123 / 134
クアレールの内乱
第115話 パプマの悪あがき
しおりを挟むハーベスタ国に戻って来てから三日後。
俺達はすぐにパプマへと出陣することになった。
クアレールから戻って来た時の軍はまだ解散していなかったので、兵を再度集める手間を省くためにすぐ攻めるのだ。
俺達の軍はパレードばかりで一切戦ってないので、連続の出陣でも武器に問題がないのも大きい。
俺達の軍の編成はクアレール国に向かった時とほぼ同じ。
違うのは二点だ。一点目は最高指揮官が何故か俺に振られたこと。
以前に傭兵団を指揮してアーガ王国を虐待……撃退した実績から、今回もやってみて欲しいとアミルダに頼まれてしまった。
あのキリッとしたアミルダが、上目遣いでお願いして来るのズルいと思うんだ……。
そして二点目は……。
「ぬははは! 吾輩の力を見せてやるのである!」
バルバロッサさんが3mほどの大木を振り回して、ウォーミングアップを始めていた。
ちなみにアミルダは独りで三千の軍を率いてビーガン国に出陣予定だ。
将の配分がおかしい気もするが大丈夫だ。ビーガンは既にまともに兵を揃えられない。
クアレールに出兵した軍がそっくりそのまま俺達側についたからな。もはや奴らに大した兵力は残っていない。
更に彼らはセレナさんに心奪われて、ビーガンの地図とか兵の情報とかもろもろ教えてくれたのだ。
ビーガンの詳細な戦力などを把握した結果、アミルダの三千の兵だけで勝てるとの判断だ。
……そもそも俺達全員合わせても、アミルダ単独の方が指揮能力高いからな!
「リーズ様ぁ! やはりパプマは平野に陣を敷いて私たちを待ち構えています! 数は……一万くらいいそうです!」
そんなことを考えていると遥か上空からセレナさんの叫び声が聞こえる。
彼女は十五メートルはあろうかという氷の柱を造って、その上から俺の渡した双眼鏡で周囲を見渡しているのだ。
この魔法の使い方は俺が提案したものだ。以前の氷の階段からヒントを得たのだが……いやセレナさんの魔法便利過ぎでしょ。
彼女がいる限り俺達はずっと情報戦に勝てるのだ。
前にも言った気がするが、日本の城の本丸が高いのは上から敵軍の動きを見渡せるためだ。
それによって挟撃や不意打ちなどを防げるし、逆にそれらを狙うこともできる。ようは情報で大きく有利をとれるのだ。
そんな本来ならば巨大建築物でようやく得られるメリットを、セレナさんは魔法で一瞬で成し遂げてしまう。
俺は思わず空高いところに立っているセレナさんを見ようとする。
「リーズさーん……セレナのスカート覗いたらダメですよー」
「違いますっ!? エミリさん! 不届きなこと言わないでくれませんかね!?」
「り、リーズさんが見たいなら私はいつでも……! 恥ずかしいですがっ……!」
「セレナさん!?」
俺達の会話が聞こえていたのか、セレナさんが上から告げてくる……。
……いやさ、いくら俺でも気づくよ。彼女、俺に好意を送ってるよね?
