130 / 134
クアレールの内乱
第122話 事後処理と共に
しおりを挟む白竜城の玉座の間にて、陽炎は片膝をついて俺達に頭を下げて来た。
「俺を雇って欲しい。これでも暗殺者として名を馳せた者だ、役に立つ」
……アミルダ暗殺を狙って失敗し、捕縛していた陽炎が仕官を求めて来た。
いや暗殺者を雇うのはリスクが高すぎる気が……というかアミルダ殺そうとしておいて、何をいけしゃあしゃあと!
生かしておくのは危険なので殺すなりしておかないと!
「陽炎はこう言っている。お前たちはどう思う?」
「反対だ。命を狙って来た暗殺者だし、いつまた裏切ってもおかしくない」
即座に否定の意見を出す。
「吾輩は暗殺は好まぬ。だがこやつに敵城などに侵入させる腕は使えるのである。クアレールの第一王子、第二王子の暗殺は並みの腕では成せぬ」
だがバルバロッサさんは賛成派なのか……!? いやこいつはアミルダを暗殺しようとした大罪人だぞ!?
二度と同じことをする奴が出ないように、釜茹でにするくらいは必須だろ!
「いや待ってくれ。こいつはどう考えても放免したらダメな奴だろ……!」
「リーズ、落ち着け。今までも我が国は裏切り者を雇ってきたはずだ。裏切りの十本槍にビーガンの裏切り兵も、すでに農地を与えて畑を耕させている。この者が寝返った理由も納得がいくものだ」
だが暗殺を仕掛けられた当の本人のアミルダは涼しい顔をしている。
「……暗殺狙われたのに怒ってないのか?」
「敵国の王が私を殺したいと思うのは当たり前だ。そしてこの陽炎はただ依頼を、しかも半強制的に受けさせられただけ。こやつはもう母国を裏切ったのだし、ならば遺恨はない」
そ、そういうものなのだろうか……俺だったら殺されかけた奴を許しはしないのだが……。
「それに私はこの陽炎という者の気位は嫌いではない。自分の身を守るために立ち回り、捨て駒にされてなお暗殺を仕掛けて義理を通してから裏切る。むしろ忠義者の類だろう」
「ちゅ、忠義者……?」
「吾輩もそう思うのである。暗殺者にしては骨のある奴」
暗殺者で裏切り者という時点で、忠義者なんて言葉はあまりに似つかわしくない……。
でも言われてみればこの陽炎は、わざわざ危険を犯してまで義理は果たしてるんだよな。
失敗する確率が高いと判断していたのだ。忍び込む危険を犯さずとも、最初から俺達に情報など売り渡すこともできたのに。
それこそ捕縛じゃなくて殺される恐れもあったし、今なお処刑される可能性だってあるわけだ。
「陽炎、貴様に問う。貴様は捨て駒にされたから裏切った。だが重く扱えば寝返りはしないタイプだろう?」
「然り。俺は従うに相応しき主の元ならば、殉死しようが構わない。だが下らぬ無能共のために使うほど我が命は安くはない」
「私は暗殺を望まない。諜報の依頼をするが構わぬか?」
「問題はない。我が腕は暗殺こそ最も活かされるが、諜報活動も得手なり」
本当に雇うのか……とはいえ暗殺狙われたアミルダが許すなら、俺がぐだぐだ言ってもただの我儘だな……。
「……陽炎。アミルダ殺そうとしたら燃やすぞ」
「構わぬ、我が刃は裏切られぬ限りは振るわぬ。では早速だが諜報の仕事をさせてもらおう。俺の雇い主だったパプマの商業ギルド長の、逃亡先についてだ」
「それも助かるためのダシにすればよかっただろ」
「これは交換条件ではなく新たな雇い主に対しての仕事だ。自分の助命のために言うつもりはなかった」
--------------------------------------------------------------
ビーガンに陽炎を貸し出したことで、パプマを滅びに導いた元商業ギルド長。
彼はすでにパプマから逃亡していて、周辺諸国ズの一国に亡命していた。
「や、やはりパプマは実質滅んだか。逃げ出しておいて正解じゃった。危うくハーベスタ国への暗殺首謀犯として、あの女王に差し出されていたかもしれぬ。流石にここまで逃げれば見つかりはせぬしの」
元商業ギルド長は購入した屋敷の一室で、パプマが酷いことになっている噂を聞いて安堵していた。
事実として彼が逃げていなければ、間違いなくハーベスタ国への謝罪として差し出されていた。
それもハーベスタ軍が挙兵する前にだ。そうすれば話し合いの余地も生まれていた。
もしこの者の首があればパプマはここまで酷いことにならなかった可能性もある。
パプマ議会の話がまとまらなかった理由のひとつに、戦犯張本人が既に逃げ出していて責任を取らせられる者がいなかったのもあったのだから。
この者のせいでパプマは今後は荒れ狂うのだ。
民は戦で傷つき、畑は荒れて飢え死も多数出るだろう。そんな中でこの者は気楽に笑みを浮かべていた。
