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腐った既得権益 ベルガ商会編
第40話 こうやって全て潰してきたのかよ
しおりを挟むタッサク城の玉座の間にて、アミルダとベルガ商会長のギーヴが話を行っていた。
「……我らの独占売買権をなくすと?」
「あくまで前ルギラウ王がお前たちと結んだ契約だ。私が望まなければ続ける必要はない」
毅然と言い放つアミルダに対して、ギーヴは醜い顔を更にゆがませた。
「なんと! 貴殿は商人の権利を何と心得る! それは我らの既得権益を力で没収する悪王の極みで……!」
「話は最後まで聞け。今後の商品に独占売買権はつかない。だが今まで貴殿たちが得た権利は取り上げない」
その言葉にギーヴはニヤリと下卑た笑みを浮かべた。
「おお、それならば納得できます。今まで私たちが得た権利は保障されると言うならば文句はありません」
ギーヴは内心ではほくそ笑んでいた。
何せ今まで得た独占売買権はこの世に存在する売り物を、ほぼ全て包括していると言っても過言ではない。
例えば新製品のパンが売り出されたら、麦の独占売買権を盾にすればよい。
新しい武器が出たら鉄でも木でも……まさに万能の権利であった。
「だが独占売買権はあくまでベルガ商会が、この国への商品流通を担保できる前提だ。貴殿らにその能力なしとなれば没収する」
「もちろんでございます。逆にアミルダ陛下もこの独占売買権を犯してはなりませぬ。そうすれば我ら商人は商売あがったりでございます」
「わかっている。改めて契約書を結ぶのでサインを」
アミルダの横に控えていたバルバロッサが、ギーヴに対して紙を手渡した。
ギーヴは契約書の隅から隅まで確認した後、懐から羽根ペンのようなものを取り出して紙にサインをした。
(馬鹿め! 独占売買権がある以上、ベルガ商会は無敵なのだよ! 貴様らはなにひとつとして我が商会の許可なくば売れぬのだ! そのすかした顔が涙目になり、私に頭を下げてくるのが楽しみだなぁ……!)
ギーヴはアミルダの細身の身体を舐めまわすように凝視した。
(処刑実行部隊に妨害の強化を言い渡しておくか。万が一、他の商会がのさばっては困るからな。我らには権利の盾がある以上、何をしても許されるのだから)
---------------------------------------------
改装した商店の内装や強度など確認したが問題はなさそうだ。
と言っても最初はこの商店の中は使わないんだけどな。アミズ商会のシンボルとなる建物が欲しかっただけだ。
商会用の建物を用意できたので、今度は売るための商品と護衛を用意せねばならない。
「まずはこの街の民の餓死を防がなければなりません。この瞬間にも人が死にかねないので」
エミリさんとセレナさんも俺の言葉にうなずいた。
「そうですね、あの惨状はあまりに酷すぎます……」
「リーズ様なら食べ物を用意できますからね。ですがベルガ商会が横やりを入れてきますよ。独占売買権を盾にされたら売れないのでは……」
「それは問題ありません」
俺はズボンのポケットであるアイテムボックスから、大量のイネ科の雑草と藁を床に出現させた。
部屋の中に草の山が発生しその頂点は天井に接してしまっている。
「わっ!? リーズさん!? 足もとに草が!?」
「あ、すみません。すぐ終わるので……っと」
【クラフト】魔法を発動。イネ科の雑草と藁を対象に、中身がぎっしり詰まった米俵の山に変換する。
散乱していた雑草は消え去り、部屋の大半が綺麗に並べられた米俵で埋まった。
それと共に俺の手の中に僅かな米粒を出現させて、彼女たちに手を広げて見せる。
「これは米という穀物です。まだ出回っていないはずです」
この世界には……と言いそうになった。危ない危ない。
二人は俺の手から米を取って触ったりマジマジ見たりしている。
「……麦じゃなさそうですね。確かに見たことがありません」
「すごく硬いですが食べられるのですか?」
「もちろんです、美味しいですよ」
何せ日本人のDNAに刻まれた食べ物だからな!
地球規模でも色んな国が食しているので、この世界の人は米が口に合わないということはないだろう。個人の好みで嫌いな人は出るかもしれないが。
俺もたまに食べてるのは内緒だ。だから米を売ろうってすぐ思いついたんだけどな。
「調理も簡単なんですよ。水に浸して炊くだけ! パンみたいに潰してこねて焼かなくてよいんです! と言っても百聞は一見に如かずですね」
俺は【クラフト】魔法で手元におにぎりを三つ出現させる。
とりあえず調理方法は後で教えればよいだろう。まずは米を味わってもらおう!
「どうぞ、米を炊いて海苔で巻いたおにぎりという料理です」
二人はおずおずとおにぎりを受け取った後、恐る恐ると言った感じでパクリと一口。
「……美味しいですね! そこらの上等なパンよりも質がよいかも!」
「塩味と絶妙に合いますね」
当然だ、何せ日本人が心をこめて品種改良していった米だからな!