でももう俺は二人の妻を持つ夫で……何で結婚してからモテ期が来るんだ……。
「ところでリーズよ。残念ながらパプマは抵抗してくるようであるな」
バルバロッサさんが残念な顔をしながら腕を組んでいる。
俺達はパプマに対して早馬にて降伏勧告の手紙を出していた。
ハーベスタに帰国した時点なので、普通の国ならばすでに何らかの返答が来ているはずなのだが……。
「返事が来ない上に、向こうも防衛の軍を出して来たのだ。つまりそういうことだろう、奴らは使者を殺したのだ! 何が商業国家か!」
「…………」
俺はバルバロッサさんの叫びに返事できなかった。
拒否もしくは承諾の返事が来ない。それはつまり返事する価値もないと使者を殺したと思われる。
ただしそれは、この世界の普通の国の常識で考えればである。
……パプマって議会国家だろ? もしかして降伏の手紙に対してずーっと進まない議論してるのでは……某日出づるところの国会みたいに。
それで俺達が攻めてきたからと、とりあえずパプマ側も焦って防衛してきたとか……あり得そうで怖い。
でもなぁ……これを皆に伝えたところで、パプマが時間稼ぎしてるだけだと言われるのがオチだもんなぁ……。
客観的に見れば奴らにとって時間は味方なのだ。アーガ王国が力を取り戻すのを待てるからな。
なので俺がパプマの議会が無駄話していると伝えても、他の皆は時間稼ぎしてるだけだろうと言ってくるに決まってる。
「う、うーん……もしかしたらパプマはまだ話し合ってるのかも……」
「国の一大事にまだ方針が決まらないなど、そんなはずないのである!」
ほらな? そりゃそうなるだろうさっ! 他国からすればお前らの国の内情なんて関係ないし!
そもそも議会制でも総理大臣みたいなのくらい用意しておけよ! 最低でもトップくらい置いておけボケ!
……しかもよりにもよっての最悪なことがある。
「平野で待ち構えているとなると、被害なく倒すのは骨が折れそうであるな。敵兵一万は傭兵が多いはずなので数ほどの脅威ではないが……」
「本当にそうですね……」
パプマ軍のあん畜生共! 籠城とかじゃなくて平野に防衛線貼ってるんだよ!
籠城なら包囲して時間をかけて攻略しましょう、とか提案できるのに!
パプマ軍は俺達の出陣に反応して、国境付近の平野に陣を敷いていた。
野戦じゃどうにもならない! ただ正面からぶつかるしか無理だぞ!
「攻撃の野戦となると数や兵の質が物を言うであるな。向こうが柵など用意しているとなれば、こうなると今までのように無傷の勝利は難しいやもである」
……それと俺達からしても攻撃側での野戦は嫌というのもある。
野戦というのは開けた場所での戦いだ。どうしても戦い方が正面からの当たり合いになりやすい。
そして敵は待ち構えていればよいというのも厄介だ。
俺達の主力武器であるクロスボウは射程が短いので、自分から近づいて撃つのは難しい。
かといって突っ込んで乱戦にするとどうしても被害が出てしまうし……それに敵兵の装備も悪くないのでこれまでほどの優位性もない。
今さらだが俺達の戦いって全然被害なく勝ってきたなぁ。
防衛戦だったり敵が無能だったり、装備が酷すぎたりとかで……。
そんなことを考えていると、バルバロッサさんが俺の肩に手をのせて来た。そしてもう片方の手で大木を持ち続けている……。
「リーズよ、気にすることはない。今までが出来過ぎだったのである。戦とは本来自軍にも被害が出るものだ」
……バルバロッサさんの言葉はもっともだ。
だが何とかならないものか……パプマのくだらない議会制のせいで、無駄に戦って無駄に被害が出るのは……何かないだろうか。
そもそも俺達が野戦経験って、アーガ王国との戦からだよな。
特に俺が来た最初の戦では鎧の性能だけでゴリ押しして……いや違う。
アミルダが地の利を生かして軍を四分割して敵を包囲したのだ。だが俺にそんな指揮能力はないか……。
「だが今回は僥倖だ。敵地での野戦で敵は守りに徹している、つまりいくら敵兵を逃がして散らしても問題がないのである」
バルバロッサさんはニヤリと強気な笑みを見せて、掴んでいた大木を握力でメキリとへし折った。
「リーズよ。吾輩を乗せられる馬を用意できるか? 吾輩が射ても壊れぬ弓を造れるか? であるならば……お主の望みを叶えてやろう! お主の本意は分からぬがこれがくだらぬ戦と申すならばっ、この吾輩が鎮圧せしめようではないか!」
6
お気に入りに追加
2,142
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。
応援していただけたら執筆の励みになります。
《俺、貸します!》
これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ)
ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非!
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる