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クアレールの内乱
第117話 巻き込まれたくないので……
しおりを挟む俺とエミリさんとセレナさんは地面に座敷を轢いて、抹茶をつくってお茶をしていた。
兵士たちを休ませるのが目的だ。上司である俺達が休息しないと、部下の一般兵も休憩取りづらいからな。
遠目にバルバロッサさんが無双しているのを見ながら、雅な和風ティータイムを行っている。
「また人が空に吹き飛びましたねぇ……足と弓を得たオジサマ、恐ろしいですねぇ。この落雁《らくがん》ってお菓子美味しいですね。この抹茶という苦い緑の液体はいらないのでお菓子だけください」
「茶道では抹茶とお茶菓子がセットですよエミリさん」
「これはこれで悪くないですね。お菓子を食べた後に残る甘い味と、抹茶の苦味と溶けあって何とも」
どうやらセレナさんには抹茶のよさが分かるようだ。
「ぎえええぇぇぇぇぇぇ!?」
「ゆるしてぇぇぇぇ!?」
パプマが雇った傭兵たちの悲鳴をBGMに、俺達は現実逃避気味にお茶会を続ける。
……うん、俺はこの世に存在してはならない怪物を生み出してしまったやもしれん。
バルバロッサさん、冗談抜きで万の敵軍を単騎で屠ってしまいそうだ。
いやまさか乗れる馬と射てる弓を得ただけで、戦力十倍になるとは思わないじゃん……。
バルバロッサさんが剣を振り回してるのさ。遠目から見たら竜巻の自然災害に、パプマ軍が呑まれてるようにしか見えない。
以前に一騎当千の上位互換として、万人敵というフレーズをバルバロッサさんに教えた。あの人は誇張抜きでそうなってしまいそうだ。
「リーズ様、よかったらその。お菓子はいかがですか?」
セレナさんが落雁をつまんで、俺の顔近くに持ってくる。
……あーんと食べさせようとしてるみたいだ。本当にセレナさんのアタックが強すぎる。
でも俺には二人の妻がいるし、何ならエミリさんはこの場にいるのだが。
「セレナ! 私にっ! 私にちょうだいっ!」
「……貴女、散々食べたじゃない」
「リーズさんにあげるくらいなら私にちょうだいっ!」
俺の伴侶のはずの娘は、実はお菓子と結婚してるんじゃないだろうか。
この光景を傍から見たら、俺の結婚相手は彼女らのどちらだと思うだろうか……。
「いただきます!」
「あっ、ちょっとエミリ。私の指ごと口に入れないでよ」
エミリさんがセレナさんの持っていたお菓子を、指ごとパクリとほうばってしまった。
あー……平和だなぁ。天気ものどかだなぁ。
「……総員反転! 敵は議会にあり!」
とうとうパプマの兵たちが議会に反旗を翻し、パプマ国に粛清の血の雨が降りそうなこと以外は……。
というかこれどう収拾つけるんですかね……? 身内同士で争われたら、グッダグダになって面倒とかいうレベルじゃなんですが。
俺達は誰に降伏を求めればいいのだろう……一丸になって立ち向かってきてくれた方がいくらか楽な気がする……。
そんなことを考えているとバルバロッサさんが、馬に乗ってこちらへ向かってきた。
「リーズすまぬ! 何故か敵兵が降伏せずに、パプマ王都に進軍していったのである! 流石に真の敵を見極めた者たちを、背後から襲い掛かるのは気が咎めるのである……」
「でしょうねぇ……こうなったらパプマの軍を物資支援して、彼らが王都占領したところで従属を迫りましょうか」
あいつらはバルバロッサさんに恐れをなしたのと、議会への不満が爆発して後先考えずに寝返ったのだ。
確実に兵糧とかが不足しているはずだ。逃げ出した傭兵たちに持ち逃げもされているだろうし。
アレだよな、まるで本能寺の変みたいだ。あの事件もかなり偶発的というか、大した計画も立てずに行われたらしい。
様々な偶然が積み重なって、信長ならぬ織田家を打倒できるチャンスが生まれてしまったとか。
そんな偶発的な機会に本能寺してしまったので、首謀者の明智光秀はあっさり負けてしまったと。
綿密な計画があったなら、あそこまで早く鎮圧はされなかっただろう。
それに事前に内通できていたなばら、彼に味方する者もそれなりにいたはずだ。
