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クアレールの内乱
第115話 パプマの悪あがき
しおりを挟むハーベスタ国に戻って来てから三日後。
俺達はすぐにパプマへと出陣することになった。
クアレールから戻って来た時の軍はまだ解散していなかったので、兵を再度集める手間を省くためにすぐ攻めるのだ。
俺達の軍はパレードばかりで一切戦ってないので、連続の出陣でも武器に問題がないのも大きい。
俺達の軍の編成はクアレール国に向かった時とほぼ同じ。
違うのは二点だ。一点目は最高指揮官が何故か俺に振られたこと。
以前に傭兵団を指揮してアーガ王国を虐待……撃退した実績から、今回もやってみて欲しいとアミルダに頼まれてしまった。
あのキリッとしたアミルダが、上目遣いでお願いして来るのズルいと思うんだ……。
そして二点目は……。
「ぬははは! 吾輩の力を見せてやるのである!」
バルバロッサさんが3mほどの大木を振り回して、ウォーミングアップを始めていた。
ちなみにアミルダは独りで三千の軍を率いてビーガン国に出陣予定だ。
将の配分がおかしい気もするが大丈夫だ。ビーガンは既にまともに兵を揃えられない。
クアレールに出兵した軍がそっくりそのまま俺達側についたからな。もはや奴らに大した兵力は残っていない。
更に彼らはセレナさんに心奪われて、ビーガンの地図とか兵の情報とかもろもろ教えてくれたのだ。
ビーガンの詳細な戦力などを把握した結果、アミルダの三千の兵だけで勝てるとの判断だ。
……そもそも俺達全員合わせても、アミルダ単独の方が指揮能力高いからな!
「リーズ様ぁ! やはりパプマは平野に陣を敷いて私たちを待ち構えています! 数は……一万くらいいそうです!」
そんなことを考えていると遥か上空からセレナさんの叫び声が聞こえる。
彼女は十五メートルはあろうかという氷の柱を造って、その上から俺の渡した双眼鏡で周囲を見渡しているのだ。
この魔法の使い方は俺が提案したものだ。以前の氷の階段からヒントを得たのだが……いやセレナさんの魔法便利過ぎでしょ。
彼女がいる限り俺達はずっと情報戦に勝てるのだ。
前にも言った気がするが、日本の城の本丸が高いのは上から敵軍の動きを見渡せるためだ。
それによって挟撃や不意打ちなどを防げるし、逆にそれらを狙うこともできる。ようは情報で大きく有利をとれるのだ。
そんな本来ならば巨大建築物でようやく得られるメリットを、セレナさんは魔法で一瞬で成し遂げてしまう。
俺は思わず空高いところに立っているセレナさんを見ようとする。
「リーズさーん……セレナのスカート覗いたらダメですよー」
「違いますっ!? エミリさん! 不届きなこと言わないでくれませんかね!?」
「り、リーズさんが見たいなら私はいつでも……! 恥ずかしいですがっ……!」
「セレナさん!?」
俺達の会話が聞こえていたのか、セレナさんが上から告げてくる……。
……いやさ、いくら俺でも気づくよ。彼女、俺に好意を送ってるよね?
