達は自分の領地に戻り俺は屋敷の執務室でため息をつく。

 調停者の言葉に逆らうのは国に逆らうことと同義。

 カール領主が救いようのないバカでない限り、今回の争いは解決したと考えてよい。

 机に置いてある酒を飲もうとすると、セバスチャンが部屋に入って来た。

「アトラス様! カール領が魔法使いを雇いました!」

 ……どうやら救いようのないバカのようだ。
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