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疾風迅雷のバベル編
第63話 城塞都市の降伏
しおりを挟む城塞都市ロンディの北城壁が二重の意味で陥落した直後、軍の司令官と民衆の代表が白旗を掲げて降伏を宣言してきた。
モルティ王は壁の上にいたので崩壊に巻き込まれたが、なんと怪我こそしていたが生きていた。
なので後日に城塞都市の広場で処刑されるらしい。可哀そうに、これならあの時に死んでいた方がよかっただろう。
だがこの処刑は必要なことだ。
奴が避難させなかったせいで兵士が何人も死んだし、敵国の王を生かしておいては今後のアミルダ様の統治に支障が出る。
今の俺達はロンディの正門前にて、降伏の儀を行っているところだ。
ロンディの民衆たちは正門ごしに城壁の中から、ハーベスタ軍は城壁の外で構えている。
正門の前に立つアミルダ様に対して、都市ロンディのお偉いさん――町長が地面に片膝をつけて恭順の意を示した。
「我ら城塞都市ロンディの者は降伏してアミルダ様に従います。その証として城門の鍵を差し出します」
「確かに受け取った。我が兵士たちよ、ロンディの者は抵抗せずに降伏の意を示した! 敵兵ではないと肝に命じよ!」
アミルダ様が受け取った鍵を空に掲げて俺達に見せびらかす。
城塞都市が降伏する時は正門の鍵を渡すのが慣例らしい。
城門を開くということは、敵をそのまま受け入れるということだからかな。
まあ今の城塞都市は北側の壁がなくなってるので、受け入れるも何も来るもの拒まずなのだが……。
それとロンディの者は言うほど抵抗しなかっただろうか……? 壁が崩壊するまでは普通に逆らっていたような。
俺達が攻め始めないから衝突しなかっただけでは。
そんなことを思いながらも降伏の義は終了し、俺達は城塞都市へと足を踏み入れる。
そして王城へと案内されて、玉座の間で評定が開始されることになった。
……玉座の間、無駄に豪華な家具や絨毯などで彩られる。タッサク城とほとんど見た目変わらんな。
「さて無事にモルティ国の王都を占領して、王も捕縛することができた。しばらく時はかかるだろうがこの国の領土を統治できるだろう。逆らう者も出てくるだろうがそれを従える頭がいない。大した脅威にはならぬ」
アミルダ様は玉座に座ると、疲れたようなため息を吐いた。
「モルティ国の象徴である王都、そして王を捕縛したので民たちは従うべきは叔母様と理解すると?」
「そうだ、幸いにも私は善政の王として知られている。それも含めて大抵の者は従うはずだ」
侵攻した国が根こそぎ奪う蛮族たちなら、民衆たちも抵抗してくるだろうからな。
でも悪い評判がない上に直近で占領している元ルギラウ国も、決して悪いようにしてないのだから。
民衆が王に従うのは自分たちの生活を守ってもらうためなので、保護してくれるならばモルティ王じゃなくても構わないわけで。
「それに城塞都市を戦わずに降伏させられた。それが本当によかった……リーズ、本当によくやってくれた」
アミルダ様は珍しくすごくホッとした様子だ。
「叔母様。さっき降伏の儀でロンディは抵抗せずに降伏したと言ってましたよね? でも城壁が壊されたから諦めただけで、降伏勧告に最初は従わなかったような」
俺もエミリさんの意見に同意である。
ロンディの兵士たちは最初から降伏したわけではないはずなのに。
「そう言わないと我が軍は城塞都市ロンディで略奪を行っていた」
「「……え?」」
アミルダ様の言葉に俺とエミリさんは絶句する。
いや我が軍は軍規がしっかりとしてるし、民間人への略奪は禁止しているはずだ。
それは今までもしっかり守られている。元ルギラウ国でも兵たちはすごく大人しかったのだから。
そんな俺の考えを察したようでアミルダ様は首を横に振った。
「我が軍は軍規をしっかりと守らせている。民間人からの略奪を禁止事項だ。だが敵兵を殺すことは許可している、殺した相手の武器など奪うのもな」
「それは当然では……」
戦争で敵兵を殺すなというのもおかしな話だ。それに戦っていれば自分の使っている武器が折れたりもするし、その時に倒した敵兵のモノを使うだろう。
そんな俺の疑問に答えたのはバルバロッサさんだった。
「城塞都市が籠城戦を行うのは、民も兵士として戦うということなのである!」
……え? 民衆も兵士になるってこと?
「バルバロッサの言う通りだ。城塞都市が引き籠るならば、民衆たちも兵士の手助けをする。女ですら水や武器や岩を運んで支援する、力のある町民ならば兵士になったり岩を落としてくる」
「い、いやでもあくまで手助けの範囲では……」
「民の落石攻撃で仲間を殺された兵士にそれを言えるのか? もし攻城戦なれば我が軍にも死者が出ていただろう。そうして我々を散々傷つけて殺して最終的に降伏した者たちを笑って許せと?」
「……」
流石に言えない。もしそんなことになっていたら、民衆に対して復讐するなと命じたら不満が爆発してしまうだろう。
民衆は守るべき存在だが敵兵士は殺すべきだ。だがここで民衆の定義が少しややこしくなる。
敵軍には農民兵も大勢いるのだ、彼らは普段は民である。だが戦場では間違いなく敵として戦わなければならない。
我が軍の兵士も大半が農民である。民兵を傷つけるのを禁じれば無抵抗になれと言っているに等しい。
なので敵兵を概念づけるとするならば、おそらく俺達に危害を加えようと逆らってくる相手だ。
そして城塞都市の民衆たちは、籠城戦となれば必死になって防衛に協力する。
つまり街の住民全てが兵士になってしまうと……。
「もし攻城戦が行われていたらこの街は地獄絵図になっていた。無辜の民を傷つけるのを禁じるならともかく、城塞都市の中の者はほぼ全員が兵士もしくはその肉親だろうな。それは止められない」
民間人ならば殺してはならないと命じれるだろう。
だが城塞都市の人間はほぼ全員が、我が軍を傷つけるのに協力したことになる。
つまり敵だ、どう考えても無辜ではない。
「我が兵たちは民たちに略奪や殺しを行っただろう。お前たちに仲間を殺されたのだからと。強姦などは禁止しているが、それも熱に浮かされてタガが外れたらどうなるか分からん」
「…………」
暴徒と化した群衆のタガは容易に外れてしまう。
ハーベスタ兵たちが仲間を殺された復讐を行う……その光景を想像してゾッとする。
そんなに危険な状態だったとは思わなかった。
以前のバルバロッサさんの言葉が思い浮かんだ。モルティ王を『卑劣鬼畜なド外道』と称したのが今なら分かる。
あいつが籠城戦を選択したせいで地獄が発生するところだった。
「……すみません。そこまで事態が切迫していたとは露知らず」
「謝る必要はない。むしろ私が言わないようにしていたくらいだ」
「えっ」
「知ればお前は何としても城の強攻を否定しただろう。仮に自分の身を危険に晒してでも。最悪、お前だけ単騎で侵入してモルティ王の首を取るとも言いかねん」
「いやそれは……」
……強攻以外の選択肢がなければ言ってたかもしれない。
「幸いにも貴様は無理せずに、見事にロンディを降伏させたのだ。誇って欲しい、貴様の力が大勢の民衆を救ったのだと」
アミルダ様はすごく嬉しそうに微笑んだ。
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