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とうとう叙勲編
第95話 婚約指輪
しおりを挟む俺とアミルダ様の婚約がハーベスタ中に発表されて二週間が経った。
特に国で反対運動は起きていないと聞いて安心している。
いやそれどころか反対運動を煽動した者たちを、民衆が率先してリンチする事件が多発しているらしい。
そいつらは捕縛して身元が洗い出されているのだが……全員がハーベスタ国の者ではないらしい。
つまりはアーガ王国の間者たちでほぼ間違いなかった。あ、ビーガン国のも混ざってるかもしれないが……まあ誤差だろう。
そんなこんなでハーベスタ国の各街はドンチャンお祭り騒ぎらしい。
なおエミリさんは本当に俺との婚約を事前に知らされておらず、当日に広場で発表されてからそれを耳にしたようで。
「……え!? 私とリーズさんが婚約するんですか!? しかも叔母様も!?」
などと広場内で民衆に混ざって驚いていたらしい……哀れな。
俺が伝えておこうかとも思ったが、アミルダ様から止められてたからなぁ。
そうして国が盛り上がる中で、俺は久々に自宅に戻っていた。
「リーズよ、わざわざ自宅に戻って何をするつもりであるか? もはやお主は次期……いや今は女王であるアミルダ様しかいないから次期ではないのであるか? まあいいのである。次期王配なのだからちゃんと護衛をつけるのである」
俺の護衛であるバルバロッサさんが、椅子に座りながらたずねてくる。
……彼の体重を全て支えている椅子が、ミシミシと嫌な音を鳴らしているが気にしないことにしよう。
この人は俺が普段のように黙って城を出ようとすると、三階の玉座の間の窓から勢いよく飛び降りて来たのだ。
…………確かに俺は次期王配だ。普段のノリで出かけようとしたがダメだよな……これからはより一層気をつけねばならない。
護衛なしで外に出るのはもう無理になってしまうのかぁ……おっといかんいかん、まずはここに来た目的を達成しないと。
「少し指輪を作りたいなと思いまして」
「ほう」
「ちょっと待ってくださいね」
俺は上着ポケットのアイテムボックスに手を突っ込み、拳サイズの透明なダイヤを取り出した。
このダイヤは夜なべして作った……というかたまに余った魔力で少しずつ大きくしていった物だ。
何かの時に金策にでもと思っていたが、予想外の使い方をすることになったな。
「見事なダイヤであるな。それをどうするのである?」
「少し削ったりして婚約指輪にしようかなと……ほら、アミルダ様に。夫から婚約指輪ももらえないとなると、アミルダ様も外聞が悪いかと」
「ほほう、それはよいことであるな。アミルダ様もすごく喜ばれるであろう」
「喜びますかね? あの人は合理的ですし、婚約指輪をもらっても普通に受け取るだけのような」
アミルダ様が喜ぶ姿……あまり想像できないな。いつもキリッとしていて格好良いが、喜ぶようなイメージは……。
あ、でも白竜城の名前を決める時は珍しくテンション上がってはいたか。
「リーズよ、お主はアミルダ様の内面をあまり知らぬ。主従関係であったが故、致し方ないところではあるが……今後は外だけでなく中も支えてやるのである。あのお方の外面は、演技しているところもあるのだから」
「はぁ……」
バルバロッサさんの昔話では、元々のアミルダ様は大人しい少女だったとは聞いてはいる。
でも今の女傑の印象が強すぎて、どうしても恰好よいお方と思ってしまう。
そんなことを考えながら【クラフト】魔法で、ダイヤモンドを研磨しつつ紅に変色させていく。
その過程でダイヤがどんどん小さくなっていく。元々のダイヤを魔力に変換して、それを利用して色を染め上げているのだ。
これってルビーになるのかな? 宝石には詳しくないからよく分からん。
ダイヤは【クラフト】魔法で変換しづらい。物質としての密度が凄すぎて、普通よりも遥かに魔力が必要なのだ。
だから今まで金策でダイヤを出したりは無理だった。
今回も勿体ない気がするが……アミルダ様ならばやはり紅が似合うからな。
「それともうひとつ。お主はいつまでアミルダ『様』と言い続けるつもりであるか? 夫婦となる約束をしたのだから、様づけはよくないのである」
バルバロッサさんは腕を組みながら俺を見据えてくる。
何だろう、この人がアミルダ様の父親みたいに見えてきた。
「あー……でもまだ婚約なので、厳密にはまだ主君と臣下では?」
「厳密などどうでもよいのである。周囲から夫と妻の仲が睦まじいと見えるようにせねば。今後は呼び捨てにするがよい」
「わ、わかりました。アミルダ様……じゃなくてアミルダ、のことは呼び捨てに……できるかなぁ……」
うわ、自分で言ってて違和感が半端ない。
すでに身体に染み付いているのだろう、アミルダまで言うと無条件で様ってつけてしまう。
なるべく気を付けるようにするが……たまにアミルダ様って言ってしまいそうだなぁ。
「アミルダ、アミルダ、アミルダ……しばらく唱えておきますね。それとアミルダ様の指輪が完成したのですが……」
「どうしたのである?」
「エミリさんに渡すの、指輪を模した飴のお菓子の方がよいですかね?」
割と悩むぞこれ。今のエミリさんなら冗談抜きで、ダイヤよりもべっこう飴つけた指輪の方が喜びそうなんだが。
彼女のことなので指輪を模した飴を渡せば、「ありがとうございます!」と狂喜乱舞してぺろぺろし始める未来が見える。
俺としてもより彼女が喜ぶ贈り物を渡したいからな。ダイヤの指輪を渡して、「飴のほうがよかったです……」なんて言われたら辛い。
実際に飴はかなり高級品に分類されるため、王族への婚約の贈り物としてもアリなのが困るところだ。
バルバロッサさんも即答できないようで、かーなり悩みぬいた後。
「う、うーむ……飴の方が喜ぶやもしれぬが……ここはダイヤにしておくのである」
「ダイヤ指輪を売って砂糖にしたりしません?」
「流石にせぬ……と思いたいのである」
物凄く不安そうに返事するバルバロッサさん。
大丈夫かなぁ。今のエミリさんは砂糖のためなら、自分の髪を切って売りかねないレベルだし……。
「もしエミリ様がダイヤ指輪を売ろうとしたら、何としても吾輩が食い止めるのである! だから贈るのである!」
「お、お疲れ様です……」
たまにバルバロッサさんの役職が分からなくなる時がある。
やってることが伯爵の仕事というよりも、執事とか護衛のそれなんだよな……。
ま、まあ彼が目を光らせているからこそ、エミリさんが畜生に落ちずに済んでいる所はある。
とりあえずエミリさん用に青いダイヤの指輪を造るか……べっこう飴っぽい指輪のほうがよいかな?
琥珀とか造るか? べっこう飴に似てるし……。
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