上 下
127 / 134
クアレールの内乱

第119話 アガボラエメ三国同盟?

しおりを挟む

 アーガ王国は周辺国家を飲み込んで巨大化したため、全方位の国と常時対立していた。

 本来ならセルフ完全包囲網で、そんな状態で国土を広げるなど難しかっただろう。

 だがリーズのチート能力をこき使って勝っていた。

 具体的には敵に軍を揃える時間を与えずに、電撃的に滅ぼしてしまうのだ。

 普通ならば大軍を揃えるならばかなりの準備が必要だ。兵を集めるのはもちろんのこと、特に兵糧を揃えるのに馬車をかなり動かさなければならない。

 大量に馬車を動かせば隣国が察知できないはずがなく、それを見て防衛準備をし始める。

 更に言うならばそもそも軍を養えるほどの兵糧を用意する自体、出費がかさんでかなり大変なことであった。

 だがリーズの力があれば兵糧の準備は不要だ。このアドバンテージはあまりに強大であった。

 また今のリーズよりも、アーガ王国の時のリーズの方が魔法の使い方が上手。より多くの物資を用意できていた。

 質より量と厳命されていたため、酷い時のリーズは四万以上の兵の物資や兵糧を全て賄っていたりしたのだ。

 逆に言うとリーズを失った時点で、アーガの力は半減以下になっていてセルフ完全包囲網で戦い続けるのは不可能だ。

 故に……アッシュはとうとう、ようやく、ここまでズタボロになってから隣国たちに同盟を持ちかけた。

 彼女は屈辱に焦がれながら頭を下げたのだ。そうしてボラスス神聖帝国内の教会に三国の代表者が文字通り一堂に会した。

 アッシュからすればこれも大恥だった。今の絶対的権力を握った自分が、敵国に出向かねばならないことを。

 彼らは宮殿内の質素な部屋にて、同じ円卓のテーブルで会談しあう。

「我らボラスス神は自由を追い求める者を救う。アーガ王国こそケダモノ、自由の渇望者なりや。我らに仕掛けてこぬならば、むしろボラスス教義に沿った好ましい国。喜んで盟を結ぼう」

 祭服を身に着けた白髭白髪の老人――ボラスス神聖帝国の教皇――は、愉悦そうにアッシュを見つめた。

 アッシュは固まった笑みをはりつけて、エメスデス王国の代表者に視線を向ける。

 ウェーブのかかったロングヘアを腰まで伸ばし、ヒラヒラのドレスを着たいかにも貴族令嬢な少女。

 一見すれば十三歳以下の未成年にしか見えない娘は、ニコニコと笑みを浮かべてアッシュを値踏みするように見ていた。

「ダウル辺境伯……殿。貴女はいかがです?」
「そうですねー。正直アーガ王国は欠片も信用できません。今までも散々一方的に攻めてきましたからー」
「おほほ。過去のことにこだわっては未来に進めませんわよ?」
「それを貴女が言いますのー? とは言え私としてもエメスデス王を引きずりおろしたいので、後ろに敵を抱えるのは得策ではありませんねー」

 この場に不釣り合いに見える少女は、アッシュに対して明らかに見せかけの笑いを返した。

 ダウル辺境伯はエメスデス王国の一領主。エメスデスとアーガの国境を接している土地は、全て彼女の領地であった。

 彼女はエメスデス王の名代としてこの会談に参加している、わけではない。

 エメスデス王はこの件を一切認知しておらず、また絶対に承知しなかっただろう。

 今こそアーガ王国に攻め入る時と鼻息荒くしたはず。だがその尖兵となるのはダウル領の兵士である。

 ダウル領は王からロクに救援ももらえずに、散々アーガ王国との争いの盾にされていた。

 国に所属して税を貢ぐ、代わりに庇護下に入る。それが本来の国と土地の関係だ。

 だが現状ではダウル領はエメスデス王国に所属する意味はなく、ただ税金だけ払わされてばかばかしいにもほどがある。

 その上に更に侵攻の駒にされて被害を強いられるのは御免だった。

「アーガの口約束などとても信じられません。ですが私たちが攻めないと口約束しておいて、貴女たちがハーベスタ国に全力を向ければダウル領に攻めるための兵がいません。ならば停戦のメリットはありますねー」

 彼女は思案しながら呟いた後、最後にボソリと。

「まあ内心ではアーガには、是非ハーベスタに負けて滅んで頂きたいですが」
「わ、私の前でよくそんなことがほざけますわね……!」
「今まで散々好き放題してきた報いではー? 私の領地を守ってくれないエメスデス王も御しがたいですがー、貴国も同じく憎悪の対象です。利害が一致したので組むだけ、支援を求めてきたらゴブリンの耳を送りましょう」 

