86 / 134
刃を交えない戦争編
第84話 べっこう飴
しおりを挟む「リーズさん、これまずいのでは……」
「ちょっとよろしくない流れですね」
エミリさんが俺に小声で話しかけてくる。
なんかパーティー会場が想像以上に盛り上がってしまった。
巻き寿司とコーンスープが大人気過ぎて、それらだけで招待客が満足して帰ってしまいそうな雰囲気である。
巻き巻き巻きとかバカじゃないだろうか。美食家気取りならネーミングももう少し気取ればよいのに。
しかしこのまま満足されて終わったらすごく困るのだ。米が満足してもらえたのはよいが、我がハーベスタ国の砂糖のアピールができずに終わってしまう。
なのでこの流れを阻止するべく、俺とエミリさんが急遽出ることになった。
予定ではパーティーの終盤辺りに颯爽と現れるはずだったのに。
「な、なんだその透き通る黄金のような固形物は……!?」
さっき謎の食レポをしていた男が、俺の運んできた荷台に載っている皿を指さしてくる。
ふむ……こいつ利用できそうだな。無駄にオーバーリアクションしてくれるので、食べさせれば周囲にアピールしてくれそうだ。
ネーミングセンスは論外だがリアクション芸人としてはOKだ。
「ハーベスタ自慢の砂糖菓子です。このパーティーが初公開の品になります」
「ほう! ならば一口目はこの私が頂こうではないか!」
美食家きどりの男は鼻息荒く迫って来る。
どこの国の王様か知らないがすごく扱いやすい人だな……エミリさんみたいだ。
「いや待ちたまえ。ここはクアレール王子たるボクが!」
ややこしくなるからお前はしゃしゃり出てくるんじゃない!
そんな俺の願いも虚しく、チャラ男まで駆け寄ってきてしまった。
チャラ男と美食家きどりの男はにらみ合い、視線で火花を散らし合っている。
「ボクはクアレール王の名代。美味な物は最初に食べる権利がある!」
そんな権利はない。
「最初に美食家である私の舌に味われて紡がれることで、この黄金の菓子はその価値を高めるのだ!」
舌先三寸でも何でもいいからさっさと食え。
とはいえ俺は一般人のため、王族相手に思っていることを言えるはずもない。
「実に見事な色……なんと高貴な」
「早く味わいたいのだが」
他の貴族もざわざわと騒ぎ始めたこの茶番。誰か何とかして欲しいと祈っていると。
俺の横に控えていた砂糖狂いが目を光らせた!
「もう我慢できません……誰も食べないなら頂きますね!」
エミリさんが目にもとまらぬ速さで動き、止める間もなく皿に載っていた飴をつまんで口に入れた。
「「えっ」」
「甘いです~♪ ずっと食べたかったんですよー♪」
幸せそうに恍惚の表情を浮かべ、頬に両手を当てるエミリさん。
実はエミリさんには今までこの飴を食べさせてなかったのだ。
つまみ食いでかなり減らされそうなので、会場に出すまで絶対にダメだと言い含めて置いたのだが……さっきから目が血走ってたもんなぁ。
「お、おお。では私もひとつ頂くとしましょう」
「よいですなぁ。これこそ高貴な者に相応しい色合い」
他の貴族たちもワゴンに寄ってきて、我さきにと飴をとっていく。
どうやらエミリさんは、飴だけでなくて会場の凝り固まった空気も溶かしているようだ。
「「ぐぬぬ……」」
そして争っていた二人は、エミリさんに対して責めるような視線を向けている。
なおエミリさんはそんなこと興味ないようで、ひたすら舐めているが。
「甘い~♪ リーズさん、この飴って何て名前でしたっけ?」
「べっこう飴です」
べっこう飴、それは日本で生まれた飴だ。
亀の甲羅(べっ甲)に似ていたからつけられた名前らしい。
このべっこう飴をパーティーで配って広めることで、何としてもハーベスタ国の特産菓子としたかったのだ。
「うむ、甘い。砂糖をふんだんに使っているな。混じり気もない純粋だがそれ故に奥深く……これはゴールデン飴だな!」
「ボクにはわかるよ。この飴は純粋の極致だと!」
気を取り直した食レポ二人組が何かほざいているが放置。
このべっこう飴を広めたかった理由、それは製造が凄まじく簡単な上に現状では真似されないからだ。
簡単と言っても他の菓子に比べればってだけだろって? いやいや、これは誰でも造れるのだ。
なにせ……砂糖を溶かした水を熱するだけなのだから。
砂糖水を熱するとカラメル化反応が起きて黄色くなるので、後は固まるまで放置するだけでべっこう飴の完成!
