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疾風迅雷のバベル編
第60話 土竜攻めを行おう
しおりを挟む「土竜《もぐら》攻め? なんだそれは?」
アミルダ様は訝し気な顔をする。
流石に彼女も意味が分からないだろう。この世界に土竜《もぐら》なんて存在しないからな。土の竜はいるけど。
ちなみにモグラを土竜と書く理由は堀った穴が竜の形に似てるとか。後は中国の土竜はミミズで、日本に伝わる時に間違ってなどあるらしい。
もし仮にモグラがこの世界にいたとしても、土竜なんて名にはならないだろうな。何せ本物の竜いるし。
「城壁の下にトンネルを掘って、地盤沈下させて壊してしまいましょう。これなら城壁も無意味です」
土竜攻めとは戦国時代の武田信玄が得意とした戦法だ。
城の地下にトンネルを掘って敵に痛手を与える城攻め方法である。俺が提案した以外にも城内への侵入、水脈を断って井戸を使えなくしたりとか。
特にエグイのでは地盤沈下を引き起こして、敵の防衛設備を破壊したりなども出来る。
今回もそれを真似るが……普通は櫓などの破壊する策であり、城塞自体を壊すのを狙うことは少ないと思う。
この戦術は日本だけのものではなく、中世ヨーロッパとかだと坑道戦とかそんな名称だった気がする。
「なるほど、あの鉄壁の城塞も無意味になってしまうな。だが時間がかかるならば包囲して降伏を迫るとあまり変わらないが」
「俺の力であれば数日あれば大きなトンネルでも造れます」
穴を掘る要領で地面の土を土器にでも変えていけば簡単だ。
トンネルが狙ってないタイミングで陥落しないように柱なども造るが、それを見越しても大した時間はかからない。
アミルダ様は少し呆れたような顔をされている。
「……貴様がアーガ王国で工兵としても働いていれば、今頃我が国は存在してなかったかもしれぬな」
「いやー、それはどうでしょうか。こんな戦法があると知ったのが最近のことなので」
リーズは土竜攻めなんて知識はなかったからな。
俺だってこの戦法の存在を知っていたから、自分の力ならばやれると判断したに過ぎない。
あくまでチート生産は物を造る能力なので、優れた物をどれだけ思い浮かべられるかでそのチート具合は大きく変動してしまう。
俺は日本時代の歴史の知識などのおかげで助かっている。やはり歴史の勉強は大事だ。
「ふむ。まさか敵もトンネルを数日で造り上げてくるなど予想もつかないだろうな。であればバレることもなく完全に不意打ちができるか」
「それに地面を掘ってる音や揺れも出ませんよ。魔法で土を造り変えるので」
「……何の予兆もなく工作を行われるのか。敵からすれば悪夢だな」
この土竜攻めを防衛側が対策しようとすれば、水をいれて地面に置いたコップなどの水面の揺れで土竜攻めが実行されているのを知る必要がある。
地中で地面を掘ったり色々していれば、地上に揺れが出るのでそれで察知できるわけだ。
察知したら防衛側もトンネルを掘って、敵の穴とかちあわせて地中で戦う。
もしくはトンネルを煙で燻したりがあるが……どれも土竜攻めを仕掛けられていると察知できねば何も対策できない。
ましてや俺の魔法で掘るならそもそも揺れないので、土竜攻めを敵が気づける可能性はほぼ皆無なはず。
「わかった、ならばその土竜攻めを見事成功させてみせよ」
「お任せください! では早速取り掛かります!」
善は急げとここから立ち去ろうとすると、アミルダ様が呼び止めてくる。
まだ話は終わってなかったのか。
「待て、それとは別にやって欲しいことがある。そのトンネル工事と並行しながら、毎日干し肉を生肉にすることは可能か?」
「可能です。兵士に美味しい食事を提供できます」
アミルダ様はやはり優しいお方だ。あれかな、兵士たちにしっかりと美味しい思いをさせて士気を維持させるおつもりか。
だが彼女は首を横に振った。
「それも理由のひとつだが一番の目的はそうではない。敵の士気を下げたいのだ」
「敵に肉を食べてるのを見せびらかすと? ですが敵都市は高い城壁に囲まれているので、壁上に立った見張りの敵兵しか見えませんが」
「それよりは匂いだ。壁で目は隠せても風に乗った匂いは防げない。先日の焼肉おにぎりの香りが、満足に飯を食えず腹を空かせた敵兵に漂うと想像してみよ」
「それはすきっ腹に堪えますね」
籠城中の兵士からすればキツそうだ。
空腹なのに肉の焼けた匂いがすごく漂ってきて、敵兵はすごく美味しい物食ってるのに俺達は……ってなる。
籠城戦は何せ兵糧との戦いだからな。包囲されている中で外から食料を仕入れる方法を得ない限りは、いずれ尽きてしまうので少しでも節約する必要がある。
籠城戦が始まった初日であっても、あまりよい食事を取ることは難しいだろう。
敵の士気は間違いなく低下するだろうな。
「短期の土竜攻めで大勢を決するにしても、敵兵のやる気がないに越したことはあるまい。敵から寝返る者も出るかもしれぬ」
「わかりました。でしたら匂いが出る食事を用意します」
また干し肉を生肉に戻さないとな。
今回はいっそ松阪牛とかのブランド肉にするのもありだろうか。美味しいほど敵の士気も落ちるかも知れない。
もしくはパンのかまどを製造して、その場で焼かせるのもよいかも?