 最後の方の言葉はトーンを落としつつ、涼しい顔をするダウル辺境伯。

 対して醜く顔を歪ませるアッシュ。

「我がボラスス神聖帝国はアーガ王国に助力しよう。兵は送らぬが物資の類ならば援助する」
「ありがとうございますわ! ボラスス教、なんてすばらしい教えなのでしょうか! 今度アーガの国教にすることも考えねばなりませんわね!」
「それもまた自由」
「無益の奉仕なんてすばらしいですねー。どんな裏があるのでしょうねー」

 こうして三者三様の理由からアーガ、ボラスス、エメスデスの三国同盟が――ダウル辺境伯は不可侵条約のため同盟というより休戦協定だが――結ばれた。

 だがエメスデスは国ではなくて、ただの一領地の代表が結んだので……かなりカオスな同盟であった。

「では私はダウル領に帰らせていただきますー。キツイ香水で誤魔化していますが、この宮殿からは墓場のような匂いもしますしー」

 ダウル辺境伯の訝し気な視線に対して、ボラスス教皇は柔らかな笑みを浮かべている。

 それを彼女は少し観察した後に、今度はアッシュに微笑みかけた。

「アッシュ殿、貴女に大国を御する覇王の魅がないのは見定めましたー。二度とお会いすることはないですー。清々しますね、では地獄に落ちてごきげんよう」

 ダウル辺境伯はスカートのすそをあげて、明らかに礼など伴わせないように物凄く僅かに頭を下げた。

 これ以上同じ空気を吸いたくないとばかりに、さっさと部屋から出て行ってしまう。

 その無礼な態度を見て更にアッシュは激怒した。

「なんと無礼な者なのでしょう! 風の識者とか指揮者とか呼ばれてるそうだけど、空気の読めない愚か者よ!」
「それもまた自由」
 
 こうして各々の事情はともかくとして、アーガ王国は全兵力をハーベスタ国にぶつけられるようになった。

 しかも慢性的に不足していた物資が、ボラスス神聖帝国によって支援された上でだ。

「ふふふふふ。あっはっはっはは! 見てなさいハーベスタ! 真の力を取り戻したアーガ王国なら、ハーベスタ国に負けはしないのよ!」
「違いますな、まだアーガ王国は完全ではない」

 部屋に残っていたボラススの教皇が、アッシュの高笑いを遮る。

「完全ではないとは?」
「戦とは将の力が大きく影響する。そして貴女はハーベスタ国との戦で失った者がいる」
「…………」

 アッシュは図星をつかれて押し黙ってしまう。

 彼女にとってバベルを失ったのは、埋めようのない損失であり続けているのだろう。

 例え数万の軍を扱えても、今のアーガ王国にはそれを統べる名のある将が残っていないのは事実だった。

「眉唾ものの噂で聞いたことは? 我らボラスス教には死者蘇生の秘術ありと」
「ありますわね」
「それは本当なのです。大量の魔力を消費する上に、同じ人間は一度のみですが。我々はアーガにとってかけがえのない将を蘇らせた」
「…………!? ま、まさか……! いやでもアンデッドになった者を渡されても……」

 人をゾンビの類にして蘇らせるのは、難しくはあるが不可能ではなかった。

 数年以内に死んだ者に限るなども条件もある上に、そもそも知能などが消えているので蘇生のメリットが皆無だが。

「ご安心を、アンデッドの類でもありません。十把一絡げで量産するアンデッドとは違って大層魔力を使って蘇らせましたとも」
「!?」

 アッシュは歓喜の笑みを浮かべる。

 死者蘇生の魔法自体はこの世界に存在する、それ自体は有名な話だ。だがそれを扱える者はすでにいないはずだった。

 S級ポーションと同じくほとんど伝説の代物であった。だがポーションだって作れる者がいる。蘇生もあり得る話ではあるのだ。

 まさかこんな状況でボラススの教皇が嘘をつくはずがない。

 彼女はバベルという右腕を失っていたが、それを取り戻せるとなれば百万の軍(本人基準)を得た想いだろう。

「ま、まさかバベルが……バベルがっ!」
「さあ出てきなさい! その英知で再び力となるのです!」

 ガチャリと部屋の扉が開かれていく。

 そこから現れたのはアッシュの見知った姿、アーガ王国の英雄にしてすさまじい勝率を叩き出した男。

「ボキュが蘇ったからには、全て任せるんだな!」
「いやあああああああああぁぁぁぁぁ!?」

 常勝将軍ボルボル、ここに復活の狼煙をあげるのだった!
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...