「さてと……今日はとっておきの酒でも開けるか。メイドよ、酒を持ってこい」
茶髪を伸ばしたメイドは彼の前にあった机に、酒の入ったグラスを差し出した。
その酒を一気に飲み干して「ぷはぁ」と声をあげる元商業ギルド長。
「うむ! 命が助かった後に飲む酒は格別じゃわい! しかし議会の奴らが処刑されたのは見たかったのー。ワシに散々逆らった奴らも死んだと思えば酒もよりうまくなるものよ」
「そうなんですか? むしろ美味しくないと思いますけど」
「それはお前が酸いも甘いも知らぬ若い娘だからよ」
「酸っぱいのはともかく、甘いのは他の人より知っている自信はありますよ? いっぱい食べてます」
元商業ギルド長は好色な笑みをメイドにぶつける。
「はっはっは、メイド風情が甘い物を存分に食べられるわけがなかろう。見栄を張らぬでよい。だが……ワシと寝れば食わせてやらぬこともないぞ?」
メイドの胸に手を伸ばそうとする元商業ギルド長。
だが彼が服の上から胸に触ろうとした瞬間。
「救いようがなく気持ち悪いですこの人……今必殺の、エミリフラッシュ!」
メイドは凄まじく発光し始めた。
少し薄暗かった部屋が、眩しさで何も見えなくなるほど光に包まれる。
「め、めが、めがあぁあぁぁぁぁぁ!? なんじゃあ!?」
目を完全にやられてのたうち回る元商業ギルド長。
エミリフラッシュ、それは恐るべき極光を繰り出す危険魔法。
暗い部屋で直視すれば失明の可能性があるため、自軍への警告として『今必殺の』と枕詞をつける義務を与えられた魔法。
もはや網膜を焼くレーザー兵器である。それを至近距離で受けた元商業ギルド長の目は、二度と光を取り戻さない。
「陽炎さーん。これでいいですか?」
「……鮮やかな手口だ。そのほわわんとした空気を纏っていては、とても暗者の類には見えない」
「私ただの貴族令嬢なので……」
「ふっ。ではハーベスタ国に運ぶぞ」
「鼻で笑いませんでしたか今っ!?」
陽炎は紐で元商業ギルド長の両手を縛って連行しようとする。
何も状況が分からぬまま縛られた哀れな男は悲鳴をあげた。
「ど、どうなっている!? なにがおきているんだ!? 私をどうする!?」
「俺は捕縛を命じられただけなので詳細は知らぬ。聞いた話では俺の代わりに陽炎として釜茹でにされるそうだ」
「か、釜茹で!? そんなバカな!?」
「何はともあれ来るのだな。逆らうなら肉を削ぎ落すぞ」
元商業ギルド長はハーベスタ国のギャザまで連行されてから、天下の大暗殺者として広場で釜茹での刑に処された。
目が見えない状態で煮えたぎった湯に沈められたのだ、彼からすれば恐ろしき地獄であっただろう。
こうしてビーガン、パプマとの戦に完全に決着がついた。
3
お気に入りに追加
2,142
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
【完結】【R-18】三十歳童貞を貫いて魅了魔法を習得。先輩に復讐H、好きな子と即ハメして決意する。「それは、僕自身が淫魔になることだ」
湊零
ファンタジー
冴えない社会人、日高宋真(ひだかそうま)は、三十歳になっても社畜であり、童貞だった。
そんな自分に絶望し、ビルの上から飛び降りる。
すると、死ぬ間際に「シトラス」と名乗る、天使のような悪魔が現れた。
彼女に誘われるがまま【契約】し、なんとか生き永らえる。
そして宋真は、【魅了魔法】を使える本物の魔法使いとなった。
魔法の力は強大で、例えばその一つ、【媚薬錬成(ポーション・メイカー)】を使えば、どんな女の子でも自分とエッチがしたくなるというものだった。
ネチネチと嫌味ばかりの女先輩、想うだけで手を出せなかった想い人。
今なら、好き放題ヤれる。
「本当に人生を好き放題出来るなら! ゴミのような目で見てきたアイツらに復讐できるなら! 僕は、悪魔にだって魂を売る!」
三十歳まで童貞を貫いたからこそ手に入れた【魅了魔法】の力で、宋真は第二の社会人「性」活を始めていく。
※Hシーンを含む話は、サブタイトル末尾に『★』マークが付いてます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。
応援していただけたら執筆の励みになります。
《俺、貸します!》
これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ)
ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非!
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる