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カール領との対決編

第3話 アンパン

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 【異世界ショップ】で拳銃を購入した後、俺は一週間ひたすらに銃の練習をした。

 初日は酷いものだったが、最終日には狙ったところにある程度当たるようにはできた。

 銃が使えるようになったと判断して近くの森で魔物や獣を狩っている。

「おっ。また魔物見っけ! くらえっ!」

 こちらに気が付いてないゴブリンに拳銃を構えて引き金をひく。

 一発目は外れたが二発目が脳天に命中。ゴブリンは地面に倒れて死んだ。

「よし! 【異世界ショップ】! 買い取りよろしく!」

 俺の言葉と共にゴブリンの姿が消える。異世界ショップの物の買い取りにわざわざ入店? する必要はない。

 これがかなり便利だ。本来ならば死体を解体して素材を持って帰らなければならない。

 それと一度購入したものなら入店しなくても買えるそうだ。

 買い取りなら勝手に俺の財布に金が増えて、購入なら勝手に減っていく。

 【異世界ショップ】の店や店員であるミーレは、商品カタログのような役割らしい。

 ちなみにゴブリン一匹で銅貨一枚である。食べれないし武器の素材にもならないから……。

 冒険者ギルドとかなら討伐報酬があるが……あくまで死体を売ってるだけなので仕方ない。買い取ってもらえるだけマシと考えよう。

「次からゴブリンは見つけても狩らなくてもいいかなぁ……でも森から出てきて、俺の領に悪さされるのも困るか」

 俺、本来なら討伐報酬払う側だもんな……領主だし。

 まあ払う金を今まで一銭たりとも持ってなかったわけだが!

 こんな感じで獣や魔物を数体狩って屋敷に戻ったところ、セバスチャンに出迎えられる。

 彼は俺の身体を少し観察した後になぐさめるように。

「お疲れ様です、アトラス様。獣は狩るのが難しいですからな、お怪我がなくて何よりです」
「ん? ……ああ、そうだな。初日からうまく行くとは思っていないさ」

 俺が何も持ち帰らなかったので、狩りに失敗したと勘違いしているのか。

 【異世界ショップ】のことはしばらく隠したいので、うまくいかなかったと思わせるべきか?

 あまり人に知られないほうがいいのは間違いない。だがセバスチャンに隠すのはどうだろうか。

 セバスチャンは間違いなく忠臣である。彼は三十年の間、この貧しくて救いようのないアトラス領に仕えてくれている。

 拳銃も購入できたのもセバスチャンが銀貨を貸してくれたからだ。

 俺の領で銀貨は超大金である。生半可な覚悟では他人に渡せない。

 少なくとも俺が同じ立場なら、三十年もこんな領に仕えないし銀貨など絶対に渡さない。

 人生と金をドブに捨てるようなものである。つまりこのセバスチャンは……。

「それでは食事の用意をしましょう。アトラス様は食事部屋でお待ちください」
「待て、セバスチャン。今日は俺が食事を用意する、お前も食べていけ」

 俺に背を向けたセバスチャンを制止する。

 もうあの歯を削って食う硬いパンは嫌だ。今の俺には狩りで稼いだ金と【異世界ショップ】があるのだから。

 そんな俺の言葉にセバスチャンは困惑している。

「アトラス様がご用意をですか? いつもの黒いパンをですか?」
「違う。あんな鈍器に使えそうなエセ食べ物ではなく、本物のパンを用意してやる」

 首をかしげるセバスチャンを放置し俺は調理部屋の中に入る。

 そして【異世界ショップ】を開店して、アンパンを二つ購入。ちなみに値段は一個銅貨一枚、ようは1ゴブリンだな。

 調理部屋に戻って包装しているビニールのつつみを破り、パンを皿にのせて食事部屋へと向かう。

「待たせたな、セバスチャン。これが本物のパンだ」

 食卓に座っているセバスチャンの前に、アンパンがのった皿を置く。

 セバスチャンはパンをまじまじと見つめた後に両手で持った。

「……このパンは何ですか? 柔らかいので上等なパンに見えますが」
「アンパンだ。色々気になる点もあるだろうが、とりあえず食ってみろ」
「……そうですな」

 セバスチャンは口を開けてアンパンにかぶりつき、目を大きく開いた後。

「な、なんですかこれは!? 凄まじく美味しいですが、甘いですぞ!? パンではなかったのですか!? こ、これは菓子では!?」
「あー……菓子ってのも間違ってないかもな。菓子パンって言うし」
「か、菓子!? アトラス様!? そんな物どこで手に入れたのですか!? いえ、そもそも私がこんな高級品を頂くわけには!?」