逆本能寺の変に持ちこめれば理想だな。裏切った側が速攻で勝つという意味で。
「仕方がないですね、反転したパプマ軍を後援しましょう。支援の用意があると早馬で伝えて、彼らの兵糧などを負担しますか」
「助かるのである! いやはや! やはり吾輩は頭脳戦は役に立たぬである!」
バルバロッサさんの存在自体が敵の知略に大損害を与えると思いますよ。
必死に組んだ策を全て単騎で吹き飛ばされるのだ。敵の軍師からすればやってられないレベルだろう。
とはいえこうなるとアミルダに相談せざるを得ないな……俺の予想だとたぶんグダグダになる。
なにせパプマ裏切り軍にはトップになれそうな者がいないのだ。軍指揮官がそのままトップ……というのも難しいだろう。
何せ大義がない。王族とかならまだよかったが議会制の国だからなぁ……。
つまり仮にこの裏切り軍がパプマ王都を占領しても、そこからまた権力争いが始まるのはほぼ確定的だった。泥沼不可避である。
軍指揮官に凄まじいカリスマ性があれば、ワンチャン新たな国を再建できるのだろう。
だがそんな傑物なら最初に俺達と何とか講和して、全軍引き連れてパプマ王都に攻め入るだろう。
そうすれば一万の軍相手に王都は陥落し、そいつがパプマ国を牛耳れるからな。
「……はぁ。じゃあアミルダの元に向かうので、少しの間よろしくお願いします」
「心得たのである!」
早馬よりも俺の魔動車の方が遥かに速いので、急いでギャザのアミルダの元へ戻る。
幸い出陣する二日前だったようで、何とか白竜城の玉座の間で話せる時間を設けることができた。
「そういうわけでこんなことに……」
俺が説明し終えると、アミルダは額を手で押さえながらため息をつく。
「……最近、私の悩みの種がどんどんおかしくなるな」
陽炎捕縛事件、バルバロッサさんの今回の万民敵。
どちらもエイプリルフールで、一目で分かる冗談として扱われるネタだろう。問題は本当に起きたということだけで。
「それでパプマどうしようか……」
「…………………………………放置でよい」
アミルダは絞り出すように呟いた。彼女は玉座から立つとやけくそ気味に叫び始める。
「間違いなくパプマは混乱する! 当分他国にちょっかいをかけるなど不可能で後顧の憂いは断たれた! この事態をパプマにもたらしたのはハーベスタ国なので、当初の目的である暗殺への反撃も達成している、はず!」
「ちょっと無理がないか?」
「下手に手を出すと面倒なことになって、むしろ後顧の憂いが増えかねぬ! そもそもパプマを我が国土にすると、国の形が歪になって面倒なのだ!」
アミルダ、割とストレスが溜まっているようだ。
ちなみに国の形が歪になるというのは、国防上かなり致命的なのは間違いない。
「リーズ、お前なら大丈夫と思うが念のために確認しておく。土地が歪な国の損とは?」
「国防上の不安、それに国内輸送の問題が大きい。こう描くと分かりやすいかな?」
例えば国の右端が攻められた時、普通ならば急ぎ近辺から兵を集め始める。イメージとしては右端から10km以内だ。
ここで同じ国土面積の正方形の国と細長い国では、簡単に集められる兵の数に大きな差が出る。攻められた場所から近い土地が減ってしまうのだ。
俺はクラフト魔法で簡易な絵が描かれた紙を作成してアミルダに見せる。
臨時徴兵限界地
────────┃──★
────────┃──★
臨時徴兵限界地
───┃──
| ┃ |★
| ┃ |★
───┃──
「そうだな。細長い国は端を攻められた時、近場の土地が減ってしまう」
どうしても細長い国は兵を全軍を集結させようとすると、より多くの時間や兵糧などが必要になってしまうからな。
ましてやハーベスタ国にとってパプマの国土は横長のコブみたいな形だ。
下手に取ると国土が凄まじく歪になってしまい、はっきり言って防衛や政治の負担で足手まといになりかねない。
結局パプマに関しては害がなければ放置との結論になった。
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