上 下
69 / 134
疾風迅雷のバベル編

第68話 攻勢限界点

しおりを挟む

「美しい城だな。我が国の威容を存分に示している」

 一夜城を築き終えた次の日、俺は魔動車でアミルダ様を連れて来た。

 やはりせっかく建てた城なのだから、彼女に見てもらう必要があるだろう。

 今後の防衛拠点としても使う予定なので、城の能力などの把握をしてもらうためなのもある。

 アミルダ様は城の最も重要な建物である天守、その門の前で呟いた。

 ただ豆知識なのだが、日本の城とは周囲の石垣とか防衛設備含めて城と呼ぶのだ。

 日本人の大半がイメージしているであろう、遠くからでも立派に見える瓦を纏った屋根の建物は正確には城の一部でしかない。

「あ、それは天守と言いまして。この場合の城とは周囲の石垣なども含めた全てを相称して城と……」
「ややこしいし兵も混乱する、これが城でよい。命令だ、貴様もこれからはこの天守とやらを城と呼べ」

 アミルダ様の一声で日本城の概念がぶっ壊れてしまった。

 ……まあ実際ややこしいもんなぁ。ちなみにだが天守のないお城もあったりする。

 彼女はしばらく城を舐めまわすように観察した後。

「うむ、少々変わった城だが何とも言えぬ趣がある。山城ではないので防御力は少し低いが、代わりに近くに街を造れそうだな」

 流石アミルダ様。平山城のメリットもお見通しか。

 彼女は少しだけ機嫌がよさそうに、開かれた門から天守……じゃなくて城の中に入った。

 中は木造で造られていて、柱が数本立っているのと階段以外はほぼ何もない。

 手抜き建築ではない。この後にアミルダ様の希望を聞いて、必要な物を用意する予定なのだ。

「やはり中は木造か。そして丘を平野を見下ろすような造りの城と。なるほど……確かにそろそろ私にも居城が必要だと考えてはいた。かなり変わった構造だが実用的ではある」

 ……はて? 何が『なるほど』なのだろうか?

 なんか誤解されている気が……そんな俺の疑念も露知らず、アミルダ様はニヤリと笑みを浮かべた。
 
「リーズ、貴様はこう言いたいのであろう。この城をハーベスタ国の本拠にどうかと」

 作った人、そんなこと考えてないです。

 将来的には城下町とか作ってもいいのでは? 程度で本拠とかそんな具体的な計算してないぞ!?

 だがアミルダ様の中では確定事項のようで。

「やはり貴様は気が利くな。確かにハーベスタ国は大きくなり過ぎた。私が居城のひとつも持っていないようでは問題がある。かといって私の元々住んでいた街であるギャザから離れるのもと思っていた。だがここならば近いし、いずれはギャザの民を移住させることも可能と」
「なるほど」

 アミルダ様の説明に思わず呆けてしまう。

 彼女の中の俺はすごいなぁ。本物はそんなこと微塵も考えてなかったのに。

 いざとなればタッサク城に住めば……程度の認識だったよ。

「いや貴様が考えたことだろう」
「いえ欠片も頭にありませんでした」
「過ぎた謙遜はよくないぞ。ならばただの防衛設備の城部分を木造建築で火に弱くして、かつここまで美しくした意味がない。将来的な拡張性を考えた上で、ハーベスタの王が住むに相応しい物を造ったのだろう」

 言えない! 日本の和城をイメージしたから、そのまま建てただけなんて説明できない!

 自分は異世界から転生してー、とか言ったところで頭おかしいと思われるだけじゃん!

 かくなる上は……!

「……流石はアミルダ様。全てお見通しというわけですか」

 したり顔でアミルダ様の考えたリーズを演じることにした。

「本当によくやってくれた。貴様はいつも私の期待以上の結果を出してくれる」
「ははは、お任せください」
「この巨大な大広間も見事だ。今後は外交としてパーティーも多く開く予定だからな。余計な壁がないので助かる」
「計算通りですね」
「不足部分は後で追加してくれる予定だったのだろう?」
「もちろんでございます」

 アミルダ様の中でどんどん俺が過大評価されていく。もう知ったことではない。

「では城の中を案内してくれ」
「ははっ」

 そうして二階と三階も案内し終えた後、アミルダ様の要求を元に一瞬で改築した。

 三階は周囲の様子を見下ろせる以外は書院風の造りだったのだが、玉座の間としてリフォームされることになった。

 他にも本来アミルダ様の寝室などを用意することになった。

 だが本来なら日本の天守……じゃなくて城部分は寝るところじゃないんだけどな……。

 戦国時代の武将は城部分には住んでいないのだ。例外で織田信長は安土城の天守で暮らしたらしいけど。

 ではどこで生活するのかというとだ。御殿という屋敷みたいなものがあって、ちゃんと用意してるんだけどな……!?