でももう俺は二人の妻を持つ夫で……何で結婚してからモテ期が来るんだ……。
「ところでリーズよ。残念ながらパプマは抵抗してくるようであるな」
バルバロッサさんが残念な顔をしながら腕を組んでいる。
俺達はパプマに対して早馬にて降伏勧告の手紙を出していた。
ハーベスタに帰国した時点なので、普通の国ならばすでに何らかの返答が来ているはずなのだが……。
「返事が来ない上に、向こうも防衛の軍を出して来たのだ。つまりそういうことだろう、奴らは使者を殺したのだ! 何が商業国家か!」
「…………」
俺はバルバロッサさんの叫びに返事できなかった。
拒否もしくは承諾の返事が来ない。それはつまり返事する価値もないと使者を殺したと思われる。
ただしそれは、この世界の普通の国の常識で考えればである。
……パプマって議会国家だろ? もしかして降伏の手紙に対してずーっと進まない議論してるのでは……某日出づるところの国会みたいに。
それで俺達が攻めてきたからと、とりあえずパプマ側も焦って防衛してきたとか……あり得そうで怖い。
でもなぁ……これを皆に伝えたところで、パプマが時間稼ぎしてるだけだと言われるのがオチだもんなぁ……。
客観的に見れば奴らにとって時間は味方なのだ。アーガ王国が力を取り戻すのを待てるからな。
なので俺がパプマの議会が無駄話していると伝えても、他の皆は時間稼ぎしてるだけだろうと言ってくるに決まってる。
「う、うーん……もしかしたらパプマはまだ話し合ってるのかも……」
「国の一大事にまだ方針が決まらないなど、そんなはずないのである!」
ほらな? そりゃそうなるだろうさっ! 他国からすればお前らの国の内情なんて関係ないし!
そもそも議会制でも総理大臣みたいなのくらい用意しておけよ! 最低でもトップくらい置いておけボケ!
……しかもよりにもよっての最悪なことがある。
「平野で待ち構えているとなると、被害なく倒すのは骨が折れそうであるな。敵兵一万は傭兵が多いはずなので数ほどの脅威ではないが……」
「本当にそうですね……」
パプマ軍のあん畜生共! 籠城とかじゃなくて平野に防衛線貼ってるんだよ!
籠城なら包囲して時間をかけて攻略しましょう、とか提案できるのに!
パプマ軍は俺達の出陣に反応して、国境付近の平野に陣を敷いていた。
野戦じゃどうにもならない! ただ正面からぶつかるしか無理だぞ!
「攻撃の野戦となると数や兵の質が物を言うであるな。向こうが柵など用意しているとなれば、こうなると今までのように無傷の勝利は難しいやもである」
……それと俺達からしても攻撃側での野戦は嫌というのもある。
野戦というのは開けた場所での戦いだ。どうしても戦い方が正面からの当たり合いになりやすい。
そして敵は待ち構えていればよいというのも厄介だ。
俺達の主力武器であるクロスボウは射程が短いので、自分から近づいて撃つのは難しい。
かといって突っ込んで乱戦にするとどうしても被害が出てしまうし……それに敵兵の装備も悪くないのでこれまでほどの優位性もない。
今さらだが俺達の戦いって全然被害なく勝ってきたなぁ。
防衛戦だったり敵が無能だったり、装備が酷すぎたりとかで……。
そんなことを考えていると、バルバロッサさんが俺の肩に手をのせて来た。そしてもう片方の手で大木を持ち続けている……。
「リーズよ、気にすることはない。今までが出来過ぎだったのである。戦とは本来自軍にも被害が出るものだ」
……バルバロッサさんの言葉はもっともだ。
だが何とかならないものか……パプマのくだらない議会制のせいで、無駄に戦って無駄に被害が出るのは……何かないだろうか。
そもそも俺達が野戦経験って、アーガ王国との戦からだよな。
特に俺が来た最初の戦では鎧の性能だけでゴリ押しして……いや違う。
アミルダが地の利を生かして軍を四分割して敵を包囲したのだ。だが俺にそんな指揮能力はないか……。
「だが今回は僥倖だ。敵地での野戦で敵は守りに徹している、つまりいくら敵兵を逃がして散らしても問題がないのである」
バルバロッサさんはニヤリと強気な笑みを見せて、掴んでいた大木を握力でメキリとへし折った。
「リーズよ。吾輩を乗せられる馬を用意できるか? 吾輩が射ても壊れぬ弓を造れるか? であるならば……お主の望みを叶えてやろう! お主の本意は分からぬがこれがくだらぬ戦と申すならばっ、この吾輩が鎮圧せしめようではないか!」
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