74 / 134
刃を交えない戦争編
第72話 砂糖①
しおりを挟む俺はエミリさんとバルバロッサさんと共にギャザの街を歩いていた。
相変わらず活気があってよい場所だ。だが……やはり国の王都と呼ぶには規模が小さい。
そこまで大きな建物もなく人口も千人に満たないくらい。
ようは地方都市くらいの発展度なのだ。ここが王都だったのだから、ハーベスタの元々の国土は一領地程度と言われるのも納得である。
このまま何も手を入れなければ、自然とハーベスタ国の王都はタッサク街となるだろうな。
アミルダ様が認めなくても民衆がそう認定する。なにせ人口が違いすぎる、タッサク街のほうが人口も十倍ほど多いし。
そんなことを考えていると、ちょうど野菜売りの屋台の前を通りがかる。
「あ、すみません。このビートを十本ほどください」
「はいはい、毎度ありー」
白いカブのような甜菜《ビート》を十本ほど購入すると、バルバロッサさんが感心したように頷いていた。
「よい心がけであるな。アミルダ様から下賜された馬のエサであるか」
「あーいえ、そういうわけではないのですが」
甜菜を上着ポケットのマジックボックスにしまいつつ答える。
アミルダ様から頂いた馬はしっかりと、自宅の隣に馬小屋を建てて育てている。
エサは基本的に乾草やニンジンなどだ。
「む、甜菜はあまり人が食べる物ではないぞ。吾輩は食らうが」
「わかってます。これはちょっと別のことで使おうかと」
「ふむ、まあよいのである。それよりもハーベスタ国の特産品によさそうなものはあるか?」
バルバロッサさんが屋台で買った串肉を十本ほど、串ごと貪りながら話してくる。
すげぇ、木の串がスティック状のスナック菓子のように噛み砕かれてる。
「色々と考えましたがやはり……砂糖ですね」
砂糖。現代地球では簡単に安く手に入るが、中世の時代では超高級品だった。
この中世ヨーロッパくらいの文明であろう世界でも、それは変わらないようでやはり砂糖は貴重だ。
日本でも砂糖に関してはエピソードがいくつかある。
織田信長がキリスト教宣教師から、砂糖の塊である金平糖を献上されて大いに喜んだらしい。
これまた信長の話になるが彼は当時の天皇に対して、砂糖を献上した話もあるほどだ。
砂糖は少量でも高額で売ることが可能だ。商人が必要以上に欲張らなければ、そこまでの重荷にならず持ち運びやすい……はず。
少なくとも小麦や米みたいに大量に運ばないと、利益が出ないなんてことはないはずだ。
「さ、砂糖ですか!? お菓子をいっぱい食べれるようになるんですか!?」
俺の言葉にエミリさんが物凄く食いついてきた。
どうやら彼女はお菓子の類が好物なようだ。
「エミリ様は菓子が好物でありますからなぁ。昔は誕生日が近づいてくると、毎年のようにねだってましたな」
「あ、あはは……最近はとてもお願いできる状況じゃなかったですけど……」
毎年誕生日にお菓子。一般家庭なら難しいだろうな、貴族なら余裕で買えるだろうけど。
砂糖に代わる甘い物としてハチミツがあるが、それもかなりの高級品だしな。
そもそも甘味自体がお高いのだからどうしようもない。
逆に言えばそんな砂糖を生産すれば、現状ならいくらでも売れるというわけだ。
「ハーベスタ国を砂糖の名産地にして、外貨をたんまり儲けましょう!」
「頑張りましょう! 私に出来ることなら何でもしますよ! いくらでも光りますよ!」
「エミリさん落ち着いて……今回は光ってもらう必要はないです」
エミリさんが物凄くテンション上がっている。
甘い菓子が本当に大好物なのだろうなぁ。言ってくれれば用意したのに。
「だがリーズ、今回はお主の魔法で造ればよいわけではないのである。民衆たちに砂糖を造らせる方法があると?」
「もちろんです。ちょっとこの後のことは俺の家にでも行って話しましょうか」
そうして街をしばらく歩いて俺の自宅へとやってきた。
砂糖という重要なことの話なので、念のための人のいない場所に移動したわけだ。
ここなら特に誰も来ないだろうしな……遊びに来るような友達もいないし。
け、決して友人作りが下手なんじゃなくて仕事に追われてるだけだから!
「どうぞ入ってください」
俺は玄関の扉を開けて自宅に入る……うわ、戻ってくるの久しぶりだから埃が溜まってる。
即座に【クラフト】魔法で家中の埃全てを集めて小さな岩にして、窓から外に投げ捨てた。
一瞬で綺麗になる室内。何とかお客様を招ける部屋になったな。
「……リーズさんの魔法、便利ですね」
「おかげでメイドを雇わなくてすみます」
俺の暮らし方だと定期的に部屋掃除の依頼でもしないと、部屋を綺麗に保つの難しそうだからなぁ。
なにせ出張いや出征が多すぎる……。
「結婚して妻がいたらと思うこともありますよ。そうしたらこの部屋ももう少し生活感が出るのでしょうが」
「な、なるほど……」
何気ない一言だったのだが、何故かエミリさんの顔が引きつっている。
「ふむ、リーズよ。お主は妻とはどんな者を想像しているのであるか?」
「え? 仕事から帰ってきたら料理を作ってくれたり、家事をしてくれる人ですが」
現代地球だと今は男性も家事する時代とかあるが、この世界では男が儲けて女が家庭を守るのが当たり前だ。
なので俺も云わば標準的な妻のイメージ像を浮かべているのだが……。
「あの、エミリさん。難しい顔されてどうしました?」
「い、いえ……結婚相手の妻が庶民的なイメージだなと……。ほ、ほらリーズさんは武功も上げていることだし貴族の令嬢相手とかは……?」
「うーん、俺も庶民ですからねぇ。貴族に叙勲されたらその時考えますよ」
そういえば以前に俺も貴族に……みたいな話あったな。
でも現実感薄くてなぁ。
「うむ、お主の考えは分かったのである。では砂糖をどうやって調達するか説明して欲しいのである」
そうだった。砂糖の説明をしに来たのに、いつの間にか俺の求める妻像の話になってしまっていた。
先ほど購入した甜菜《ビート》を、マジックボックスから一本取り出して見せびらかす。
「これから砂糖が作れます」
「……えっ!?」
「ほほう、なるほどなのである」
目を見開いて驚くエミリさんに対して、バルバロッサさんは合点がいったというように頷いている。
エミリさんは俺から甜菜をひったくると、上から見たり下から見たり。
更には手の裏で叩いたりなど色々試した後。
「……普通の甜菜ですが」
「普通の甜菜です」
「馬や豚のエサですが」
「馬や豚のエサですね」
「……これで砂糖が?」
「はい」
エミリさんは目をパチクリしながら、手に持った甜菜を更に茫然と見続ける。
そして何故か甜菜を光らせ始めるのだった。
あれかな、困ったら光る感じの癖だろう。
1
お気に入りに追加
2,144
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる