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刃を交えない戦争編

第72話 砂糖①

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 俺はエミリさんとバルバロッサさんと共にギャザの街を歩いていた。

 相変わらず活気があってよい場所だ。だが……やはり国の王都と呼ぶには規模が小さい。

 そこまで大きな建物もなく人口も千人に満たないくらい。

 ようは地方都市くらいの発展度なのだ。ここが王都だったのだから、ハーベスタの元々の国土は一領地程度と言われるのも納得である。

 このまま何も手を入れなければ、自然とハーベスタ国の王都はタッサク街となるだろうな。

 アミルダ様が認めなくても民衆がそう認定する。なにせ人口が違いすぎる、タッサク街のほうが人口も十倍ほど多いし。

 そんなことを考えていると、ちょうど野菜売りの屋台の前を通りがかる。

「あ、すみません。このビートを十本ほどください」
「はいはい、毎度ありー」

 白いカブのような甜菜《ビート》を十本ほど購入すると、バルバロッサさんが感心したように頷いていた。

「よい心がけであるな。アミルダ様から下賜された馬のエサであるか」
「あーいえ、そういうわけではないのですが」

 甜菜を上着ポケットのマジックボックスにしまいつつ答える。

 アミルダ様から頂いた馬はしっかりと、自宅の隣に馬小屋を建てて育てている。

 エサは基本的に乾草やニンジンなどだ。

「む、甜菜はあまり人が食べる物ではないぞ。吾輩は食らうが」
「わかってます。これはちょっと別のことで使おうかと」
「ふむ、まあよいのである。それよりもハーベスタ国の特産品によさそうなものはあるか?」

 バルバロッサさんが屋台で買った串肉を十本ほど、串ごと貪りながら話してくる。

 すげぇ、木の串がスティック状のスナック菓子のように噛み砕かれてる。

「色々と考えましたがやはり……砂糖ですね」

 砂糖。現代地球では簡単に安く手に入るが、中世の時代では超高級品だった。

 この中世ヨーロッパくらいの文明であろう世界でも、それは変わらないようでやはり砂糖は貴重だ。

 日本でも砂糖に関してはエピソードがいくつかある。

 織田信長がキリスト教宣教師から、砂糖の塊である金平糖を献上されて大いに喜んだらしい。

 これまた信長の話になるが彼は当時の天皇に対して、砂糖を献上した話もあるほどだ。

 砂糖は少量でも高額で売ることが可能だ。商人が必要以上に欲張らなければ、そこまでの重荷にならず持ち運びやすい……はず。

 少なくとも小麦や米みたいに大量に運ばないと、利益が出ないなんてことはないはずだ。

「さ、砂糖ですか!? お菓子をいっぱい食べれるようになるんですか!?」

 俺の言葉にエミリさんが物凄く食いついてきた。

 どうやら彼女はお菓子の類が好物なようだ。

「エミリ様は菓子が好物でありますからなぁ。昔は誕生日が近づいてくると、毎年のようにねだってましたな」
「あ、あはは……最近はとてもお願いできる状況じゃなかったですけど……」

 毎年誕生日にお菓子。一般家庭なら難しいだろうな、貴族なら余裕で買えるだろうけど。

 砂糖に代わる甘い物としてハチミツがあるが、それもかなりの高級品だしな。

 そもそも甘味自体がお高いのだからどうしようもない。

 逆に言えばそんな砂糖を生産すれば、現状ならいくらでも売れるというわけだ。

「ハーベスタ国を砂糖の名産地にして、外貨をたんまり儲けましょう!」
「頑張りましょう! 私に出来ることなら何でもしますよ! いくらでも光りますよ!」
「エミリさん落ち着いて……今回は光ってもらう必要はないです」

 エミリさんが物凄くテンション上がっている。

 甘い菓子が本当に大好物なのだろうなぁ。言ってくれれば用意したのに。

「だがリーズ、今回はお主の魔法で造ればよいわけではないのである。民衆たちに砂糖を造らせる方法があると?」
「もちろんです。ちょっとこの後のことは俺の家にでも行って話しましょうか」

 そうして街をしばらく歩いて俺の自宅へとやってきた。

 砂糖という重要なことの話なので、念のための人のいない場所に移動したわけだ。

 ここなら特に誰も来ないだろうしな……遊びに来るような友達もいないし。

 け、決して友人作りが下手なんじゃなくて仕事に追われてるだけだから!

「どうぞ入ってください」

 俺は玄関の扉を開けて自宅に入る……うわ、戻ってくるの久しぶりだから埃が溜まってる。

 即座に【クラフト】魔法で家中の埃全てを集めて小さな岩にして、窓から外に投げ捨てた。

 一瞬で綺麗になる室内。何とかお客様を招ける部屋になったな。

「……リーズさんの魔法、便利ですね」
「おかげでメイドを雇わなくてすみます」

 俺の暮らし方だと定期的に部屋掃除の依頼でもしないと、部屋を綺麗に保つの難しそうだからなぁ。

 なにせ出張いや出征が多すぎる……。

「結婚して妻がいたらと思うこともありますよ。そうしたらこの部屋ももう少し生活感が出るのでしょうが」
「な、なるほど……」

 何気ない一言だったのだが、何故かエミリさんの顔が引きつっている。

「ふむ、リーズよ。お主は妻とはどんな者を想像しているのであるか?」
「え? 仕事から帰ってきたら料理を作ってくれたり、家事をしてくれる人ですが」

 現代地球だと今は男性も家事する時代とかあるが、この世界では男が儲けて女が家庭を守るのが当たり前だ。

 なので俺も云わば標準的な妻のイメージ像を浮かべているのだが……。

「あの、エミリさん。難しい顔されてどうしました?」
「い、いえ……結婚相手の妻が庶民的なイメージだなと……。ほ、ほらリーズさんは武功も上げていることだし貴族の令嬢相手とかは……?」
「うーん、俺も庶民ですからねぇ。貴族に叙勲されたらその時考えますよ」

 そういえば以前に俺も貴族に……みたいな話あったな。

 でも現実感薄くてなぁ。

「うむ、お主の考えは分かったのである。では砂糖をどうやって調達するか説明して欲しいのである」

 そうだった。砂糖の説明をしに来たのに、いつの間にか俺の求める妻像の話になってしまっていた。

 先ほど購入した甜菜《ビート》を、マジックボックスから一本取り出して見せびらかす。

「これから砂糖が作れます」
「……えっ!?」
「ほほう、なるほどなのである」

 目を見開いて驚くエミリさんに対して、バルバロッサさんは合点がいったというように頷いている。

 エミリさんは俺から甜菜をひったくると、上から見たり下から見たり。

 更には手の裏で叩いたりなど色々試した後。

「……普通の甜菜ですが」
「普通の甜菜です」
「馬や豚のエサですが」
「馬や豚のエサですね」
「……これで砂糖が?」
「はい」

 エミリさんは目をパチクリしながら、手に持った甜菜を更に茫然と見続ける。

 そして何故か甜菜を光らせ始めるのだった。
 
 あれかな、困ったら光る感じの癖だろう。

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