 アンパンを宝石を扱うかのように慎重に皿に置いた後、凄まじく狼狽するセバスチャン。

 こいつがここまで焦るのは初めて見たな。確かにこの世界では甘味はかなり貴重だ。

 貴族であっても簡単には食べられない……当然だがうちの財政状況で甘味は無理だ。

 食べれば美味しさでほっぺたがおちた後に、借金のカタに首が落とされる。

「落ち着け。そのアンパンはお前のものだ」
「し、しかし!? こんな高価な……!」
「セバスチャン。俺はお前に感謝しているんだ、労わせて欲しい」

 俺の言葉にセバスチャンは震えだした。目にはうっすらと涙を浮かべている。

 まじまじとアンパンを見つめた後に、何か決意したかのような勢いで再びつかみ取った。

「……そこまで決心なされたのですな。せめて最後に美食をと……アトラス様だけ死なせません。このセバスチャン、死後の世界までお供します」
「お、おう……それよりパンを食べようぜ」

 いきなりの重すぎる言葉に詰まりながら、セバスチャンに残りのパンを食べるようにすすめる。

 セバスチャンは凄まじい勢いでアンパンを全て食べつくした。

「何という美味でしょうか。これが末期の食事と考えても惜しくない味ですな」
「いや惜しいだろ、アンパンが末期の食事とか嫌だろ」
「アトラス様は美食家なのですね。……どこで自決されるのですか? 清掃して参ります」
「…………何言ってるんだ、お前」

 何か勘違いされたようで話を聞くと。こんな超高級な菓子をうちの財政状況で購入するなど、最後に美味を食べて自決としか思えなかったらしい。

 俺にとってアンパンはパンだが、この世界では菓子に分類されるもんな……。

「セバスチャン。俺はこのアンパンを銅貨一枚で用意できる」
「ははは、ご冗談を。菓子など最低でも金貨が複数枚必要でしょう。ましてやこのような美味な菓子、どれほどの値段が想像もつきませぬ」

 セバスチャンは全く信じていないようで笑っている。

 だが俺の顔を見て嘘をついてないと気づき、笑い声をおさめた。

「……まさか本当なのですか? いったいどのような方法で……」
「端的に言うと魔法だ。俺、魔法を使えたようだ」

 【異世界ショップ】が魔法に分類されるかは不明だが、この世界の住人には魔法と言っておいた方がわかりやすいだろう。

 魔法は多種多様なものがある上に、個人が生み出した専用魔法まである。

 実際に魔法で特別な果実や料理を作っている者もいるのだ。

 それを聞いたセバスチャンはというと。

「な、なんと……アトラス家から魔法使いが……! これで我が領の繁栄は約束されました! このセバスチャンもはや万感の思いを抑えきれませぬっ!」

 完全に号泣していた。まるで孫が全国大会で優勝でもしたかのようだ。

 まともに話になりそうにないので、セバスチャンが落ち着くまでしばらく待った後。

「感極まって号泣してしまいました……見苦しいところを」
「いいよ。それだけアトラス家に尽くしてくれてるんだから」

 落ち込むセバスチャンをはげましつつ、今後のアトラス領の展望を伝えることにする。

「俺の魔法は生産系全般に通じる。他にも色々と珍しい食事、作物などを作っていくつもりだ」
「おお! アトラス領の発展が目に見えるようです……! これでもう、貴族と名乗るのすらおこがましいアトラス家! そこらの商人より貧乏なアトラス家! 平民が成り代わっても分からないアトラス領主! などと言われなくて済むのですね!」
「……そこまで言われてたのか」

 思ったよりもうちの評判が酷すぎる件について。

 ハンカチで涙をふくセバスチャンと、アトラス領の発展方法について議論することにした。
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