もう料理と言えるかも怪しいレベルの菓子! 小学生が理科の実験でやるくらいだからな!
「リーズさん。私、べっこう飴ギルド作ります!」
「エミリさん、やめておきましょう。お金と飴を溶かす未来しか見えません」
爆死する未来しか見えないのでくぎを刺しつつ、周囲の反応に耳をすませると。
「うむ、これはよい。この見栄えは素晴らしいな」
「是非我がパーティーでも出したい。黄金のように積み重ねて出せば、盛り上がること間違いなしだ」
やはり大絶賛だな。当然だろう、何せ色合いが黄金を連想させるのだから。
黄金を口に溶かして食べるなどと思えば、凄まじく豪華で高貴な菓子になる。
……砂糖をふんだんに使っているので、現時点では実際にかなり高級な菓子なのだが。
更に言うならべっこう飴を綺麗な色にするには、白砂糖でなければならない。
現状だと我がハーベスタ国以外は黒砂糖なので、彼らは自前でべっこう飴を造れない。
さてもう俺の役目は終わりだな。邪魔者はさっさと退散しよう。
「ではべっこう飴はここに置いておきますので、引き続きパーティーをお楽しみください。エミリさん、行きますよ」
「私は残ります! 外交の顔として仕事を果たします!」
エミリさんは力強く宣言した。素晴らしい情熱だ、彼女の視線がべっこう飴の載ったワゴンに集まっていなければだが。
……まあ彼女の役目は元からそれだし、面倒だから置き去りにしてもいいか。
そうして俺はパーティー会場の端まで退散して、改めて周囲の観客の様子を確認すると。
「おお! 黄金の飴が光で更に輝いておる!」
「あれが七色に輝く煙突……! 名に違わぬ光よ!」
……なんかエミリさんが光っとる。周囲の招待客はエミリさんに向けてべっ甲飴をかざしたりして楽しんでいる。
…………魔法のアピールになるからセーフとしよう。
更に他の場所に目を向けると、しばらく空気だったセレナさんのかき氷テーブルにひとたがりができていた。
「なんと! 氷の魔法使いをこんなパーティーにこき使うとは! ハーベスタ国の力、あなどりがたし!」
「まさに氷魔法の無駄遣い! これでこそ王族のパーティー!」
「コーンスープ食べて冷水! 冷水飲んでコーンスープ! 熱さと冷たさの交互がたまらぬわ!」
魔法使いとは貴重なので、そんなものを料理のために扱うのは最高の(ムダな)贅沢なのだ。
ましてやあの有名なセレナさんだ。本来ならパーティーなんかに出席させる間に、他の仕事をやらせた方が遥かによいはず。
それをこんなパーティーのために無駄遣いするというのは、貴族にとっては贅沢ポイントとして評価加点されるのだ! 馬鹿かな!
それと最後のやつ、セレナさんに冷水もらってコーンスープと交互に飲んでるが……胃がおかしくなりそうだな。
そんなこんなでパーティーは大好評で終わった。
5
お気に入りに追加
2,142
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。
応援していただけたら執筆の励みになります。
《俺、貸します!》
これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ)
ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非!
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる