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クアレールの内乱

第101話 クアレール国に出兵しよう

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「ふむ……クアレールに進軍となれば、やはりハーベスタ国側の代表も必要か」
「そうだね。兵だけ借りて行くよりも、その方が第四王子陣営に遥かに圧を加えられる。ハーベスタ国は僕を後押ししているとすごくアピールできるからね」

 アミルダと第三王子は更に話を詰めていく。

 確かに第三王子がクアレール国に戻るにあたって、ハーベスタ国の有力者がついていった方が何かと都合がよいだろう。

 クアレールの貴族たちもハーベスタ国の意見を無視はできない。すでに俺達は大国でありかつ同盟国だからな。

 ハーベスタ国の代表がクアレール国に出向き、しっかりと我が国が第三王子を支援すると宣言すれば影響は大きい。

 その宣言で例えばこんなメリットが発生する。第四王子が俺達と敵対する道を選ぼうとしても、うまくいかない可能性が出始めるのだ。

 何せいくら王を継ごうとしても、第四王子は権威も正当性も弱い。

 継承権で考えれば第三王子が継ぐのが正道だからな。

 しかもそんな状況で同盟国である俺達の代表が、しっかりと第三王子を支援するところを見せつければ……中立で様子見している貴族に与える影響は大きいはずだ。

 あるいは不利を悟って奴の陣営から、第四王子陣営から第三王子陣営に寝返る者も出てくるかもしれない。

 貴族は忠義に生きる者にあらず、沈む船に乗り続ける愚か者ばかりではないのだ。

 「しかし私はハーベスタ国から離れられない。アーガ王国が攻めてくる恐れもゼロではないし、内政の仕事も色々とあるからな。そうなると……」

 アミルダは俺の方に視線を向ける。

 な、なるほど……今の俺は王配だ。身分的にはアミルダの名代として、クアレールに出向くことができてしまう。

 問題は俺に王族としての振る舞いや立ち回りができないことだが!

 さっきも早速やらかしてしまったし!

「アミルダ、俺に名代は難しいと思うのだけど……」
「……確かに危うさはある。だがチャムライもいるから何とかなるだろう」
「はっはっは! 任せてくれたまえ!」
「いや無理では?」

 俺と第三王子で? マイナス×マイナスはプラスになるとかそんなの?

「というかエミリさんは……」
「本当にあいつを名代にしていいと思っているのか?」
「すみません、冗談でも言い過ぎました……」

 エミリさんがハーベスタ国の代表とか想像しただけで恐ろしい。

 砂糖や菓子で買収される未来が見えるようだ。

「チャムライ、しっかりとリーズの面倒を見てやってくれ。できるな?」
「もちろん。彼がダメだと僕の立場も悪くなるから、責任とって面倒を見ると誓おう!」
「そういうわけだ、リーズ。お前には名代として出向いてもらいたい……ダメか?」

 アミルダは少し上目遣いで俺の方を見て来た……うっ、可愛い。

 く、くそっ! ここで断ったら男が廃るぞ!

「わかった! ただどうなっても知らないからな!」
「よーし! では早速クアレール国に戻ろう! 善は急げだからエミリ嬢も連れてレッツゴー!」

 第三王子は俺の手を掴むと、玉座の間の外へと連れ出そうとする……ちょっと待って、こいつ相当力強いぞ!?

「待て、護衛としてセレナも連れて行った方がよい。タッサク街にいるのだろう? 通り道で拾えるだろうしな。腕のよい護衛は必須だろう」
「おお、銀雪華か! ハーベスタ国の秘密兵器を借りれるとは! 君たちが雇ってるはずなのに全然戦場に出てこないから不気味だったけど、こんな時のために隠しておいたんだね!」

 違う、単に商会長としてこき使ってただけだ。

 セレナさん、計算とか普通にできるから……文官に近い扱いしてるんだよな。

 外にも名が売れてるくらいの魔法使いなことを考えると、無駄遣いだよなぁとは思う。

 でもアミズ商会を任せられる人材がね……というか文官が慢性的に不足してるから……。

「あれ? セレナさんがいなくなったら、アミズ商会はどうするんですか?」
「不在の間は私が面倒を見る……それにセレナには悪いこともしたからな。もう憂いもなくなるだろう。セレナに伝えておいてくれ、『すまなかった、これからは全力で好きにして欲しい』と」
「? は、はぁ……いいけども」

 アミルダはセレナさんに何かお願いでもしてたのかな?
 
 でも彼女は俺の直接の配下だから、アミルダから命令はしないはずなんだけど。

「リーズ、クアレール国のことは任せる。お前は先ほどは不意打ちを受けて、迂闊な言動をしてしまったのは確かだ。だが失態を繰り返すタイプではないはずだ、期待している」
「さあ行くよ! 我がクアレール国に戻るんだ!」
「わかった! わかったから袖を引っ張るな!」

 こうして俺たちは玉座の間を出た。

 そして調理場で菓子を焼いて、エミリさんをおびき寄せて捕らえてから白竜城を出発した。

 タッサク街へ向かうため、魔動車でドライブ中だ。

「お、おおおおおおおぉおぉぉぉ!? なんだこのエクセレントでセンセンシャルな馬車は!? いや馬ついてないけど!?」

 後部座席に座った第三王子が窓から顔を出して遊んでいる。

 最初は皆、驚くもんなぁ。その点、すでに何度も乗ったエミリさんは違う。

「この砂糖をクアレールに持って行って売れば、差額の分だけ儲かる……その儲けた分だけハーベスタ国で砂糖を買えば……お菓子!」

 すでに魔動車を利用して一介の商人と化していた。

 いつの間にか用意した砂糖の入った木箱を、膝に抱えているのはまごうことなき商人の精神。

 儲けた後のことを考えて顔を緩ましている姿は、とても貴族令嬢とは思えない。

「あ、でも砂糖……ちょっとだけなら舐めても……」

 前言撤回、商人失格だ。行商品のはずも砂糖がなくなってしまう。

 エミリさんに商人は無理ということだろう。

「しかし本当に速いなこれ……早馬よりよほど速く移動できる。これ一台もらえたりしない?」
「お断りします」
「だよねぇ、情報伝達にしても王族の移動にしても便利過ぎる。まったく羨ましい限りだよ、これがあれば正確な情報伝達が可能じゃないか」

 そんなことを話している間に、魔動車はタッサク街へと到着したのだった。

 
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