中世文明レベルの麦のパンに劣ってたまるものか!
「これを店の前で炊き出しして配ります! エミリさんは人手を用意してください! セレナさんは警備をお願いします!」
そうして炊き出し大作戦が決行されるのだった。
------------------------------------------------
翌日の朝。
俺達は商店の前でいくつも大鍋を並べて大量の米を炊いていた。
アミルダ様にお願いして兵士をお借りしたので、米を炊く者や警備などの準備は万全だ。
思いっきり彼女の力を借りているが、これは権力の乱用などではないので問題ない。
あくまで対価を支払って手伝ってもらっているので大丈夫。
民衆たちはそんな俺達を不思議がって少し集まってきている。
「何をしようとしてるんだ? 何かよい匂いがしてるが……料理でも売ろうってのか?」
「あそこの店は宿屋だったはずだが……ベルガ商会の嫌がらせで誰も客が寄り付かなかったが」
「いつ身売りするかと思っていたが……ほら見ろ、ベルガ商会の奴らも集まって来てるぞ」
「許可取ってないのか……何かやろうとしたら即文句言って終わらせるつもりだろうなぁ」
強面の男の集団は腕を組んで俺達を見ている。
民衆たちも彼らに対して距離を取っているので……間違いなくベルガ商会の関係者だろうなぁ。
でも別に問題ないけどな。第一弾の米が炊きあがり、兵士たちが作ったおにぎりがテーブルに並べられていく。
そろそろ頃合いのようだ。大きく息を吸って。
「我らはアミズ商会! アミルダ女王陛下の許可を得て立ち上げた商会だ! 街へのお近づきの印として無料で食事を配りたい!」
「「「!?」」」
集まった民衆たちは俺達を見てパニックに陥っていた。
「な、なんだって!? 無料で飯!? 嘘だろ!?」
「お、おい! すぐに子供たちを呼んで来い! なくなる前に急げ! 食わせられるんだぞ!?」
どんどん付近が大騒ぎになっていき、不審に思った人々が集まってきだした。
やっぱり兵士たちを呼んでおいてよかったな。俺とエミリさんとセレナさんだけでは無理だった。
「ほ、本当に食事を頂けるんですか……!」
周囲が様子見で俺達を遠巻きに見つめている中、やせ細った男が寄ってきた。
……先日、もう三日は食べていないと告げていた人だ。残った力を振り絞るように震えながら必死に立っていた。
「もちろんです、どうぞ」
おにぎりを差し出すと彼は手を震わせながらそれを受け取る。
「あ、ありがとうございます……!」
彼は涙を流しながらおにぎりを口にいれようとして……。
「はいそこまでー」
「あ、ああっ……!?」
強面の男の一人が彼の持っていたおにぎりを地面に叩き落とした。
……は? 何やってんのこいつ?
「お前ら何様のつもりだ? ベルガ商会の許可のない食べ物売買とかふざけるなよ? さっさと解散しろ! こいつらは違法を犯した大罪人だ! 全てベルガ商会が接収する!」
強面の集団は何様のつもりか、俺達の鍋やおにぎりに駆け寄って来る。
そしてテーブルに置いてあったおにぎりを全て地面にぶちまけた。
……まさかここまで直接的に邪魔してくるとはな。ベルガ商会を舐めてたよ。
内心キレてるのを隠そうともせず、俺は偉そうにしている男をにらみつける。
「おい、お前ら。人の売り物をぶちまけて何様のつもりだ?」
「は? ベルガ商会様だが? 俺達は全ての商品の売買において権利を持ってるんだよ。お前ら無許可で売ってるんだぞ?」
男は落としたおにぎりを靴で踏みつけてぐちゃぐちゃにした。
独占売買権を盾にしてこうやって好き放題してきたのか。
こんなのがいたらルギラウ国がまともになるわけがない。絶対に叩き潰さなければならない!
てか米を足蹴にして許されると思うなよ!?
「その権利はもう消えているんだが? 今後売り出す商品に関しては適用されない」
「はん。例え新製品のパンだろうが何だろうが。麦とか素材に使ってりゃ関係ないんだよ! それかその食べ物が未知の新素材ですとでも言い張るつもりか?」
「そうだよ無能。逆に聞くが……お前が地面に落としたおにぎりは、何で作られているんだ?」
男は一瞬だけ訝し気な顔をした後。
「麦の亜種だろうが!」
「こんな白い麦があるのか」
「う、うるせぇ! 何が言いたいんだ!」
「はぁ……これだけ言ってもまだ分からないのか? お前らは不当な権利を行使してるってことだよ! 全員、逆賊を捕らえろ!」
俺の指示に従って兵士たちが槍を構えて、強面どもにつきつけた。
「「「「は?」」」」
奴らは目を白黒させて困惑している。まさか反撃されるなどとは考えてもなかったか。
今までずっと民衆を蹂躙していたのだろう。権利と法を盾にして好き放題してきたのだろう。
だがもう通用しない! 今のお前らは違法者なんだよ!
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