……あれ? 俺の兵士としての役職は料理人ではないような……いや今更な気がするけど。
「変な顔をしてどうした? 何か問題でもあるか?」
「い、いえ……大丈夫です」
ま、まあ補給部隊なら兵站全般管理するから……俺は補給部隊兼工兵部隊みたいなものだな!
「では私はモルティ国王、そして都市の長に対して個別に降伏勧告を行う」
「個別にやるのですか?」
「モルティ国王を捕縛した後、民衆たちが略奪を恐れて自暴自棄になって逆らわれては困るからな。抵抗せぬなら略奪はしないと言っておく。モルティ国王からしたら都合の悪い情報なので、奴にだけ伝えると民衆に裏切られるかもと揉み消すかもしれん」
確かに城壁都市だもんな。中には兵だけでなく民衆もいるし彼らにも意思はある。
それにこの策を事前に行っていれば、この都市を占領した後がやりやすくなる。
民たちからすれば自分達を守ってくれる王がよいのだから、アミルダ様が民に慈悲の心を持ってると分かれば評判も上がる。
それにあわよくば民たちが都市内で一斉蜂起して、モルティ王から寝返る可能性もある。
まあこれは長期戦になって兵糧不足になってきてからかな。
土竜攻めで短期決戦にて決着をつけるなら、流石にそこまで期待はできないか。
「王都であるロンディを奪って、かつモルティ王を捕縛すればモルティ国の大半は掌握できる。逆に奴を逃がせば泥沼になりかねん、確実に捕縛するぞ」
「承知しました!」
俺はアミルダ様の言葉にうなずく。
土地を支配するというのはどういうことか。別に土地の権利書を手に入れたらとかではない。
その地域に住んでいる民を従わせれば、その土地を掌握したと言ってよいだろう。
では民を従わせるにはどうするか。基本的にはその地域の要となる場所を奪うことが肝要だ。
ロンディのような城塞都市や大きな港を持つ都市を支配すれば、その支配者に逆らっては食料などが得られず生きていけないからだ。
なので地域の要となる場所を支配している者に対して、そこに住む大抵の者たちは従うことになる。
「叔母様、ちなみにモルティ王を逃がしたらどうなりますか?」
「民はモルティ王と私のどちらに従えばよいか確証を持てず、裏でモルティ王の味方をしたりと統治が難しくなる。モルティ王が逃げた地域から巻き返した場合、奴を支援していれば恩を売れるからな。奴の捕縛は必須だ」
モルティ王自体がモルティ国の象徴みたいなものだな。
なのでモルティ国の要所である王都ロンディを包囲し、奴が逃げられない態勢を整えたと。
「叔母様、ではなんでモルティ王は王都から逃げないのですか? 自ら戦わなくても……」
「王が簡単に逃げれば兵の士気に関わるのと、この城壁都市が陥落することはないと考えているのだろう。実際かなり堅牢だからな」
これに関してはモルティ王が間違っているわけでもない。
王が率先して逃げた場合、王都の民や軍はすぐに降伏しかねない。
守るべき頭もいないのだからよほど忠誠心がなければ、すぐにでも諦めてしまうだろう。
『何であいつはさっさと逃げたのに、俺達が命をかけて苦しい思いして戦わないとダメなんだ!』ということである。
「ありがとうございます、叔母様」
「構わん、お前にもいずれは軍を任せることもあるかもしれぬ。戦場のことは知っておいて損はない」
「え゛っ」
おおっとエミリさんが凄まじく嫌そうな顔をしているぞ。
こうして軍評定は終了して土竜攻めを行うことになったのだった。
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