 これも和洋折衷なのだろうか……?

 そうして俺とエミリさんとバルバロッサさんは、和風書院造りの部屋改め玉座の間へと呼び出された。

 ……和風の部屋に中世風の玉座がポンと置いてあるの、どう言い繕ってもシュールだなあ。

 アミルダ様は気にされてないようで、機嫌よさそうに玉座に背を預けているが。

「よく集まってくれた。早速だが今後について話そうと思う」
「ははっ! アーガ王国に攻め込むのでありますな!」

 食い気味に叫ぶバルバロッサさん。だがアミルダ様は首を横に振った。
 
「違う。しばらくは内政に集中する」
「何故でありますか!? 度重なる敗北でアーガ王国は弱り切っております! 今ならば攻勢に出て奴らに致命傷を与えることも!」

 バルバロッサさんの言葉に俺も同意してしまう。

 あれだけ惨敗を繰り返したアーガ王国だ。流石に軍の再編成も難しいのではないだろうか。

 そんな俺達に対してアミルダ様はため息をついて、小さく絞り出すように声を出した。

「金がない」
「「「金」」」
「そうだ、今まで何とか振り絞って来たが限界だ。ただでさえ金欠だった我が国で、しかも最近は金銭を消費する作戦も取った」

 軍を動かすとなれば大量の金が必要だ。それが不足していると。

 金銭を使ったというのは……アーガ王国の兵糧を焼く作戦のことだろう。

 民衆に大量に金貨をバラまいたからな。

 だがバルバロッサさんはまだ諦めきれないようで、なおもアミルダ様に食い下がる。

「リーズがいれば兵糧も装備も何とでもなりますぞ!」
「軍は何とかなるかもしれぬな。だがな、根本的に我が国の食料が不足しているのだ。急激に広がった莫大な国土に対して、統治や政治が全く追い付いていない。これ以上に広がってもとても面倒は見れない」
「ぐぬぬ……!」
「それに経済もまともに動いていない。このままでは自国を省みないアーガ王国と同じになるぞ」

 ……経済が動いていない。それは確かに俺も感じたことだ。

 タッサク街は今も半分食料配給制みたいなものだし、ギャザ街で一番大きい商会は個人商店規模の物だった。

 アミルダ様の仰る通り、急激すぎる国土の増加に対して内政が追い付いていない。

 ここまで人口が増えてしまっては、俺の力でも全ての民衆を養うのは不可能だ。

 バルバロッサさんも身に覚えがあるようでしばらく黙り込んだ後に。

「……無念ですが仕方ありませんな」
「バルバロッサ、お前の忠義は嬉しく思う。私の父上の仇を取りたいのだろう。だが故人を想うのは大事であるが、死人に引っ張られてはならぬ」

 アミルダ様は冷たく言い放つ……が、まるで彼女自身にも言い聞かせているように感じた。

 皆が黙り込んで重い雰囲気になった部屋を照らすように、エミリさんがポンと手を叩いた。

「そうだ! このお城の名前は何ですか?」
「まだ決めていない。この場で相談しようと考えていた」
「じゃあ決めましょう! ハーベスタのお城なのでハーベスタ城でどうですか!」
「……国名の城はちょっとマズイような」
「ここが陥落したら、国自体が終わったように民衆に思われるな」

 象徴は大事だがあまりに強すぎるのも困り物だ。

 特にここはアーガ王国との国境付近なので、敵に奪われる可能性もゼロではない。

 ……まあ今のアーガ王国軍見てたらほぼ皆無だろうし、そう思ったから俺もここに建築したわけだが。

「アーガ王国に対する圧の意味で魔王城、もしくは悪魔城はどうであるか?」
「イメージが暗すぎますよ。魔王なのはオジサマだけですし」
「そうだな、他の候補をあげよ」
「いっそアミルダ様の名を借りて、アミルダ城とかどうですか?」
「王の名をそのまま使うのは王の自己顕示欲が強すぎると引かれる。個人的にも自分の名前の城に住みたくない。他の名称にせよ」

 あまりよい名が思いつかないまま、グダグダと会議が長引いてしまう。

 だがこういった名称はかなり重要なのだ。何せ国の威信を誇る城の名前だ、響きの格好よさも与える影響に大きく響いてしまう。

「……各自、城名を考えておくように」

 結局決まらなくてまた後日ということになった。ちなみにアミルダ様はひとつたりとも名称の候補を挙げなかった。

 ……もしかしてネーミングセンスに自信がない?
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...